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第116話 Gの大誤算


 別次元で戦っている無貌のネコとセイウチは、いまだにドスドスベゴゴン。

 一瞬だけ元の次元に戻って、また消えて。

 ドドドドド!


 空間を捻じ曲げ、奇怪な音を立て更にジグギジギジュジュ!


『だいたい、前から我は貴様が気に食わなかったのだ!』

『おや、わたくしは別にあなたは嫌いじゃありませんよ? まあ、別に好きでもないですが』

『ぬかせ! どちらが上か、この場ではっきりとさせてくれようぞ!』


 彼らは別空間で争っているので別として――。

 女神たちは、なによ! なによ! とキャットファイト中。

 そしてその間にも、アクタは人類と始祖神と最後の戦いを繰り広げている。


 人類代表である英雄ラングルスの攻撃を眺め、ふむ。


 無数に習得しているスキルを使用。

 わざと弱点を自分に付与し、ふは!


「ふははははは! 今の我は光属性や、聖属性に弱い! さあ、攻めるなら今であるぞ!」

「神よ、何故です! 何故そのような事を!」


 困惑する英雄ラングルスが聖槍による攻撃を躊躇する中。

 人類からの支援魔術をコントロールし、英雄に注ぎ続けるカイーナ=カタランテ姫が言う。


「あー……たぶんぶっちゃけ、アクタさんは弱体化状態でもわたしたちの攻撃じゃあ効かなくて……攻撃が通るようにしてくれてるんだと思うわ」

「その通り!」

「それではヤラセではありませぬか、我が神よ!」


 高潔な英雄としてはそれは受け入れられないようだが。

 実際、ただの無気力試合……ヤラせである。

 問題はアクタが強すぎた事か。


「ええーい! いいからさっさとやらぬか!」


 聖槍から解き放たれる聖属性の閃光ビームを受けながら、やはりほぼノーダメ。

 まったく防御が貫通されずに困った様子のアクタである。

 そんな神を見上げ、姫が言う。


「ちょっと! こんなこと言いたくないですけど、ちゃんとダメージ受けてくださいよ!」

「仕方なかろう! 汝らや始祖神が我を信仰し始めているせいで、予定よりも我は大幅に強くなっておるのだ。さすがに一切のダメージを受けぬ状態では負けることができん! いまこちらでも頑張って我を弱体化させておるが、そちらでもなんとかせよ!」

「あぁ……もう。あっちもあっちでぶっちゃけちゃってるし」


 姫は、ガシガシガシ。

 面倒な問題に頭を悩ませるように髪を掻き。


「ねえアクタさん! 今のこっちの攻撃であと何回あなたを攻撃すれば倒せるの!」

「仮に砂粒が触れる程度のダメージが通ったとして、およそ六百三十年ほどだ!」

「回数じゃなくて年数!? しかも実際は砂粒程度のダメージも入ってないんだから……あぁあああああああぁぁぁ! もう! だから神様の基準も嫌いなのよ!」

「失敬な! ナブニトゥも既に五十年の長さを覚えたのだぞ!」


 言われたナブニトゥは石のハープを操作しながら、肩を落とし。


「参ったね、これは……。マスター、このままだと僕ら始祖神はともかく、人類達は寿命が尽きて死んでしまう。そうなると自動的にこちらの負け、Gに成り果ててしまうが」

「ふむ……前向きな話をすればだ、Gの暮らしもまあ悪くはないぞ?」


 どこが前向きよ……と、姫が握り拳に青筋を立てる中。

 カササササ!

 風を切るようにやってきた気配が二つ。


 人類側に現れたのはGの二匹だった。

 アクタの執事バトラーとヴァレットである。

 彼らはいつもの執事姿の人間形態となり、慇懃な礼と共に凛と告げる。


「ご安心を、皆さま」

「仮にGへとなられましたら、小生ら姉弟がサポートいたします故」

「人類と始祖神の皆さまに置かれましては、快適なGライフをお過ごしいただけるかと」


 美形のGによるGになる前提のサポートに、姫は顔を歪め。


「Gにはならないって言ってるでしょう!」

「――マスターは負けようとしてくれているが、こうも差があり過ぎると難しい。やはり、アプカルルの帰りを待つしかないのかもしれないね」

「アプカルル神の? そりゃあまああたしも彼女の帰りは待ったけれど……」


 ナブニトゥの提案にオウム返しに近い声を出した姫を見て、他の始祖神たちが告げる。


「アプカルル神……彼女ならば、或いは」

「彼女は最強という属性、概念を付与されている女神」

「相手が強ければ強いほどに、その力も増しますからな」


 並ぶ海の幸……海水系の始祖神たちの言葉を聞きながら、グワハハハハハ!

