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第117話 僕らはGを倒せない


 人類と神々とアクタとGが集う迷宮。

 アクタの夢世界にて。


『ほぅ! なるほど! なるほど! ――ならば』

『ええ! ええ! はいはい! 頼まれたのならば仕方ありませんねえ!』


 と、声を弾ませるのは緊急召喚された無貌のネコとセイウチ。

 宇宙の外からやってきた彼らは、事情を聞き。

 色々と溜まっていたらしい鬱憤晴らしとばかりに、二柱で力を合わせ。


 ドドドドド!


『ダーッハハッハハ! 我が聖なる稲光! 聖父の一撃に滅ぼせぬモノはない!』

『わたくしもただの道化と想われるのは不服! ここで畏怖を人類に与えさせていただくとしましょう!』


 玉虫色とも言うべき虹色の球体を、一瞬、現実世界に具現化させたセイウチが。

 カァァァァ!

 と、聖なる光を。


 おそらくそれがセイウチの本体からの攻撃なのだろう。

 そして続いて、鞭のような”触手を持つ円錐の頭蓋”を具現化させた教皇ホテップが。

 慇懃で重厚な紳士の声を漏らし、鉤爪からの斬撃で次元ごと切断。


『滅びよ――呪蟲神ユダよ!』

『ぬわははははは! 我らの力、甘く見おったようだな!』


 直撃を受けたはずのアクタもこれで一度敗北できる。

 筈だった。

 魔力による熱の煙と、世界そのものに発生した摩擦によって生まれた霧の中。


 気配が、ヘラヘラと存在する。


『んぬ!? どうやら……』

『わたくしたちの全力攻撃でも、ダメだったようでありますなあ』


 申し訳なさそうに口元を歪めているのは、芥角虫神たるアクタ。

 当然、滅ぶどころかノーダメージ。

 異形なるものが放った本気の一撃さえも、アクタの防御能力を貫通できずにいる。


 アクタは空気を変えようと、ふは!

 いつもの哄笑を上げ、周囲を見渡し、更にふは!


「ふははははは! ……。さて……どうしたものか」

「な! ちょっとこれ、どうするのよ!」


 ネコのヴィヴァルディが大慌てでジャンプ。

 アクタのフードをガバ! 胸ぐらを掴む仕草で引っ張るが。


「アプカルルを呼ぶしかあるまいな……」

「そ、そうね! 彼女なら!」


 カイーナ=カタランテ姫には少し先が見えていたのだろう。

 既に彼女は、汗をだらだらさせながら魔導契約書を確認。

 一冊の書となっているその契約の隅々にまで目を通し……。


「ね、ねえ……これ、敗北宣言とか降参とか……”具体的”に設定ってしたかしら」


 カタカタと肩を震わせ始める姫に目をやり、ナブニトゥが言う。


「姫よ――どういうことだい、何か気になる事でも?」

「あ、あのね。たぶんこれ……仮にアクタさんが負けた宣言しても、終わらない気がするわ」

「ふむ……なるほど、既に強制力を発揮させる魔導契約をしてしまっているからね。どちらかが条件を満たさなければこの聖戦は終わらない……ということになる」


 ハイエナの顔に疑問を浮かべたエエングラが言う。


「ああん? んなもん、魔導契約書の契約を破っちまえばいいだろう。そりゃあある程度の罰は受けるが、ここにいる全員で契約に対抗すりゃあ破棄できる筈じゃねえか?」

「そ、それなんだけどね……」

「んだよ、ヴィヴァルディ。おまえ……またなんかやらかしやがったのか?」

「やらかしっていうか……」


 口ごもるヴィヴァルディに目をやり、彼女の思考が分かるらしいマグダレーナが呆れた口調で言う。


「このバカ。どうやら約束を破られたくなかったのでしょうね。姫が魔導契約書を作成している時に、こっそり、その逸話魔導書……公正で公平、厳格で有名な三獣神ホワイトハウルの書を使って、魔導契約書にホワイトハウルの神紋を押しちゃってるのよ」


 更に汗を浮かべる姫が言う。


「あぁぁ……あるわね。こ、これって契約に立ち会っている、みたいな意味があるんでしょう? もし、あたしたちとそっちで契約を破ると……」

「魔導契約書から顕現した審判のケモノに、全員、一瞬で強制的に噛み殺されるでしょうね」


 どーするのよ、あんた……とネコの自分を睨むマグダレーナに。

 ヴィヴァルディの必殺、逆切れの構え!


