8.朝の挨拶運動
チュンチュン。朝である。篤志はまだベットの中で夢を見ていた。
「アッツー、委員会に遅れるわよ! 起きて!」
千夏が窓の向こうから叫んでいた。
「アッツー、今日から風紀委員でしょう。朝の挨拶運動が今日からでしょ! 早く支度して! 置いて行くわよ!」
千夏はそう言って窓を閉めて学校の支度を始めた。
篤志はようやく夢から覚めた。そうだった。今日から風紀委員の仕事が始まる。いつもより早く学校へ行って、校門の前でみんなに挨拶をするのだった。ベットから起きて伸びをする。どうやら今日も目覚まし時計とスマホのアラームを無意識に止めて二度寝をしたようだ。篤志はのろのろと支度を始めた。
朝食はいつもの様に和食。それらをさっさと平らげて、玄関へと向かった。
「アッツーまだ? ほんとに置いて行くよ!」
千夏が玄関の外でイライラしたように叫んでいた。
「今行く! 母さん行ってきまーす」
そう言って俺は玄関のドアを開けた。
「ちぃ、ごめん。おまたせ」
「遅いわよ。まったく。それより、あまり時間がないから早く行くわよ」
「了解。んじゃあ、行きますか。あれ、涼は?」
「風紀委員じゃないから一緒じゃないわよ」
「え、そうなん?」
「え、そうでしょ? だっていつもより学校行くの、20分も早いのよ」
「あ、そうか」
「そうよ。ほら行くわよ」
千夏はそう言ってさっさと歩きだした。俺は千夏の後に続いて歩きだした。この前は涼も一緒だったのに……。今日の涼は早起きじゃなかったらしい。そんな日もあるかと思いながら学校へと向かった。
学校に着くと千夏と一緒に職員室へ行き、風紀委員の腕章を借りる。それを付けて再び校門へと向かった。
「「おはようございます」」
俺と千夏が後藤先生に挨拶をする。
「おう! おはよう。今日はお前たちが一番だな!」
後藤先生の言う通り、後輩たちはまだ来ていなかった。俺たちは先生の隣に並ぶ。しばらくすると風紀委員の後輩たちが登校してきた。俺たちを見て慌てて走って校門まで来た。
「「おはようございます!」」
「すみません。遅れましたか?」
「おはよーごさいます」
後輩たちが口々に言ってきた。
「おはよう! まだ開始まで少し時間があるぞ。早く腕章をとって来い!」
後藤先生の言葉に、後輩たちは急いで腕章を取りに行って戻ってきた。そして、俺たちの隣に並ぶ。
「よし! 全員揃ったな。ちょっと早いが挨拶運動を始める。みんな元気よく挨拶すること! いいな」
「「「「「「はい」」」」」」
俺たちは元気よく返事をした。暫くするとちらほらと生徒が登校してくる。
「おはよう!」
俺が元気よく挨拶をすると、ビックっとしてこちらを見た。どうやら一年生らしく挨拶運動のことを知らず、話しかけられて驚いたようだ。そしてそのまま行ってしまった。
「アッツー、驚かせてたわね」
千夏がニヤニヤしながらこっちを見ていた。俺はちょっとムッとしながら答えた。
「驚かそうとしたわけじゃないし。普通に挨拶しただけだ」
「はいはい。あ、次の子来たわよ。次は驚かせないようにね」
千夏がニヤニヤしたまま言ってきた。俺はちょっと凹みながらも気を取り直して、次の子に挨拶することにした。
「おはよう」
「あ、おはようございます」
軽く会釈をしながら挨拶が返ってきた。俺は嬉しくなってドヤって顔をしながら千夏の方を見た。千夏はプッと噴出した。
「あはは。良かったわね」
「なんだよもう。いいだろ別に」
俺は千夏に笑われてちょっと悔しくなった。
「ちぃもちゃんと挨拶しろよ」
「りょーかい」
千夏がちょっとふざけて返事をしてきた。まだ顔がにやけている。どうやらツボにはまったらしい。俺は千夏をほっといて挨拶運動に集中することにした。
「おはよう」
「おはよー」
「おはようございます!」
「おはようございます」
挨拶が飛び交う。俺は向こうの方から本を読みながら歩いてくる涼の姿を見つけた。
「おーい、涼。おはよー! 今日は遅かったんだな」
「あ、篤志。おはよう。昨日は遅くまで小説を読んでいたからな。いつもより少し起きるのが遅れた」
「へぇー。涼でも寝坊することがあるんだな」
「そりゃあ人間だからね。遅く寝れば早く起きるのが難しくなるのは当たり前だよ。それと僕は寝坊はしていない。遅刻はしていないからね」
涼は再び本を読みながら、下駄箱の方へと歩いて行ってしまった。その後何人かの知り合いやクラスメイトとも挨拶を交わした。千夏も愛美と裕子に挨拶をしていた。
キンコンカンコン、キンコンカンコン。
予鈴が鳴り挨拶運動が終わった。腕章を職員室に返して教室へと向かう。挨拶運動もなかなかいいものだな。ちょっと早く起きたおかげか頭がすっきりしているし、なんだか清々しい気分だ。朝から達成感を感じつつ歩いていると千夏が話しかけてきた。
「あ、アッツー。この前のオープンスクールとかの件だけど、愛美と裕子も行くって」
「分かった。涼と友也に伝えとくわ」
「うん。お願いね」
「はいはい。あ、そう言えば友也が日程分かったら教えてくれとか言ってたわ」
「あー。了解。そういうの裕子が得意だから聞いてみるね」
「よろしく~」
ガラガラ。教室に入って千夏と別れて席につく。今日も一日が始まったのだった。
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