15.強化合宿 1日目 練習
「バスを降りたら自分の荷物を間違えないように持って行けよ。荷物を持ったら整列して待つように」
「はい!」
俺たちは顧問の指示に従って動いた。顧問が入所手続を行っている間に、荷物を持って整列する。2時間も座りっぱなしだったので、ストレッチをしながら体を伸ばす。他の部員たちも伸びをしたり、屈伸をしたりと体をほぐしている。暫く待つと手続きを終えた顧問と施設の職員が一緒にやってきた。施設の職員に挨拶をして宿泊施設に案内される。俺たちは荷物を置くと小休憩で各自トイレなどを済ませた後、職員に言われた小ホールに集まった。ここで入所式と施設の説明が行われる。俺は説明が3回目なので職員の話は左から右へと流れていく。ウトウトしないように気を付けながらやり過ごした。
説明の内容は大体こんな感じだ。施設はきれいに使うこと。ゴミは掃除の時に所定の場所に捨てること。使った道具は元に戻すこと。布団の畳み方等だ。職員の説明が終わると昼食までまた休憩時間になった。様々な団体が利用している施設なので、昼食を取るのも時間をずらして調整を行っているためだ。今は他の団体が昼食を取っている。
「昼食時間の10分前になったら食堂前に集合すること。食堂前の水道できちんと手を洗って整列して待つように。人が少なくなっていたら5分前でも食堂内に入って構わないそうだ」
顧問の説明を受けて、時間になるまで待った。一年の後輩たちは施設が初めてなのでキョロキョロと珍しそうにしていた。ホールの窓から外を眺めている子や施設の地図を見ている子等、様々だ。二年の後輩たちはリラックスしている感じだった。彼らは固まって座っていたが、思い思いに過ごしていた。話している子、ストレッチをしている子、ぼんやりしている子等だ。俺たち三年は特に変わらない。入り口付近に固まって座っており、時間になったらすぐに移動できる位置で待っていた。お腹が空いてはやく昼食を食べたかったからだ。時間が来ると俺たちはすぐに食堂へと向かった。さっさと手洗いを済ませて整列する。人数が少なくなっていたので5分前でも入れてラッキーだった。
「やったぜ。昼食はバイキングだ。好きなもの食べ放題だ」
瞬が嬉しそうにしている。横から颯が瞬にくぎを刺す。
「瞬、好き嫌いしてたら大きくなれないよ。ちゃんと野菜も食べないとね」
「颯は俺の母さんか。別に嫌いなものはねぇよ。ちゃんと野菜も食べるし。けど、身長は伸びないんだよな」
瞬はお皿に様々なおかずを載せながらため息をつく。肉じゃがにポテトサラダ、鮭の切り身に春雨サラダ、後はご飯とみそ汁が載っていた。瞬は言った通りきちんと野菜も取っていた。しかも何だかバランスがよさそうな食事だ。俺は肉じゃがを山盛りとポテトサラダ、春雨サラダを多めに皿に持っていた。もちろんご飯とみそ汁は忘れない。他にもおいしそうなおかずがあったので後でおかわりをしようと思っている。颯はオムレツにシュウマイ、きんぴらごぼう、肉じゃが、ご飯とみそ汁を乗せていた。部長は鮭の切り身、オムレツ、春雨サラダ、カニクリームコロッケ、きんびらごぼう、ご飯とみそ汁だ。俺たちは席につくと他の部員たちが全員席につくのを待つ。全員が席につくと部長が''いただきます''の号令をかけて食事が始まった。
「この施設のご飯って結構おいしいよね。僕、いつもはあまり食べないんだけど、ここでは色んなおかずがあってついつい食べ過ぎちゃう」
「部長もか。実は俺もなんだ。肉じゃが山盛りにしてちょっと失敗したかもな。オムレツやシュウマイ、カニクリームコロッケも旨そうだ。全部食べたいけど、食べ過ぎたら午後の練習がきついからな」
「そうだぜ、いのっち。腹八分目。だが俺はまだまだ伸び盛りだから一杯食べるけどな」
