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19.強化合宿 2日目 朝

 5月4日(木)、午前6時半。宿泊施設に館内放送が流れる。起床の時間を告げていた。篤志あつしはスマホのアラームをかけていたが、起きる気配が全くない。同室の部長としゅんはやてのスマホのアラームも起床時刻になり一斉に鳴り始めた。部屋が一層騒がしくなる。部長と瞬と颯は騒音のために起きだしたが、篤志は一向に構わず寝ている。部長たちはアラームを止めて篤志を起こす。篤志の隣に寝ていた部長が、篤志の布団を剥ぎ、篤志を揺さぶった。


「いのっち、起きる時間だよ。おーい」


 部長が篤志を揺さぶりながら声をかける。布団を剥いだ為か篤志は体を丸めた。5月と言っても山の朝は肌寒い。夜もそれなりに冷える。日中と気温が違うので注意が必要である。寒さからかやっと篤志が目を開けた。


「んー。おはようー」


「おはよう、いのっち。あ、そのまま寝ちゃ駄目だよ」


 篤志が眠そうに目をこすりながら再び布団に手をかけたので、部長が慌てて注意する。そして、布団を篤志から取り上げて、篤志を座らせた。


「おーい、いのっち。まだ寝てるのか? 早く目を覚ませよ」


 瞬が着替えながら篤志の方に声をかける。颯はトイレを済ませて帰ってきた。髪が少し濡れていたので、洗面所で顔も洗ってきたようだ。篤志は暫くボーとしていたが、やっと起きだしてのろのろと身支度を始めた。



「んー。えっと、ここは……?」


 俺は目をこすりながら見慣れない部屋を見渡した。起きたばかりでまだぼんやりする頭を働かせる。段々と意識がはっきりしてきて昨日のことを思い出す。


(そうだ。合宿に来て泊まったんだった。部長や瞬、颯が居るからなんでだろうって思ったけど、合宿中だった。)


 俺はようやく思い出して身支度を再開した。トイレに行って顔を洗い、着替える。支度が終わるころには掃除の時間になっていた。俺たちの部屋の掃除と割り当て分の掃除を済ませて、直ぐに朝食へと向かう。今日は清掃後すぐに朝食でラッキーだった。明日は他の団体が先に朝食をとるので、俺たちは荷造りをして朝食の時間まで待つことになっていた。


「腹減った。今日のご飯は何だろな?」


 俺がお腹を鳴らせながら言うと、


「いのっち、目が覚めたみたいで安心したよ。でも、目覚めてすぐにご飯の心配とは」


 と部長が言いながら笑った。


「あー、朝寝ぼけててごめん。起こしてくれてありがとな」


 俺が部長にお礼を言うと、部長は俺の肩に手を回して言った。


「まあ、3年目だから慣れたものだよ。明日は自分で起きるかい?」


 部長がいたずらっぽい笑みを浮かべる。俺は首を横に振ると、


「いやぁー、多分無理だと思うから明日も頼めるか?」


 とお願いした。


「ああ、別に構わないさ。寝ぼけて暴力を振るわれたりはしないからね」


 そう言って部長はウインクをしてきた。俺は少し複雑な気持ちになりつつ食堂へと歩みを進める。寝ぼけている時は記憶が曖昧だから困る。自分が変なことをしていないか少し心配になった。




「手を合わせていただきます」


「いただきます!」


 朝食もバイキングで、好きな物を取って来て席についてから部長の号令で食事が始まった。俺はいつものご飯、味噌汁、納豆、に加えて今日は目玉焼きではなく玉子焼きにした。そして魚の切り身があったのでそれもお皿に盛って来た。あと、味付け海苔とひじきも追加した。和食の朝ご飯を堪能して幸せに浸る。ご飯が美味しいと幸せな気持ちになる。しかも、皆で食べると更に美味しい。玉子焼きに箸を伸ばし、一口食べる。施設の玉子焼きは出汁巻き玉子でいい感じの塩気がきいていて俺の好みだった。


「玉子焼きうま! 俺好みの味だわ」


 玉子焼きを味わっていると、向かい側の席に座った颯が話しかけてきた。


「僕も玉子焼き好きだから取ってきたけど、僕の好みではなくて残念だった。僕は甘めの方が好きだな」


「俺は玉子焼きはしょっぱい方が好きだぜ」


 とはす向かいの瞬が言ってきた。


「僕もどちらかと言えば塩分がきいている玉子焼きの方が好きかな」


 と俺の隣に座っている部長も会話に加わってきた。部長は辛党なので納得だ。


「んじゃあさ、目玉焼きには何をかける? 俺は醤油」


 と俺が話題をふると


「僕はケチャップかな」


「え、まじ!? 颯有り得ねぇー。ケチャップとか邪道だろ? 俺はソースだね」


「嫌々、瞬の方が変わり種だよ。僕はシンプルに塩かな」


 颯、瞬、部長の順に答えていった。その回答に少し笑った。


「みんな違うんだな。面白れぇ。他の食べ物で好みが分かれそうな奴、何かないか?」


 俺がみんなに聞くと瞬はもぐもぐ口を動かしながら考えているようだった。颯も食べ物を咀嚼しつつ考えている。部長は箸を止めてから少し考えてこう言った。


「朝食は何派か、とかどうかな? まあ、皆が持ち寄ったバイキングの結果を見れば分かるんだけどね」


 部長は少し苦笑しつつ続けた。


「僕は見ての通り和食さ」


「俺とあんま変わんないもんな」


 俺が部長のお皿を眺めつつ相槌を打つ。部長のお皿も似たり寄ったりな内容だった。ご飯に味噌汁、納豆、玉子焼き、きんぴらごぼう、味付け海苔、梅干し、焼き魚だ。ご飯と焼き魚が食べかけである。味噌汁も少し減っていた。


「俺たちは洋食だな。って言っても俺は色々ごちゃごちゃしてるけど……」


 瞬が言ってきたので、俺は瞬のお皿に目を移す。確かに瞬の言った通りお皿には様々な料理が載っていた。食べかけのパンにスープ、ソーセージは洋食っぽいが、玉子焼きに焼き魚、きんぴらごぼうは和食っぽい。しかも、ご飯も盛っていたので余計に混沌とした和洋折衷の食卓になっていた。他にも何か載っていた様だが、瞬は既に食べてしまったようなので分からない。朝から瞬は食欲旺盛の様だ。


「僕は瞬よりましかな。ちゃんと洋食っぽいでしょ?」


 颯のお皿に目をやると、確かに洋食らしい感じになっていた。パンは半分ほど食べられたクロワッサンと一切れの食パン、ジャムとバターが横に添えられており、飲みかけのスープもある。食べかけの玉子焼きとソーセージ、少し減ったサラダは生野菜のサラダにドレッシングをかけていた。厚切りのハムがサラダの横に添えられており、どこかのレストランの朝食のようになっていた。颯はゆっくりと食べるのでまだ最初に盛ったお皿の原型が残っていた。


「すげぇ~。ちゃんと洋食だ」


 俺が感想を漏らすと、颯が満足そうに頷く。ちょっと嬉しそうだった。


「みんなの好みは様々だね」


 部長はそう言いつつ箸を構えて食事に移る。


「そうだな」


 俺も相槌を打ってから食事に移ることにする。瞬は既に口をもぐもぐさせて食事の続きを始めていた。颯もゆっくりと食事を楽しんでいる。皆が食事に集中して話さなくなったので、俺も食事の続きを再開する。朝から食べ過ぎないように気を付けながら、美味しい食事を堪能した。


 



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