最終話 誕生日パーティー
「そういえば、明後日はセドリック様のお誕生日でしたね」
サーシャさんの発言に「ぶっ」と、紅茶を噴き出しそうになったのをなんとか耐えた。
結婚をして数カ月、夏の日差しが近くなったころ唐突に言い出したのだ。今日はお義母様と、兄嫁のクロエ様たちとのお茶会を楽しんでいたところだった。
「あら、そうだったかしら?」
「お、義母様……。竜魔人ではお祝いなどはしないのですか?」
人族では毎年、誕生日を祝い盛大にパーティーを開くというのに。ここでも他種族との違いが出た。
「まあ、私たちのような長寿の種族だと一年があまりにも短いので成長の区切りにお祝いをすることが多いのですよ、オリビア様」
「クロエ様……」
天使族のクロエ様は白い肌に、造詣が整っており同性の私ですら見惚れてしまうほど綺麗な方だ。スカーレットもそうだけれど、天使族は本当にスタイルがいい。胸の発育なんかも含めて……。
「──って、そうじゃなくて明後日なら、なにかお祝いがしたいです」
「人族だとどのようなお祝いのをするのかしら?」
義母様は身を乗り出し興味津々のようで、クロエ様も目が輝いていらっしゃる。
「そうですね、料理がいつもよりも豪勢で、誕生日ケーキやプレゼントを用意して一緒に食事など特別な日にする──でしょうか」
正直、誕生日にお祝いされた記憶がないので何となくのイメージだが、そこは黙っておこう。ポロっとでもそんな話をしたら最後、私の誕生日が国の行事レベルになりかねない。
「誕生日ケーキ。もしかしてオリビア様の手作りを?」
「え、あ。はい。……せっかくなので作ってみようかと。このあと料理長のジャクソンに調理場の利用ができないかと相談してみるつもりでした」
「まあ、まあ! 娘の手作りなんて楽しみだわ。クロエはしっかりして戦う姿が素敵だけれど、オリビアは一生懸命がこうかわいいのよね」
「分かりますお義母様」
(お義母様とクロエ様とも仲良くできて嬉しい。あ、そうだ……)
この間、夏が近くなると暑くて困ると話していたのを思い出し、付与魔法でちょっと作ってみたものがあったのだ。
「お義母様、クロエ様。試作品なのですけれど、よかったら受け取ってください」
ヘレンに持ってきて貰ったのは、二種類の扇子だ。付与魔法を付けており、仰ぐだけで冷たい風が出るようになっている。人間世界なら売れるだろうが、他種族国家のグラシェ国では夏場になると周囲を凍結させて涼むとか、スケールがそもそも違う。
手慰みものなので物珍しいと思ってもらえれば──。
「まあ、まあ、まあ! コンパクトで魔法を使うよりも楽に涼しさを堪能できるわ!」
「ええ、その通りです。お義母様。それに竹に特殊な紙で作っているのね」
「はい。東洋の特殊な紙を再現してみました」
予想以上に気に入ってもらえたようで、お茶会が終わるまで喜んでくれた。次のお茶会には私に贈り物を用意するとお二人が盛り上がったので、誕生日の相談はできなかった。
お茶会を終えて部屋に戻るとサーシャさんとヘレンさんを呼び止めた。セドリック様の誕生日祝いの相談をしたいと告げたところ、喜んで話を聞いてくれた。
立ち話もということで、二人にはソファに座って貰って本格的な相談に入った。
「セドリック様が喜びそうな贈り物って何が良いと思います?」
「オリビア様!」
「オリビア様でしょうか」
二人とも即答である。
私を贈り物って、すでに夫婦なので贈っていることになるのだろうか。唸る私にサーシャさんは大きめの赤いレースのリボンを唐突に取り出し、私をラッピングするかのように蝶々結びをする。
「オリビア様、可愛らしいです。お持ち帰りしたいほど、愛らしいですわ!」
「これで『私がプレゼントです』といえばセドリック様なら喜ばれるかと」
「……ええっと、もっとこう形として残るものがいいのだけれど……」
「基本的にオリビア様から頂いたものなら、あの方は喜ばれるかと」
「そうですよ。定期的にハンカチや髪紐など贈って喜ばれているじゃないですか。今回もそういった日用品などで、よろしいのではないでしょうか」
「うーん」
そう。それが悩みどころでもある。
まあ、明後日なので確かに準備する時間は限られているのだ。
「そう──ですね。参考になりました」
「それでは料理長のジャクソンを呼んでまいりますね。誕生日ケーキの大きさ、デザインなどの話が必要かと存じますので」
「ええ、よろしくお願いします」
誕生日ケーキを作るとしたらセドリック様が好きなフルーツをたくさん載せて、生クリームは甘さ控えめで、たしかプレートはチョコレートを固めて──。すらすらと紙にケーキの構想を書き連ねる。
「オリビア」
「!」
甘い言葉が耳元で囁かれ、肩がビクリと震えた。
この声は──振り向かなくともわかる。
(セドリック様!?)
