四帆とデート 1
ゴールデンウィークの真っ只中。
俺には予定がないと以前口にしたがあれは嘘だ。
実は俺には予定がある。
ゴールデンウィークに予定だ。大切なことなので繰り返す。ゴールデンウィークに予定だ。
ここだけでとんでもない陽キャ臭がすると思うが、聞いて驚かないで欲しい。
なんとゴールデンウィークに女の子とデート。しかも可愛い女子高生という喉から手が出るほど欲しがる人が山ほどいるであろう付加価値がある。
俺の人生もゴールデンって訳だ。
今俺は待ち合わせをしている。
とある駅に併設されているコンビニの真ん前。
コンビニの自動ドアが開く度に中から店内放送が聞こえてくる。
その時々聞こえてくる店内放送を聞きながら俺は優雅にスマホを弄る。
やはり、ゴールデンウィークに女の子とデートをするという行為は心に余裕を与えてくれる。
「来た」
俺の目の前にやってきた女性。
今日のデートのお相手だ。
「うし、行くか」
「待って、飲み物買ってく。ここからそこそこ歩く。疲れるから」
四帆は俺のことを制止し、一人流れるようにコンビニへと入店した。
数分するとコンビニから出てくる。
手には一本のお茶のペットボトル。
キャップを開けながら歩き始めた。
俺は置いてかれないように着いていく。
「四帆。デート場所あそこで本当に良いのか?」
四帆に提案されたデート予定は比較的まともなものだった。
海外旅行なんていう金持ちの戯言みたいなプランじゃなく、この辺にあるデカい漫画喫茶へ行こうというものだった。
場所は隣の市だし、お金もそこまでかからないし、漫画好きだし……で迷わずに頷いたのだが、果たして四帆はこれで良いのか、デートと称して良いのか。
そんな不安が過ぎったのだ。
提案されたタイミングで訊ねることが出来なかったので今更ながら聞いているという感じ。
「うん。漫画読み放題とか楽園」
四帆はかなりの漫画、ラノベ好き。
アニメオタクと言うよりも漫画、ラノベオタクの方が正しい。
実際、アニメはそこまで観ていないと思う。
そんな彼女にとって漫画喫茶は楽園。
そう言われてしまうと確かにそうなのかもしれないなと納得してしまう自分がいる。
更に考えてみると、四帆の周りに漫画喫茶へ付き合ってくれるような人は居るのか。
漫画喫茶自体に付き合ってくれる人はいるだろう。しかし、それはあくまでも四帆と遊ぶために付き合っているだけであり、漫画を読みたいから行くわけじゃない。
興味ない人が行ったって、つまらないだろう。
そこから漫画にハマる人もいるかもしれないが……。
とにかく、俺を連れていくという選択肢しかなかったんだろうなという結論に至った。
もしかしたら、俺とデートをしたい理由って結芽の対抗心ではなくこっちなのかもしれない。
「それは良かった。何読むつもりなんだ?」
「この前ハマったラノベのコミカライズバージョン。アンソロジーもあるらしい。あったらそれも読む」
読むものも決まっているらしい。
四帆の目はキラキラしている。
本当に楽しみにしているんだなってのがヒシヒシと伝わってきた。
一駅分の距離を歩き、隣の市にあるデカい漫画喫茶へと足を運んだのだった。