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第019話 二章プロローグG


 某日某所。

 洗濯物もよく乾きそうな天気の良い日。

 多くの信徒が集まり奏でる礼拝の音色と、讃美歌を前にし――。

 Gたるアクタの肩に乗る神は言った。


「というわけでえ、このわたしこそが女神ヴィヴァルディなの! さあ! 信徒たちよ! すぐに教会の代表のところに案内なさい! 説教してやるんだから!」


 王都の礼拝所には、重い沈黙が流れていた。


 図にすると、長身痩躯かつフードで顔を隠す、怪しさしかない黒衣の男の肩に乗るネコが、ふふん!

 神ヴィヴァルディを名乗り、ドヤ顔をしている状態である。

 司祭たちは顔を見合わせ頷いて。


「この背教者共が!」

「ちょっと! 何が背教者よ! わたしこそがあなたたちの」

「猫魔獣が神の名を騙るか!? この悪魔め! であえであえ! 女神ヴィヴァルディ様の威信にかけ、詐欺師どもを退治してくれるわ!」

「だからわたしがそのヴィヴァルディなんだってばぁあぁあぁぁ!」


 神は追い出された。


 ◇


 追っ手を殺すわけにもいかず。

 【隠密の極意(一般)】にて潜伏。

 今日も今日とて、残念女神は天に向かいネコの姿で吠えていた。


「なんでなんでなんでよー!」


 ダメな女神だとは知っていたが、よもやこれほどのモノなのかと……アクタにしては珍しくジト目。

 アクタはあまりの女神のダメっぷりに呆れている。

 考えがあるから大丈夫よ! と、なにかときな臭い神聖教会に突入したのだが、その策とやらが、証拠もなしに自らが神だと名乗るという単純なモノ。

 当然信じて貰える筈もなく、追われて逃亡。


 脱出をアクタとナブニトゥ神に任せてのこれである。


「仕方あるまい……いきなりおしかけこれであるからな、相手の立場ならば我とて信じぬぞ!」

「わたし女神なのよ!? あいつらの神なのよ!? なんで槍をもった聖騎士たちに追い回されないといけないのよー!」


 路地裏だが、日に焼けたレンガの香りが漂う道。

 女神を宿すネコは毛を逆立てジャンプしながら爪を鳴らして、キシャーキシャー!

 普段もう片方の肩に乗る神鳥ナブニトゥがバカにするのも分かる、とアクタは再度重い息を吐く。


 ゴキブリの種族ツリー……進化の幹の中で擬態者ミミックと呼ばれる、人に化けられる魔物であるアクタは、やはり長身痩躯の人型のままに告げる。


「だから我は無謀だと言ったであろう! 取得スキルも微妙どころかマイナスかデメリットしかない見栄だけは一人前の女神よ!」

「うるさいわねアクタ! わたしが声をかければ普通信じるでしょ!? この毛並みにこの美声、わたしこそが女神ヴィヴァルディだって! 空気で分かるでしょ!? 厳かな雰囲気がにじみ出て平伏するでしょう!? なのになのに、なんなのよ!」


「とはいってもな、ふぅぅぅむ……女神よ、キサマが実際に降臨したのは千年も前の話なのだろう?」

「そうよ!?」

「人の記憶など曖昧、ましてや千年の時ともならばほぼ全てが書物や文献、口伝でしか情報は残されておらぬのだろう。ネコの姿でいきなり神だ! と押しかけて信じる方がどうかしているのではあるまいかと、我は考えるが」


 普段は、両手を上げるか胸を張るかして、ふはははは!

 バカみたいに騒ぐアクタの正論に、ぷくーっとネコの頬を膨らませヴィヴァルディが上げたのは唸り。


「ねえ! だいたいなんで猫の姿なのよ!?」

「我が神が、『これこそが神の器に耐えられる至高の姿だね』と神託と共に指名、我に用意させた依り代がソレだったのだ。文句を言うでない!」

「その”我が神”ってのはなんなのよ!」

「だからそれも説明したではないか。我は冥界の使徒にして、光と闇の恩寵を受けし者と、つまりはそういうことだ! 異世界より落とされた我を讃えよ!」


 ふははははは! とアクタが哄笑を上げるが、それも潜伏状態なので影響はない。


「さっぱり分からないんですけど!? っていうか、あんたもその神の事をよく知らないだけでしょ! 偉そうにして誤魔化してるだけでしょ?」

「まあ確かに我はあの三柱についてはあまり知らぬが……」

「ほら見なさい! ねえ、これわたしの勝ちってことでいいわよね?」

「勝ち負けを争っている場合なのか?」


 フードの下で汗を浮かべるアクタが、はぁ……。

 女神ヴィヴァルディのマシンガントークに若干押されている中。

 もう片方の肩に乗る神鳥ナブニトゥが、眠そうな瞼を開き。


「だから言っただろうマスター。こいつに何をやらせてもダメだと」

「断言はしたくはないが、まあそのようだな……」

「はぁ!? 失礼バードは黙りなさいよ!」

「昔からこうだったけれど、ここまで酷くはなかったんだけどね、マスター。いつからかこんな感じになってしまったのさマスター」

「ちょっと無視しないでよ! わたしのどこがダメなのよ!?」


 ダウナー気味なナブニトゥだが、その物静かな様子はアクタの気性と意外に相性が良い。

 あんたらはすぐに結託する!