 別次元で戦っているセイウチの声だけが響く。


『アプカルル神ならば、吹き飛ばされた時にどこか別の次元に巻き込まれおったのでな。しばらく帰ってこられんと思うぞ!』


 彼なりのサポートだったのだろう。

 ここでセイウチが嘘をつくとは思えず、一同は沈黙。

 アクタが言う。


「ちなみに、Gになるとはじめは”ただのG”からスタートである。我はその後”擬態者ミミック”まで成長するのにそれなりの時間がかかった。さらに! 今の我の種族にして擬態者の亜種、”ユダの血族”に成長するにはそれなり以上の時間もかかろう。チュートリアルとやらや、成長マニュアルにスキルツリー一覧を用意すべきであるか」


 アクタは既に前向きすぎる準備を進めているようだが。

 姫が言う。


「はぁ……実際、このままあなたにダメージを与えられないとなると、詰み。こちらの敗北は決定。まじで、”ただのG”から成長しないとダメってことかしら。少なくとも擬態者にまでなれば、あなたと同じように人類の姿を模倣し続けられるんでしょ?」

「いかにも!」

「姫よ……さすがに、Gは困るのだが」


 と、最後の戦場に参加しているが、姫の存在が大きすぎるせいで影が薄いザザ=ズ=ザ=ザザの言葉である。


「仕方ないでしょ! 条件的にはこっちは今の状態が最高ベストなのよ! なのに、一切ダメージが通らない! 腹をくくるしかないわよ!」

「しかし、条件は戦闘不能や拘束も含まれている筈。ダメージを与えずに行動不能にはできぬものなのか」


 褐色肌の地味皇帝の言葉にナブニトゥは考えこみ。


「マスターは耐性が高すぎる。ある程度のダメージを与えてからでないと、全ての状態異常が無効化されるようだ」

「困ったものだな――」


 とのアクタ本人の言葉の後。

 声をかけてきたのは、地上にいた筈のエエングラ神。

 ハイエナの姿のまま、皆を見上げ。


「おいおい、なんだなんだ。全員で、んな暗い顔しやがって。何の話っしょ――」

「良いところで戻って来たね、エエングラ」

「んだよ、ナブニトゥ。いつもはしねえ不気味な顔しやがって、こっち寄るなし……」


 ナブニトゥは実は……と説明。

 アクタ本人も自ら負けようとしているのだが、強くなりすぎたせいで敗北できない詰み状態である事を、ハイエナの神も把握する。


「なるほどな、だったらあそこでドンパチやってるヴィヴァルディと、なんだっけか……復讐の女神の」

「マグダレーナであるな」

「そうそう、そうだぜ、旦那! あいつら両方で主神の資格があるんだろ? だったら、事情を説明してあいつらにぶっ飛ばして貰うってのはどうだ?」


 アクタはふむと考え。

 キャットファイトを繰り広げていた二人の女神に声を掛けた。


 ◇


 戦闘を強制終了され、しばし怒っていた彼女達だが――。

 事情を聞いた二人の女神は、同じ声。

 同じタイミングで顔を歪め。


「「は!?」」

「「強すぎて負けられないからどうにかしろですって!?」」


 見事なセッションを披露した彼女達に頷き。


「ふははははは! すまんすまん! どうやら我も計算を間違えたようでな! 人類と始祖神の協力攻撃でも、まったく変化が起こらんのだ」


 ネコのヴィヴァルディが言う。


「あのねえ! 前世から言おうと思っていたけど、その行き当たりばったりな性格! あの人の悪い所そのものじゃない! なんで学ばないで良いところまで学ぶのよ!」

「ふむ、あの方の弟子は大抵そうなるようであるからな。我のせいではあるまい?」

「ったく……」


 ネコのヴィヴァルディが説教した後、復讐の女神マグダレーナが言う。


「しかし、変ね……さすがに始祖神全員と人類の強化を受けた英雄の一撃なら、あなたを一時的に倒せる程のダメージがでるはずだけれど」

「とりあえず、全員でわたしとこいつに祈りを捧げて見てくれる? さすがに主神の二人で攻撃すりゃ、一回は吹っ飛ぶでしょ」


 言われて人類と始祖神は女神二人に祈りを捧げ。

 ヴィヴァルディとマグダレーナは貫通力のある魔力による槍で、アクタを攻撃。

 が――!


「「いたぁぁぁぁい! なにこれ! 攻撃が通らないじゃない!」」


 やはり同時に声を上げて、肉球と手のひらに回復魔術を掛けながら、ふーふー。

 熱い水に手を付けてしまったような反応を示す女神の横で、アクタは考えこみ。


「仕方あるまい、やつらも呼ぶしかなかろう」


 告げて、ぱちん!

 別次元で超大規模な聖戦を繰り広げていた、教皇ホテップとセイウチを鳴らした指の魔力で緊急召喚。

 戦闘も強制終了させ、かくかくしかじか。


 アクタは事情を説明した。


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― 新着の感想 ―
あれ? たしか、人類を存続させる……というか、アクタダンジョンへの入場券として必要なのが至高のスイーツ。・・・もとい、全人類(+始祖神)の協力だったはず。 そして今、全人類と始祖神(+邪神)が協力して…
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