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第004話 死にイベとパワーレベリングG


 熱で周囲を察知するサーモグラフィー装置のように、じぃぃぃぃ!

 アクタの触角は周囲の気配を探る。

 アクタが目を付けたのはギルド酒場の隅で、こっそりと酒を傾けている盗賊だった。


 ターゲットにした理由は複数ある。

 軽装ゆえに肌の露出が多い事。

 他はパーティを組んでいるのに、あの盗賊は独りである事。

 そしてなにより。


 女性であることだ。


 天の声が言う。


『ストップ! いやいやいや! 女性をいきなり狙うのかい!?』


 アクタは触角を二度揺らし、ムフーっと前脚を上げ説明する。


『え? なになに……女性ならば自分のハーレム王の力が発動するかもしれないって? いや……たぶんまだレベル差があるから無理だろう。それにそのスキル、意外にハードルが高いよ? この世界の住人の倫理観や価値観を私はまだ把握してないけど、基本的に人間って虫には欲情しないからね』


 アクタがガーン! とショックを受けた様子で触角を垂らし、ぬーん!

 やる気が失せたとばかりに、こてんと転がってハァ……と肩を落とす動作をして見せる。


『えぇぇぇぇぇ……そこまでショックを受けられても困るんですけど』


 アクタは垂れた触角で天の声に感情を伝えるべく、イジイジイジ。


『は!? 早く人類に産卵させたい!? あのねえ人間が卵を産むわけ……って! あぁぁぁぁぁぁぁ……教えないといけないのはそこからかあ……。君、やっぱりあの淫蕩冥界神が連れてきた魂だけあってスケベだし、なーんかズレてるんだね』


 スケベ?

 自分は種の繁栄を目指す芥角虫神。虫神としていっぱい種を増やすのだ!


 寝ころんだまま吊戸棚の天井を見上げたアクタは天に訴え。

 未来予想図を脳内に浮かべて見せる。

 それはGのパラダイス。

 酒池肉林の図。


 いかに素晴らしい世界かと身振り手振りで説明するアクタに慌て、天の声が言う。


『ギャァァァァ! の、脳内に直接語り掛けてるから……そーいうハーレム妄想は独りの時にしておくれ……! ダメージがけっこうでかいんですけど……!?』


 とにかく!

 と、天の声は仕切り直し。


『この世界には進化がある。進化ってのは……そうだね、レベルが上がると種族が上位種になるイメージかな。今はただのゴキブリだろうけど、進化を続ければ人間に産卵させることもできる特殊な種族になれるかもしれないから……って、君、いきなりやる気出したね。私は君の将来がちょっと心配になってきたよ』


 早くやるぞ! 産卵だ! 産卵だ!

 と触角を揺らすアクタは天の声の合図を待つ。


『君は今、産まれた直後の虫の赤子。最弱だ。見つかったらそこで終わりと思って、慎重にね』


 アクタは頷き、触角を二度揺らし。

 カササササササ!

 吊戸棚から抜け出し、湿気た壁を伝って床に着地。


 そのまままっすぐ女盗賊のテーブルに向か……うことはなく。

 床に落ちている食べかすを見つけ方向転換。

 ふんわり焼けたスクランブルエッグに齧りつき、ムシャムシャムシャ。


 そう。

 アクタは産まれたばかりで空腹だったのだ。

 色欲も大事だが、食欲も大事。


 ご飯だご飯だと貪るアクタの後ろに気配が一つ。


『慎重にって言ったじゃん! やばい! 見つかってるよ! 君はまだステータスが低いから、幸運値の上限が低いんだ。幸運だけじゃあその危機は抜けられない、って! あぁあああああああああぁぁぁぁ! やばいやばい! ねえお兄さん! アクタくんがそっち行くだろうから! 回収頼んだよー!』


 ギルドのスタッフ兼、給仕係に見つかりアウト。

 そのままこっそりと氷の魔術で凍らされ、こっそりと処理されゲームオーバー。

 これでアクタの第二の人生は終わり……。


 そのままゴミ箱に捨てられアクタの冒険は終わってしまった。








 ▼▼▼




 ▼▼



 ▼



 と天の声を担当していた闇の神も思っただろうが。

 凍結死していたアクタの魂にはまだ意識があった。

 そこは暗くて冷たい空間。


 声が響きだす。


『おいおい、もう俺様の世界に落ちてきやがったのか。ったく、転生失敗最速RTAってやつか? 食欲と性欲しかねえのかてめえは……』


 天の声が切り替わっていた。

 声からするとそれは死の神、冥界神の男だろう。

 アクタにはこの場所に覚えがあった、死者の世界だ。


 実際、冥界神の姿が闇の中から浮かんでくる。


 もう死んでしまったのなら仕方がないと、アクタはスヤァ……。

 足を畳み、永眠の準備に入るが。


『まあ待て待て。あの駄猫もこれはチュートリアル……初心者の練習用だって言っただろう? ここで死んじまうのも可哀そうだし、既に駄猫がルール違反して助言を出してるし、一回だけ死をなかったことにしてやる』


 それに、と冥界神は呆れた口調で告げる。


『俺も光と闇の神もそれなりに有名な神なんだよ。それをこんな即座に失敗させたなんて噂が立っちゃ、こっちの面子も保てねえからな。特例だ』


 どうやらまだ終わりではないらしい。


『例外だから次はねえぞ? これもまあなんだ――俺様からの慈悲だ。感謝しろ』


 天の声は漆黒の中から長く筋張った指を伸ばし、一息。

 アクタの魂を下から撫でるように指先でなぞり、魂を死体に戻す。

 それが蘇生だったのだろう。


 アクタはバサササっと翅を動かし立ち上がり。

 どっこいしょ。

 座り込んだまま、ふぅ……っと冥界神に向かい前脚を振って見せる。


『はぁ? これじゃあ無理ゲーだ。我は氷漬けにされて心が折れただぁ?』


 眉間に皺を刻んだ冥界神が言う。


『冥界神ってぐらいならなんか助言の一つでも寄こして見せろだと! おまえ! 駄猫の時と違って、俺のことをそこはかとなくバカにしてねえか?』


 牙を剥き出しに唸る男前を、ふっとアクタは鼻で笑い。

 こてんと横たわり。

 すやぁ!


