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21.強化合宿 2日目 オリエンテーリング

「今日の練習はここまで! クールダウンをしてから解散すること。ではお疲れ様」


「お疲れ様でした!」


 一同で顧問に挨拶をして、クールダウンに移る。ゆっくりと練習場を一回りして、ストレッチをする。体をほぐしてから食堂へと向かった。お腹がグーグー鳴っている。食堂で昼食バイキングを楽しんだ後、部屋に戻って一休みする。ちょっと食べ過ぎて横になっていたら、いつの間にか寝ていたらしい。部長に起こされて目が覚めた。


「いのっち、気持ちよさそうに寝てたね」


 部長がニコニコして言ってきた。


「いやぁー、お腹一杯で横になったらいつの間にか寝てたわ」


「食後は眠くなるよね。仕方がないさ」


「まあな。けど、おかげでなんかスッキリしたぜ。オリエンテーリングはばっちり行けそうだ」


 俺がニカッと笑って言うと、部長も笑顔で頷いた。俺は瞬と颯の方を見る。やっぱりゲームに熱中していた。伸びをしてから動き始める。少し早いが荷物を持ってオリエンテーリングの集合場所へと向かうことにする。うずうずして部屋で待っていられなくなったからだ。部長に先に行く旨を伝えてから部屋を出た。



 集合場所に着くと、さすがに早かったのかまだ誰も居なかった。俺は日陰に木のベンチを見つけて座り、足をぶらぶらさせつつオリエンテーリングのことを考えていた。ワクワクしながら考えていたらいつの間にか部員がチラホラ集まっていた。その中に千夏の姿を見つけたが、彼女は友人たちと一緒だったので声をかけるのを控えた。暫くすると部長たちがやってきて、俺の方に来る。


「いのっち、おーす。いい場所で待ってんじゃん」


 瞬がそう言って隣に座ってきた。


「涼しそうだね」


 と言ってきたのは颯だ。


「あっちにもベンチがあるけど、日が当たってるね」


 と部長が少し離れたベンチを指した。ベンチの近くに木が立っていないため、木陰がないのだ。あちらに座ると、日向ぼっこで眠くなりそうだったのでこちらのベンチに座っていた。


「あっちに座るとまた寝そうだったからな」


 俺がそう言うと、部長はクスリと笑った。


「そろそろ時間だね。顧問も来たようだし……。皆集合!」


 部長がそう言って部員を集めた。俺も立ち上がって整列する。顧問に挨拶をしてオリエンテーリングの説明を受けた。


「今日のオリエンテーリングの道具を配布する。地図とコンパスだ。班は面倒なので前回のナイトハイクの班とする。それぞれの班の3年、道具を取りに来い。その間に班ごとに並べよ」


 顧問から呼ばれたので道具を取りに行く。地図とコンパスを受け取り、1班が固まっている場所に行く。全員が班ごとに分かれてから、顧問が説明の続きを始めた。


「さっき配った地図を見てくれ。この施設のマップだが、アルファベットのa~zまでが散らばって配置されている。その場所に行けば分かるが、立札みたいな物が立っている。そこにアルファベット一字と平仮名が一字、書いてある。地図の下のa~zの空欄を埋めてくれ。時間内に空欄を多く埋めたチームの勝ちだ。それと、一番下のアルファベット付きの空欄5マスは、見つけた平仮名を並べるとちゃんと言葉になっているそうだ。それを踏まえて探してみてくれ。何か質問はあるか?」


「先生、班の人数が多いので班員が分かれて捜索してもいいですか?」


 と部長が質問した。すると顧問は少し考えてから答えた。


「一人になるのは駄目だが、二人以上で行動するのは良しとしよう。ただし、離れすぎないことと声が聞こえる位置にいることが条件だ。例えば、この地図のzは北にあるが、反対の南にあるfを分かれて探すのは無しだぞ。あと、獣道のような脇道に入らず、山道をちゃんと歩くこと。遭難することはないと思うが、気を付けること。最後に、山に生えているキノコや植物を勝手に取らないこと。以上だ。他に質問があるか?」


 そう言って顧問が一同を見渡す。誰も手を挙げないのを見て、説明を終わらせた。


「よし、質問がないようなので、オリエンテーリングを始めるか。怪我にはくれぐれも気を付けるように。時間までには帰って来いよ。では、はじめ!」


 顧問の掛け声で周りが騒がしくなる。俺たち1班は少し作戦会議をしてから行動に移ることになった。千夏の提案だ。何でも、敷地が広いので効率を考えると、どういう順番で探しに行くかがカギになるらしい。俺は難しいことは考えるのが苦手なので、千夏に任せることにした。


