幼馴染達の前で「やっぱ、可愛い幼馴染って良いな」と呟いてから、彼女達の様子がおかしいんだけど。
五月の中旬。
結芽、四帆、そして夏葵に誤解を与えてから約一ヶ月。
無事に幼馴染三人の誤解を解くことが出来た。
未だに不用意な発言をすることはある。
こればっかりは俺のある意味個性なのだろう。
改善しようと思っても一ヶ月とちょっとじゃ変えられるものじゃない。
「なっちゃん! なんでそんなにジロジロ爽くんのこと見てるの!」
「そういう結芽ちーこそ、ゲームのコントローラー触りながら爽ちゃんのこと見てるじゃん!」
「私はゲームしながら爽くんのこと見てるだけ! なっちゃんみたいに凝視してないもん」
「スマホ見てるから。スマホ見ながら爽ちゃんのことチラチラ見てるだけだし」
「二人とも見苦しい」
「「四帆も同じだから!」」
今俺の部屋には結芽、四帆、夏葵の三人が居る。
それぞれがそれぞれ自分のやりたいことをやっている訳だが、なぜかその傍らで俺の事をチラチラと見てくる。
最初こそ漫画を見ていたが、たまに飛んでくる視線がどうも鬱陶しくて気が散ってしまった。
人に見られながら漫画を読むなんて普段しない。だから、どうしても気になる。
だが、こうやって一か月前ようにみんなで集まってダラダラと時間を過ごす。
こういう何気無い時間をダラダラと過ごせるようになったことはとても嬉しい。
一時期とてつもない喪失感に襲われていたが、それも最早懐かしささえ感じてしまう。
涼真や宮本には感謝してもしきれない。
この日常を取り戻せたのは間違いなくこの二人の尽力があったからだ。
涼真に関しては主に精神的支えという部分なので本人は何も思っていないのだろうが。
まぁ、心の中でしっかりと感謝しておこう。
日常を取り戻した。
俺はこれで良いと思っていた。
だが、現実はそう甘くない。
目標を達成すると新たな目標が生まれてくる。
更なる思いが芽生えてくるのだ。
新しい想いが芽生えてきたのが紛うことなき今の俺。
この想いは場合によって、今取り戻した全てを破壊してしまう可能性があるものだ。
だから、本来は表に出してはいけない。そういう想い。
しかし、時間が経てば経つほどこの想いは膨大になり、心の扉じゃ抑えられなくなってしまう。
これで関係性が壊れても後悔しない。だって、一度不用意に壊してしまったと思った関係性だ。
戻ってきたが、ここで壊れたとしても実質プラマイゼロ。やっぱり壊れてたんだと思うだけで済む。要するにダメージ半減だ。
俺は漫画を閉じて、ベッドの上に置き、「ふぅ」と深呼吸をする。
そして、ベッドの上に立ち上がる。頭上には天井がある。拳一個分も余裕が無い。
チラチラ見ていた幼馴染三人は俺が立ち上がったのと同時に視線を釘付けにする。
俺はその視線を感じながら大きく口を開く。
「やっぱり、可愛い幼馴染が目の前に居るって最高だなぁ!」
俺は胸の中にあった想いを全てぶちまけたのだった。
この瞬間幼馴染三人は顔を真っ赤にして俺の事を見つめた。
幼馴染達の前で「やっぱ、可愛い幼馴染って良いな」と呟いてから、彼女達の様子がおかしいんだけど。