「仕方ないじゃない! こうなるなんて思わなかったのよ!」

「しょーがないわね、じゃああなたがわたしにごめんなさいって言えば、それでわたしの復讐は終わりってことにしてあげるわよ?」

「はぁぁぁ!? なんであんたに謝んないといけないのよ!」

「あのねえ、わたしはあなたの中から発生した復讐や悲しみ、負の感情の女神なのよ。そういうマイナスを全部わたしに押し付けて、自分はヘラヘラとした無責任猫になってるって、恥ずかしくないの?」


 ナブニトゥが言う。


「ヴィヴァルディ、ああ優しきヴィヴァルディ。ここで頷いてくれたのなら、僕はこれからもずっと君を讃える歌と曲を奏でるだろうね」

「いや、もうけっこう聞き飽きてるし……」


 ガーン! と羽毛をしなしなにさせるナブニトゥは気にせず。

 ヴィヴァルディは仕方ないわね、とマグダレーナを正面から眺め。


「悪かったわよ」

「それだけ?」

「す、すみませんでした! たしかに、本当ならわたしの感情だったのに、あなたにだけ押し付けて悪いと思ってるわよ! もう! これでいいでしょ!」


 マグダレーナは女神のような微笑みを一瞬だけ見せ、けれどすぐに悪女の微笑を浮かべ。


「はい、よくできました。これでわたしの復讐も終わり。おそらく、この聖戦も決着がついた形に…………あら?」

「ならないわね……」


 カイーナ=カタランテ姫が、急ぎ魔導契約書を再閲覧。

 細かい文字を確認し、ヒクっと頬を歪ませ振り返り。


「ど、どうしよう。あくまでもこの戦い自体にとって、そっちの復讐の女神さまの復讐成功の有無なんて無関係。条件にはされていないみたい。それはそれ、これはこれで別件……みたいな?」

「ふむ……ならばもし、アプカルルでも我を倒せないのなら、ちとまずいのではあるまいか」


 顎に指を当てながらも、他人事のようなアクタに反応し。

 ズモモモモっと気配が発生する。

 別次元に吹き飛ばされていた筈だが、何らかの手段を用い帰ってきたアプカルルである。


「あらららら? あららら? アプカルルがどうかしたのかしら? それに、ふふふ。みんなもう仲良くなったのねえ。協力するってとても文化的、とても平和的。それって、とってもいい事だと思うわ。素敵な事だと思うわ!」

『ぬわはははは! 勘違いはするなよ、鯉の女神よ。あくまでも一時的に協力しておるだけであーる!』


 セイウチが主張する横、ナブニトゥが事情を説明。


「というわけだアプカルル。申し訳ないが、マスターが自らで弱体化を重ねている内に一度ダメージを与えて見て欲しいのだが」

「そういうことなら、いいわ、わかったわ! アプカルルに任せて欲しいのよ」


 告げて、アプカルルはアクタの成長に合わせ”最強”の権能を使用。

 アクタの防御を貫通するべく、濁流の力を纏い。

 バシャァァァアアアアアアアアア!


 一点集中した濁流による水流カッターを発動。

 威力も破壊力も殺傷能力も、全てが今までの攻撃とは違う本気の一撃を披露するが。

 アクタはやはりピンピンしたまま。


「ふむ……フードが揺れただけであるな」

「あららら? あららら? アプカルルは本気でやったのよ? 本当よ?」

「つまりは……」


 アクタ側が人類と始祖神を全員拘束し、Gの勝利で戦闘を終了させるしかない。

 その恐ろしい結論と結末に、誰も口を開けぬ中。

 G執事姉弟は、カサカサカサ!


