四帆とデート 2
漫画喫茶。
外はパッと見、保育園のように見える。
二階建ての施設だ。
入場料を払い、中へ入る。
施設内は図書館のようにガーッと本棚が並んでいる。
ここに並べられている本は全て漫画だ。
漫画好きな人にとっては堪らない空間だろう。古本屋に来て、罪悪感なく立ち読みが出来る空間だと思ってもらえると分かりやすいかもしれない。
「爽。私こっち」
施設内を見渡していると、四帆は軽く片手を振って俺とは逆の方向へ足を動かした。
そうか、四帆は目的の漫画があるんだもんな。
そりゃ一直線に向かう。
「さて……」
俺も何か読みたい漫画でも探すかな。
と、いうことでアニメを観て続きが気になった作品を何冊かピックアップし、読み進めることにしたのだった。
漫画を読むという行為。
ここに至るまでは割と労力がかかるのだが、手に取ってしまえば時間経過はあっという間。
なぜ、読むのが嫌だったのだろうかと思うくらい手は紙を捲るし、時計の針はグルグルと回る。
太陽が沈みかけており、オレンジ色に空は染っている。
とてもキリが良いとは言えないタイミングだが、これ以上読み進めると絶対に止まらなくなってしまうので自制する。
「うぅ……」
ぐーっと背を伸ばす。
一応漫画を本棚から取りに行く時に立ち上がって歩いたりしていたが、本当に一瞬だったので体の節々が悲鳴をあげている。
ずっと少し体を丸めながら、普段しないような姿勢で本を読んでいたので致し方ないだろう。
寝っ転がりながら本を読める自宅はやはり神だ。
筋肉をググッと伸ばし終え、漫画を片付ける。
「四帆のやつどこ行ったんだろうな」
俺は俺でずっとこの場所を陣取っていたので、四帆がどこの場所を陣取り漫画を読んでいるのか分からない。
せめてタイトルくらい聞いておくべきだった。
そんな後悔をしながら、四帆を探す旅に出た。
昼食という存在を忘れながら漫画を読み続けていたので今更ながら腹が減ったという感情が湧いてくる。
せめて、四帆を見つけてからこの感情が出てきて欲しかった。
「んー」
暫く歩くが中々見つからない。
四帆が最初向かったのはこっちだったと思うので、多分この辺に居るとは思うんだが……。見つからない。
外面だけは淡麗な四帆だ。その辺にいたら目立つし、見落とすなんてことは無いと思う。
メッセージを一通送った方が早いかなとか思っていると、四帆を見つけた。
窓際でグダーっと今にも蕩けそうな姿勢で漫画に目を落とす四帆。
なんの漫画なのかなとタイトルを確認すると異世界系の漫画だった。
ウチには置いていない漫画だな。
「おーい、四帆さーん」
四帆の耳元で囁く。
顔を顰め、小さくため息を吐き、俺の方に視線を向ける。
俺の事を見つめ、何も言わずにまた漫画へ視線を落とした。
何も言わずにまた漫画を読むという中々の強硬策に驚いてしまうが、見た感じそろそろこの一冊を読み終えそうな段階。
とりあえず読み終えるまでは待ってあげようか、という良心の元、俺は黙って四帆のことを見つめる。
こうやって、四帆のことを見ているとやっぱり綺麗だよなと改めて認識させられる。
動かないで喋らなかったら俺も簡単に惚れていたと思う。
まぁ、実際は動いても少しネジ外れてるし、喋ってもやっぱりネジが外れている。
神様はこういう所でバランスを取ってくれているつもりなのだろうか。
俺が四帆と同じことしたら気持ち悪い扱いされるだろうけど、四帆がやれば個性だと良い捉え方をされる。結局世の中は顔なんだよ。顔と金。
「ん。読み終わった」
パンっと小さく音を立てて漫画をとじた四帆。
立ち上がり、ぐーっと背を伸ばす。
サラッと揺れた長い髪の毛。そこから香ってくるシャンプーの良い香り。
「お腹空いた」
「大丈夫。俺もちゃんと腹減った」
「じゃ、何か食べよう」
「そうだな」
そこそこ大きな街だ。
漫画喫茶を出て、駅の方面へ向かえば大体の飲食店は揃っている。
四帆と街中へと出てくる。
駅ビルの中にあるレストラン街へやってきた。
「どれも美味しそうに見える」
「奇遇だな。俺も全部美味そうに見える」
昼食を抜いたからか、妙に魅力的に感じてしまう。
今なら一件ずつ回っても全部美味しくい食べれちゃうんじゃないかとさえ思ってしまうほど。
もちろんやらないけど。
「ここ」
「石窯でハンバーグ焼いてくれるのか。良いね」
「決まり」
こうして俺たちはハンバーグを食べるというデートらしいデートをこの時間になって初めてしたのだった。
というか、俺の周りの女の子はハンバーグが好きなやつばっかりだな。
まぁ、俺も人のこと言えないけどね。
目の前に出されたハンバーグに食らいつきながらそんなことを考えたのだった。