第001話 Gのプロローグ
ある日の事――多くの世界が漂う混沌。
輝く海の夜空の中。
三柱の神様が異世界を眺めておりました。
彼らはそれぞれ強大な神。
一柱で世界を支えることも、世界の先を見ることも可能な主神クラスの存在。
三柱の神はとある過酷な異世界を眺めて言いました。
ああ、あの世界は滅びてしまうだろう。
と。
神様たちはそれぞれ輪廻に干渉し、死者の魂を転生させられる偉大な神でした。
一柱は大いなる光を纏った白い鳩。
彼女は、光の神です。
一柱は大いなる闇を纏った黒い猫。
彼は、闇の神です。
そして、最後の一柱は漆黒を纏う濡れ羽色のカラス。
彼は、死者たちが眠る冥界を束ねる者、死の神でした。
三柱の神はそれぞれがそれぞれに、その世界の終わりを予知していたのです。
光の神は祈る聖女のような声で言いました。
『哀れとは思いますが、これも運命。せめて彼らの魂の安寧を願いましょう』
『でもさあ~、見ちゃった以上そのままってわけにもいかないんじゃないかなあ』
楽しい事が大好きな闇の神の言葉でした。
光の神は鳩の姿で、首を横に振ります。
『好奇心は不要でしょう』
光の神を猫の瞳でじっと眺め、闇の神が言います。
『あのさあいつまで猫を被ってるんだい? あ? もしかして信徒の目線を気にしてる? 大丈夫だよ、今回の飲み会はオフレコだし。世界のログにも登録されないっていったじゃん』
『……本当に、記録していないのですね?』
『私が一度でも嘘をついたことが、あったかな? だーれも見ることができないし、安心だよ?』
闇の神の言葉を信じたのか――光の神は周囲を見渡し、息を吐きます。
オフレコだと判断したのでしょう。
突如、信者から奉納された神酒を傾け、ぷはぁ!
女神のような声を出していた白い鳩は言葉を崩し。
鳩の顔に、ぬーんとした呆れの表情を作り。
『あのねえ! ちょっときいてよー! この世界の記録を読んでみたのだけれど、これがどーも最悪でえ! この世界の人類ったら、なんか私欲でまともな主神を滅ぼしちゃったぽいのよ! で? ダンジョンが自然発生して、永久に広がり続けてドカーン! まあ神の反撃ってよりは、自動発動の呪いの類ね。だから、それを助けちゃうのは、女神的にはそれはそれでどうなの? って感じでねえ』
『まあ、因果応報の原理に背くのもちょっとねえ』
光の神も闇の神も冷たいようですが、主神を殺した世界が滅ぶのは確かに自業自得。
彼らの意見は間違っていませんでした。
けれど、闇の神はこの世界に興味があるようでした。
見てしまった以上は少しは介入したいとばかりに、闇の神が言います。
『ねえ! お兄さん! 君は何か意見はないのかーい?』
こっそり酒樽を一人で傾けていた漆黒のカラス……死の神への言葉でした。
カラスの姿を維持する死の神は顔を擡げ。
酒灼けした、酷く情欲を煽る声で言います。
『あん? 何の話だ』
『なんかー、主神殺しをやらかしちゃった世界があるっぽいのよー』
『はぁ!? 世界を育み、世界を支える主神をやっちまうだぁ? ほっとけほっとけ、どーせろくな世界でもねえだろ。んなの自業自得。俺達には関係ねえよ』
闇の猫神が髯を揺らしていいます。
『でもさあ、私たちみたいな偉大な神に滅びる筈の世界が観測されるって、なーんか運命的なモノを感じないかい?』
『運命ねえ』
『もし壊れちゃいけない世界だったら、後から直すのも大変じゃん。見捨てたって言われたくないじゃん? だったら一応、形だけでもなんかした方がいいんじゃないかな?』
責任が大嫌いな死の神は、んー……。
翼をクチバシの下に当て考えます。
『そうだな――主神を殺しちまったんなら確かに自業自得だが、世界に住まう他の連中に罪があるわけじゃねえ。俺達が直接助けないにしてもチャンスを与えるってのはどうだ?』