 と女神ヴィヴァルディはそれが面白くないようだが、今は信徒に信じて貰えなかったことの方が問題のようだった。


「ねえナブニトゥ、あんたの信徒にわたしこそが女神ヴィヴァルディよ! って伝えて貰うことはできないのかしら?」

「ああ、愚かなヴィヴァルディ……どうして僕がそんなことをしないといけないんだい」

「わたしとあなたの仲じゃない!」

「……ヴィヴァルディ……、僕はむしろおまえが嫌いだ。昔から柱の神の隣に立つおまえが憎い、消えればいいと思っていると前にも言ったはずだ」


 正面から否定するナブニトゥに構わず、ヴィヴァルディは前向きさだけは一級品とばかりに。


「ね! お願い! あの子たちに説教して、世界の終わりを信じるように伝えたいの! 暴走もしちゃってるから止めたいの!」


 ネコの姿で器用に手を合わせる女神に、男神はフンっと鳥の吐息で一蹴。


「いい加減にしてくれ、ヴィヴァルディ」

「なにがよ!?」

「僕はねヴィヴァルディ、人類の生死に興味などないんだよ。ましてや【柱の神】を邪神と貶め死なせた信徒たちなど、ゴミ以下。生きていることに価値などないと思うのだがねヴィヴァルディ」

「そ、それを言われちゃあ……っ、わ、わたしも反論はできないのだけれど」


 しゅんとしてしまうネコの姿に、ナブニトゥは鳥の姿で息を漏らし。


「おまえはいつもそうだねヴィヴァルディ。自分だけ泣いて自分だけ騒いで、その図々しさだけは本当に強いと僕は思うよヴィヴァルディ」

「そ、そう? 褒めてくれて嬉しいわ」


 嫌味や皮肉すら前向きに受け取る女神に、男神は呆れながらも怒気を奪われたようだ。

 アクタが問いかける。


「ナブニトゥよ。実際、神聖教会とはどうなのだ?」

「どうとはどういう意味だい、マスター」

「放置していていいのかどうか、すまぬが我にはまだよく分からぬ。世界の終わりの噂を是としていないとは理解しているが……」

「そうだね――バカを神と仰ぐあの神聖教会は厄介だ、放置は危険。理由は彼らが崇める神がこれだからだ、他に理由など必要かい? マスター」


 なるほどと、アクタはフードの奥から肩に乗る厄介者に目をやっていた。


「他の神々まで邪神とされ殺されてしまうのは困る。対処自体は僕も推奨しよう、マスター」

「そもそもの話であるのだが」

「なんだい、マスター」

「仮にも主神が人類に負ける……その時点でよく分からないのだが、当時に一体何があったのだ」


 アクタのまともな質問に女神と男神は首を横に振り。


「僕らにもそれは分かっていないのだよマスター」

「あの人が誰かに殺される可能性なんてゼロだったのよ。この世界は確率がゼロなら絶対にひっくり返らない筈なのに……けれど、実際はやられる筈がないのにやられていた……。少なくともわたしはその理由を知らない。ただ、わたしの信徒が滅ぼしたのは確かな筈だわ」


 主神殺しが起きた背景を、この世界の神である彼らが把握できていない。

 その時点で何かある。

 存外に理知的な息を漏らすアクタは考え、フードの奥から口を揺らす。


「厄介であるな……経緯はどうあれ――つまりは仮に他の神々が神聖教会に邪神認定されれば、また被害が出る可能性があるのだな」

「その通りだよ、マスター」

「他の神々とてそれを憂慮しているとすると。まずいな……神殺しを防ごうと既に人類を滅ぼそうとしている神がでていても不思議ではない」


 ナブニトゥよ、キサマは何か知らぬのか?

 と、口元の空気のみで質問されたナブニトゥは鳥の首を横に振り。


「僕は群れない。僕は奴らとは関わらない、だから知らないのだよマスター」


 ぷぷー! っとネコの口元を押さえて、女神ヴィヴァルディが言う。


「あんた、その暗い性格と半裸のナルシストで友達いないもんねえ!」

「……全ての神から呆れられたおまえよりは交友はあるがな」

「あらららー、昔からぼっちのあなたはもしかして、気にしちゃってました? ぼっちなの、コンプレックスでしたー? ごめんなさいねえ、わたしー、バカだからそーいうの分からなくてえ」

「僕は独りで良かったのに、いつもおまえが勝手に連行したんだろう。だから僕は、無神経で迷惑を迷惑と思わぬおまえが嫌いなんだ、ヴィヴァルディ」


 鳥とネコは睨み合い。

 呪いの歌と爪攻撃を構えるが――。

 頭越しにいがみ合う二柱を威圧するべく、アクタは触角を揺らすようにフードを揺らし。


「ええい、やめぬか! もし神の多くが、箱舟とやらでこの世界からの脱出を図っているのならば……! その何柱かは既に、”自らに危険が及ぶくらいならば、人類は滅すべき”と考えている可能性もあるのではあるまいか!?」

「可能性は、あるだろうね」

「だーかーらー! 最初に敵対しそうなわたしの信徒をどうにかしたいの! 神聖教会なんて、真っ先に神に狙われちゃうでしょ!?」


 だからこそ神聖教会とまともにコンタクトを取りたいのだが、女神の初手がアレ。

 女神を信じた自分が愚かだったと、アクタは行動を開始した。

 向かう先は王城。


 神出鬼没がGの能力なので、警備も素通り。

 そのまま堂々と正面から入り込み、ふは!


「ふははははは! 喜ぶがいい人類よ! 我が遊びに来てやったぞ!」


 そう、アクタもアクタでかなりの変人。

 女神と似たようなやらかしで、突然のアポなし訪問。

 お偉いさんの根城に押し掛けたのである。


 当然、人類は困惑した。


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