「ふふっ、お茶会が終わったと聞いたから顔を見に立ち寄ったのだけれど……」
咄嗟に手に持っていた紙を背に隠しつつ、セドリック様を笑顔で迎える。色んな意味で心臓がバクバクと鼓動がうるさい。
「ちょっと考えごとをしていました!」
「そう。何度ノックをしても返事がなかったから心配したのですよ。母上や義姉になにか強請られたりはしていませんね?」
心配そうに顔を覗き込むセドリック様に私は首を横に振った。
お茶会のあとでお義母様とクロエ様が執務室によって、扇子を見せびらかしたらしい。セドリック様はエレジア国のように『オリビアが無理して作らされているのではないか』と不安になって様子を見に来てくれたのだろう。
「違いますよ。扇子はちょっと思いついたので作ってみただけで、手慰みのようなものです」
「そうでしたか。……よかった。オリビアは断るのが苦手ですから無理をなさらないか心配しました」
「ふふっ、一日に同じものを五十個作れと言われたらさすがに考えますが」
「……オリビア、エレジア国ではそんな無茶な発注を言われていたのですか?」
笑顔だったけれど一瞬で空気が凍り付いた。
ゴゴゴゴゴゴ、と凄まじい圧に負けて正直に頷く。「やっぱりあの時に殺しておけばよかった」とか「今からでも首都を滅ぼそうか」と物騒な言葉を呟いている。
政治的な部分も含まれるからかエレジア国の使節団の件や、祖国フィデス王国など何があったかなどは簡潔に話してくれるが詳細は伏せていた。
それはたぶん私のことを慮ってくれたからだ。精神支配を受けていたときにかなり心配させてしまったのもある。
クリストファ殿下が王太子を退いたこと、私の叔父夫婦と名乗っていた者たちは、それに見合った処罰を受けたという。兄王姫殿下も投獄されたとか。
改めて私はセドリック様に守られてばかりだと思う。それ故に時折暴走しそうな言葉が出た時は慌てて話題を逸らすようにしている。
「ええっと、セドリックは、その……なにかほしい物とかないのですか?」
「オリビア──は、もう私の妻なので、うーん。そうですね……」
(即答で私を望むって……。物欲がないのかしら?)
