第002話 神々のスキル(G)
送り出す転生者のためのスキル作りは続きます。
それはもちろん世界を救うための正義の心。
というよりは。
言葉は悪いですが文明を発展させた人類の娯楽……ゲームや競馬のような感覚だったのでしょう。
しばらくして光の女神が言いました。
『ねえちょっと!』
『なんだよ』
『この世界……! あたしたちが直接関係してない世界のせいか、あんまり干渉できないんですけど? ぶっちゃけ制限付きまくりで、しょぼい転生特権しか付けられないんですけど!?』
光の女神の言葉に、鯨のような闇を纏う黒猫が言います。
『あ、ほんとだ。えぇぇぇぇぇ……こんなしょぼい力しか付与できない転生者じゃ、すぐに死んじゃうんじゃないかな。にゃはははは! これじゃあ意味ないね!』
漆黒の冥界神が女神と猫に呆れた様子で言います。
『あのなあおめえら、ちったぁ知恵を使え知恵を。いつもバカみたいな火力で相手を黙らせることばっかやってるから、細かい芸当が苦手になるんだろうが』
『は? 冥界神如きが何言ってくれちゃってるの?』
『へえ! それって挑発かな?』
バカと言われてカチンと来た女神と黒猫は、意地でも制限範囲内で強力な【転生特権】をつけようとゴゴゴゴゴゴ!
気合を入れて能力を創り出します。
しばらくした後に、それらは新たなスキルとなり完成しました。
転生先の世界に適した形へと、スキルが最適化されています。
彼らは主神クラスの神、世界によって法則が異なることを知っていたからです。
冥界神が転生する魂を手のひらの上に浮かべると、神々はそれぞれに恩寵を授けだしました。
まずは、大いなる光を纏う女神が、その身の光で魂を祝福します。
『やっぱり神として崇められるには見た目が大事だと思うのよ! なのであたしからはこれよ!』
【美貌の恩寵(神)】
〇効果:大いなる光の祝福によりいついかなる時でも、老若男女、種族職業を問わず、その世界の基準で最高の美を手にすることができる。
それは制限内で作れるスキルの中で、最も見た目をよくする力でした。
大いなる闇を纏う黒猫は言いました。
『いや、あのさあ……見た目だけが最高ってそれ一番危なくないかい? 駄女神じゃない?』
『う、うるさいわね! 声だって美声になるんだから! なによ駄猫、じゃああんたはなにを作ったのよ!』
『何事にも運が必要だからね、私からはこれさ!』
黒猫は肉球から闇の雫を零し、冥界神が手にする魂に恩寵を与えます。
【コピーキャット(神)】
〇効果:(1)巨鯨闇猫の加護によりスキル習得者の幸運を限界最大値まで引き上げる。(2)他者のスキルを一定確率でコピーすることが可能となる。
『ちょっと! 一つのスキルに二つの効果なんて反則じゃない!』
『ニャハハハハ! まあこれが実力の差! 神としての格の差だね!』
いがみあっている女神と黒猫の横、最後の神が言いました。
『はぁ、てめえらは何もわかってねえな。こういう時はその世界に適した能力が一番いいんだよ。てなわけで、俺様が与える能力はこれだ』
【ハーレム王(G)】
〇効果:(1)冥界神の権能により自らをハーレム王とする。(2)異性同性、種族、場所空間を問わず、スキル習得者に一瞬でも情欲を抱いたものを配下とする。またハーレム王(G)効果対象者がハーレム王に思慕を抱き、Gを行った場合、対象者の所有スキル、能力の一部をハーレム王のモノとする。
自慢げに差し出したそのスキルに、他の二柱は怪訝な顔をし。
『いやなんだい、このスキルは……(G)って始めてみるスキル表記だし。対象者の行動に依存した能力強化スキルも付属してるみたいだけど。Gを行う? ゴールドか何かの略かい?』