「じゃあ、一番遠い北のzから探しに行って東、南、西の順番にぐるっと回って戻ってきましょ」


「はい」


 千夏の言葉に後輩たちがいい返事をする。俺も頷いて従った。


「じゃあ、行こうぜ!」


 俺の掛け声で班が動き出す。しかし、千夏が止めた。


「アッツー、ちゃんと方向分かってる? 地図も持ってないのに、どっちに行こうとしてるのよ。まったく……。ほら、こっちよ皆。ついて来て」


 千夏の指摘により、皆千夏について行く。俺も後に続いた。北に向かっている最中にも立札があるので、それも探しながらzを目指した。


「bありました! 文字は『え』です!」


「gあった。 えっと平仮名は『ふ』です」


「a見つけたぞ! 文字は『す』だ」


 途中の立札も順調に見つける。後輩たちや俺が見つけて声をかけながら進んで行った。千夏が空欄を埋めてくれている。


「えっと、これで5文字の一つは埋まったわね。2マス目が『す』ね。一つだけだとさっぱりだわ」


「ちぃ、まだ始まったばっかりだし、一字埋まっただけで分かったら流石にすげえよ。zが1マス目だろ? これが埋まったら少し予想しやすいんじゃね」


「まあ、そうね。もう少しでzね。ちょっとルートから遠いけどhも探してから行きましょうか」


「OK。どの辺?」


 俺が地図を覗き込みながら聞くと、


「ここよ」


 と千夏が地図を指した。成程、hは北西に位置しておりzから微妙に離れていた。


「今が此処だから、こっちの道ね」


 別れ道に差し掛かり、千夏が左斜め前の道を指す。


「あー、この距離だとたぶん声が聞こえないから二手に分かれられないな。皆で行くか」


 千夏と後輩たちが頷いてついてくる。千夏は歩きながら地図とコンパスを確かめていた。何も言わずについてくるので方角は正しいらしい。俺は道沿いに進んで行った。少ししてから千夏に声をかける。


「そろそろhがある辺りか?」


「うーん、多分もう少し先じゃないかしら」


「了解。この辺りなら見えるし、声も聞こえるだろ。皆、hを探すぞ。競争な!」


 俺は言うが早いか駆け出した。後輩たちも負けじと付いてくる。地面が凸凹して走りづらいが気にしない。キョロキョロと立札を探しながら走った。行き止まりまで走ったが道沿いにな立札はなかった。俺が引き返していると、


「ありました! hは『き』です!」


 と見つけた後輩が大声を上げているのが聞こえた。見つけた後輩と合流して、千夏の方へ戻る。


「やるな!」


 と俺が声をかけると、後輩は嬉しそうに笑った。千夏と合流して別れ道まで引き返す。先程進まなかった道の方へ歩いて行くことになる。しばらく歩いてzの立札も見つけた。文字は『た』だった。


「これで2文字分かったわね。『たす……』何かしら? まあ、ドンドン探しましょう」


 そうやって西に南に東にと探し回ったが、時間になって帰ってきた。東の方はあまり周れなかったので、結局5文字の空欄を全て埋めることはできなかった。


「全員戻ってきたな。結果を発表する。今回の優勝は……2班だ! 全部集めてはいなかったが、総合的に一番だな」


 と顧問が言うと、


「えー俺たちは全部集めたのに……」


 瞬たちの3班が文句を言っていた。


「お前らの班は時間内に戻ってこなかったからマイナスだ。時間は守れよ」


 3班の部員たちは不満そうな顔だったが、黙った。それを見て顧問が続けた。


「では、休憩時間に食い込んでしまったが、これでオリエンテーリングは終わりにする。休憩が終わるまでに野外炊飯場に移動しとけよ。解散」


 解散するとまた騒がしくなる。俺は瞬の方へ行って声をかけた。


「なあ、瞬。5文字何だったんだ『たす○あ○』まで分かったんだが……」


「ああ、あれね。『たすけあい』だよ」


「へぇー。そうか。しかし、全部見つけるってすごいな」


「だろ?」


 瞬が嬉しそうにニヤッと笑った。


「けど、時間に遅れるのはいけないね」


 と部長が眼鏡をくいっと直しながら言ってきた。部長のこの癖は、説教を始める合図だ。俺は瞬から離れる。瞬も先程のにやけ顔から表情を変えていた。


「瞬。山で時間に遅れる事がどういう事か分かっているのかい? 時間までに帰って来なかった場合、遭難の可能性を考えないといけない。そういう危険があるんだよ。分かってる?」


「けど、5分しか遅れなかったし……」


 と瞬が言い訳をすると、眼鏡の奥の部長の瞳がスッと細くなった。


(不味い。これは説教が長くなるぞ。)


 俺はそれを感じて、とっとと退散する。瞬を放っておいてその場から離れた。今頃きっと瞬は部長の長い説教にやられているだろう。俺は一足先に野外炊飯場に移動した。途中、左足の脹脛ふくらはぎに違和感を覚えたが、特に痛みもなかったので気にせず歩いた。きっと疲労がたまっているのだろう。今夜はアイシングをしっかりしようと思った。








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