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14.強化合宿 1日目 バス移動

 5月3日(水)、晴天。空が晴れ渡り、優しい日差しが心地良い。今日は絶好の合宿日和だ。俺は珍しく目覚ましで起床し、朝食を済ませて部屋へ戻る。忘れ物がないか最終チェックをして荷物を持って1階へ降りる。


「篤志、歯ブラシは持った?」


「あ、いっけね。忘れてたわ」


 俺は慌てて洗面所に向かい、携帯用の歯ブラシセットをカバンに詰める。


「母さん、ありがと。行ってきます!」


「あ、待って。水筒も忘れているわよ。はいこれ」


 そう言って母さんは水筒を差し出す。俺は玄関で受け取り、再びお礼を言って家を出た。珍しく千夏がまだ来ていない。俺は千夏の家のチャイムを鳴らした。


「おはようございます。ちぃ、居ますか?」


「ちょっと待ってね。あの子今準備してるから。すぐに出ると思うわ」


「分かりました。待ってます」


 俺は千夏のお母さんとインターフォン越しに話した後、家の前で暫く待った。ドタバタと音がして、千夏が出てきた。


「お待たせ。珍しく早いわね。ちょっとびっくりだわ」


「俺だって早起きぐらいできるぞ」


「アッツーに限ってそれはないわ」


 千夏が笑いながら言うので、俺はちょっとムッとしながら反論した。


「そんなことないぞ。現に、今日の俺はちぃより早かった!」


「まあそうね。どうせ合宿が楽しみで奇跡的に早起きできただけでしょうけど」


 千夏はクスっと笑いながら言った。ばれている。俺は頭を掻きながら言った。


「ちぃには敵わないな。その通りだぜ。合宿に遅れないように早く行こうぜ」


 俺がスタスタと歩き始めると、千夏が俺を追いかけながら言った。


「ちょっと待ちなさいよ。荷物が重いからゆっくり行きましょう」


「ちぃの荷物多いな」


「女の子の荷物は多いものなの!」


「そうですか」


 俺たちは話しながら学校へ向かう。時間に余裕があるので、千夏の提案通りゆっくりと歩いた。学校に着くとグラウンドに向かう。グラウンドにはもう何人か集まっていた。顧問は人数の確認をしていた。暫く待っていると、グラウンドにバスが入ってきた。ちらほらと部員が集まり始め、全員が揃う。顧問の指示により、バスに荷物を積み込んでいると出発の時間になった。


「全員揃ったな。それでは出発する。運転手さん、よろしくお願いします」


「よろしくおねがいします!」


 部員全員で挨拶をして、バスに乗り込む。バスの座席は自由だったので、俺は部長の隣に座った。俺は酔いやすいので前の方だ。千夏は女子部員と固まって、後ろの席に座っている。見事に男子と女子で別れて座っていた。2時間の移動は長い。しかも山道を進むので結構揺れる。俺は酔い止めを飲んできてよかったと心底思った。それでも少し気持ちが悪かったからだ。まあ、部長と話しながら過ごしていたので、だいぶ気分が紛れたのもあるが。それと、お菓子を食べながら過ごした。俺も少しは辛い系のお菓子も行けたので、部長と交換しつつ食べた。通路を挟んで左の席のしゅんはやても俺たちのお菓子パーティーに加わる。彼らも3年の男子陸上部員だ。瞬はハードルと走り高跳びが専門で、颯は1500mと1000mの長距離が専門だ。俺も1000mは一緒に走る。瞬は男子にしては小柄な方だが、体の芯がしっかりしていて体幹ができている。しかもバネも瞬発力もあり高跳びにはもってこいの選手だ。颯は名前の通り疾風のごとく短距離を走るのかと思いきや、筋肉が長距離向きだと顧問から言われ長距離に。その後、持久力を付けて淡々と粘り強い走りで長距離の選手として活躍しだした。顧問はちゃんと俺たちの向き不向きを分かっている。


「いのっち、そのポテチ何味?」


 左の廊下側の席の颯が俺に聞きつつ、ポテチに手を突っ込む。窓側の席の瞬も身を乗り出してポテチに手を伸ばした。


「あ、颯だけズリーぞ。俺もポテチ食べたい」


 そんな瞬に対して颯は細身の長身を生かして瞬の邪魔をしていた。まだ中3なのに身長が170㎝を超えている。それに対して瞬の方はというと、159㎝と小柄だ。身長差がこれだけあればもはや壁である。しかし、細身なので厚みがない。瞬は颯の邪魔をかいくぐり、ポテチをゲットしたのだった。


「へへん。颯の横を抜くのなんて簡単だね。何たって細いからな。あ~ポテチうまぁ~」


 瞬は俺のポテチを旨そうに食べている。


「お前らまたやってるな」


 俺は瞬と颯の凸凹コンビのやり取りに笑いながら言う。窓側の席の部長もクスっと笑って言った。


「瞬と颯のじゃれ合いはいつもの事じゃないか。僕もポテチをもらおうかな」


「どうぞ。じゃあ俺は部長の辛いやつをくれ。あ、余り辛過ぎない奴な。ハバネロ以外で」


「いのっちもハバネロは駄目か。残念だな。瞬も颯もハバネロは辛過ぎて駄目だし、この良さが分かる人が居ない」


「いやだって、ハバネロって唐辛子だろ? ちょっとお菓子にかかっているくらいならいいけどさ。かけ過ぎはほんとにヤバいって。激辛だから」


「じゃあ、ワサビ系のお菓子は行けるかい?」


 俺に聞きながら部長はカバンをごそごそしている。


「まあ、少しなら大丈夫だ。たぶん」


 俺はだんだん自信がなくなってきた。先ほどから辛い系のお菓子をあれこれ貰っているせいか、舌が少し痺れている気がする。ちょっと辛い物を食べ過ぎたようだ。甘いお菓子も食べたくなってきた。


「おい、瞬か颯。何か甘い系のお菓子持ってないか? 悪いな部長。やっぱりいいわ。ちょっと辛いの食べ過ぎて甘いのが食べたくなった。ワサビ系はまた後で」


「そうか。残念だな。ちょうどワサビ系のお菓子も見つけたのに。まあ、僕が自分で食べるよ」


 部長はお菓子の袋を開けて一人で食べ始めた。



「もうすぐで青少年自然の家につくので、各自降りる準備をしとけよ!」


 顧問が全員に聞こえるように大声て言った。俺はもうそんな時間かとバスについている時計を見る。2時間は長いと思っていたが、案外話したり食べたりしているとあっという間だった。俺はおやつをカバンに仕舞ってしまって下車の準備を始めた。部長や瞬たちも片付けている。バスが青少年自然の家に到着し、いよいよ強化合宿が始まるのだった。






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