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望まない結婚だったのに楽しくなりそうでどうしよう



はっきり言って僕は女性が嫌いだ。

何故なのか細かい理由まで言うと長くなるので割愛するが、最大の理由は彼女達の手のひら返しだ。

幼少期から僕はかなり太っていた。太った容姿と言うだけで彼女らは僕をバカにして嫌悪の眼差しを向ける事もあった。

国王の息子、つまり王太子にも関わらず婚約話は次々と断られる始末。

そんな僕がひょんな事で激痩せした途端、今まで嫌悪を露わにしていた輩が、僕と婚姻を結ぼうと逃げても逃げても追ってくる。

そんな扱いされて女性不信になるのは当然だろ?




「シリウス様、アンリ様が到着されたようです」

執事のギルバートが窓の外を眺めながら声をかけてきた。

「お前が相手しといてくれ。会いたくない」

「……観念してくださいよ。この婚姻は国王命令で破棄出来ませんよ」

「理由は知らんが何度も婚約の話があがっても破談になってきた令嬢だろ?怖くて会えない。今日は婚約の挨拶だけだ。どうせ破棄出来ない婚約なら正式に婚姻するまで会う必要は無い」

シリウスは大袈裟に震えて訴えた。

「貴方…社交の場に滅多に出ないからアンリ様の情報を知らないんですね?そんなに怯えるような変な方じゃないですよ。バカだな」

ギルバートはため息をついて、心底呆れた表情で毒づく。

「バカとは何だ!僕は王太子だぞ。もう大人だ」

「それは申し訳ございません。罰として、このギルバート、シリウス様付きの執事を辞退させていただきます」

深々と頭を下げるギルバートを見て、シリウスは慌てて彼に走り寄った。

「じ、冗談を真に受けるなよ。幼少の頃からの仲だろ?お前が居なくなったら信じられる人間が居なくなるじゃないかぁぁぁ!」

「貴方こそ冗談を真に受け過ぎです。それで、アンリ様との顔合わせどうされますか?」

面倒くさそうにギルバートが確認すると、シリウスはキッパリと言い放った。

「断固拒否だ!」




アンリとの婚約が成立して1年。とうとう婚姻の式典当日となった。シリウスは朝から、いや昨日から情緒が不安定だ。

「早く帰りたい」

祭壇の前で花嫁を待つ男とは思えないテンションで式に挑む。

『盛装姿も素敵だわ』

『本当に結婚してしまうのね。でも、側室と言う手も……』

『そうだな。我が娘を側室に迎えてもらえないだろうか』

ざわつく会場内で、シリウスがウンザリする来賓達の会話が耳に入ってくる。

(妻を迎えれば縁談話は静かになると思ったのに!側室?!)

恐ろしさで気を失いそうになった時、花嫁入場の声があがり会場は一瞬で静寂に包まれた。




扉が開き、父親にエスコートされて純白のドレスで飾り立てた小柄な女性が現れた。ヴェールで顔は隠されている。

「うぅ……」

「本当にアンリだ……」

シリウスの元にゆっくり歩み寄る彼女の姿を見て、何人かの男性が涙ぐんだり、ショックを隠しきれないといった仕草をしている。

(何だ?あいつら)

やがてアンリは父親のエスコートから離れてシリウスの隣にたどり着いた。

(とうとう来てしまった……)

シリウスは神官の祈りも上の空で聞き流す。

「……シリウス様?」

ハッと意識が戻ったシリウスの顔を不審そうに神官が眺めている。

「この婚姻に意義はありませんか?」

神官からの確認にシリウスは咳払いをして、待ってと言うように手のひらを向けると、うつむいて正面を向いたまま隣に立つアンリの耳元に顔を近づけた。

「今から意義は無いと答えるが、1つ言っておく事がある。結婚しても僕は貴女の事を愛する事はないのであしからず」

神官に聞かれないよう小声でささやいた。

(どうだ!最低な男だろう?フフフ)

不意にささやかれた言葉に、アンリの肩はピクリと動いて反応したが取り乱すでもなく微動だにしない。

「意義はありません!」

シリウスは、言いたいことを言って心が軽くなり、やたら大声を張り上げた。

「アンリ様。この婚姻に意義はありませんか?」

「……はい。ありません」

こころなしか花嫁の声が愉しげだ。

「では、誓の口づけを」

(はあぁぁぁ…そんなの無理に決まってる。唇近づけるだけで誤魔化すしかない)

シリウスはノロノロとアンリの方に体を向けて彼女のヴェールに手をかけた。

(はっ!いくつもの婚約話が破談になった女性……どんな姿なんだ)

今さらながら初めて見る花嫁の容姿を気にしながらヴェールを彼女の頭まで上げた。

「えっ……」



ヴェールの下から現れたのは、とんでもなく愛らしい美女だった。キリッとした形の良い眉に、長いまつ毛が印象的な大きな漆黒の瞳。鼻筋は高くもなく低くもなく、唇は少し厚みがあるが艷やかだ。非常に整った顔立ちをしている。

(な、な、な……!)