『チャンス?』
『具体的にはなにをするつもりなのさ』
問う光と闇の神に向かい、漆黒のカラスは自慢げに言いました。
『実は俺様のところに扱いに困ってる死者の魂があってな』
『あなたのところって事は、あー、冥界で封印されてる魂よね』
『ああ一種の荒魂、まあ詳細は省くが祟り神みたいなもんで――そのまま転生させるわけにはいかねえが、処分するのもそれはそれでどうか……って魂が余ってるんだよ』
言って、死の神は翼の先に一つの魂を浮かべて見せます。
それはもはや消え去りそうなほどに、小さな黒い魂でした。
どう見ても人類の魂ではありません、闇の神が訝しみます。
『祟り神ねえ。ところでさあ……随分小さい魂だけど、何の生き物なんだい?』
『ん!? あ、あぁ。まあ生きた化石ともされるから由緒ある種族だ。其の魂も厳格に祀られ……石碑で供養されていやがる程でもある。おそらく遠き青き星でも最も畏怖される生物だぜ?』
『祟り神でも神は神、畏怖されているのなら恐怖感情の信仰値の素質もOK。んー……主神へと昇格する可能性はあるんでしょうけど』
光と闇の神は「どーなんだろ」と顔を見合わせています。
ですが、死の神は「おまえらの懸念なんてどーでもいい」とばかりの顔でグラスを傾け、最後の一滴まで貪るように雫を喉の奥に落とし。
舌なめずり。
『どうせそのまま眠らせてるつもりだったんだ。ダメで元々、こいつに俺達がそれぞれ力を与え、その世界に転生って形で送り込んでみるってのはどうだ? それで失敗しても、俺達は一応助けようとはしてやったわけだ。後で見捨てたとも言われねえだろ』
光の神はそれでアリバイができるなら文句がないという顔。
闇の神も好奇心旺盛なのか、ネコの瞳を、くわっと見開き言いました。
『面白そうだね! その転生者を主神までレベルアップさせて、主神って柱を失った世界を救わせようって事かな!』
『そう上手くいくのかしら……』
『なーに、べつに上手くいかなくてもいいんだよ、あの世界もこの魂もほっとけば勝手に消えちまう存在。だったら両方に最後のチャンスを与えようって話だ、俺達が損をするわけじゃねえだろ?』
転生に関しては思う所があるのか、闇の神が空気を少し変えました。
それは意思の確認だったのでしょう。
僅かに声のトーンを落とし、まるで神父のような穏やかな声で告げます。
『ただし――その魂がこの転生に納得してるならだけどね。どうなんだい?』
『本人はチャンスがあるなら縋りたいってさ』
『へえ! なら遠慮はいらないね!』
白い鳩の姿を取っていた光の神は――大いなる光とでも形容できそうな、太陽のような輝きを放つ人型の美しい女神となり。
闇の神は、黒猫の身体から荒ぶる破壊の魔力を放ち――破壊神としての死と再生を司る力を引き出し。宇宙そのものと言わんばかりの、鯨のような大いなる闇を広げ。
そして。
冥界神である死の神が、最後にその姿を変貌させます。
ほんの一瞬でした。
漆黒のカラスは気だるい情夫を彷彿とさせる色男――黒き翼を生やす神々しい皇帝姿へと、その身を変えていたのです。
美女と黒猫と美丈夫。
光の女神と破壊神と冥界神。
それぞれに転生を司る力を練り上げます。
彼らはそれぞれ敬愛も畏怖もされた大いなる神々。
幸いにも、優しさも持ち合わせている神々でした。
だから――。
送り出す魂のため。
そしてなにより。
面白そうだからと、本気でスキルを作り始めたのです。
〇序盤は連続更新。
落ち着いたら毎日一回の更新を予定しております。
└( 'ω' )┘我、タタリカミ、やぞッ!
【本日の更新予定表】
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