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第039話 迷惑な訪問者(G)


 あの後――。

 口を開いた神々は、まじめな顔で告げていた。


 まず落ち着ける場所に行きたい――と。

 その裏には食欲、つまりは……どこかで美味しいものでも食べよう! という魂胆が見えていたが、路上でする話でもないとアクタは承諾。


 そのあと密談もでき美味しいものが出る場所を求め、それぞれが見たのは王都の中央。

 王城を会議場にしようと、Gと愉快な神々たちは城へ侵入。

 我が物顔で近衛騎士団が使う食堂に行き、我が物顔で場所を占拠。


 バターの香りも濃厚な、ロイヤルな三時のおやつにショートケーキを味わいつつ。

 むしゃむしゃむしゃ。

 奇襲してきたハイエナについて語り始めるが。


 カリカリカリカリ、と。


 その後ろで、慌てて騎士たちがメモを取り始めている。

 アクタにヴィヴァルディにナブニトゥに、突如として現れたアプカルル。

 彼らが何を注文し、何を食べたのかまでしっかりと記載される中。

 ナブニトゥが口を開く。


「彼と言ったらいいか、彼女と言ったらいいか。僕にも正直分からないがね、アレの名前はエエングラ。時に男性神として、時に女性神としての一面も覗かせる不安定な子さ」


 不安定な子。

 その表現に訝しむアクタがマナーを破り、ケーキ用のフォークをひらひらしながら口を挟む。


「ふむ、両性具有の始祖神という認識であっておるのか?」

「ああ、彼は【柱の神】が自らの目を授け、その瞳を媒体に魔術を授け神格化させたハイエナだからね。エエングラはとても感受性の強い神だ。そのせいかどうかは分からないがね、どこか遠い世界の思想の影響を受け、その性質も変化させているのさ」

「――なるほど。確かにハイエナとは不思議なスカベンジャー、学問が発達する以前の世界において……雌雄の分からぬ神聖な獣として信仰されておるからな」


 鯉の顔をぐるぐるとさせ、うふふふふ。

 近衛騎士達を観察しながらもアプカルルが口を挟む。


「アプカルルは知っているわ? アプカルルたちは人類の信仰の影響を受けるのよ? そもそも神々の楽園の終わりを悟ったアプカルルたちが、滅びる楽園から去り……柱の君……あの方と混沌の海を泳ぎ、この地に辿り着き世界を創ったのよ? ここまではいいのよね?」


 書記官と化している近衛騎士が、そんな話知りませんよと固まる中。

 引き続きアプカルルは、周囲に泡を浮かべながら口を蠢かす。


「アプカルルたちが人類を作ったのは、世界を維持するためだったのよ? だって、この世界を創った時には既にもう、ヴィヴァルディはなぜかとても残念になってしまっていたし、あの方も力の多くを使っていたのよ。その失った力を補填するためには、信仰により集まる心の力を集める必要があったからなのよ。って、あらら? どうしたのヴィヴァルディ?」

「ちょっと! アプカルル! 残念って何よ!」

「アプカルルは思うのよ? 残念だからと言ってヴィヴァルディが可愛い事に変わりはない。だから残念だからといって、卑下する必要はないとアプカルルは思うのよ」


 可愛いと言われた事と、残念と言われている事で頭を悩ませるネコの姿の女神を無視し――。

 長くを語る口調でナブニトゥが言う。


「僕らは人類を愛した。人類が僕らを愛し、信仰してくれるように様々な知識と力を渡した。水の流れ、火の温もり、風の力、土の豊穣……計画通り、人類は僕らを神として愛してくれるようになった。もっとも、その結果が裏切り。僕らが誰よりも愛した柱の神は、僕らが愛した人類に殺されてしまったわけさ。だから僕らは人類を愛さなくなった。元より、世界を創造し弱体化していた柱の神を元に戻すために、僕らは彼らに知恵という名の果実を与えたのだから。柱の神が居なくなった今、そして彼らが殺してしまった今。僕らに彼らを愛する義務はない。そして、これからも二度と愛すことはない」


 再び、書記官と化している近衛騎士の背が震えるが。

 アクタが言う。


「しかし、どうやら柱の神とは他者に施し、その運命を救う事を善にして是としていたのであろう?」

「そうだが、それがどうかしたのかいマスター」

「汝らは柱の神の意向をくむ気はないのかと、ふと思ったのでな」


 ヴィヴァルディが言う。


「それはあなたが部外者だから言えるのよ、アクタ」

「であろうな。だが部外者だから思うのだ、汝らもきちんと人類の方を見ていたのか?」

「何が言いたいんだい、マスター」


 アクタは人類から出されているスイーツを眺め、スポンジの弾力から泡立てに至るまで、苦心と努力の分かる最高の供物に目をやり。


「ナブニトゥよ、これを誰が作ったのか汝に分かるか?」

「当然だ。おそらくはフィンクス王だろう。彼は王族でありながらマスターにシェフと呼ばれ、僕らにスイーツとされる供物を届けてくれているからね。ほら、どうだいマスター。僕らだってちゃんと人類を見ているだろう」

