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衝突  作者: 鳩湊
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助ける

再び彼に視線を移す。彼はどうやら数学が苦手そうだ。手が完全に止まってる。ここから動き出すにはまわりからの援助が必要だ。それでも彼は話せる人がいないのでそのまま硬直していた。


先生の野太い声が教室に響く。「じゃあこの問題、解けるやついるか!」生徒の学力に期待してるのか、単純に気分が良かったのかは分からないが、とにかく元気だ。それと対照に彼は落ち込んだような顔をして数式を見つめていた。


「なんだ。誰もいないのか。じゃあお前解いてみろ。」彼の体はぴくっと痙攣した。一気に周囲に注目された彼は額から光るようなものが見える。汗だ。彼の硬直した体に液体が流れ出し、彼はますます緊張状態に陥る。彼の現時点での恐怖は私には計り知れない。


彼は足を震わせながら椅子から尻を離し、黒板の方へ向かっていった。そしてチョークを濃い緑の板に押し付け、淡々と計算過程を記していく。それは間違っている数式であると私はすぐ認識できた。だが、彼はその事も知らずに緊張状態から開放されるためにひたすら数式を書く。


チョークが置かれた時、彼は顔を緩ませ、引き寄せられるように椅子に尻をつけた。「違うな。」先生が言う。数秒間沈黙が続く。誰も表情を変えずにただ彼を見つめている。下に見てるような、奴隷のような、そんな視線が彼を襲う。彼は足を再び震わせながら視線が移動するのを祈っていた。


「じゃあ、お前。解いてみろ。」先生に指名されたのはまさかの私だった。私は黒板のところへ行き、数式をひたすら書く。周りに対する優越感と彼を助けてるような喜びが私の手の動きを加速させる。


チョークが置かれた時、先生が言った。「正解だ。流石だ。」私は少し照れながら彼に再び視線を移す。


「実は今の問題、〇〇大学の過去問から引っ張ってきたんだ。だから解けなくて当然。落ち込むこと無いぞ。でも、感謝しとけよ。あいつに,。」


私は先生の一言で彼と繋がれたような感じがした。今まで感じたことがないような喜びが私の体を包む。彼は少し安堵したような顔で数式を見つめる。


私は彼を援助した。あんなに席が遠いのに。良かった。良かった。溺れている彼に助け舟を送ることができた。それだけで満足だ。


チャイムが鳴り、号令がかかる。彼は相変わらず、深々とお辞儀をして先生に敬意と感謝を示していた。

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