涼真に「天使を誑かす野獣さん」と煽られる。
「よぉ、天使を誑かす野獣さん」
学校へ登校し席に着くと、俺の席の後ろに座る涼真が両手を俺の肩へ乗っけて、耳元で囁いた。
絶妙にイケボなのが腹立つ。
「んだよ」
「倉本に高城。どっちの天使もお前にベタ惚れじゃん」
「んなわけあるかよ。幼馴染だから一緒に居るのが当たり前みたいになってんだよ。どっちかっていうと兄妹に近いんじゃねぇーの」
「ふーん」
つまんなそうに手を肩から離した。
そして、席を立った涼真は俺の机へと座った。
「爽がそういうなら良いけどさ。そうだけにな」
涼真は一人で腹を抱えて笑っている。
コイツのことぶっ叩いても良いかな。
絶対に喧嘩売ってるよねこれ。
「はぁ。面白かった」
涼真落ち着くと「ふぅ」と息を吐きながら呟く。
何も面白くないというのはダメなのだろう。
俺は無表情で涼真のことを見つめる。
「そういう涼真だってモテるだろ」
「当然。だって俺だぜ」
「やかましいな」
話を振ったのは多分間違いだった。
「でも、俺だってあんな美少女は捕まえられないぞ。あれは俺からしても高嶺の花だからな。後悔しないように一人に狙いを絞って捕まえるのを俺は進めとくぜ」
「ハイハイ、そうですか。恋愛マスターの助言は素直に受け取っておきますよ」
「うわぁ、それ絶対三歩歩いたら忘れるやつだろ」
「お前俺の事鶏かなんかだと思ってるだろ」
「思ってない、思ってない……って、また天使様のご登場か。邪魔者はさっさと消えますとも」
涼真はケラケラと笑いながら、机から飛び降り、前の扉からそのまま教室を立ち去った。
涼真と入れ替わるように俺の元へやってきたのは夏葵だ。
眉にかかるかかからないか微妙な前髪を撫でている。
ちょっとだけ落ち着かないんだなってのが俺にも伝わってくる。
まぁ、それも当然か。
別に夏葵が接触したくて俺へ接触しているわけじゃない。
あくまでも、せざるを得ない状況だからしているだけ。
しかも、ここ最近はずっと絡んでいなかったのだ。
そりゃ、緊張の一つや二つして当然だろう。
いざこうなると何を話せば良いのか分からなくなる。
今まで顔を合わせて話していたのが嘘かのようだ。
俺も喋らないし、夏葵も口を開かない。
どちらも喋らないと当然ながら沈黙が流れてしまう。
異質な空気だっていうことは理解している。
周りから浴びせられる何とも言えない視線。結芽や四帆からも当然ながら飛んできている。
いや、結芽の場合はなにか迷っているようにも見える。
この中で唯一温かい視線を送ってくるのは宮本ただ一人。
この状況を作り出した張本人なわけだから、違和感を覚えないのは当然だ。
「……よぉ」
やっとの思いで捻り出した言葉。
これ以上は無理だった。
喋ろうとすると拒否されていたあの時のことがフラッシュバックするのも一つの要因といえよう。喋ってもまた拒否されてしまうんじゃないか。
そんな考えが過って、内容のある話が出来ないってのもある。
「別に嫌なら良いんだよ。俺が宮本を説得すれば良いだけだし」
逃げ道を作ってあげる。
嫌々一緒に居られるのは本意ではない。
一緒に居てくれるのであればそれ以上のことは無い。これは間違いない。
ただ、前提条件として一緒に居ることで「楽しい」や「嬉しい」場合によっては「幸せ」でも構わない。
何か一つそういうプラスの感情を持って欲しい。
マイナスの感情を持って義務感で接せられてもどちらも不幸になるだけだ。
「別に。嫌なら拒否するから」
「そ……そうか」
ここでキッパリと否定されると頷くことしか出来ない。
後は時間が解決してくれることを願うだけ。
「爽ちゃんこそ嫌なら拒否するば良いんじゃない?」
「俺が嫌そうに見えるか?」
「だって爽ちゃんって考えてること分からないし」
「俺は嫌じゃないから」
いつの間にかに呼び方が元に戻っている。
やはり、この呼び方の方が気持ちが良いし、安心感もある。
だから嘘偽りのないストレートな言葉を告げる。
これで夏葵の心の扉を開けたら良いなという希望的観測だ。
◇
昼休み。
当然ながら夏葵と食べなければならない。
「爽ちゃん」
夏葵はお弁当を持って俺の元へとやってくる。
水色の可愛らしいお弁当箱。
若干頬を紅潮させている。
「行くか」
「え、どこに?」
「うん? 屋上とか? とりあえず人目つかないところ行こうよ」
「なんで?」
夏葵は首を傾げる。
俺はリュックを漁りつつ、口を動かす。
「嫌じゃん。目立つの」
「確かにそれはそうかも」
「でしょ? だから行こうぜ、目立たないところにさ。別に屋上じゃなくても良いんだけどさ」
「良いよ、屋上で」
こうして俺たちはそれぞれ昼飯を持ち、屋上へと向かったのだった。
総合評価四桁いきました!
感謝!




