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ペットが擬人化する世界の危険な愛情  作者: 釧路太郎
佐倉光紀の物語

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千代子とジュエル

「いいんじゃないか。俺もジュエルは好きだけどさ、光紀と一緒にいた方がジュエルも幸せだと思うからな。光紀とジュエルがいなくなったら母さんは寂しがると思うけどさ、母さんの気持ちよりもお前たちの気持ちの方を優先してくれていいぞ。ジュエルは光紀とずっと一緒が良いよな?」

 兄貴は嬉しいのか悲しいのかわからないような感じに見えるのだが、ジュエルは俺達の会話を理解しているかのように嬉しそうに尻尾を振ってい喜んでいた。まだ散歩に行く時間ではないのだが、俺の足に体をこすりつけて催促をしてくるのであった。

「もしもさ、ジュエルがお前たちと一緒に暮らすことで人間になったとしても、俺達がジュエルの事を嫌いだったって事じゃないってのは分かってくれよ」

「ああ、それは分かってるよ。兄貴は俺が散歩に行けない時に変わりに行ってくれてるし、母さんだってジュエルのそばで優しく撫でてくれてるもんな。何もしない母さんの側からジュエルが離れないこともよくあるし、なんだかんだ言ってジュエルが一番好きなのは母さんなのかなってもう事もあるよ。なんでそんなに好かれてるのかはわからないけどさ、ジュエルも母さんが優しい人間だってわかってるんだろうな」

「そうだな。そういうのはジュエルが一番気付くもんだよな。お前が高校生の時に好きな女に振られて落ち込んでた時もずっとジュエルがそばから離れなかったもんな」

「そういうのを言うのはやめろって。あの時はショックだったけどさ、結果的にはそれで良かったんだと思うよ。でも、ジュエルは俺達が悲しい思いをしている時にずっとそばにいてくれたんだよな。父さんが亡くなってからしばらくの間は一緒に寝てたもんな」

「そうだったな。そんな事もあったよな」

「こういう話はやめようか。じゃあ、ちょっとジュエルと散歩してくるわ。何か買ってくるもあったりする?」

「いや、とくには無いかな。車にはねられないように気をつけて行って来いよ」

「わかってるよ。子供じゃないんだぞ」


 散歩をしている時は基本的に余計な事は考えていないのだが、俺の結婚が近付くにつれて色々と考えてしまっている。兄貴はなんだかんだ言って母さんが一番なのだろう。肉親だからという理由でそこまで出来るものなのかといつも思ってしまうのだが、それは母さんから俺に向けられた愛情をほとんど知らないからなのかもしれない。父さんが亡くなった後も母さんが泣いているという記憶はないのだが、それは俺達に心配をかけないようにという気丈な振る舞いだったのかもしれない。人目を避けて泣いていたのかもしれないし、そんな母さんを密かにジュエルが見守っていたという事もあるのかもしれない。

 そんな俺の考えを肯定するかのようにジュエルは何度も俺の方へ振り返っていたのだ。いつもは決められた道を真っすぐどこまでも歩いているジュエルであるが、今日に限っては交差点に差し掛かるたびに俺に向かってどこへ行くのか選ばせているようでもあった。こうして一緒に散歩をしているのは楽しいし、ちょっとした出会いなんかも期待してしまっている。出会いとっても、女性との出会いなんかではなく新しい本やお菓子との出会いの方なのである。

「そうだな。今日はいつもと違う道を散歩してみようか。何か面白いものを見付けられるかもしれないし、ジュエルも知らない道の方が楽しいだろ?」

 俺の言葉に応えるようにジュエルは小さく吠えるといつもとは違う道へ走り出そうとしていた。俺はそんな急に走られても困るのでリードを強く握り直してジュエルの事をじっと見つめてみた。そんな俺の気持ちに負けたのか、ジュエルは先ほどの勢いとは比べ物にならないくらいゆっくりとした足取りで歩道の端の方を歩いていたのであった。


「そう言えばさ、最初に見たところってペット可だったと思うんだよね。もう一回見に行ってみるのはどうかな?」

「そうだね。前はジュエルと一緒に暮らすって考えてなかったから候補に入れなかったけど、今空いてるんだったらその場で契約してもいいんじゃないかって思えるくらいだったもんね」

「私も光紀もペットが飼いたくなったら引っ越せばいいかもなんて考えだったけどさ、ジュエルちゃんが一緒となるとそれ以外の選択肢は無いんじゃないかって思うくらいだったもんね」

 玄関に入ってすぐにあるウォークインクローゼットはさり気なくペット用のスペースもあったのだが、そこを借りるとしてもペット用のスペースとしてではなく季節物をしまっておく場所にでもするかという話になっていた。

「私と光紀が気に入ってもさ、ジュエルちゃんが気に入らなかったら意味ないけどね。どうだろう、気に入ってくれるかな?」

「たぶん気に入ると思うよ。ジュエルは千代子に撫でられるのも好きみたいだし、一緒にいたら嬉しいって思てくれるよ」

「それだといいんだけど。でも、お義母さんとお兄さんは大丈夫なの?」

「うん、母さんも兄貴もジュエルがいなくなるのは寂しいけど、俺と千代子と一緒ならジュエルも喜んでくれるんじゃないかって言ってくれたよ」

「二人ともそう言ってくれるんだったら嬉しいな。私は犬って飼ったことが無いからわからないことたくさんあると思うけどさ、そういうのも色々と教えてね」

 俺達は最初に尋ねた不動産屋に再び足を運び、例の物件が開いているか相談に行ったのだ。他の物件に比べて駅から少し離れているのが原因なのか、いまだに誰とも契約には至っていなかったという事で俺達は一応部屋の確認をしてから戻ってきた足でそのまま契約をすることにした。

 もともと空いていればその場で契約するつもりではあったのだけれど、不備があってはいけないという事もあってもう一度確認することになったのだった。

 俺達二人と一匹の新生活はこれから始まるのであった。

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