瞬は小柄な癖にどこにそんなに入るのか分からないくらい食べる。俺たちが話しながら食べている内に、おかわりのおかずを取って戻ってきていた。逆に颯は男子にしては食は細い方だ。おかわりをすることなく今あるおかずをゆっくり食べている。どうやら食べたいものを厳選して選んできたようだ。自分の腹具合は自分が一番よく分かるからだ。俺たちは思い思いにバイキングを楽しんだ。俺はちょっと食べ過ぎて後悔する。しかし、練習の時間まで少し余裕があったのでそれまでにはお腹を休めることが出来た。
「集合!」
部長の号令に部員たちが集まる。それから、顧問から本日の練習メニューが発表される。全体でストレッチとアップの後、基礎体力作りを行い、最後に種目別の練習に別れることになった。1年達はまだ種目が決まっていないため、最後の種目別練習は別メニューだ。今日は部長の号令に合わせてストレッチを行う。久々に全員揃ってストレッチをした。いつもはグラウンドに来た人からストレッチとアップ始めている。こういうのもなかなかいいものだなと思いながら全体でのアップも済ませた。再び顧問の前に集合すると、基礎体力作りの練習メニューを発表された。ハイキングコースを一周と戻ってきて筋トレ、10分休憩の後別のコースを一周して筋トレ、10分休憩。しかも、最初のコースより別のコースの方が距離が長くなっていた。今日はなかなかハードな練習の様だ。俺は気合を入れてハイキングコースを走ることにした。
「今日のハイキングコースは山なので坂道があったり、標高の関係で空気が薄かったりといつもと条件が違う。各自自分の体力に見合った走りを心がけるように。特に1年、ペースを考えずに走ると個別練習が出来なくなるので気を付けるように。短距離の2,3年、1年と一緒に走ってやれ。中長距離の2,3年は自分のペースを崩すなよ。では、みんな位置につけ。はじめ!」
顧問の号令により全員走り出す。一年達は元気よく走りだしたが、2,3年は距離を考えて程よいペースで走る。それに気づいた1年達がペースを落とし合わせてきた。途中、中長距離の俺たちがペースを少し上げると、1年達と短距離のメンバーはついてこれなくなり距離が離れていった。俺たちは気にせず自分たちのペースで走り続ける。段々と颯と競うように走るようになってしまい、ペースを崩してしまった。他の部員たちをずいぶん引き離して顧問のもとに戻ると、渋い顔になっていた。
「お前ら、ペースを考えろと言ったよな。まったく。すぐに止まるなよ。スピードを落としてゆっくりとその辺を走れ。歩いても構わん。一周したら戻って来い。これは、筋トレ前に休憩しないとだめだな」
顧問は練習メニュー変更を示唆すると、ため息をついた。俺たちは言われた通りゆっくりと走り一周して戻ってきた。他の部員たちもチラホラと戻ってきており、同じ指示を受けて走ったり歩いたりしていた。顧問のもとに戻った俺たちは休憩するように言い渡されて座り込む。持ってきた水筒のお茶を飲むと体に水分がしみ込むようだった。
「畜生。やっぱ颯は体力あるな。もう息が整ってるし」
俺が悔しそうに言うと、
「まあね。僕はいのっちよりも長い距離を走るので、それなりに体力がないと大会を走り切れないからね」
颯はすましてそんなことを言った。ハイキングの後半、俺たちだけで走るようになってから颯は更にペースを上げやがった。最初はついて行けていたが、だんだんと苦しくなり最後の方は何とか食らいつくという感じだった。中距離と長距離では体力が違うことを思い知らされた。
「1000mは負けないからな」
俺が決意を込めて言ってやると、
「僕だって負けないよ」
と颯が言い返してきた。
「んじゃ、勝負だな」
「望むところだよ」
フフっと笑って颯が言う。雑談をしながら座っていると、中長距離の2年も集まってきた。一年と短距離のメンバーはまだ戻ってきていなかった。短距離のメンバーと一年が戻ってくる頃には、俺たちは十分に休んだということで先に筋トレをやらされていた。彼らも休憩の後筋トレを行う。それぞれ休憩の後、種目別の練習に移る。練習が終わるころには俺たちは一人残らずヘロヘロになっていたのだった。
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