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結芽とデート 2

 お昼をちょっと過ぎたくらい。

 俺たちは今フードコートへ向かっている。

 映画館の目の前にはショッピングモールがあるのだ。

 そこのフードコート。一応映画館と連携しているらしく、半券を見せると色々サービスしてくれる。

 背伸びしてなんか高そうなお店とか行っても良かったのだが、これでも結芽のことはそこらの男に比べて熟知している。

 変に気取った店よりこういう一般庶民が好むようなお店の方が喜ぶのだ。

 たこ焼き一つで喜んでくれるかわいい女の子である。


 フードコートの一角に座る。

 お昼のピークは過ぎたみたいで、人の入りはパラパラという具合。

 うん、ピークが過ぎたってことにしておきたい。


 交代交代で自分の食べたい店へと向かう。

 残った方は貴重品等の見張りだ。

 後は席の確保という意味もある。

 別にこれに関してはする必要ない気もするけど、様式美だ。


 先に店へ向かったのは俺。

 適当にハンバーガーを買って帰ってくる。

 所要時間五分ほど。ファストフードの力はやはり偉大だ。

 ハンバーガー独特の匂いが俺の鼻を刺激する。

 匂いと戦いながら席へと戻ると、席に知らない人が座っていた。

 向かいには結芽が座っているので、席を間違えたというわけでは無さそうだ。


 「……」


 何があったのだろうかと、思考を巡らせる。

 目の前に座る謎の男、そしてその隣に立つ知らない男の二人組。

 もしも、なにか迷惑をかけてしまったのなら謝罪しよう。

 そんな気持ちで歩み寄ると結芽との会話が聞こえてくる。


 「一人? 良かったら俺たちと遊ばない?」

 「美味しいお酒出るところ知ってるんですよ」


 男二人が結芽へそう語りかける。

 瞬時にこれがなんなのかわかった。

 ナンパと呼ばれるものだろう。

 実際に目にするのは初めてだ。


 「私未成年なのでお酒はちょっと……」


 結芽は笑顔で穏便に済ませようと努力している。


 「大丈夫、大丈夫。犯罪ってバレなきゃ犯罪じゃないからさー」

 「いやでも、倒れたりしたら嫌ですし」

 「飲みすぎなきゃ倒れないから大丈夫!」

 「でも……」


 困ったような顔をする結芽。

 視線を泳がせ、目が合う。


 「すみません。私の彼氏が来たのでそこ退いてもらっても大丈夫ですか?」


 結芽は俺の事を指差す。

 コイツ俺を都合の良いように使いやがったな。


 「ちぇ、男いるのかよ。それなら最初から言えっての」


 男たちは思ったよりも素直に帰っていく。

 ブツブツ文句言われながら絡まれるところまで覚悟していたので、驚きだ。


 「何その顔。爽くんは私が彼女じゃ不満? 経緯はどうであればデート中なんだから良いでしょ?」


 結芽はプクッと頬を膨らませる。


 「いや、むしろ嬉しいけど……。じゃなくて、外でナンパとか実際にされるもんなんだな」


 喋っている途中で恥ずかしくなり、話題を少しだけズラす。


 「うーん。すごい珍しいことかって言われるとそうでもないかな。たまにあるぐらい」


 美少女たるものこれはもう決まった運命なのだろう。


 「あ、ご飯買ってきて良いよ」


 あまりにもインパクトの大きいことが起こって忘れていた。

 まだ、結芽はご飯を買ってきていない。


 「ありがとう。ナンパされないでね」

 「逆ナンなんてあるわけないだろ」


 そんな会話をし、結芽を見送った。



 結芽は昼飯を買って帰ってくる。

 これでやっと一段落。


 「なんか映画観ただけなのにすげぇ疲れたわ」

 「だねー。あ、これ思ったよりも美味しい」


 ハンバーグを口にする。

 俺相手だからなのだろうか。もう乙女っぽさを演じる気すらない。

 お昼ご飯を食べながら映画の感想を言い合う。

 といってもほとんど映画の記憶が無い俺は、覚えている範囲を繋ぎ繋ぎで感想を口にする。

 結芽は特に突っ込んでこないので、概ね間違っていないということなのだろう。


 映画に気を取られていたが、本来の目的を思い出す。

 結芽の秘密とはなんなのだろうか。

 ここまで一緒に過ごしてきて答えは見えてこなかった。


 「なぁ、結芽の秘密ってなんなんだ? 結局わからずじまいなんだが」


 遅めの昼飯を食べ終えた俺はフードコートを後にしつつ、質問を投げた。


 「なんでそんなに知りたいの?」

 「ずっと引っ掛かってるんだよね」

 「それだけ?」


 首を傾げる結芽に対して俺はコクリと頷く。


 「危ない……教えそうになっちゃった。秘密! でもね、きっと爽くんにとって悪いことじゃないと思うよ」

 「悪いことじゃない……か」

 「うん。爽くんは私のこと嫌い?」


 結芽はジーッと視線を送ってくる。


 「いや、嫌いじゃない」

 「でしょ。なら爽くんにとって嫌なことじゃないはず。私がここだけは保証してあげる」

 「そっか」


 ここまで結芽が言うのならそうなのだと思い込むのが良いのだろう。

 腑に落ちないのは事実だが、無理矢理これ以上詮索する必要も無いと思う。


 「じゃ、帰ろっか」

 「うん」


 無理矢理探る必要はないと判断したということはこのデートの意味も失われたに等しい。

 だから、帰る。

 結芽との楽しいデートも終わりだ。

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