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第011話 神の瞳

 

 【SIDE:神聖教会女神ヴィヴァルディ】


 わたしはいかなる場所も見通し。

 いかなる時も休むことなく。

 常日頃から信徒をご覧になられている。


 ここはファンタジーの世界。だから比喩ではなく、実際に見ているのだ。


 それは【神の瞳】と呼ばれる監視アイテム。

 今も礼拝堂の上には、神の瞳を模した大きな目玉のオブジェクトが鎮座しており……その瞳から神はじっと信徒たちを観測している。


 裏切り者には制裁を、背教者には鉄槌を、異端には死を。


 厳しいようだが、全ては愛する信徒のため。

 かみはあなたがたが私を愛する限り、全ての悪から守りましょう。

 千年ほど前。

 かつて実際に降臨した神聖教会の崇める神ヴィヴァルディが、実際に残した言葉である


 荘厳に打ち鳴らす打楽器と、一音でも間違えると神罰が下るとされているパイプオルガンの音が、盛大に鳴り響く神聖教会にて。

 今、歴史において実在が確認されている神が神託を下す。

 それが月に一度の神の宣告、未来予知に近い、絶対に守らなければならない神の言葉である。


『汝らよ、Gに手を出すこと勿れ――』


 そう。

 かみの言葉である。


 ◇


 私は神ヴィヴァルディ。

 神の瞳の中にて、地上の人々を見守る美しき女神。

 かつての遠い過去、友らと共に滅んだ故郷を捨て、混沌の海を漂流。

 流れ着いたこの世界に住み着いた存在。


 我らの始まりは皆、外。


 何もなき空間に在った”世界を作れる空間”に手を加え、新世界とした。

 それがこの世界の始まり。

 そして私ヴィヴァルディもまた、創造神の末席として人々に崇められる女神。


 もはや時を数えることも忘れる程の時間が過ぎているが、確かに私たちはこの世界を生み出したのだ。

 だが、皆が愛した第二の故郷ともいえるこの世界ももはや風前の灯火だった。


 それは主神の消失。

 不幸な事故や手違いがあり、百年ほど前に神々のリーダーたる【柱の創造神】を失ってしまったせいで、この世界は終わりを迎えようとしている。


 そしてよりにもよって、主神を邪神と誤解し殺めてしまったのは私、神ヴィヴァルディの信徒だった。


 当然、他の神々から神ヴィヴァルディたる私は非難された。

 罵倒された。

 縁を切られた。


 当然だ。

 主神を失えば世界は終わる、なのに残された神々に主神の器に至るまでの実力はなかったのだから。

 だから。

 世界は残り少ない寿命の中で、節約して生きないといけない。


 そんな中。

 なんとか世界を保とうと動く私は、真っ当な神だと言えるだろう。

 だが神ヴィヴァルディたる私は考える。


「あぁああああああああああぁぁぁぁ! この子達、また暴走してる! なんでなんでなんで! どーしてこの子達はいつも私の言葉を曲解するのよ!」


 Gとは何のことだ。

 司祭たちは困惑し、相談。

 そして出した結論が禁欲だった。


「Gっていったらゴキブリに決まってるでしょうが! たしかにっ、千年ぐらい前にあんなイキった教義を伝えちゃった私も悪いけど、(それ)には絶対に手を出したらダメなんだってば!」


 神の目が配置されている場所こそが神聖教会の聖地であり、拠点となっている。

 王都の神聖教会ともなれば、駐在する聖職者もエリートばかり。

 だから、クソ真面目に協議した結果……神が自分を慰める行為を禁止したと、また勝手に信徒たちが決めつけ教義に追加したのである。


 全ては自分のせいだと私ヴィヴァルディは自覚していた。


 原因はかつての降臨だった。

 なにしろあの時は神と崇められ調子に乗っていた。

 女神として立派であろうと、そして厳格で美しく品もあるが恐ろしい一面もある女神だと、信徒たちに見せつけたかった。

 だから。


「そりゃ確かに言ったわよ? ”裏切り者には制裁を、背教者には鉄槌を、異端には死を。厳しいようだが、全ては愛する信徒のため。かみはあなたがたが私を愛する限り、全ての悪から守りましょう。”なんて言っちゃったわよ? でもでもだって! 仕方ないじゃない! 嬉しかったんですもの! 強い神様だって見られたかっただけなの!」


 人類は神ヴィヴァルディを厳格かつ恐ろしい神と崇めた。

 そのせいで以後、私の言葉の一つ一つが深く研究され、勝手に誤解され、新解釈だ! だの。その思想は異端だから処刑だ! だの、信徒たちがどんどんと尖っていき。

 現在はもう私の言葉が、まともに届くことはなくなってしまった。


 そもそもだ。

 神の瞳の中から下界を眺める私は思うのだ。


「送れる文字数が少なすぎるのよ!」


 と。

 それは主神の消滅により力が弱まり、神々が世界に直接介入できなくなっている影響だった。

 もはや神の言葉を直接届けることは不可能。

 送れるのも月に一度程度。


 神託を下すにも、文字数の制限がどうしてもでてしまうのだ。


 今回とて、そのアクタという祟り神は異界から送られてきた唯一の生存ルート。

 この世界が助かるかもしれないたった一つの希望。

 だから、絶対に怒らせたり手を出したりしてはダメよ!