『ちょっと! これまさか……』
抗議するように女神が冥界神を睨みます。
冥界神はしてやったりとドヤ顔でした。
『あんた、バカじゃないの!』
『ん? ねえねえ君は何のことか知っているのかい?』
『ああああああああぁぁぁぁぁ! あんたはあんたでっ、天才猫を自称してるくせにっ、そっちの知識は猫程度なのね! 言わせないでよね!』
顔を赤くした女神であるが、冥界神の下種な企みを説明する気にもならなかったのだろう。
闇の猫神が、はぁ? と怪訝そうな顔をしたままの中。
冥界神はそっぽを向いて、口から煙草と御酒の吐息を漏らします。
『しゃあねえだろ。このスキルが一番世界を救える確率がたけえんだよ。それに、光の駄女神。てめえの与えた祝福とも相性が良いし、こっちの猫様のコピーと合わせりゃスキル取得系が二種だ。悪い能力設定じゃねえだろう』
『あんた! 実は結構酔ってるわね?』
『飲んでるんだから当たり前だろう』
それでも念のためと女神も運命を計算し……。
『うっわ、待ってよ。本当にこれが一番世界を救える可能性が高い組み合わせじゃない』
『だから言っただろ? 酔っぱらいを舐めるなよ?』
『ねえ、それよりあんた……なんかこの転生者……人間どころか動物じゃないっぽいんですけど?』
黒衣の冥界神は、なははははは! と豪胆に笑い言いました。
『実はこの魂ってのは芥角虫の神でな』
『あくたのつのむし? 聞いたことのない神だね』
『あたしも知らなーい』
『お前らもよく知ってる蟲の神だ。芥虫やら角虫、アブラムシなんて呼び方もあるが。ほれ、ゴミを食らい自然に返すスカベンジャーに属する、台所にたまにでる……って、なんだおまえら、なんでそんな頬をヒクつかせて』
ネコと女神は目を尖らせ吠えました。
『それって、G.。ゴキブリじゃないか!』
『ちょっとあんた! 何考えてるのよ!』
悪鬼羅刹すら怯むほどの怒気に怯まず、黒衣の冥界神は肩を竦めます。
『あぁ!? 単騎で送り込んで生き残れる生命力。神の如きスピードに、なんでも食べれる悪食の力は偉大だろうが!』
『あああああああああああぁぁぁぁ! 無理、絶対無理! あたしの恩寵を返して! いますぐ!』
『ケシシシシ! バカ言うんじゃねえっての』
言って黒衣の冥界神は背から生やした漆黒の翼を広げ。
『さあ行くが良い、冥界で蠢く蟲の王たるモノよ! 悪食と憎悪を募らせる芥角虫神よ!』
『いやいやいや! 世界一美しくて運がいいだけのゴキブリじゃあ、さすがに世界を救うなんて無理だろう!?』
『転生を司る三つの柱の力を得たゴキブリだぞ!? ちったぁ俺達を楽しませてくれるだろうよ!』
あぁあああああああああああぁぁぁぁ!
と、光と闇の神は大慌て。
『こいつっ、他人様の世界にゴキブリを送りつけやがったわよ!?』
『転生キャンセルは、ぎゃぁぁぁぁ! 間に合わないよこれ!?』
闇の神が肉球を伸ばしますが、小さく黒い魂はカサササっと回避!
そのまま新たな世界への輪廻に逃走し。
ガッツポーズ!
そうして、転生者の魂は滅びゆく世界へ落ちて行ったのです。
芥角虫。
つまりゴキブリの魂が、剣と魔法とファンタジーの世界に送り出されました。
これが、後にハーレム王アクタと呼ばれるアクタノツノムシの物語。
Gが世界を救う英雄譚、そのプロローグとされ長く語り継がれるのですが。
そのことはまだ、神々すらも知らないのでした。
アクタは卵の中。
ただ静かに孵化を待ちます。
〇所持スキル〇
【ハーレム王(G)】【美貌の恩寵(神)】【コピーキャット(神)】