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授業中に「はぁ……」と溜息を吐く

 チャイムが鳴り、次の授業始まってしまう、

 それでも外へ出た夏葵は戻ってこない。

 流石に授業になっても教室へ戻ってこないとなると心配になってしまう。特に今回に関しては俺が大きく関わっているから尚更だ。心はかなり波立っている。

 だが、「せんせー! 夏葵ちゃんは体調悪いみたい的なこと言ってましたー」と宮本が言っていたのできっと大丈夫なのだろう。


 授業中、板書をノートに写す時に頭の中をクルクル走る夏葵。

 あそこまで綺麗に拒否されたのに諦めきれない。

 無意識に夏葵のことを考えてしまう辺り中々重症だ。


 「であるからして、明治新政府は外国からの圧力に屈しない国作りを目指したわけで……」


 教師は淡々と授業を進める。

 また板書を始め、俺は黒板を見つめ文章を頭の中に取り込み、ノートへ視線を移動させる。

 シャーペンをカチカチと音を鳴らし、シャー芯を出す。


 「……」


 ノートの上部にある空白に『夏葵に嫌われた』、『櫻井夏葵』、『夏葵夏葵夏葵』と狂ったように文字を書いていた。

 しかも、俺にしては上手い字で書いているのが何だか腹立つ。

 俺が思っているよりも避けられたことへのショックは大きいのかもしれない。

 そりゃそうか。今まで、それこそ物心が着いた頃から、なんなら物心着く前からずっと一緒に居たのだ。

 そんな彼女から嫌われた、避けられた。

 相手が美少女であろうが不細工であろうが喪失感は大きいだろう。

 俺の持っている感情は喪失感なのだ。


 「はぁ……」


 何だか全てが嫌になりノートを閉じて机に突っ伏せた。


 「中学でも学習する内容ではありますが、明治新政府を学習するにあたっての重要な政策である廃藩置県……」


 授業は俺が机へ突っ伏せても当然ながら先へと進む。

 まぁ、テスト前になったら結芽か四帆を頼れば良いか。

 今の俺に授業を受ける元気なんてどこにも無い。



 授業が終わる。

 チャイムが鳴り響くが、その音でさえやかましいと思ってしまう。

 授業が終わることへの喜びなんかはどこにもない。

 そう思ってしまうことに気付き、余裕が無いことを実感して更に自分が嫌になるという負の連鎖。


 「行く」


 俺の机へやってきた四帆はパシンっと百円玉を二枚俺の机へ置く。

 元々机の上を意味もなく凝視していた俺の視界にしっかりと百円玉が入ってきた。

 計算して置いたのか、たまたまだったのかは分からない。

 四帆ならばどっちでもあり得ると思う。


 「どこに」

 「自販機。飲み物買いに行く」


 四帆の方へ視線を向けると、四帆は廊下の自販機の方へ指をさしていた。


 「要らないんだけど」


 誘いは嬉しいが今は何か口の中に入れたいという気持ちがない。

 食べ物はもちろん、飲み物だってそう。


 「奢り、私の」

 「……」

 「だから着いてきて」


 袖口をグイグイと引っ張る四帆。

 そこまで言われると断れないので渋々立ち上がり、四帆の後をつけた。

 廊下に出て、自販機へと向かう


 「爽おかしい。何かあった? 私で良ければ相談に乗る」

 「何も無いよ。いや、無理か」


 隠し通そうと思ったが、俺の精神状態から鑑みるに顔に出ていたと考えるのが自然。

 であれば、何も無いと隠せるとは到底思えない。


 「あったのはあったけど大丈夫。自分で解決出来る」

 「分かった。信じる。でも何かあったら声掛けて。爽の力になりたいから」


 四帆はそう口にすると、自販機に百円を入れて飲み物のボタンを押した。

 そして、直ぐに百円を入れてココアを出した。


 「はい、爽」

 「サンキュ。なんでココア?」

 「ココアはストレス解消に良いらしい。だから、プレゼント」

 「すまんな」


 俺はグビっとココアを飲んで、近くにあるゴミ箱へ捨てた。

 いくら辛いからって周りに迷惑をかけるのは良くないだろう。

 一度気持ちを切り替えよう。

 俺は深く深呼吸したのだった。


 「なぁ、四帆」

 「ん?」

 「さっきの授業、ノート取ってた?」

 「うん」

 「じゃあさ、ノート貸してくれない? さっきずっと寝てたから」


 まぁ、正確に言うとずっと寝てた訳じゃないが、数行分しかノートへ写していない。

 なので、実質全部寝てた。


 「分かった、良いよ」


 こうして直ぐに教室へ戻り、ノートを借りて必死に写したのだった。

 手を動かしている間は気持ちが楽になる。

 なので、次の授業からひたすら英単語をノートに殴り書いていた。

 授業の内容? そんなの知らないよ。

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