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二人を連れて

 帰宅する。

 当然のように結芽も四帆も居る。

 俺が失ったと思っていた日常の一欠片はこうやって戻ってきた。

 嬉しいことだが、気がかりな点が綺麗さっぱり無くなったかと問われると頷けない。

 まずは、夏葵。

 彼女は結局俺に連絡をすることも無く俺の前に姿を見せていない。

 結芽や四帆は気にしていないと言ってくれても、幼馴染三人が全く同じことを思っているような機械的なことはないだろう。

 故に、嫌われている可能性はどうやっても否めないという点がまず一つ。

 もう一つは結芽の反応の悪さだ。

 あぁやって改めて面と向かい、怒っていないと言われれば流石に信じないわけにはいかない。だから、結芽が怒っていない。それは理解した。

 怒っていないのだとしたらなぜ反応が悪いのか。

 どう頑張ってもこの結論に辿り着けなくてどうしてもモヤモヤしてしまう。


 「爽くん。一緒にやる?」

 「いや、俺はパス」

 「違う。爽は私と漫画読む」

 「読まねぇーよ」

 「ケチ」


 それぞれがそれぞれの定位置に纏まる。

 結芽はゲームのコントローラーを握ってスクリーンに注目し、四帆は本棚から本を取るとそのまましゃがみこんで、ペラペラと音を立てながらページを捲っていく。

 会話は特にない。

 いつものようにそれぞれがそれぞれのやりたいことにのめり込む。

 素晴らしい時間だ。


 コントローラーの音、ゲームのBGM、紙と紙が擦れる音。

 この中で俺は思案する。


 結芽に対する気がかりな点から解決していくべきだろう。

 夏葵の問題はかなり大きい。嫌われている人相手に謝るのは相当難しい。

 少なくとも今の俺には出来ない。

 仮に謝罪する場面をセッティング出来たとしても、臆病な俺は逃げてしまうだろう。

 だから、後回し。もう既に逃げているような気もする。


 解決方法は分からない。

 結芽はさっき秘密的なことを口にしていた。

 つまり、結芽自身が教えることは無いから、俺が推測し、答えを導き出さなければならない。果たしてそんなことが俺に出来るのだろうか。


 「爽くん……。どうしたの?」


 無意識のうちに結芽を見つめてしまっており、結芽は顔をカーッと赤くする。


 「すまん。ちょっと考え事してた」

 「まだなにか悩んでるの?」

 「あぁ。うん、まぁ……」


 ここで素直に悩み事を口に出来る性格であればきっとここまで苦労していないんだろうなと思いつつも、やはり怖いことには変わりないので押し黙ってしまう。

 そんな自分が嫌になる。


 自分に嫌悪感を抱きつつも導き出した一つの答え。

 そのうち行動に移すとしよう。


 考えることをやめてから俺は漫画を読んでいた。例の幼馴染がくっつくラブコメだ。

 気付けば外は真っ暗。

 もう夜になっていた。


 「ほれ、お前らもう帰れ。親が心配すんぞ」

 「大丈夫、ここに居るって分かってるから」


 四帆はグッと親指を立てる。

 何が大丈夫なのか。

 娘が男の家に夜遅くまで居るって何も大丈夫な要素ない気がする。

 あるのか……? いや、無い。

 一旦頭を冷やして考えてみたがやっぱりそんな要素はどこにも見当たらない。


 「何も大丈夫じゃないから帰った、帰った!」


 不満げな表情をする四帆は堂々と漫画を持って部屋の外に出る。

 今日まで借りていた漫画はしっかりと本棚にしまわれているので、別に咎めるほどでもないだろう。


 「四帆先外行ってて! 私これ片付けるから」


 結芽はコントローラーを四帆に見せる。

 四帆はコクリと頷いてそのまま音を立てて階段を下っていく。

 部屋には俺と結芽の二人だけ。


 「片付け手伝うよ」


 居心地と間合いが悪く、自然さを意識しながら結芽へ声をかける。


 「良いよ。私が遊んでたんだし」


 ニコッと微笑み返されると、手際良くゲーム機を片付けていく。


 「そっか」


 唯一見つけた言葉を簡単に切ってしまい、どうすれば良いか迷ってしまう。

 本題へ入る前に一つ何か会話を挟んでおきたいという気持ちと、そんなことしてる暇はないだろうという葛藤。

 しばらく悩み、悩んでる時間があるならさっさと伝えるべきだという結論に至る。


 「なぁ、結芽。俺さお前が不機嫌だった理由未だに分からないんだよ」

 「あ、そのこと? それは秘密」


 ポニーテールを揺らし、口元に人差し指をおく。


 「いや、それは分かってるんだけどさ。一つだけヒント欲しいんだ」

 「ヒント?」

 「うん、ヒント」

 「良いよ。答えにならなきゃ一つのだけ答えてあげる」


 ゲームのコードを結びながら、視線はこちらへ向ける。


 「ありがとう。単刀直入に聞くけど、それって俺に関係ある?」

 「あるよ、ある! 大ありだよ」


 ゲーム機を収納場所へ片付け終えた結芽は腰をポンポンっと叩きつつ言葉にした。

 俺に関係があるなら俺の頭の中にある作戦は有効打なはず。

 ホッと安心しつつ、結芽へ視線を向ける。

 さっきまで余裕そうな表情を浮かべていた結芽だが、段々と頬を赤らめ、視線も泳ぎ始めた。


 「デートしてくれ」

 「ひぇっ!? デ、デート?」


 結芽は両頬に両手を当てる。

 耳まで真っ赤だ。


 「あ、別に嫌なら良いんだけど……」


 一応逃げ道を作ってあげる。

 結芽は俺の言葉に激しく首を横に振った。


 「むしろお願いしますって感じなんだけどね……。なんで?」

 「秘密って言いたいところだけど」

 「意地悪」


 結芽はプクッと頬を膨らませる。


 「って、言われると思ったからちゃんと教えてあげる」

 「何それ」


 そう口にした結芽は晴れやかに破顔した。


 「俺さ、やっぱり考えても結芽がしおらしくなった理由わからなくて。一日一緒に居たらなにか見えてくるかなって」

 「あー。なるほどね、良いよ。じゃあ、デートしようよ」


 さっきまで赤かった顔は元に戻る。


 「まだ?」


 部屋へと戻ってきた四帆に結芽は連れて行かれたのだった。

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