四帆から「来て」と言われた
結芽と四帆は朝のSHRが始まる前に教室へ戻ってくる。
果たしてどんな会話が繰り広げられたのだろうか。
俺には分からない。
だらだらと授業を受け、昼休み。
いつものように涼真と昼食を食べようと思い、コンビニのビニール袋を取り出した。
同時に四帆がこちらへやってくる。
「来て」
四帆はグッと俺の裾を引っ張る。
「なんで?」
「話したいから。ご飯持ってきて良いよ」
「どうしても?」
「どうしても」
「断ったら?」
四帆は俺の耳元までやってくる。
「爽が一昨日知らない女の子と手繋いで歩いてたって大声で言う」
そう囁くと何も無かったかのように真顔で俺の事を見つめる。
「嘘を広めようとするのはやめろ」
「でも、嘘ってばれない。私の方が信用度上」
「やかましいな」
さっさと周りからの信頼度がゼロになって欲しい。
そう切に願いながら四帆の頼みを聞き入れ、別の場所で昼飯を食うことにした。
向かったのは屋上。
もちろんながら人は居ない。
前回も当然のように入ってきたが、一応ここは立ち入り禁止になっている。
っても、鍵が壊れているので簡単に入れてしまう。
学校という機関の杜撰な管理体制が露呈している部分だろう。
まぁ、その恩恵をこうやって今受けられているわけなのだが……。
「で、なんだ? こんな人気のないところにまで呼んで」
四帆は周りの目を気にすることなく、口にするイメージがある。
誰に聞かれようが関係ない。秘匿なにそれ美味しいの?
こんなスタンスの人間だ。
「結芽とデートしてたって聞いた。さっき」
「ふーん。結芽からか?」
「そう」
朝外に連れ出された時に結芽から言われたのだろう。
正しい選択だと思う。
四帆に隠し事をすれば答えを見つけるまでところ構わず聞いてくる可能性があるのだ。
さっさと四帆に答えを突き付け、興味を失わせる。
作戦としてはこれ以上にない。
流石と言うべきだろうか。
結芽は四帆の扱い方をマスターしている。
「まぁ、そうだな。デートしたよ」
「なんで」
「デートに理由なんてあるか?」
いや、あるんだけどね。
ここまで一々説明していると、話がこんがらがる気がするので伏せておく。
「確かに」
ほら、四帆も納得してくれたしこれでオッケー。
「じゃあ私ともする? デート」
コンビニで買ったおにぎりを頬張っていると突然飛んできた問題発言。
脈絡……は全くなかったわけじゃないけれど、予想していないタイミングで予想していない言葉が飛んできたのは間違いのない事実。
焦って、むせてしまう。
せっかく楽しみにしていたおにぎりなのに、妙に出てくる唾液のせいで味が全くしない。
「正気か?」
「結芽はしてるのに私はしてないのヤダ」
腕を組み、さも当然のような感じで口にする四帆。
ただ、なぜこうなったのかは理解出来た。
結芽への対抗心だろう。
結芽は爽とデートしてるのに私は爽とデートできてない。負けた。勝つにはどうすれば良いか、私もデートすれば良いんだ。
多分こういう思考経路で辿り着いた発言なのだろう。
オタク特有の負けず嫌いが発動しているって訳だ。
「ま、そういうことなら別に良いけど」
「じゃあ決まり。私が予定考えてくる」
「珍しい。俺に押し付けてくるかと思ったわ」
こういう面倒ごとは全部押し付けてくる。
だから今回も覚悟していたのだが、どうやら予定は四帆が立ててくれるらしい。
ありがたい反面、ちょっと怖さもある。
これが結芽だったら手を離して喜べるのだが、相手は四帆だ。
突然海外旅行に行くとか言ってもおかしくない。
「行きたいところあるから」
この言葉を聞くと余計に怖くなるし、色々勘繰ってしまう。
やっぱりコイツ海外行きたいんじゃないだろうか。
「嫌なプランだったら拒否するから前々から教えてくれ」
とりあえず最悪の事態を避けるために拒否権だけは得ておく。
じゃないと不安すぎて夜も眠れない。
「分かった」
「頼んだぞ」
案外すんなりと拒否権を承諾してくれた四帆。
「じゃあ私は戻る。ご飯食べるなら一人で食べてて」
「ちょっ、酷くねぇか」
「ないから。ご飯」
四帆は鼻で俺の事を笑うと校舎内へと戻っていく。
流石に一人屋上で昼飯は悲しいので俺も校舎内へと戻って、余ったパンを結局、涼真と食ったのだった。
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