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「なんで俺の事ずっと避けてたんだ?」と聞く

 屋上へやってくる。

 5月らしからぬ涼しい風が俺の体を冷やす。

 夏葵はスカートを抑え、俺の方をじーっと見てくる。

 俺は夏葵の視線に対して首を横に振った。

 夏葵は安堵した様子で胸元に手を置く。


 「この辺で良いか」


 給水タンクの近くに腰掛ける。

 ここであれば給水タンクが壁になって、強い風は当たらない。

 ただ、本来は立ち入り禁止であるため、ベンチは設置されていない故に地べたに直接座らなければならない。

 当然ながら清掃もされていないわけで、ちょっと躊躇してしまう。


 「汚ぇな……」

 「大丈夫でしょ。この汚れ多分砂だし」


 夏葵は足で固まった砂を削っていく。

 段々と見えていた汚れは消えていき、ヒビが入った床が見えてくる。

 簡易的に綺麗になった床に直接座り、夏葵はお弁当箱を開ける。

 俺はそれを横で見ながら座り、コンビニのパンの袋を開けた。


 夏葵は箸でおかずを突っつき、俺はパンにかぶりつく。

 しばらく風の音と、鳥の鳴き声を聞きながらパンと睨めっこをする。

 食欲が落ち着いた頃合。

 そろそろ喋らなきゃなという気持ちが心の隅から中央へと顔を出してくる。


 「なぁ、夏葵。なんで俺の事ずっと避けてたんだ?」


 話題が見つからず無理矢理絞り出したもの。

 それがこれだ。自分で口を動かしてからまずいと思ったが、思った頃にはもう遅かった。

 表情こそ無表情をキープするが、内心は失敗してしまったという思いで苛まれている。

 変な冷や汗が出てきてしまうほどだ。


 「嫌いになったわけじゃないから」

 「いや……まぁ、それはもう信じてるんだけどさ」

 「避けてた理由は信じてくれないの?」


 あっという間にお弁当箱を空っぽにした夏葵は片付けに入っていた。


 「なんかそっちに関しては嘘なんじゃないかなって」

 「理由は?」

 「分からない。勘ってやつ?」


 ベタベタしてたから距離を取ったと某イタリアンレストランでは口にしていた。

 こう……理論立ててなんで嘘だと思ったかってことは説明出来ないのだが、嘘だろうなと思ってしまう。

 これでも長年幼馴染として付き合ってきた仲だ。だから、何となくというような勘が働いたりもする。


 「そっか。爽ちゃんはさすがだね」

 「……?」


 突然褒められてどんな反応をすれば良いのか分からなくなり、意味もなく首を傾げる。


 「爽ちゃんの言う通り嘘だよ。勘で当てられたのはちょっと悲しいけど」


 夏葵はアハハと人差し指で頬を撫でる。


 「あ、でも嫌いじゃないのは本当だから!」


 弁当箱をガタッと床に落とし、夏葵は思いっきり立ち上がった。

 立ち上がってから、五月なのに顔に紅葉を散らす。


 「ごめん」

 「いや、別に悪いことしてないだろ」

 「う、うん」


 しおらしく座った夏葵。

 視線をしばらく泳がせ、小さくため息を吐く。何かを悩むように、まるで恋焦がれし少女のように。

 一ヶ月近くまじまじと顔を見ていなかったからなのか、俺の頭の中にある夏葵のイメージと大きく乖離しているからなのか分からない

 だが、今不意にドキッとしてしまった。


 「爽ちゃん?」


 夏葵は俺の方に体を寄せてくる。

 下の方から上目遣いで俺の顔を覗く夏葵。

 この精神状態でこんなことをされてしまうと勘違いしてしまう。


 でも、夏葵はちょっと前まで俺の事を全力で避けていた。嫌いじゃないにしても好きでもないはず。


 自分に言い聞かせて、自我を保つ。


 「……じゃあ、なんで避けるようなことしたんだ? 俺かなりショックだったんだぞ」

 「え、そうなの? 爽ちゃん、ショックだったんだ。へー」

 「んだよ、ニヤニヤしやがって」


 まぁ、普段の俺はこんな素直に感情を吐露しない。そういうキャラじゃないからね。

 だから違和感というか、普段とは違うこの感覚が面白かったのだろう。


 

 「ううん、なんでもないから」


 夏葵はブンブンと首を横に振った。


 「爽ちゃんを避けたのは……その、恥ずかしかったから」


 夏葵は指をつんつんしながら、床を見て小さな声で呟いた。

 風の音で掻き消されてしまうんじゃないかというレベルの小さな声。


 「恥ずかしかった?」

 「うん、『可愛い幼馴染って良いな』って突然言われたらビックリしちゃうじゃん」

 「……で、恥ずかしくなって避けたと?」

 「うん、ごめんね。あ、でも爽ちゃんだって悪いんだからね」

 「は? 今のところに悪い要素なんて無かっただろ」


 なんだ怒らせてなかったんだなぁ、と勝手に安堵していると突然悪者扱いされてしまった。あまりに唐突で思わず反論してしまう。


 「あるよ、大あり!」

 「どこにだよ」

 「だって、爽ちゃん結芽ちーと四帆と遊んでたでしょ。誘われてないんだけど」

 「だって話しかけるなって。ってか、なんで知ってんだよ」

 「家近いんだからそれくらい分かるし」

 「夏葵に近寄るなって言われたから誘いたくても誘えなかったんだろ」

 「普通もっと積極的になるでしょ」

「ならねぇーよ。お前怖いし」

 「はぁ!? 怖い!? どこが」


 こういう所とは言えない。それにいつも一緒に居るやつも怖いってことも言えない。

 宮本が思ったよりも良いやつだってことを知った今ならもうちょっと積極的に出来たかなと思いつつも、結局夏葵に拒否されること自体に耐えられないので結果は変わらないだろうという結論に至る。



「私だって爽ちゃん義務感で話に来てると思ってたし」

 「じゃあ、お互い様ってことで」

 「う、うん……」


 こうして、俺たちは昼休みの時間をギリギリまで屋上で堪能したのだった。

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