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24.強化合宿 2日目 キャンプファイヤー

 バーベキューを楽しんだ後、片付けに移る。俺は火の番係りの後輩と一緒にかまの掃除をしていた。


「猪野先輩、薪集め終わりました。これ、納屋に持って行けばいいですか?」


「ああ、お願いできるか?」


「分かりました。ちょっと行ってきます」


「あ、待て。1人では運びにくいだろ? 俺も行くよ」


 俺は箒と塵取りを置いて、後輩と薪を持って納屋へ向かう。最初に束ねてあった紐は既に使い物にならなくなっており、薪を束ねることはできなかった。その為、各自が持てるだけ持って納屋に運んだ。納屋に行くとまだ束にされていない薪が置いてある場所を見つけた。そこに持って来た薪を重ねて置き、崩れないのを確認してから窯の掃除に戻った。



「先輩、これからキャンプファイヤーですよね? 今年も踊るんですか?」


 そう言ってきたのは2年の後輩の方だ。1年の後輩の方は知らなかったのか、驚いた顔をしている。


「ああ、フォークダンスな。お前らも踊るだろ?」


 ニヤッと笑って俺が言うと、


「もちろん! 先輩は誰狙いですか?」


 と2年の後輩もニヤッと笑って返してきた。


「え、先輩方。誰ねらいってどういうことですか!?」


 慌てて1年の後輩が俺たちに聞いてきた。どうやら気になる子でもいるらしい。俺は鎌をかけることにして素知らぬ顔で逆に聞き返した。


「別に。お前はどうなんだよ?」


「え、俺は……。あ、嫌、僕は……」


 と1年が答えると


「おい、遠慮するなよ。気になる子でもいるんだろ?」


 ニヤニヤしながら2年が1年に絡んでいる。口調が俺と話をするときよりも砕けていた。俺は気にせずに傍観する。


「えー、先輩狡いっすよ。僕が言ったら、先輩も教えてくださいね」


 と1年が2年の後輩に言っていた。どうやら今回の合宿でずいぶん仲良くなったみたいだ。


「しょうがねぇなぁ。答えてやるから先に言えよ」


 と2年が促すと、1年が観念したように答えた。


「……南先輩です」


「!!!」


 俺は、何故だか分からないが、衝撃を受けた。千夏がモテるとか考えたことがなかったからだ。1年の後輩の告白に動揺していると、


「おいおい、お前もかよ」


 と2年の後輩が話を続けたので、更に動揺する。


「え? お前ら、ちぃ狙いなのか……?」


 俺は動揺を隠せずそのままを口にする。


「そりゃあそうっすよ。南先輩、美人だし、面倒見良いし、カッコイイし、俺ら1年の男子にも優しいし。同級生の女子の比じゃないっすね!」


 と1年が興奮したようにまくし立てる。口調が俺に戻っている。


「お前、1年のくせに見る目あるな。それだけじゃないんだぜ、南先輩は。女子部員にも好かれているし、努力家で真面目に練習してるしな。時々、残って自主練してるらしいぜ。流石、女子の副部長って感じだわ」


 と2年の後輩も千夏を絶賛している。というかよく見ているなと感心する。千夏が真面目に練習しているのは見れば分かるが、残って練習しているのを知っているとは......。


「おい、お前ら。もしかしてちぃって結構人気なのか?」


 と俺が尋ねると、


「猪野先輩、今頃気が付いたんですか?」


 と2年の後輩が呆れ顔で言ってきた。


「マジかよ……」


 俺は初めて知る驚愕の事実に呆然としていた。小さいときからいつも一緒の幼馴染みが、なんだか急に遠い存在になった気がしてくらくらする。自分が築き上げてきた千夏との歩みが、土台から崩れ去ったようなそんな足元が覚束ない感覚に陥る。自分が何故こんなにも衝撃を受けているのかわからずに、ますます混乱して動揺していた。


「いや、去年までお前そんな事、言ってなかったよな?」


 と何だか責める口調になりながら、2年の後輩に問う。


「そりゃあ、その時は南先輩じゃなくて3年の先輩に憧れてましたから」


 と事も無げに答えた。そして、


「それで、猪野先輩。先輩は誰狙いなんですか?」


 とニヤッとしながら聞いてきた。


「お前、分かってて言ってきてるだろ」


 と2年の後輩をどつきながら答えてやった。1年の後輩はキョトンとした顔をしながらこちらの様子を窺っている。俺は咳払いをしてから二人に言った。


「お前ら、まだ窯の掃除が終わってないから、さっさと掃除するぞ」


 と話をそらして掃除に移る。


「はーい」


 と後輩たちも答えて俺に続く。実際、話してばかりで掃除が進んでいなかったので丁度良い。箒で窯の中の灰や煤を吐き出して塵取りに載せる。それをゴミ置き場に1年の後輩が持って行った。その隙に、


「猪野先輩、頑張って下さいね」


 と2年の後輩がこっそり言ってきた。どうやら色々と勘繰られているらしい。俺はため息をついた。



 バーベキューの後片付けの後、キャンプファイヤーができる広場へと移動する。その間、先ほどの後輩とのやり取りを思い出して一人物思いにふける。

 

(どうやら俺が知らない間に千夏の奴は随分人気者になったらしい。1年の奴はたぶん憧れの類だろうが、2年の奴はどうなんだ? 頑張って下さいって何をだ! そもそも何で俺はあの時、衝撃を受けたんだ? 千夏が人気なのは良いことだろう。それなのに、何か嫌な気持ちになるし.......。千夏を取られたくないというか......。この気持ちは何だ?)


 俺の心の中は疑問で一杯になっていた。自分の気持ちに整理がつかず混乱が続いている。考えながら歩いたせいで、キャンプファイヤーの広場ではなく、宿泊施設に戻っていた。慌ててキャンプファイヤーの広場に向かうと、既に部員のほとんどが集まっていた。その中に部長たちを見つけて、彼らの方へ向かう。部長たちに声をかけようとしたら、会話が聞こえてきたので思わず止めた。


「今年はどうするんだろうな? あの二人は」


「さあ? 僕たちには関係ないことでしょ」


 瞬と颯が会話をしている。


(誰の事だろう? あの二人とは?)


 俺の疑問がまた増えたが、そんなことはお構いなしに、瞬と颯は会話を続ける。


「そろそろ、気づいてもいい頃じゃないか? 幼馴染みなんだろ?」


 と瞬が言えば、


「いや、そんなの僕に言われたも知らないし」


 と颯が答えていた。


「なあなあ、部長はどう思うよ。今年は何か進展あると思うか?」


 と瞬が部長に話題を振っていた。


「どうだろうね? 彼は相当鈍いらしいから」


 と部長が続ける。


(幼馴染み? 鈍い彼? 男が鈍いっていうことか? 益々訳が分からん。)


 俺が混乱していると、部長が振り返って俺に声をかけてきた。


「あ、いのっち」


 その声に、瞬と颯も振り返って俺の方を見た。


「あ、うん。部長。何の話をしてたんだ?」


 部長に声をかけられて内心驚きながら、一応聞いてみた。


「まあ、色々とね」


 と部長が濁すと、


「鈍い誰かさんの事だよ」


 と横から瞬が言ってきた。


「誰かさんって誰だよ」


 って俺が突っ込むと、はぁっとため息をついてやれやれという顔をする。瞬が颯とアイコンタクトを交わして、颯が会話を引き継いだ。


「これはまだ当分かかりそうだね」


「だから何がだよ!」


 と俺が突っ込んでも颯は答えなかった。






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