「そうよアクタ、あなた何を言ってくれちゃってるの? あー、もしかして、Gの脳味噌だから記憶容量が少ないのかしら―? ぷぷー!」


 ネコ以下の記憶容量の女神が言いおって……と言わんばかりの呆れの顔でアクタが、はぁ……と露骨な息を漏らす中。

 ルトス王を通じ、人類を眺める事を知ったアプカルルは言う。


「アプカルルは、アプカルルは、アクタが言いたいことが分かるのよ」

「へ? あなたが!? なになにどうしたの!?」


 驚愕するヴィヴァルディに続き、ナブニトゥまで羽毛を膨らませ反応する。


「アプカルル、君がかい? もしそれが本音だというのならね、僕には理解できないよアプカルル」

「アプカルルは思うのよ? アプカルルたちはずっとずっと、見ていないのよ。人類を見ていないのよ。アプカルルは知ったのだわ。ルトス王が教えてくれたのだわ。どうして人類が愛してくれなくなったのか、どうして人類がなんであんなことをしたのか。アプカルルはね、思うのよ」


 ヴィヴァルディが眉を顰め。


「え? なに? どういうことよアプカルル」

「ヴィヴァルディに同意するのは不本意だがね、僕にも分からないよアプカルル。なにがどう分かったのか、説明願いたいのだが」

「だってあなたたち……気付いていないのよね?」

「だーかーらー! なにがよ!」

「アプカルルは知っているのよ? このスイーツを作ったのは確かにフィンクス王なのよ――けれど……」


 何かを告げようとするアプカルルを制したのは、まるでカマキリのように長いアクタの手だった。


「よい、話が逸れるだけであろう」

「アクタがそういうのなら、アプカルルはそれでいいのよ」


 釈然としない様子のナブニトゥとヴィヴァルディであるが。

 アクタは話を先導するように、少し前屈みになり。


「それで、その……なんであったか」

「エエングラのことかしら?」

「そう、そのエエングラとやらの話を聞き、どうして汝らが微妙な反応を起こしたのか――その辺りを聞きたいのだが。どういう問題のある神なのだ」


 ナブニトゥが言う。


「盗人や強奪者たちの神にして、暴食を是とするエエングラは全てを際限なく貪りつくす獣なのさマスター。そして、その習性は本能に近い故に、ヤツ自身でも制御できていない」

「というと……なるほど、話が見えてきた」

「そう、エエングラが通る跡には草の根すらも残らない死の大地と化す。なにしろ彼が全てを食べてしまうからね。それが彼であり彼女の本分であり、神としての性質。僕らの中でも厄介な存在だという理由さマスター」


 もはやアクタは数える事を止めたようだが、書記官と化している近衛騎士がぷるぷると震える中。

 ふむと考え、しばらくし。

 背もたれに身体を預けたアクタが言う。


「そのエエングラとやら――アプカルル神と比べ、どれくらいの強さなのだ」

「最弱よ、最弱」

「ん? 弱いのであるか?」

「間違いなく弱いわよ。そりゃまあ神としては、の話だけれどね」

「分からぬな――アプカルル神が最強とされているのは知っておるが、その比較ではなくてか?」


 問いかけられたヴィヴァルディに代わり、ナブニトゥがフォローするように告げていた。


「ヴィヴァルディという最弱中の最弱……例外を見なければ、たしかにエエングラは最弱だろうさ。けれど、彼はしつこいんだマスター。一度欲しいと思ったものは決してあきらめない。絶対にあきらめない。だからきっと、たとえ死んでもこのGの迷宮を欲し続けて、様々な事をやらかすだろう。だから僕らはエエングラだと知り、この反応というわけさ」


 実際、ナブニトゥもヴィヴァルディも心底げんなりしている様子である。

 この二人にこんな顔をさせる。

 だからこそアクタは思ったのだろう。


 その口角が、ニヤリと吊り上がっていき。

 いつもの口調で、ガバ!

 不意に立ち上がったアクタは高らかに宣言する。


「ふは、ふははははは! 気に入ったぞ! よし、エエングラと面会する! 奴が居そうな場所を案内するがいいのである! 条件次第では、この迷宮を譲っても我は構わぬぞ!」

「ちょ、ちょっと! 本気なの!?」

「会ってみんと分からんがな! 我とて、この迷宮にこだわる気はない! ここがつい棲家すみかというわけでもないのだからな!」


 ふはははは!

 ふはははは! とアクタの声が王城に響き渡る。

 もはやここの人類はアクタのふはははに慣れているとはいえ、内容が内容だ。


 書記官と化している近衛騎士がますます脂汗を流したのは、言うまでもない。


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