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<屋上に来てくれ。話したいことがある〉と連絡した

 帰宅する。

 流れ込むようにベッドへ飛び込んだ。

 今日は結局三人とまともに会話することが出来なかった。

 視線が合いそうになると無理矢理逸らされ、休み時間はわざとらしく教室から出ていく。

 避けられているんだなと嫌でも分かってしまう対応だ。


 静かな自室。

 この時間にこれだけ部屋が静かなのは何時ぶりだろうか。

 嬉しいような寂しいような……複雑だ。


 「あーあ」


 机上に置いてある一冊の漫画が目に入る。

 俺があの不用意な発言をした原因である例のラブコメ。

 なんて言ったんだっけか。確か……「やっぱ、可愛い幼馴染って良いな」って言ったな。

 うわぁ、最悪だ。こんなの気持ち悪がられて当然だ。

 せめて、三人との関係が幼馴染でなければ何言ってるんだコイツと思われるだけだったのだろうが、今回はそうもいかない。

 嫌われてしまった以上弁明も出来ない。


 「お前のせいだ」


 漫画に文句を言い、俺はふて寝した。



 目を覚ます。

 外は明るい。スマホのアラームが鳴っている。

 どうやらふて寝してからそのまま日を跨いでしまったらしい。

 胃が食を求めている。

 半日以上体内に何も取り込んでいないのだ。喉も乾くし、腹も減る。当たり前だ。


 適当にキッチンでパンを口に含み、冷蔵庫の中にあるお茶をガサツにコップへ注ぎ、飲む。

 俺の親は絶賛海外出張中。

 日本語もまともにできない俺に英語なんて出来るはずもなく、読めない、書けない、喋れないの三銃士を揃えている俺は全力で拒否した。

 その結果家に置いてかれたってわけだ。

 小学生じゃあるまいし、一人で暮らせる。

 栄養バランスなんて一ミリも考えない食事をし終えると、俺はハンガーにかかっている制服に着替え、重たいリュックを背負い学校へ向かう。


 学校に到着する。

 もちろんの事ながら、幼馴染三人は変わらず様子がおかしい。

 時間経過じゃどうにもならないのだろう。

 この教室で謝るのには限度がある。流石に教室内で「やっぱ、可愛い幼馴染って良いな」って言ったのはどういう経緯があって……と説明するのはできない。

 周りの視線が主にそうだ。俺のプライドなんてゴミカスみたく小さなものなので関係ないが、幼馴染三人のことを考えるとあまり声を大にして言うべきことじゃないのだろうという配慮だ。

 それでもしっかりと謝りたいという気持ちだってもちろんある。

 昨日の謝罪はあまりにも作業的な謝罪だった。


 〈屋上に来てくれ。話したいことがある〉


 三人にが入っているグループに同じメッセージを送っておく。

 屋上という人目のつかない場所でちゃんと頭を下げる。

 誠心誠意謝れば許してもらえる。そんな甘ったれたことは考えていない。

 あくまでも、後悔しないようやれることはやっておくの精神だ。

 要するに自分が納得できるようにというエゴイズムである。



 時は流れ、放課後。

 空は曇っており、とても春の陽気とはいえない空気。

 とはいえ、雨が降らなかったのは神様が味方してくれたと考えるべきだろうか。

 俺は一足先に屋上へと向かう。

 謝るのに遅れるのは人として終わっている。


 屋上。

 思ったよりも風が強く、足を一歩踏み入れた瞬間にワイシャツが音を立てる。

 しばらく待っていると屋上の扉は開かれる。

 扉の向こう側に居るのは結芽と四帆。

 夏葵の姿はない。


 「来た」


 四帆は口を開いた。


 「結芽と四帆。来てくれてありがとう」


 まずは来てくれたことへの感謝を伝える。

 来ないという選択をすることだって可能だったのに、こうやって足を運んでくれた。

 そのことが何よりも嬉しいのだ。


 「爽くんにお願いされたんだもん。来ないわけないよ」

 「私も同意。爽の頼みなら地球の裏側までも行く」

 「アハハ。四帆ったら凄いね。私にはちょっとそれは無理かなー」


 結芽は苦笑いを浮かべつつ、頬を人差し指で撫でる。


 「別に私も本気じゃない」


 四帆は淡々と応える。


 いつものような雰囲気かと言われると少し違和感はある。

 だが、昨日のような突っ撥ねるほどの恐怖や絶望感はない。

 滑らかに会話が出来ているように思える。


 「話したいことは何? 無いなら――」

 「あぁそうだな」


 四帆の言葉を遮り、俺ははっきりと言葉をぶつける。

 胸の鼓動がうるさい。緊張していると主張してくる。

 そんなこと俺自身が一番わかっているのだから黙って欲しい。


 「一昨日は本当に申し訳ない。別にあれは漫画のヒロインと主人公に向けて言ったんであって、三人に向けて言った言葉じゃないんだ!」


 頭を深々と下げる。

 気持ち悪い、近づかないで欲しい。

 そう思われているかもしれない。これからもそう思われるかもしれない。

 でも、しっかりと自分の言葉で真実は伝えておきたい。これをどう解釈するも彼女達の自由だ。

 少なくともここではっきり口にしたことで、俺が後悔することはない。

 口にすると思ったよりもスッキリとする。


 開放感を味わっている中、結芽と四帆は互いに目を合わせる。

 そして、結芽は声を大にして笑い始め、四帆は鼻で笑う。

 俺は思わずポカンとしてしまった。

 今のところに面白いポイントはあっただろうか。

 ちっぽけな脳みそをフル回転させるが思い当たる節はない。


 「ええーっと……」


 困惑しすぎて言葉が詰まってしまう。


 「爽くん。昨日私言ったでしょ。『別に怒ってなんかないよ』って」

 「私も『分かった』って言った」


 確かにそう口にはしていたがそれはあくまでも感情を殺してそう口にしたんじゃないかと思っていたが……。これは俺の解釈違いだったということなのだろうか。


 「じゃあ、怒ってないってこと?」


 俺は恐る恐る訊ねる。


 「当たり前じゃん。大体、爽くんに怒る理由もないでしょ」

 「その通り。爽は何も悪くない」

 「爽くんはいつも重く考えすぎなんだよ」


 風で揺れる結芽のポニーテール。


 「はぁ……。なんだよ、嫌われたかと思った」


 これまでの気持ちを返して欲しい。

 嫌われたんだって勘違いして、一人で勝手に落ち込んでいた。

 だが、不可解な点はある。

 なぜ昨日あんな塩っぽい対応だったのか。

 結芽の雰囲気に飲まれ、四帆も塩っぽいと思っていたがよく考えてみればコイツは大して普段と変わらない反応だったようにも思える。結果論かもしれないが。

 だが、結芽は明らかに不機嫌だった。


 「なんで昨日反応悪かったんだ? 怒ってはいたろ」

 「ふーん。爽くんまだ分からないんだ。じゃっ、秘密!」


 俺の額に人差し指をツーンっと突っついて、結芽はくるっと体を反転させ、そのまま屋上から校舎内へと繋がる扉に手をかける。


 「爽。漫画読み終わったから続き借りる」

 「お前俺の部屋から漫画抜き取ったのかよ」

 「当たり前。漫画が読めなくなるのは死活問題」

 「数百円で解決出来る死活問題は死活じゃないのよ」


 俺たちは結芽を追いかけるように帰宅したのだった。

ブックマーク沢山ありがとうございます!

引き続きよろしくお願いします!

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