「オリビアとの時間でしょうか。オリビアからの頂き物はどれでも嬉しいですし」
(一緒の時間……)
一緒に時間を過ごす時はお茶を用意してもらうことが多い。お揃いのマグカップなんていいかもしれない。後は──。
「ところで、ラッピングされているのは、どのような趣向があるのですか?」
「え、あ。これは──」
「もしかしてオリビアが贈り物とか!?」
歓喜する尻尾を見た瞬間「違います」と反射的に口に出てしまった。それでも「この姿もかわいい」とセドリック様に抱き付かれたのはいつものことだ。
その後、セドリック様が執務に戻った(アドラ様に引きずられていった、が正しいけれど)ので、待たせていた料理長のジャクソンさんと話を詰めることにした。
ジャクソンさんは狼人族で、外見は三十代後半だが年齢は百二十歳らしい。頬に傷がある強面な上、長身なので威圧的に感じる人も少なくないとか。
鬼の料理長とも呼ばれているのだが、私には優しく接してくれる。
「セドリック殿下は木苺が好まれているので、見栄えとしてスモモ、キウイを砂糖漬けにしてフルーツを使いましょう」
「タングルという砂糖漬けね。宝石みたいで綺麗になりそうね」
「はい。……きっと殿下も喜ばれるでしょう」
「ふふっ、そうね。そうなるように当日は頑張らないと」
ジャクソンさんは眉間に深い皺を寄せることが多いらしいが、私と話す時はいつも穏やかだ。どこか懐かしむような、そんな顔をするのは少し不思議だけれど。
「貴女様とまた一緒に厨房に立てる日が来るとは……長生きをするものです」
「え?」
「いえ。何でもありません。ささ、作る時間ですが──」
当日の料理とケーキの話を終えて、次に向かったのは城の皿やカップなどの陶器などを作るドワーフ族たちの工房だ。サーシャさんが根回しをしていてくれたおかげでこれから焼き上げるカップをいくつか見繕ってくれた。
「おお、オリビア様。こんな場所によく来てくださった!」
「オリビア様。おーいオリビア様が来てくれたぞ!」
「おお!」
彼らも私に対して好意的に接してくれる。ただ不思議なのはジャクソンさんと同じように微笑ましいというか生暖かい視線を受け、歓迎されることだ。
たまに「やはり腕は鈍っていないようで」とか「素晴らしい器用さだ」と称賛してくれる。もしかしたら記憶を失う前にどこかで会っている──のだろうか。
けれど誰もそこに対して言及することも、名乗り出ることもなかった。ただ今の私を受け入れて優しく接してくれている。
(なんだか昔の自分の言動が巡り巡って今の私に戻ってきているみたい)
記憶がないことを寂しいと思わない。ただ記憶を失う前の私は搾取されていたかもしれないが、それだけではなかったことが嬉しかった。
「城の人たちはみんな優しいのですね」
「それはオリビア様の人徳です!」
「その通りかと思います」
サーシャさんとヘレンさんは自分のことのように喜んでくれた。いつも助けてくれる二人に、髪留めを送った。ヘレンには銀で作った羽根模様、サーシャさんは大人っぽい金の薔薇と真珠が付いているものにした。
二人とも飛び上がるほど喜んでくれたようで、贈る相手は喜んでもらえるほうが嬉しい。
そんなこんなで準備も一段落したところで夕食になった。
夕食になるとセドリック様が部屋に来るのだが、執務室で仕事が残っているらしく私が迎えに行くことになった。
廊下の途中でローレンス様を見つける。温室の薬草の世話をした帰りなのだろう。歩み寄ろうとしたら、何もないのに躓いてしまった。とっさにローレンス様に支えてもらったので、転ばずに済んだ。
「ローレンス様、すみません」
「いえ。……足が完治したとはいえ気を付けてくださいね」
「はい」
「それで、なにか私に用があったのですか?」
「あ、あの実は明後日はセドリック様の誕生日でして、よければみなでお祝いの席を設けようと思うのですが、ご都合が合えばいらしていただけないでしょうか?」
ローレンス様は目を細め「それはおめでたいことです」と微笑んだ。
足の怪我が完治した後も、私の健康状況を確認するため二週間から三週間に一度診察を受けている。これはセドリック様の心配性な部分もあると思う。
「しかし私などが参加してよろしいのでしょうか」
「もちろんです。こういったのはみんなで祝うのが楽しいものだと思います」
「ふふっ……。たしかにそうかもしれませんね。では私も楽しみにしております」
「はい。場所は後でサーシャさんからお手紙を送るようにしますね」
話を終えてローレンス様と別れたのち、執務室に赴くと──なぜかセドリック様の姿がなかった。兄王のディートハルト様はなんとも複雑そうな顔をしつつ、「机の上に置手紙がある」と告げた。
小首を傾げつつ机の上にある手紙を手に取り、そこには達筆な字で「探してください」と書かれている。
(え、ええっと……。この場合、『探さないでください』と思うのだけれど……)
斬新というか「置手紙とは?」といろいろ思ってしまう内容だった。いつもなら執務室に入った途端、抱擁とキスの嵐が来るのだがセドリック様に何か心境の変化があったようだ。
「ディートハルト様、セドリック様がどこに行ったかわかりますか?」
「あー、うん」
目線を隣の仮眠室に向けると、扉が開いておりチラッとセドリック様の姿が見えた。隠れる気のないかくれんぼをしている気分だったが、仮眠室へと向かった。
部屋の中に居ると思ったのだが、カーテンと窓が開いている。
「ええっと、これは……逃げられた……ということでしょうか」
「ああ、あれはセドリックが昔よく使っていた手法で《拗らせ病》だから、面倒なら放っておけば一年ぐらいで戻ってくるから」
「一年!?」
竜魔人にとっての一年は短いと聞いたことがあるが、それにしても探さずに一年も放置というのはいいのだろうか。
(セドリック様的に構ってほしい、ということでしょうか?)
