11.高校ガイダンス
4月下旬。桜が葉桜となり山の緑が色づく頃、近隣のいくつかの高校が中学校に高校の説明をしにやってきていた。俺はそれらの説明をぼんやりと聞いていた。この前、裕子から聞いた3校以外あまり興味がなかったからだ。各校から配られたパンフレットを眺める。どの高校も自校の特色をしっかりとアピールした見ごたえのあるものだった。俺は説明は左から右へと流れていたが、パンフレットの方はしっかり見ていた。いくつかのパンフレットを眺めた後、俺は日の高と北学と丘学のパンフレットを見つけた。俺は北学のパンフレットを手に取り、表紙を眺めた。校舎とグラウンドが表紙一杯に映っている。グラウンドの全てがパンフレットに収まっているわけではなく、野球のネットが見切れて映っている。端の方にはテニスコートも映っていた。
(すげぇ~、でけぇなぁ~。グラウンド広っ! やっぱ北学はグラウンドの整備が行き届いてんなぁ~。陸上のトラックに走り幅跳びの砂浜もあるし、投擲をするスペースまであるじゃん。やべぇな。あー走りたくなってきたぜ。)
俺は表紙をじっくり眺めた後、パンフレットをめくった。パンフレットをめくっていると一つの情報に目が留まった。
『体育祭開催決定! 中学生以上見学可! 興味のある中学生の君! 是非、我が校へと足を運んでくれ! 熱い戦いが君を待っている!! 開催日程:6月○○日(土)~○○日(日) 9時~5時』
(うおおおお。燃えるぜ。これは是非行かないとな。どんな競技があるんだろう。絶対リレーはあるだろ。高校生って俺らとちょっとしか違わないのに、足の速さって全然違うんだよなぁ。何が違うんだろ。まあいいや、考えても分からんし。それより、後で涼と友也を誘ってみよう。)
俺はそう思って、暫く北学のパンフレットを眺めていた。これが裕子が言っていたやつらしい。北学以外も何か行事をやるだろう。俺は北学のパンフレットを十分に眺めた後、日の高のパンフレットを手に取った。表紙には校舎が映っていたが、先ほどの北学のパンフレットに比べるといささかインパクトに欠けている印象があった。しかし、ページをめくると興味を引くものを見つけた。それぞれの校舎の写真と説明が載っていたのだ。俺は感心しつつ日の高のパンフレットをパラパラとめくる。
(へぇー、しっかり作ってんなぁ。お、校舎に展望台がある。すげぇ~。情報棟ってのがあるんだ。へぇー、色んな機械が置いてあるんだな。機械とかよく分からんけど、何かすげぇ~。)
次のページをめくる手が止まった。また面白そうな情報を見つけたのだ。
『芸術祭開催のお知らせ。日程:7月○日(土)~○日(日) 9時~5時 中学生の見学大歓迎♪ 興味のある方は見に来てください』
(お、なになに。各棟で展示や出し物をやっているんだな。これは涼が好きそうだな。これも誘ってみよう。ついでにちぃも誘ってみるか。)
俺は千夏にも声をかけることにして、次のパンフレットを眺めた。丘学のパンフレットは他のものとはかなり違っていた。お金がかかっていることが一目で伺える、何というか豪華なものだった。流石お金持ちの私立高校である。表紙には例のごとく校舎が映っているが、その校舎も名門校としての風格が醸し出される堂々としたものだった。
(やっぱ名門エリート校は風格が違うなぁ~。うわぁ~、ホールにシャンデリアがついてる。赤い絨毯が引かれているとか、外国のお城みたいだな。日の高よりも校舎の棟数多いんだ。倉庫まである。すげぇ~。お、丘学も何かやるみたいだな。)
『文化祭開催 日程:7月○○日(土)~○○日(日) 9時~5時 中学生以上の入校を許可する。我が校のお祭りを楽しんでいってくれ』
よく読むと、スタンプラリーや投票など面白そうな企画が用意されているようだった。俺は期待に胸を高鳴らせつつ、ガイダンスが終わるのを待った。早く涼と友也に話したい。授業が終わるのが少し長く感じるのだった。やっと終業のチャイムが鳴り、俺は早速隣の席の涼に声をかけた。手にはさっき見ていた3校のパンフレットを持っていた。
「なあなあ、涼。北学と日の高と丘学のパンフ見た? めっちゃ面白そうなこと、やるみたいだぜ!」
俺は興奮気味に涼に喋った。ちょっと声が大きくなったのはご愛敬だ。
「ああ、全部読んだよ。面白そうだったね。全部日程が違うし参加できるんじゃないかな」
「だよな。んじゃあ、みんなで行こうぜ」
「おいおい。もちろん、俺も混ぜてくれるよな?」
横から友也が口を出す。
「もちろんだぜ。友也も誘うつもりだったしな」
そう言って俺はニカッと笑った。
「それで、千夏たちは誘うのか?」
友也が俺の肩に手を回しつつ、ニヤッとしながら聞いてきた。涼はさっきまで机の上にあったパンフレットを片付けて、次の授業の教科書やノートを出していた。
「もちろん、聞いてみるぜ。この前裕子が言ってた通りだったしな。オープンスクールも一緒に行くし、予定が合えばきっと大丈夫だろう。おーい、ちぃ。ちょっといい?」
俺が大声で千夏を呼ぶと、裕子と愛美も一緒に俺の方を見た。それから三人でこっちに来る。
「アッツー、いつも大声で呼ばないでって言ってるでしょ。まったく」
千夏は何かを諦めた顔をしながら、俺に向かって言う。俺はあ、そうだったと思いつつ、千夏に謝ってから先程の件について聞いてみた。
「ごめんごめん。忘れてた。涼たちと話してたんだけどさ。ちぃ達もこのパンフのやつ、一緒に行かないか?」
俺は手に持っていた3校のパンフレットを千夏たちに見つつ言った。
「あ、それね。私達もさっき話してたのよ。みんな行くわよ」
千夏の返事に、裕子と愛美も頷く。愛美の視線は友也の方に向いていたが、友也が気付くことはなかった。そんな愛美を裕子は黙ってみていた。そんなことに全く気付かず、俺はニコニコしながら言った。
「んじゃあ、決まりだな。あー楽しみだぜ。早く6月来ないかな」
「まだちょっと先でしょ、気が早すぎるわよ。その前に春体があるでしょ。はしゃぎすぎて春体に身が入らないとか無い様に気をつけなさいよ。アッツーは1つのことに集中すると、他のことが出来なくなるんだから」
「分かってるって」
「ほんとにぃ~?」
千夏はジトーとした目でこちらを見ていた。かなり疑われている。過去に色々とやらかしているから仕方がない。小学生の頃、遊びに夢中で門限を忘れて怒られたり、下校中に面白いものを見つけては寄り道をして怒られたりよくしていた。俺は熱中すると周りが見えなくなる自覚はあるが、癖みたいなものなので仕方がないと思っている。それにマイナスばかりではないとも思っている。実際、部活は集中して取り組んでいるからこそ、よい成績を収めているのだから。
「春体で最後だからな。部活、悔いが残らないように全力でやるから心配すんな」
俺は表情を引き締めつつ、ニカッと笑った。千夏は少し安心したような顔をする。俺は気持ちを切り替えて、部活に勤しむのだった。
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