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第1話 虐げられ続けた令嬢

全26話想定(※一話分の文章量が多いので話数を増やしました)

この度別の作品ですが、電子書籍配信が決定しました(੭ु ›ω‹ )੭ु⁾⁾♡

 鉄格子のある窓の外は澄み切った青空が広がっており、どこまでも自由に見えた。

 檻のような屋敷で、寝る間もないほどの発注書が山のようになっている。


 エレジア国に保護されて今日で三年目。今抱えている発注書を終えれば、この屋敷から、いや叔父夫婦から離れて国を出ようと思っていた──いや、そういう約束だったはずだ。

 それが覆る。


「オリビア・クリフォード子爵令嬢、おめでとうございます。竜魔王の生贄に選ばれました!」

「え」


 名誉なことだと言わんばかりに張りのある声が屋敷内に轟いた。

 地獄が終わったと思えば、新たな地獄の釜が私を誘う。どこまで行っても終わらない永久牢獄。

 それが私の人生なのだろうか。


 竜魔王。

 生贄。

 どれも初耳だ。

 自室で内職をしていた私は何事かと自室を出た。この三年、食事は最低限しか出してもらえなかったのと、一日中部屋に軟禁状態だったため足腰の力が衰えているからか、ふらふらしながらも屋敷入口へと向かった。


 ふと廊下にある姿見に自分の姿が映った。

 ここ三年、自分の身なりに気を遣う暇もなく骨ばった体、寝不足で不健康そうな少女が自分だと思わず、一瞬固まってしまった。


 長い蜂蜜色の髪はぼさぼさで、アメジストの瞳は寝不足で目が充血している。服装も使用人たちの紺のドレスをアレンジして着こなしているが、継ぎ接ぎだらけでどう見ても子爵令嬢とは見えない。


(さすがに、このままじゃ駄目ね)


 手櫛で軽く髪を梳き少し整えたて、廊下を歩き出す。焼け石に水だったかもしれないが、気持ちの問題だ。


 屋敷内はざわついており、先ほどの声は屋敷の玄関口からだったと思い急ぐ。

 吹き抜けの階段のところまでなんとか辿り着き、そこで屋敷を尋ねた客人たちが誰なのかわかった。


 法衣に身を包んだ枢機卿と、甲冑に身を包んだ騎士たち。

 物々しい空気に屋敷の使用人や侍女たちも動揺しており、枢機卿の後から屋敷に足を踏み入れた人物によってさらに空気が変わった。


 この国の第二王子クリストファ・ドナルド・ドレーク、私の婚約者が現れた。金髪碧眼の美丈夫で、佇んでいるだけでも雰囲気が違う。今年二十三歳という若さでありながら、国王の片腕として政務を執り行っている。民衆からの支持もあり「王族の鑑」と使用人たちが話しているのを耳にしたことがあった。


 婚約者となってから半年は足しげく屋敷に通ってくれたが、一年、二年と経つにつれて顔を見せずに発注書やら頼みごとの書状ばかりが増えていった。贈り物は定期的に寄こしてくれるものの、その殆どは叔父夫婦や使用人たちに奪い取られてしまったが。

 久しぶりに顔を見せた殿下は、私に声をかけた。


「やあ、オリビア嬢」

「クリストファ殿下、竜魔王の生贄とは……何かの冗談でしょうか?」


 困惑する私に、クリストファは柔らかな笑みを浮かべた。

 その笑みに安堵しかけた直前。


「いいかい、オリビア。竜魔王から直々に指名を受けるなんて、これ以上の名誉なことはない。婚約者としてとても、とても辛いけれど……これも我がエレジア国の繫栄のため受け入れてくれるだろう」

「なっ」


 耳を疑うような言葉に、固まった。

 あっさりと婚約者を切り捨てる声のトーンが、愛を囁く時と変わらないのだ。つまり彼にとって私はその程度の存在だったのだと今更ながら思い知らされた。


 もっとも薄々は気づいていた。

 クリストファ殿下の婚約者となったのは三年前。亡国の令嬢を王族が保護する名目で婚約は結ばれた。


 そこには政治的取引しかなく、愛はない。「オリビアを思うことはない。けれどこの国の次の世代の王として、生活が困らないように尽力する」と言葉をかけてくれたのだ。言葉通り衣食住の手配をしてくれた。