「ご安心ください」

「ただいま、全力でG成長マニュアルをご用意いたしますので」

「だあああああああああぁぁぁぁ! なんとかならないの! 頼りにしてばっかりで申し訳ないけど、あなたたち、神様なんでしょう!」


 姫の問いかけに、アクタは息を漏らし。


「仕方あるまい――あの方に頼むしかなかろう」

「あの方? あなたたち以外に誰かいるの?」


 人類代表となっているカイーナ=カタランテ姫の言葉にうなずき、二人の女神が告げる。


「わたしたちがこれだけ暴れても、世界が壊れてないでしょ?」

「これは、あの方……わたしたちの師が”世界の苗”、つまりはこの世界の核に緊急召喚されて、支えているからなのよ」


 なにやら思う所がありそうな、二人の女神の反応を読み取ったのだろう。

 姫はそこには触れず。


「じゃあその人に頼めば」

「あ、でもたしか……あなたが地軸に蓋をして、干渉できなくしてなかったかしら?」


 発言者はマグダレーナ。

 あなたとは、アクタの事。

 アクタはふむと考え――たしかに、マグダレーナを強制転生から守り、蓋をしたと思い出し。


「詰み、であるな!」


 この状況でアプカルルの攻撃が届かないのならば、もうどうしようもない。

 これが現実。

 これが人類がGとしてやり直す、新たな時代の幕開け。


 アクタがビシっと明日を指差し、誤魔化す中。

 ゴゴゴゴゴゴゴ!

 猫毛を逆立て、ヴィヴァルディが猫キック!


「あぁぁぁぁぁ! あんた、そんなにニッコリとした顔で言えることじゃないでしょう! どうしてくれるのよ! しかも、今のキックでもノーダメだし! 生意気よ!」

「ええーい! 元はと言えば、様々なモノの罪や裏切りの積み重ねの結果なのだ! きさまも前向きに、Gとして生きる心得のパンフレットに、女神からの一言をだな!」


 姫も英雄も、これはもう諦めるべきか。

 と。

 G執事のマニュアル作成を手伝おうと動き出した。


 その時だった。

 まず、教皇ホテップが全ての物理攻撃を防ぐ結界を張り。

 セイウチが、魔力を全開にし空間干渉さえ防ぐ”次元結界”を展開。


 他の者たちが、いったい何事!?


 と、反応するより前に、それはやってきた。

 ザザザザ。

 ザザザッ……ザ、ザァアアアアアアアアアアア!


 霧が世界を割く音がして、次に声が響きだす。


『この座標であっているかな。ああ、あっていたね』


 声だけで、全ての者を篭絡できそうなほどに甘く、けれどどこか重い声。

 干渉できない筈の次元に干渉してきたそれは、息を呑むことすら忘れる程の美貌の男。

 黒衣の神父だった。


 始祖神が戦闘態勢に入ろうとするが――。


「おやめなさい!」

「だめよ! それに、手を出しちゃ絶対に……ダメっ」


 それをヴィヴァルディとマグダレーナが止める。

 その素早い対応を称賛したのだろう。


 黒衣の神父は、パチパチパチと拍手を送り――。

 セイウチと無貌のネコの結界を強制解除。

 ヘラヘラと嗤いながらも美貌を輝かせ告げた。


『無駄な争いを止めてくれてありがとう。まずは自己紹介をさせて貰おう』


 神父は慇懃に礼をし。


『やあ――初めまして、混沌の海に消える筈だった世界の諸君。私はケトス、大魔帝ケトス。君達があの方と呼ぶ御方から命じられ、規則を破り降臨した、三獣神が一柱。魔王軍所属の猫魔獣にして魔王軍最高幹部。君達のリーダーとなっている芥角虫神をその世界に落とし、君達が……そうだね、闇の神と呼んでいる者だよ』


 そう。

 そこには、アクタをこの世界に転生させた三柱の神の問題児。

 大魔帝ケトスが顕現していたのである。


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― 新着の感想 ―
おぉやっと干渉にOKが出たんやね とぉってもカッコカワイイネコちゃん顕現! ってあれ?神父だ、なんだでb
ケトス様が降臨なされたよ!!ε=ε=(ノ≧∇≦)ノ まぁ、契約書の穴のせいで皆様G化しか道がない!!では可哀想だから助けに来てくれたのかな?(-ω-;) 最強らしいアプカルルちゃんでもアクタ君に…
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