 それに! そいつのバックにいる三柱の神は、たぶん絶対ヤバイ連中だからくれぐれも敵対するんじゃないわよ! 分かったわね!

 と、言いたいところだったのだが、送れる文字数の関係で『汝らよ、Gに手を出すこと勿れ――』となってしまった。


 Gと省略したことで、またあらぬ誤解を生んだだけ。

 汝らをつけないと、勝手に拡大解釈し、他の神々を崇拝する全ての人類を対象に暴走するので、絶対に外せない。

 なにしろそのせいで百年前にやらかし、主神を滅ぼしてしまったのだから。


 なのに。


「え? ちょっと嘘でしょ? なにしてるのこの子達」


 神の瞳から覗く下界では、邪神復活を企む邪悪な者たちを排除せよと議論が過熱。

 この世界が滅びるなどというデマを流す異端者を排除せよと、真剣な顔でエリートたちが暴走中。

 彼らがこの世界の滅びについて発狂しながら否定するのも、実は私ヴィヴァルディのせい。


 あの時も少ない文字数制限の中で、世界の滅びを伝えたのだが。

 いつものエリート曲解が発動。

 何故か、世界の滅びという嘘を止めよという神託と判断され……世界についての滅びを問う者は、全て破門。

 裏で暗殺者を送り処理するという、嫌な流れができあがってしまっているのである。


 そのせいで、他の神々が自らの信徒に世界の滅びの予言を与えても、うちの子たちが処理してしまうという地獄のようなシステムができあがってしまってもいる。

 当然。

 他の神々からは、それも非難……というかガチギレされた。


 もうお前は何もするな。関わるな。二度と顔を見せるな。

 ゴミ蟲以下の貴様でも神は神、消せば世界の滅びが早まるから生かしているだけだ。

 何もしない分、ゴミの方がまだ救いがある。

 と、罵詈雑言を受ける始末。


 取り付く島もないので、私ヴィヴァルディ的にもかなり困った状況なのだ。

 だから。

 今、神の瞳に映る信徒たちの語る言葉が、私を困らせ悶絶させる。


「は!? 兄殿下の蘇生を妨害するために擬態者アクタを暗殺するですって!? 嘘でしょ!? どこをどーするとそうピンポイントな破滅の道を選べるのよ! 何を良い会議であったみたいな顔を……やめて、やめなさい! あぁああああああぁぁあぁぁぁぁぁ! もう神ですら介入できないこの世界に、そんな異物をどうどうと正面から送り込める神がバックにいるのよ!? どっからどーみても超大物なんだからっ、触らぬ神に祟りなしって言葉を知らないの!?」


 かくして。

 神ヴィヴァルディたる私の監視する下界にて。

 G抹殺計画が動き出そうとしているのであった。


 程なくして。

 冒険者ギルドにて。

 領主エンキドゥと魔術師ビルガメスにより、正式に安置所の遺骸の蘇生を依頼されたアクタが動き出す姿が、神ヴィヴァルディたる私には見えていた。


 私はもはや背に腹は代えられぬと、動き。

 緊急事態だと、他の神への助力を乞うた。

 死ね。消えろ。ウジ虫がと各神々に拒絶されながらも、ようやく一柱だけ、ゴミを見る目で嫌がりながらも話を聞いてくれる神を確保。


 事情を説明したら、更にゴミを見る目は増していたが……放置はできないと協力を取り付けることに成功。

 私の土下座が功を奏し――。

 なんとか自分の信徒を向かわせる算段をつけてくれたのである。


 私のせいで世界は滅ぶのだ。だから神々からの冷遇も甘んじて受け入れなくてはならない。

 だが。

 ゴミはないでしょゴミは! あんたらだって、結局主神を守れなかったじゃないの! と、私は喉の奥から飛び出そうになる叫びをぐぐっと抑えるばかり。


 そんな私の苦労も知らず、世界は勝手にダイスを振り続ける。


 賽の目の結果、その成否で未来は決定されていく。

 確率がゼロではないのなら、どうとでもひっくり返せる世界でもある。

 だが、その結果がどうなるかは神であっても先読みはできない。


 異世界からの介入者……一匹紛れ込んだGにより流れの変わる世界はどうなるのか。

 私はただ、その最後の希望に縋るしかないのだ。


 まあ……。

 その希望を、私の信徒が抹殺しようとしてるんですけどね……と、私は冗談交じりに愚痴ったが……。

 相談相手の神は目線すらも合わせず。

 ただゴミを見る目で溜息をつくだけだった。


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