第107話 舞台裏もつらいよ
【SIDE:戦場と冥界】
闇と光と死の神が観測するのは、アクタの世界。
裏切り者の汚名を着せられ、世界で一番嫌われた殉教者が生み出した場所。
天と地上の戦いは続く。
この戦場を観測する神々の視界に映るのは、最終決戦。
異界の神々が見守る中――。
観測されていることを知ってか知らずか、彼らは世界樹を揺らしていた。
魔力が入り乱れる中。
フードを解禁したアクタは、ふは!
「さあ、我を見よ――!」
教皇ホテップの瞳に回復魔術を掛けながら、再び光の神から授かったスキル【美貌の恩寵(神)】を発動。
美貌の恩寵は属性種族を問わず、相手に最高の美貌を見せつける神のスキル。
いかに邪神といえど、宇宙の中に存在する相手ならば対象内。
目視させてしまえば後はどうとでもなる。
死の神から授かった【ハーレム王(G)】の能力で終わり。
強制的に家臣にすることも可能。
本来なら発生する筈の確率判定も、【コピーキャット(神)】の能力による幸運値最大化の影響で問題ない。
全てが確定で成功判定にできる。
『バカか、バカなのだな! 見ろと言われて見るバカがどこにいる!』
「キサマの仲間のセイウチならば見そうではないか!?」
『否定はできぬが――まあいい!』
つまりはアクタは邪神に視力を無理やり植え付け、目視させれば勝ちなのだ。
故に、教皇ホテップは瞳の強制回復をキャンセル。
常に自らの視界を遮断し、高速詠唱。
『我、無貌の邪神が詠唱する! 聞くがいい、宇宙よ! 混沌の海よ! 天に遍く星々よ。我らの創りし生命の揺り籠よ――!』
詠唱の途中で、パキン!
教皇ホテップは詠唱速度を大幅に短縮する、ペンギン印の”詠唱短縮アイテム”を使用。
鉤爪の腕の先に無数の粒を顕現――ブラックホールとも言うべき小型重力球を生み出し、魔術を展開していた。
「ほう! それが攻撃魔術の秘奥のひとつ、”天体魔術”というやつか!」
『ヒヒ――! 法則を破壊する重力の星。闇の礫にどれほど耐えられるかな!?』
教皇ホテップは興奮しているのだろう。
紳士的な低い声ではなく、上擦った狂人のような声を溢れ出している。
追跡能力を持った闇の礫が、アクタを襲う。
逃げるGを追うように、容赦なく弾丸が狙い続けていた。
だが。
アクタは直撃を受けても、無傷。
礫を喰らいながらも平然としたまま、やはり哄笑を上げていた!
「ふははははは! 無駄だ、教皇ホテップよ! 我は汝からコピーした【全属性攻撃無効化】を既に取得済み。偽証魔術を通した攻撃以外はすべて無効、それは貴様が一番知っているであろう!」
『いいぞ! いい! キサマは我を昂らせる、たまらぬ! たまらぬぞ!』
千の顔を持つとされる邪神は、自らの鉤爪を齧り、齧り、齧り。
興奮の中で、顕現させた謎空間に腕を突き入れ。
謎のスキルを発動させ宣言する。
『我、教皇ホテップが命じる。アイテムよ、産まれよ。我らは宇宙の管理者、故に、我のこの手には全てがある。創世、創世、創世! 合成スキル:【道具生成ALL】!』
謎空間から取り出したのは、生成したアイテムのようだ。
アクタは”鑑定”を発動し、謎スキルを確認――。
はっと目を尖らせる。
Gとしての本能を刺激されたのだろう、グギギギギギっと頭を傾げ、ふは!
「ほう! 宇宙にあるアイテムであったら、なんでも作れてしまう管理者のスキルか! 欲しい、欲しいぞ! 我もそれが欲しいのだ!」
『この我に勝てたのならばくれてやるさ!』
円錐の頭を興奮させたまま尖らせた邪神は、イヒヒヒヒヒヒ!
生成したアイテム――表紙にマカロニペンギンが描かれた逸話魔導書を装備。
形容しがたき異形なる身体を揺らし、詠唱していた。
『これぞ偽証魔術の属性を得た天体魔術、どこまで遊んでいられるかな!?』
効果は即座に発揮された。
アクタに向かい飛ばし続ける小型のブラックホールに、偽装魔術……【全属性攻撃無効化】を貫通する属性を付与したのである。
実際に、闇の弾丸の嵐を打ち込むが。
アクタは重力弾を受けても、態度を崩さず悠然としたまま。
「ふはははは! 無駄よ、無駄無駄! まるでポップコーンのようではないか!」
『……! 魔術の無効化か』
「天体魔術とて所詮は魔術。原理さえ分かれば対処可能、対策スキルを発動させるだけの話よ!」
戦場は盛り上がっている。
だが、観測する者たちはどうかというと。
彼らは彼らで戦っていた。
ブラックホールが弾丸として放たれているほどの戦場ならば、本来とっくに世界ごと壊れている。
それが何故、世界を保てたままに戦えているか――。
その疑問こそが答えと言えるだろう。
◇
地獄の果て。
かつてユダが幽閉されていたジュデッカにて、多くの異神が集まり大忙し。
主犯ともいえる、闇の神と光の神、そして死の神はあの世界を観測しながら、詠唱! 詠唱! 詠唱!
ブラックホールの礫の嵐を計算した闇の神が、ぶにゃにゃ!!
猫毛を逆立て、宣言。
『ぎゃぁああああああああぁぁぁ! そっち! そっち! 地軸の基準になっている空間にツギハギをしないと、世界そのものが重力崩壊を起こして壊れちゃうから!』
『わぁぁってるよ!』
言葉を受けた死の神は、腕を捲った肌から蛇の魔術紋様を浮かび上がらせ。
ふぅ!
額の汗を拭い、無駄に性的な仕草で髪を掻き上げ。
『簡易的だが、処理は完了だ。次に備えろ! 駄猫に駄女神!』
『ああもう! 分かってるわよ! それよりもあんた、いまなにをしたの!? あの世界に何か送り込んだでしょ!?』
『転生したがっていた悪魔神の一柱を地軸に送った――! 暫定的かつ、超法規的措置だ! これで地軸は維持できるだろうが!』
光の神が慌てて地軸を確認し。
『あぁああああぁぁ! あんた、あれ! サタンとかそういう位の大悪魔じゃないの!?』
『しゃあねえだろうが!』
『どうするのよ、絶対あとで問題になるわよ!』
睨み合う死と光の神であるが。
キシャァァァッァっとネコの威嚇音が割り込み。
『そんなことをやっている場合じゃないだろう!? あの世界を維持しないと魔王様に怒られちゃうんだから、これは絶対に失敗できないんだって言っただろう!』
『分かってるわよ!』
『邪神を宇宙の果てから拾ってきやがった、てめえが言うな、駄猫!』
そう。
彼らは今回の事件の責任を取らされ。
現在、大戦争状態のあの世界の維持に全力を出しているのである。