思いもよらなかった事態にシリウスは混乱して立ち尽くしてしまった。

婚約が決まらなかった女性という先入観で、性格か容姿に難ありなのだろうと勝手に決め込んでいたからだ。

パニックで固まるシリウスに、アンリはニコリと愛らしくほほ笑んて声をかけてきた。

「……シリウス様。先程の言葉、承知いたしましたので大丈夫ですよ」

「あ、はい…」

アンリはクイッと顎を上げてシリウスに笑いかけてきたので、シリウスはギクシャクと彼女の両肩に手を起き触れるか触れないかの所まで唇を近づけた。

「これにより婚姻は成立いたしました。おめでとうございます」

神官の声に拍手が沸き起こる。

鳴り響く拍手の中、シリウスはポーッと上の空で外に向かって歩き出し、アンリは満面の笑みで彼にエスコートされている。そんな2人をギルバートは祝福の笑みと言うより、面白そうに笑って拍手で送り出した。



婚姻式の後、自宅まで別々の馬車で移動した。到着してから、今後のルールを伝える予定を組んでいたので、応接室にアンリを呼びつけた。

「シリウス様。今日から宜しくお願い致します」

アンリはウエディングドレスから着替えてシンプルな軽装に上品なペンダントを身に着けているだけだったが、それでも彼女の華やかさは変わらない。

「ああ、宜しく。それで今後の事だか……」

シリウスは前もって考えていたプランを話しだした。

「僕は女性が苦手です。ですので同居に関しては仕方のない事ですが、食事、寝室は別でお願いしたいのです」

「かしこまりました」

「………僕は人が集まる場が好きではないので、僕の在宅時に友人を呼ぶのは遠慮して欲しい」

「かしこまりました」

「休日もなるべく別々で……」

「シリウス様、提案なのですが」

アンリに話を遮られる形になったが、彼女の話し方が意外におっとりしていて声も落ち着いているせいか、シリウスは嫌な気持ちにはならなかった。

「本邸の横に小さな別邸があるのが見えました。来客用とお見受けしたのですが?」

「ああ、そうだけど」

「もし可能であれば、あそこを私の住居に頂く事は出来ないでしょうか」

「ええ?!」

「あ!無理なら結構ですから」

まさかの提案にシリウスが声をあげると、アンリはすぐさまフォローを入れた。

「いや、無理ではないけど……ちょっとビックリして」

「お互い意に沿わない婚姻と言う所で意見は一致していますし、無理に私を気遣って頂く事は無いと思いまして」

「うん?お互い意に沿わない?」

「シリウス様は、この婚姻は喜ばしい事ではないのですよね?理由を聞いて宜しいですか?好きな女性がいるとか?」

アンリとの会話は必要最小限に抑えようと考えていたシリウスだったが、直球で質問されたので直球で返すことにした。

「さっきも言った通り、僕は女性が苦手だ。それだけです。なので結婚なんてする気はなかった。でも、父上……国王陛下の命令だから仕方なかった。君の理由は何なんだ?」

「私は男性が苦手な訳ではないのですが、アクセサリーのデザイナーに憧れているんです。何度か婚約のお話を頂いたのですが、お相手の方達は私の夢を応援すると言っておきながら、最期は自分と夢のどっちが大事なんだと選択を迫ってきて破談になりました」

「それが理由だったのか」

「そんな事を繰り返しているうちに、国王陛下からの命令が下ってしまい、今に至ります」

「父上が……何だか申し訳ない」

「いえいえ!こちらこそ!私なんかがシリウス様に嫁ぐだなんて恐縮です。でも、好きな女性がいるのでは無くて良かったです。私の存在が人を苦しめる事にならなくて」

(なんて腰の低い人なんだ。こんな馬鹿でワガママな僕に……)

「そうとは知らず、式では失礼なことを言ってしまった。すまない」

「ああ!ビックリしましたよ。でも、あの時までは私もこの世の終わりだと思っていたのに、シリウス様の言葉で一気に心が軽くなりました」

「そう言ってもらえると有難いけど……」

(何故か手放しで喜べないな。モヤモヤする、複雑な心境だ……!)




気が重かった結婚生活。思いもよらず僕の都合の良い理想の形でスタート出来る事になったのだが……奥様が想像と全く違い、その……とても感じの良い女性だった!それはそれで幸運なんだが、彼女の前では、僕は自分でタダのワガママなクソガキの様に思えてならない。

やっと縁談話や女性の求愛から開放されたのに、新たな悩みが増えそうだ!



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