 だから愛はなくても、情のようなものはあると期待していた──いや、そう思いたかった。


「クリストファ殿下。話が違います!」

「そうだったかな」

「私たちは祖国フィデスの呪いを解く方法を模索するため、錬金術や付与魔法の提供の代わりに三年の間の保護を条件に入国したと叔父から聞きました。婚約をするのも一時的なもので、祖国を復興させるため助力していただけると──」

「おや、君の叔父夫婦から聞いた話とはいささか異なるようだが。……国民が石化して滅んだ国などより、我が国の危機が大事なのだからしょうがないだろう。何より君が我が国に亡命して三年、石化を解く方法を見つかってないと聞くが」

「それは……。魔導ギルドに委託からの報告がまだなだけで、調査を進めてくれているはずです」


 三年前、竜魔王の加護が消えたからか魔物の襲撃によって、国民全てが石化し祖国フィデスは滅びた。叔父夫婦と私は偶然にも隣国のエレジアの領土にいたため石化から免れた──らしい。

 ただこのあたりの記憶が曖昧だ。


 なぜ隣国に居たのか、自国で私はどのような生活をしていたのかが殆ど思い出せない。日々、錬金術や付与魔法の研究をしていたような──森の大きな屋敷で暮らしていた──そんなぼんやりとした記憶だけしか残っていない。


 叔父夫婦は王族に期間限定で保護を求め、その見返りに祖国の錬金術や魔法の技術を提示した。その結果、私の三年は回復薬(ポーション)、毒消し、美容の若返りなどの薬を調合で消えた。


 魔法に関しては、魔物除け、魔法防御、物理防御などが付与された小物の注文が多く寄せられていた。これらの収入源は王族であるクリストファ殿下、そして叔父夫婦によって搾取され残った僅かな金額は魔導ギルドへの調査依頼へと送金していた。


(きっと何かの間違い……。ちゃんと調べて貰えれば……)

「その魔導ギルドだが問い合わせたところ、そんな依頼は来ていないと言っていたぞ」

「え」


 毎月、叔父夫婦に研究費を渡していたはず。そもそも魔導ギルド職員に屋敷まで足を運んでもらい、依頼内容もしっかり目を通し、署名捺印まである。だがそれすらもクリストファ殿下は否定した。


(まさか……。今までの叔父夫婦が豪遊に使ったのは、私が渡した研究費!?)


 周囲を見渡すと叔父夫婦の姿が見えない。叔父は仕事だったとしても、夜会やパーティー、買い物以外は屋敷に居る叔母が居ないのはおかしい。


「そもそも百年以上前に滅んだ国を今更復興したいなど、何を考えているのだ」

「なっ──」


 先ほどの言葉よりも衝撃的で、脳天を殴られたようだった。私にとって三年しか時が経っていないというのに、殿下との話が嚙み合わない。今更ながらに疑問があふれ出る。


(三年だと思っていたのは私の記憶違い? でも隣国の街並みや雰囲気がだいぶ違うと感じたのは、隣国だから──ではなく時代の違い?)


 お茶会や社交界での会話に時々違和感があった。服装もより派手で洗練されたデザインになっており、建造物も隣国とは違い発展していると衝撃を受けた。


 なにより私を屋敷に閉じ込めるように毎月山のような発注書が届く。そのせいで他に頭を回している余裕もなかった。錬金術や付与魔法は我が国では珍しくはなかったけれど、滅亡して百年が経っているなら失われた技術になるのでは?

 竦まれて、何も知らない私を利用して、搾取し続けていた──?


