25.強化合宿 2日目 続キャンプファイヤー
俺が瞬たちとギャアギャア言っている間に、顧問と再び職員の村中さんが一緒にやって来た。部長がそれに気づき、号令をかける。部員たちが部長の周囲に集まり整列する。挨拶をしてから、キャンプファイヤーの説明に移った。
「こんばんは。バーベキューは楽しんで頂けましたか?」
「はーい」
「良かったです。では、これからキャンプファイヤーの注意事項を説明しますね。まず、点火係がたいまつを持って点火します。此処に着火剤を垂らしてありますので、こちらに火を付けてください。非常によく燃えますので、点火の際は近づきすぎないようにお願いします。点火して火が燃え移った後、たいまつは私の方にお返しください。次に、キャンプファイヤーの火を囲んで皆さんでフォークダンスを踊ることになっています。こちらのコンポをお使いください。曲は先生が用意してくださっているようです。キャンプファイヤーの火が飛び散ることがあるので近づきすぎない様に気を付けてくださいね。最後に、時間になってもまだ燃え続けている場合は、消火してもらいます。こちらのバケツに水を汲んで消火をお願いします」
村中さんの説明が終わると、今度は顧問が話し始めた。
「お前ら、羽目を外し過ぎないようにな。これから、点火を行う。点火係前に出てこい」
呼ばれて部長が前に出た。キャンプファイヤーを合宿でするようになって、点火係を誰がするか昔揉めたらしい。その時、あんまりにも揉めるので部長が務めることに決まったそうだ。今では代々部長が行うことになっている。
部長が村中さんからたいまつを受け取り、キャンプファイヤーに点火した。きちんと燃え移り徐々に火が全体に行き渡る。たいまつを村中さんに返すと、それを持って村中さんは引き上げて行った。
「よし、良い感じに燃えてきたな。これからフォークダンスをするぞ。1年はまだ踊ったことがないので分からないだろう。2,3年前に出てこい。見本を見せてやれ。女子が先に火の周りに円を作れ。その周りを男子が囲め。まずは、コロブチカだ。一回曲を流して踊らせるから、1年は見て覚えろ。その後、細かい説明を部長がする」
顧問は言い終わると、コンポにCDを入れて曲を流し始めた。俺たちはリズムに合わせて一曲踊った。その後、部長と女子の部長で実演しながら、細かい振りを教えていた。1年は熱心に見て覚えている。実演が終わると1年は男女一列づつ並び、部長たちが口頭で歌ったリズムに合わせながら、ゆっくりしたテンポで踊り始めた。2,3年は火を囲んで輪になったまま彼らの様子を見ていた。
俺もこんな頃があったなと微笑ましく見ていると、千夏が後ろから声をかけてきた。
「1年達可愛いわね」
さっき踊った時、曲の最後に千夏と踊ったので俺の近くにいたのだ。背後から急に声をかけられたので、俺はビクっとしてしまった。しかも、のほほんと後輩たちを眺めていたので何の心構えもなかった。おかげで俺は碌な返しができなかった。
「お、おう」
「アッツーどうしたの?」
「急に背後から話しかけるなよな。びっくりするだろ」
「あら、ごめんなさい」
「まあいいけど……」
とこんな感じで千夏を咎めてしまった。何か今日は上手くいかない。先程も颯たちと会話がすれ違いモヤモヤしていたのだ。
(今日は、何かモヤモヤするなぁー。分からんことも多いし、ちぃにも八つ当たりみたいな感じになったし、嫌な感じだ。)
はぁっと俺は大きく息を吐く。これ以上気分が落ち込まないように頭を振って切り替えた。
「ごめんちぃ。それでなんだっけ?」
「アッツー聞いてなかったの?」
「ごめんごめん。びっくりしすぎて何の話かさっぱり入ってこなかった」
俺があははという感じで話すと、千夏はあきれた感じでこちらをじっと見た。ふうっとため息をつくと、千夏は言葉を続けた。
「もう良いわよ。大した話じゃなかったし……。それよりアッツー、今日はなんか変よ」
やはり長年の幼馴染みは鋭い。俺のちょっとした変化に直ぐに気付いたようだった。はぐらかしても仕方がないので、素直に話すことにする。
「ははは。流石ちぃだな。よく見てる。何か今日はこう、モヤモヤして変なんだ」
「ふーん。そうなんだ。何か心当たりはないの?」
千夏は俺の方をじっと見ながら言う。俺は暫く考えてから口に出した。
「うーん。よく分からん」
千夏はまだ俺の方をじっと見ている。俺は千夏に見つめられて居心地が悪くなりながら千夏を見つめ返す。俺の方が耐えられなくなり、先に視線をはずした。
「まぁ、今はまだいいか……」
千夏がボソッと呟いた言葉は俺の耳には届かなかった。部長たちのリズムをとる声にかき消されたのだ。1年達は部長たちの指導で踊れるようになってきた。此処でみんなで踊ることになった。2,3年の輪に1年も加わる。そのどさくさで千夏との会話が終わってしまった。顧問が曲を流し始めてダンスが始まる。千夏と両手を繋いで向かい合わせになる。
「またね」
と千夏がにっこり笑いながら口にして、踊り始めた。俺もダンスを楽しむことにして笑う。
「ああ、またな。ちぃ」
千夏を回しながら俺が答える。千夏と踊り終えると、次の女の子と踊る。クルクル回りながら、色んな子とダンスを踊った。一周して千夏に戻ってくる。再び千夏と踊ってまた別の子へ。1周半くらいすると曲が終わった。一息ついていると、顧問がもう一度コロブチカを流す。1年も大分覚えたようで、動きに固さが無くなってきていた。また1周半して千夏で終わった。もう一度踊るかなと思って顧問を見ていたら、今度は別の曲を流すようだ。説明のために一度こっちに来た。
「同じ曲だと詰まらんだろうから、別のフォークダンスも踊るぞ。次はオクラホマミキサーだ。1年、一度輪から離れて見て置け。こっちの方が簡単だからすぐに覚えられるだろう。じゃあ、2,3年は準備な」
俺たちは輪になったまま陣形を変える。女子が男子の前に来て男子が女子の後ろにつく。女子は、右手を肩辺りに差し出し、左手は腰辺りの位置に差し出す。男子は女子の右手に右手を載せ、女子の左手の下に左手を差し出した。この体勢から始まり、曲のリズムに合わせて踊り始める。
(最初がちぃでよかった。落ち着いて踊れているぞ。久しぶりに踊ったから忘れていたかと思ったけど、案外覚えているものだな。かなり距離が近いが、ちぃが合わせてくれているから踊りやすいぞ。流石、ちぃだな。)
俺はそんなこと考えながら、楽しく踊っていた。千夏も心なしか足取りが軽い気がする。俺も嬉しくなってルンルンで踊った。一曲が終わると、1年達も加わった。そして、顧問がまた曲を流す。また踊る。それを繰り返していた。何回かオクラホマミキサーを踊ると、最後にマイムマイムを踊った。これもまた最初は1年は見ているだけで、2,3年が手本を見せる。その後、1年が加わるという流れだった。皆で盛り上がり、踊りまくった。踊り明かしている内に、胸の内のモヤモヤはいつの間にか晴れていた。
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