「竜魔人というのは、伴侶からの愛情がほしくてたまらない種族だから時々拗ねることがある」
「拗ね……。ええっと、それはディートハルト様も?」
「あはは、私の場合は『追いかけて構ってほしい』って感じじゃないかな。むしろ地の底まで追いかけるほう」
(あ、なんだか聞いてはいけないことを聞いてしまったような……。とりあえず竜魔人族に発症する寂しいアピールということなのでしょう。たぶん)
カーテンを開けて窓の外を見ると、庭園に向かって逃走するセドリック様の姿が見えた。執務室は三階。追いかけるだけでも一苦労だ。
サーシャさんが「抱えて飛び降りましょうか?」と提案してくれたが丁重に断った。明後日の誕生日パーティーの準備もある中、早々にセドリック様の《拗らせ病》を完治する必要がある。主役がいないパーティーを開くことも、一年も拗ねて逃げられるのも困るのだ。
私にしかできない方法。
できるだけ大きく息を吸い──。
「セドリック様! 今から飛び降りますから──受け止めてください!」
女は度胸。三階から落ちれば死ぬかもしれないが、振り返ってセドリック様が私を見たのなら大丈夫だ。
窓から身を乗り出して落ちた。重力に従って私の身体は一瞬で地面に──ぶつかりはしなかった。私が落ちる場所にセドリック様が駆け付けてくれたのだから。
少し荒い息で私を抱き上げている。
「お、オリビア! なんて危険な真似を!」
怒るセドリック様の腕に抱き付いた。「捕まえました」そう告げると、彼は言葉に詰まったようだ。少ししてセドリック様の鼓動が落ち着いてきた。
「危ない真似はしないでください。一瞬、心臓が止まるかと思いました」
「だってこのぐらいしないとセドリックは逃げてしまうでしょう。人族の私には貴方を捕まえるのは難しいし、一年も待てないわ」
「…………一年ぐらい私を追いかけてもいいじゃないですか」
拗ねるセドリック様に私は「嫌です」と呟いた。
「新婚なのに離れているのは嫌です。……それとも私に不満があるのですか?」
「……違います」
セドリック様は力なく項垂れると私の肩に顔を埋めた。擦り寄る彼の頭を優しく撫でる。
「私の妻になって、一緒にいる時間も増えて幸せなのに──もっと私のことを好いてほしい、傍に居て甘えて、愛されたいと、どんどん我儘になってしまうのです。でもそれは独りよがりで駄目だと思ったので、オリビアと離れるように努力しようかと……思ったのです」
そう言うが言葉と行動が矛盾している。
「えっと、それで本音は?」
「オリビアに愛されている実感が……ほしかったのです」
セドリック様は何度か私の部屋に訪れたらしいが留守だったこと。そして城の者たちから『オリビア様と一緒に何か作った』とか、『お話ができて嬉しい』などが耳に入ったらしい。
「極めつけはローレンスと親しそうに話していたので、嫉妬しました」
私を腕の中に閉じ込めると少し拗ねた口調で呟いた。
それがなんだか可愛くて、微笑ましく思ってしまった。
「幻滅しましたか?」
「いいえ。……私が城の人たちに会っていたのは理由があります」
「理由?」
「本当は当日まで内緒にしたかったのだけれど、主役がいないと困るというか……」
「主役?」
セドリック様は小首をかけて聞き返した。「明後日は何の日でしょう?」と質問した。彼は少し考え、ふと自分の誕生日だと気づいたようだ。
「もしかして、私の……誕生日?」
「はい。色んな人たちに協力をしてもらって、お誕生日パーティーを開く予定だったのです」
「ではローレンスが『楽しみにしている』と言ったのは? 手紙というのは?」
「明後日の誕生日パーティーの話と、手紙はその招待状です。だから主役がいなくなるのは困ってしまいます」
それを聞いてセドリック様はへなへなと力が抜けたようだ。もしかしてローレンスと会うのが楽しみだと勘違いされたのだろうか。
でもどうしてローレンスなのだろう。たしかに紳士的だし、私を気遣ってくれる方だが。
