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幼馴染は「距離を取った」

 放課後になる。

 どうやら別々で向かうらしい。

 一緒に行くと夏葵が何か理由付けて逃げる可能性があるからだ。

 これに関しては俺もそうだなと思ったので、承諾した。

 飯を食べる場所は某イタリアレストランチェーン店。

 駅から一分もしないで到着できる、高校生の味方だ。

 常に金欠な俺のお財布に優しいお店。


 先に宮本達が教室を抜ける。

 少しだけ教室で待機する。

 理由は単純で後を着けるように歩くと夏葵にバレるからである。

 教室で何をする訳でもない。ただ一人残されて、意味もなく黒板を見つめる。

 黒板には何も書かれていない。無だ。

 スマホに視線を落とし、そこそこ時間が経過したことを確認した。

 俺は腰を上げ、リュックを背負い、教室から出たのだった。


歩くこと十数分。

 駅のロータリーが見えてくる。黒いタクシーが何台も停車している。

 ロータリーに沿うように歩き、左側に見えるビルの階段を下る。

 ここにあるのが目的のレストラン、某チェーンイタリアンだ。

 手動の扉を押して、店内へと入ると店員さんが厨房の方から気だるそうにやってきた。


 「一名様ですか?」

 「あ、いや、連れが先に入ってます」

 「あ、そうですか〜。それじゃあどうぞ〜」


 店員さんは席の方に手を向け、軽く頭を下げると厨房の方へと下がっていく。

 直ぐに俺は席の方を見渡した。

 一際目立つ集団。騒がしいのかと言われると別にそうじゃない。

 顔面偏差値が高いギャルっぽい集団。制服を着つつもバチバチにメイクをしていて、アイシャドウが目立っていたり、毛先がちょっと赤茶であったり、髪もメイクもしていないのに他の二人に見劣りをしない容姿をしていたり……と顔面偏差値が周りの客に比べて一際目立っているのだ。


 「あ、やっときた。爽ちゃん、こっち、こっち〜!」


 俺を見つけた宮本とパッと顔を明るくして手を振ってくる。

 食事中だった周りの客から視線を向けられる。

 恥ずかしくて、何度か軽い会釈をして、こっちを見るなと思いながら彼女たちの席へと向かう。


 「え」


 席に向かうと夏葵は露骨に嫌そうな表情を浮かべる。

 ステーキハンバーグにナイフを入れる何ともない一挙一動。

 どうしてもそこに恐ろしさを覚えてしまう。


 「はい、夏葵もそんな顔をしない」


 宮本はパチンと場を整えるために手を叩いて音を鳴らす。


 「夏葵は爽ちゃんのこと嫌いになっちゃったパターン?」


 楠本は宮本に続き、首を傾げる。


 「嫌いになったわけじゃないけど」

 「じゃあ、なんでそんなに嫌がるの?」


 楠本は俺の聞きたかったことを躊躇せず聞いていく。

 他人事だからなのか、図太さがあるからなのか。

 宮本もポカンと口を開けて楠本のことを見つめている。

 彼女からしても予想外だったのだろう。


 「だって……」


 夏葵はそれだけ口にしてから口を噤ぐ。

 そして何も無かったかのようにステーキハンバーグを口の中に入れた。


 「だって?」


 水を飲んでから楠本は首を傾げた。


 「いや、なんでもない。別に私的には嫌がってるつもりないけど」

 「嫌がってるよ! めっちゃ嫌がってる!」

 「そう。ちょっと私ベタベタしすぎてたなと思って距離取ったからじゃない?」


 淡々と喋り、手を休めることなく動かす。


 「そういうことー!」


 楠本はまた水を飲んで納得した。

 これで納得出来ちゃうのか。なんか将来変な商材とか買わされてそうで心配だ。

 あとで宮本に言っておくことにしよう。

 宮本の方へ視線を向けると、おしぼりを触っているが表情は晴れていない。

 むしろ、楠本を見て呆れているようにも見える。


 「だから。別に深い意味は無いの」


 と、夏葵は一人で締めくくった。


 「はぁ……」


 おしぼりを机上に置いた宮本は小さく溜息を吐いた。

 その小さな溜息は俺の方まで聞こえてきたのだった。




 「距離を取ったからってそんなにならないでしょ」


 終わった話を切り裂いて再度話を始めたのは宮本だ。


 「避けてたらそうなるよ」

 「ならないから」


 水掛け論が始まる。

 なろうがならなかろうがこの話の答えが纏まることは無い。


 「本当に嫌いじゃないんだね?」

 「だから何回も言ってるでしょ。そうだって」


 夏葵は鬱陶しそうに顔を顰めた。


 「そう。それじゃあ、アタシからのお願い。明日一日夏葵は爽ちゃんと行動して」

 「え?」

 「聞こえなかった? 明日一日夏葵は爽ちゃんと行動して」


 聞かされていなかったことに思わず驚いてしまう。

 宮本はこちらに目配せすらしない。


 「嫌いじゃないなら出来るでしょ?」

 「分かった。やれば良いんでしょ、やれば」

 「爽ちゃんも良いね?」

 「え、あ……っと、おう」


 俺と夏葵は明日一日一緒に過ごすことになったのだ。

 根本的には何も解決していない。なぜ俺の事を嫌ったのか。

 その原因を解決しようとせずに強硬手段に出た。

 これが良い事なのか悪いことなのかは分からない。きっと上手く行けば良かったなと思うし、悪ければ悪かったと思うだろう。

 要するにどっちにも転ぶ可能性があるということ。


 「一緒に行動してなかったら夏葵は爽ちゃんのこと嫌いってことにするから」


 宮本は楠本のコップを奪い、飲み干した。

 こうして今日は解散となった。

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