『がぁあああああああああぁぁ! 可愛くねえゴキブリだな、この野郎!』


 男に売る媚びはない。

 と、アクタはふふん!

 図らずも相手が神であっても気に入らないなら従わない、そんな王の貫録を示し始めていた。


『あのなあ……女の肌に飛び込みたいんだろ? 腹いっぱい食いたいんだろ?』


 横たわっていたアクタの触角だけが揺れる。


『酒池肉林! ハーレムを築きたいのならば、俺様の言う事を聞け! これでも俺様は既にハーレム持ち、毎日毎夜、美男美女を選びたい放題の肉欲の日々だ!』


 言って、冥界神は実際に自らを皇帝とする【迷宮のハーレム】を顕現して見せる。


 悪食なのか、本当に洋の東西も性別も種族も年齢も問わぬ、酒池肉林のパラダイスが広がっていて。

 アクタはごくりと息を飲んだ。

 あれこそが、理想郷!

 目指すべき平和なる世界だと、心を打たれ――カカカカカ!


 我、天命を得たりとばかりにジャンプ!


『どうだ、おまえも欲しいだろ。自分だけのハーレムってやつがよ!』


 とても良い声な神の言葉を聞きアクタは、がば!

 ははー! っとハーレム持ちの冥界神を讃える姿勢を取り始める。

 なんなりとお申し付けください。


 とばかりに、アクタは師匠を崇める仕草で、触角とこうべを垂れたのである。


『チュートリアルだからって、次はねえからな。いいか、俺様の面子もかかってるんだ、おまえは必ずあの女盗賊から【潜伏】を習得しろ。この世界のためなんて考えずに、己の欲のためにな』


 お任せくださいハーレム師匠、と。


 アクタはビシっと前足を傾け、敬礼して見せていた。

 現金すぎるその反応は欲に忠実ともいえるが。

 冥界神がジト目になった事は言うまでもない。


 本来なら、このまま現世に戻る流れだが。

 いま戻ったとしても結果が変わるかどうかは怪しい。


 アクタはしばし考え。

 考えつき。

 互いのためになると、冥界神に提案する。


『ん? なんだ? 何が言いてえのか?』


 触角を蠢かし、身振り手振りで説明した内容はこうだった。


 汝は神なのだろう? 冥界を治めているのならば強者の筈。ならば一時的に耐性やレベルを下げて、その力の一部をコピーキャットさせて貰えないか。

 と。

 そしてこうも続けていた。


 ここは冥界。

 おそらくはあの世界の外の判定ともいえる。

 つまりは、直接的な介入でもない筈では?

 と。


 我はハーレム王になるためには手段を選ばぬ。ならばこそ! 神たる師と出会えたこの機会を無駄にはしたくない! どうだろうか?

 そう、熱く訴えたのだ。

 もしアクタが人型だったら、卑猥を好む男前なハーレム王に熱く語る、世界で一番美しい若き王(G)の図だ。


 実際の光景は、かなり異なるが。

 虫とも繋がりのある冥界神は、ほぅ……と興味を示し「にぃ」っと口角を吊り上げている。

 やはりこれも、Gに意味ありげに笑う男前な冥界神なのだから、傍から見るとかなり変な光景だろう。


 ともあれ。

 芥の提案はようするに、強者に手助けして貰うレベル上げ。

 いわゆるパワーレベリングである。


『ふははははは! なるほど――とんでもねえ屁理屈だが、まあ悪くねえ。意地汚く生き残り勝とうとする欲望もまた、強さの一つだろうからな。いいな、おまえはなかなかに見所がある』


 冥界神もアクタに即死されても困るのだろう。

 おもむろに手を差し出し、くいくいっとアクタを招いて見せる。

 アクタは頷き、手のひらにサササササ!


 ここに、芥角虫神と冥界神の結託が完了。


 アクタは冥界神の肌に直接触れ、その大きな手のひらにコピーキャットのスキルを発動させ。

 カカカカカ!

 裏技ではあるが、一つだけスキルのコピーに成功していた。


『ハーレムを作りてえなら、まずはG系統の種族《擬態者ミミック(G)》を目指す事だな。あれは人類にも擬態できるスキルを持っている。なにかと動きやすくなるだろうよ』


 アドバイスを素直に聞き入れ。

 ビシ!

 アクタは生者の世界へと戻りだす。



 〇新規習得スキル〇


 【黄泉帰りし蝗神ゲヘナ

 〇効果:落とされた太陽神アポリュオーンの加護により、死亡ダメージを受けた際、幸運値判定を用い一定確率で死そのものを回避する。また死の回避成功時、スキル所有者の体力を全回復させる。


というわけで。

アクタがハーレム王を目指す物語となります( ˘ω˘ )天上天下唯我独尊

よかったら明日もお付き合いください。

※明日の更新は13:13に一回。夕方過ぎに一回の合計二回を予定しております。

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[一言] 幸運値がMAXだから……ほぼ成功判定出るね Gにとんでもねぇスキルを与えやがった……
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