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かたまりの火 

掲載日:2023/03/27

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 ふん、ふん、ふーん……く、ダメだ。

 こーちゃん、悪いんだけどマッチ擦ってくれない? なーんか今日は全然だめだ。三本やってこそりともつかず。嫌われてんのかなあ、今日。

 ――ああ、よかったよかった。ありがと。じゃあ、ろうそくへうつして、と……よし、お線香もこれであげられる。


 ふう、ご無沙汰しているもんね、おじいちゃんのお墓参り。

 お線香もしばらくあげられなかったし、報告もできてよかったよ。

 それに、他のお墓もお線香をあげているところが、だいぶ多いね。みんなこの時期にお墓に参っているのかな。

 こうして簡単に火がつけられるけれど、昔は火を起こすのに苦労していたんだよね。

 火打石のセットとか貴重だったというし、時間も相応にとられたと聞く。すでにつけている火から、自分が必要とする分をもらうこともあったみたいだ。たばこのものとかね。

 ゆえに手軽に火をつける手段は多くの人に求められて、こうして着火の道具も整ったわけだけど、その途上での奇妙なできごとも枚挙にいとまがない。

 僕の聞いた話なんだけど、耳に入れてみないかい?



 むかしむかし。

 その地域の冬の枯れ枝集めは、子供たちもおおいに駆り出されたらしい。

 生木だと煙ばかりが出て、暖まろうにも目がしみる。できる限り、水気の飛んだ木を探していかねばならない。

 枯れ葉の存在も馬鹿にならなかった。うかつに触ると、それだけでぼろぼろ身を崩してしまいそうなほど、乾ききった姿もまた、おおいに燃料として扱われる。子供たちもそれらを追い求めて、山のあちらこちらに散っていった。


 このとき、一部の子供たちがあてにしている巨樹がある。

 どんぐりの木だ。この山を少しのぼったところの、他の木々をおおいに超える背丈を持つ。

 秋ごろまでは、大いに葉をつけているそれが、肌寒さがあたりに訪れると、たちまちどっさりと葉を落としていく。

 子供のよっては、膝小僧が隠れてしまうほどの「かさ」があった。それぞれ背中にしょったかごに、こんもりよそってもまだゆとりが残るほど。

 どこからか風に吹かれて、集まるものもあるのか。毎日のように葉をすくいにいっても、底をついた覚えがないという代物だったとか。


 しかし、その年は少しおかしなところがあった。

 ある子が足元の葉の山を掘っていると、ごつごつとした黒い塊が出てきたんだ。

 周囲の石に比べて、あまりに黒いし、大きさも一抱えほどある。臭いもまた、どこか焦げのそれに似た臭いを放っている。

 怪しげではあるが、その焦げを知る気配から子供は、くだんの物体を家へ持ち帰ったそうなんだ。


 ――これは、火を知るものの気配に違いない。


 確信する子供は、家の囲炉裏の中。灰の中へ埋められた炭火をさらけ出す。

 うずめ火と呼ばれるこの炭火は、火を簡単に絶やすことがないようにと、火をつけたままに隠しておく知恵だった。

 炭が先端に帯びる赤み。そこへ子供はそうっと、山で拾った黒い塊を近づけていく。


 いつの間にか、柱になっていた。

 自らに火を移された黒石は、その赤くなったところから、たちまち光を立ち昇らせたんだ。

 囲炉裏の鍋を、噴き出した水のごとき勢いで持ち上げ、そのまま天井へ叩きつける。赤々と揺らめくその姿は、まぎれもなく炎。それがこうも身をよじったならば、火事の悲劇へつながることは、子供の目にも明らかだった。

 だが、その目を疑うことになろうとは、察知できなかっただろうね。

 持ち上げられた鍋は天井に接したまま。支える炎とおぼしき部分は、たちどころに石の黒と同じ色に変じたかと思うと、たちどころに固まってしまい、動かなくなってしまったんだ。