「ああ……。じゃあ全部私の勘違い……。なんてかっこ悪い」
「そんなことないです。……それで、その、明後日のパーティーに参加してもらえますか?」
セドリック様は顔を赤くしつつも「もちろんです」と答えてくれた。
こうしてセドリック様の《拗らせ病》は数時間で完治した。また再発するかもしれないが、そうならないように自分の気持ちを言動で示すようにしようと心に誓った。
そして──。
セドリック様の誕生日当日。
顔見知りの人たちを呼んでの誕生日パーティーは大いに盛り上がった。パーティー会場はちょっとした広さの部屋を借りようとしたのだが、百人は入るようなフロアで、料理も気軽な立食形式。顔を見せる人たちは城の人たちが多く、誕生日パーティーというよりも城の人たちとの懇親会──のような気がした。
その後、ジャクソンさんと作った誕生日ケーキを出した時は、セドリック様はすごく喜んでくれたし、誕生日プレゼントも山のように色んな人がセドリック様に贈っていた。
(ご両親とディートハルト様、クロエ様と知り合い数名だったはずなのに……すごいことになってしまった……)
誕生日パーティーの最後にダグラスとスカーレットが空に花火を打ち上げていたので、もはやお祭りだった。二人とも「今度は自分らの誕生日パーティー」がしたいと提案までしていた。
一年に一度自分の生まれた特別な日。寿命が長くても大事にしたい。そんなことを考えつつ、私はセドリック様と自室に戻った。
「オリビア」
部屋に戻るとセドリック様は後ろから私を抱きしめた。部屋の明かりをつける前だったので、目が慣れるまで少し時間がかかる。
腕の中に閉じ込められたまま向かい合うと、セドリック様は白の燕尾服に、深紫色の髪紐で髪を軽く結っており思わず見惚れてしまう。
「こんな風に祝ってもらったのは成人の儀以来です。ありがとうございます」
「それなら企画した甲斐があります。……まあ、こんな大規模になるなんて予想外でしたけれど……」
「オリビアが動いたからここまで大規模になったのですよ」
「え?」
耳元で囁くので、心臓の鼓動が早鐘を打つ。
セドリック様の声はとても柔らかい。
「オリビアは気づいていないのかもしれませんが、貴女のために何か力になりたいと思う人たちはたくさんいるのです。私もその一人ですが」
「それは……光栄です」
「オリビアからの贈り物。箱を開けたのですが、あのカップは私とお揃いの」
「はい。この先も一緒にお茶の時間を設けたいので、お揃いのカップに名前を書いてみました。あと簡単に絵も」
「オリビアのそういう考えがとても好きです」
(大量のプレゼントに埋もれていたはずなのに……。本当にこの方は)
臆病だった私を変えてくださった愛しい人。
甘え上手で、いつも気遣ってくれて、尊重してくれる。
傷ついて何も持っていなかった私を見つけ出して、愛してくれた。
求愛を信じられなかったころの私はもういない。
心臓の鼓動がうるさいし、緊張するけれど──。私は背伸びをしてセドリック様の唇にキスをする。
啄むような甘いキスを。
こんな風に少し大胆に行動ができるようになったのも、セドリック様の影響だ。
「オ、オリビア……!」
「愛しています。これからは私がもっと旦那様のことが好きだって伝えていきますね」
「……! ええ、それは楽しみです」
互いに見つめ合ったあと、二人で笑った。
その後は言葉もなく、惹かれ合うように自然と唇が重なった。
いつも読んでいただきありがとうございます*:゜☆ヽ(*’∀’*)/☆゜:。*
最終話です!最後までお付き合いいただきありがとうございました!
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お楽しみいただけたのなら幸いです!
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