「さあ、我が国の生贄、いや()()として指定の場所へ案内しよう」

「クリストファ殿下、待ってください!」


 ここで諦めたら誰が祖国の呪いを解くというのだ。そう反論しようとしても、有無を言わさず私は保護というか拘束された。


 逃亡を恐れてか甲冑に身を包んだ騎士に囲まれて、両手を縛り上げられる。これではまるで罪人、いや生贄じゃないか。どこが聖女だというのか。この国の聖女が人身御供となる存在を指すのであれば、間違いではないが。


「そもそもフィデス王国の復興を掲げていたのはクリフォード子爵の発案とお前は言うが、社交界で子爵がそのような発言や行動を一切見ていない」

「なっ……」

「お前を働かせる口実があれば何でも良かったのだろう。亡国の復興など誰も望んでいない」

(そんな……。私の三年間の全ては一体なんだったというの)

「きゅう!」

「フラン!?」


 私の部屋から飛び出してきたのは、緋色のオコジョのフランだ。三年前に私と一緒にエルジア王国に入国した大切な友人。


 最初の頃は病弱だったのが看病の末、今では元気いっぱいに屋敷内を飛び回るようになった。伯父の話では、フランはかなり上位精霊で人にも見えるらしい。フランは私の肩に乗り、枢機卿とクリストファ殿下に向けて毛を逆立てて威嚇する。

「フーッ!!」と、クリストファ殿下に敵意を向け襲い掛かる。


「ひっ!」

「殿下、お下がりください!」


 枢機卿が手を翳し魔法障壁を展開。

 突如フランの目の前に白い魔法障壁が生じ、フランの体は弾かれてしまう。


「きゅん!」

「フラン!」


 フランが床に叩きつけられそうになるのを抱きとめようと駆け出したが、騎士たちに体を抑え込まれてしまい床に倒れ込む。「大人しくしろ」と、怒号が飛ぶ。


「――っ!」


 激痛が走り、うめき声が漏れた。

 骨が軋む。力任せに床に叩き潰された際、足首を痛めたようだ。


 いや足だけではなくあちこちが痛い。

 熱い。

 息が苦しい。それでも床に転がるフランの元に這ってでも向かおうとした。それが気に入らなかったのか、クリストファ殿下は私の体を何度も踏みつける。


「第二王子である、私に、怪我を、させようとするのは、どういうつもりだ。答えろ、オリビア!」

「がっ、……ごほごほっ」


 暴行を受けても誰も助けてはくれなかった。自分の身を護るため両腕で頭を庇い縮こまる。理不尽で身勝手な言動。意識が遠のきかけた時、枢機卿が声をかけた。


「クリストファ殿下、これ以上はお控えください」

「しかしサイモン枢機卿。王族である私を──」

「上位精霊が暴走するというのは、契約者の感情が大きく乱れたからでしょう。彼女は大切な聖女様ですよ。あまり傷をつけてはなりません。……竜魔王の怒りを買いたいのですか」

「っ──チッ」


 竜魔王。

 その言葉にクリストファ殿下は動揺し、苛立ちを呑み込んだ。

 海の彼方に存在するグラシェ国は、竜人族やドワーフ族、エルフ族など多種多様な種族が存在する古き神が残した大国で、祖国フィデスと国交を結んでいた。


 昨今、魔物問題に人類が怯えずに暮らしているのも全て竜魔王が存在しているからに他ならない。人類にとって絶対に敵に回してはならない存在、そう昔から教えられてきた。


 王族であるクリストファ殿下ですら下手を打てないとわかっているからこそ、これ以上の暴行はなかった。逆にそれだけの理由がなければ暴行は続いていただろう。竜魔王によって命が救われた──いや竜魔王の生贄発言がなければ、私がこうなることもなかったが。


(エレジア国の次はグラシェ国……。死ぬまで利用されて搾取され続けるの?)

「サイモン枢機卿、彼女に治療をかけてやれ」

「承知しました。それでは聖女様は私どもが責任をもって竜魔王様にお届けします」

「ああ、そうしてくれ」

(フラン……)


 床に倒れているフランへ手を伸ばそうとするが届かない。

 あと少しだというのに体が痛くて動かなかった。


 竜魔王のお告げ。

 生贄なんて国交を結んでいたフィデス王国にはない風習だった。

 竜魔国グラシェは竜魔人が治める法律国家で、秩序と統制が取れた自然豊かな国。竜の庇護を受けていたフィデス王国は貿易も盛んだったのに現在は──この国と国交を結んでいるのか。


(どうして、こんなことに?)