 それはまるで、瞬く間に木がそこへ生まれたかのようだったという。

 だが、その景色は子供のまなこの中にのみあった。あっけにとられているなか、家へ戻ってきた親が玄関をくぐるやいなや、床がかすかに揺れる。

 すると木はぱっと姿を消し、天井に押さえつけられていた鍋が、ふたごと床へ転がってしまったのだから。

 はためには鍋で遊んでいるようにしか思えず、子供は親から叱られることになってしまったとか。


 しかし、話そのものは子から親へ伝わった。

 これに前後し、似たような経験をした家がちらほらと出てくる。彼らもまた、家の子供が例のどんぐりの木の根元から、あの黒石を確保していたんだ。

 石からの炎らしきものは、火を受けるどころか、何かをこすり合わせた熱でもすぐさま立ち昇るも、天井などのどこかへぶつかると、たちまち硬直してしまう。

 火元として使うには、いささか冷めるのが早すぎる。元の石の黒と同じ色へ、瞬く間に染まってしまうその柱を、人々は完全に持て余していた。

 それでも興味あるものは、屋外で存分にさらしたらどうなるのか試したいと話し始めてしまう。一度くらいならいいか、いやいや即座に元へ戻すべきだと、意見が分かれ出したところで。


 山から猟師が戻ってきて、妙なことが起きていると告げた。

 説明するより、実際に行ってみれば分かると、代表の数名が猟師の案内でずんずん進んでいく。その道は、子供たちが黒石をとった、どんぐりの木の根元へまっすぐつながっていた。

 しかし、彼らがそこへたどり着くより前に。

 先頭を行く猟師が頭をかがめつつ、「みんなも下げろ」と声を掛けてきたんだ。

 とっさに反応できず、猟師を追い越そうとしたものの頭は、ごんと音を立ててはたかれる。

 中空に、見えない天井が浮かんでいるか。そこから先は立とうとしても、立つことはできない。

 そうして猟師の指さす先に、くだんのどんぐりの木があった。


 いつも見る姿はどこへやら。すっかり縮んでしまった姿で、そこにあった。

 幹は盛んに割れて、木くずが足元に飛んでいるし、あたりに敷き詰められた木の葉が、すでに幹の大半を埋めようとしている。

 その縮んでしまった幹より上に、大人たちはどうしても頭をあげることができずにいたんだ。いくら手に持った道具たちでも、その見えない抑えを、取り除けられなかった。

 そうこうしているうち、ドングリの木の幹は再び音を立て、新しい木くずを散らす。背が縮まり、それに従って大人たちの頭もまた押された。

 逆らうことなど、思いもよらない。絶対的な圧迫に、たまらず男たちはたたきつけられ、地へ這いずるはめになったとか。


 ――もしや、あの黒石たちをのぞいたために、こうなったのではないか。


 そう察するのに、時間はかからなかった。

 子供たちの持ち帰ったあれらは、ドングリの木――いや、いまとなっては、それらしい何か――が背を伸ばし続け、立つための助けだったのだと。

 それが持ち去られたために、幹はこの見えない天井を支えられず、割れて縮んでしまった。

 もしこのまま放っておき、木が完全に潰れたあとの想像も、難くない。

 この見えない天井は、やがて他の木々を潰し、山を潰し、そして自分たちの住まいすらも、すっかりぺしゃんこにして、住めなくしてしまうだろう、と。


 すぐさま黒石たちは回収され、木のもとへ戻された。

 その間も天井は下がり続け、終わりごろには限界まで腹這いしなくては、まともに動けないほどの圧が体を襲った。

 その中をかろうじて石を転がし、根元へ戻していく。そうしてすべてを戻し、一晩があけたとき、あのドングリの木は元の巨体を見せるようになっていたとか。

 それから、子供たちにもかの木のそばへ近寄らないよう、注意が促されたんだ。


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