 昨日までは貧しいながらもフランと一緒だったから耐えられた。三年の期限も目前で僅かな希望だってあった。亡国の令嬢としてエレジア国に保護され、子爵としての地位を用意してくれた。叔父夫婦が豪遊していなければ、生活する分には困らなかったはずだ。


 全ては都合のいい情報だけを与えて、いいように手のひらで踊らされていた。

 私は知らな過ぎた。亡国を救うために内職する日々ばかりで、情報を集める時間がなかったなんてそれは言い訳でしかない。


「では聖女様を馬車に」

「はっ!」

「痛っ、待って。待ってください。フランを、フランを助けて!」

「ああ、大丈夫だよ。オリビア」


 甘い声でクリストファ殿下は私にそう告げた。最後の慈悲でフランを助けてくれるのだろう。そう思っていた私の期待は一瞬で打ち砕かれた。


 クリストファ殿下が抜身の剣を手にしている姿を見た瞬間、ゾッと背筋が凍り付いた。その刃先は私ではなく、フランに向けられたのだから。

 唇が戦慄き、衝動的に飛び出した。騎士たちを振り切ろうとするが間に合わない。取り押さえられ床に叩きつけられる。


 痛い。

 苦しい。

 でもそんなことよりもフランを──。


「殿下、……どうか。お願いです、フランを」

「君も生贄になって奉げられるのだから、せめてもの情けに上位精霊も一緒に送ってあげよう」

「や、やめてぇええ!!」


 私の言葉も虚しく刃は振り下ろされた。



 ***



 その日、私は馬車で神殿の医務室へと案内された。もっとも外見で見えるところのみの治療で、折れた骨はそのままだった。


 その後、神殿で『清浄の儀』と称した水浴びを強要され、身綺麗にはなったが質素で飾り気のない麻の服に袖を通した。装飾品の一つもない。

 けれどフランを失った今、私にはどうでもよかった。

 神殿の聖女見習いたちの心ない暴言も、嫌がらせも、どこか遠くから聞こえてきて現実味がない。


(フラン……。ごめん。私と出会わなければ、あんな死に方なんてしなかったのに……)


 聖女見習いたちは私の反応が乏しかったからか、早々に飽きてどこかに行ってしまった。嫌がらせや罵倒、体罰も叔父夫婦や屋敷の使用人たちから受けることが多かった。だから慣れていると言えば変だが、感情が死んでいたと思う。


 あっという間に神殿での準備を終えた所に、修道服に身を包んだ女性が姿を見せる。私と異なり上質な絹で作られた白いドレスに身を纏い、金の刺繍をあしらったベールを被っていた。私と同世代だろう。


 桃色の髪に、透けるような白い肌、彼女は──エレジア国の聖女エレノア様だ。

 もし本当に竜魔王が聖女を望んだのなら、彼女が生贄の役目を担わなければならないというのに、どうして私になってしまったのだろう。


「身代わりご苦労様、ハズレくじを引いた()()鹿()()()()()()()()

「…………え」

お読みいただきありがとうございました☆^(o≧∀≦)oニパッ

全21話の作品で毎日2話ずつ更新予定です。最終話までお楽しみいただけると幸いです。

たぶん、過去最高の長いタイトルになりました( ’༥’ )ŧ<”ŧ<”←

次は20時過ぎに更新予定です。



下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

感想・レビューもありがとうございます。


昨日完結しました

死に戻り聖女様は、悪役令嬢にはなりません! 〜死亡フラグを折るたびに溺愛されてます〜

https://ncode.syosetu.com/n7864gi/

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コミカライズ決定【第一部】死に戻り聖女様は、悪役令嬢にはなりません! 〜死亡フラグを折るたびに溺愛されてます〜
エブリスタ(漫画:ハルキィ 様)

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

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攫われ姫は、拗らせ騎士の偏愛に悩む
アマゾナイトノベルズ(イラスト:孫之手ランプ様)

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

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『バッドエンド確定したけど悪役令嬢はオネエ系魔王に愛されながら悠々自適を満喫します』
エンジェライト文庫(イラスト:史歩先生様)

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