幼馴染に「久しぶり」と声をかける
次の日。
ソワソワしながら学校へとやってきた。
理由は単純明快、夏葵との再接触を図るため。
本心としては夏葵とまた仲良くなりたい。この気持ちはかなり大きい。
だが、それとは別になぜ俺と距離を取るようになったのかという部分については明確にしておきたい。
「おっはよー! 爽くん! 今日爽くんの家行って良い?」
いつものように駆け寄ってくる結芽。
「あぁ、良いぞ」
「えへへ」
結芽は嬉しそうに俺の事を見つめてくる。
ゲームをするのがそんなに楽しいのなら買えば良いのに。なんならゲームをあげたって構わない。
俺は最近もうゲームしてないしな。ゲームだってあってもやらない俺が持つよりも、楽しそうにやってくれる結芽に持ってもらった方が嬉しいはずだ。
そんなことを考えていると夏葵は教室へ入ってくる。
遅いなと思ったが、荷物が無いので一度登校して教室を離れていたのだろう。
どこへ行っていたのかは分からない。
まぁ、職員室辺りに用事があったと考えるのが妥当だろう。
もちろんだが、突然都合良く俺へ話しかけてることなんてなく、露骨に目を背けてそのまま自分の席へと向かった。
こう、明らかに避けられていると自覚するとやはり辛いものがある。
今日までこの状況を見て見ぬふりしてきた代償だと思うことにして受け入れる。
「爽くん?」
結芽は不安そうに呟き、見つめてくる。
いつの間にか俺との距離も取っていた。意識していなかったが、きっと知らないうちに何か負のオーラを醸し出していたのかもしれない。
であるならば、結芽に要らない心配をかけさせてしまった。
「ごめん。なんでもないよ」
俺は結芽の心配を払拭させるためにそう声をかける。
「なにかしちゃったかと思った」
結芽はホッとしたように表情を緩ませた。
◇
授業と授業の合間。十分程度の短い休み時間。
この次の授業が移動教室だとまともに休憩なんて出来やしないのだが、次のコマはこの教室で行うので、のんびりとすることが出来る。
視界の端っこに見える夏葵。
授業中もそうだが、見える度に声をかけなければという義務感に押しつぶされそうになる。
それでも重い腰をあげて、夏葵の所まで行く。
宮本や楠本と楽しそうに話している夏葵。
俺が近くへ寄ると宮本は察したのか「ちょっ、恵那っち。職員室行かない? 今日呼び出しくらってたの忘れてた!」と突然大声で言い出して、楠本を引っ張って教室を出ていく。
扉から廊下へ差し掛かる時に俺の方に視線を向けていたのはきっと偶然では無いのだろう。
さっきまで宮本が座っていて、今は誰も座っていない椅子。
俺はそこに腰掛ける。
生暖かさの残る椅子だ。
「夏葵。久しぶり」
何週間ぶりだろうか。
下手したら一ヶ月近くになっているのでは。そのくらいもう絡んでいなかった。
「何? 本当に何?」
さっきまでの笑顔はどこへやら。
眉間に皺を寄せ、鋭い視線を向けてくる。
不機嫌なのが伝わってくる。
「何も無いけど。夏葵と話したかったから」
「私と?」
「そう」
「私は話したくないんだけど」
手厳しい。
回りくどく言わずにそのままストレートにぶつけてくる。
今の言葉の攻撃力は凄まじく、結構心が抉られた。このままじゃ月の表面みたいになってしまう。
「まぁまぁそう言わずにさ」
「早く私の前から消えて」
「……」
「私はアンタの顔すら見たくないの!」
夏葵はそれだけ言うと立ち上がり、そのまま教室を出ていった。
ついに名前すら呼んでくれなくなってしまったか。
俺が思っていたよりも重たい問題なのかもしれない。
夏葵を怒らせるようなことをした記憶が無いから尚更困る。
でも、ここまで怒るということは何かしらしてしまったのだろう。
「……」
立ち上がり、自分の席へと戻りながら考えるがやはり思い当たらない。
教室へ戻ってきた宮本にポンポンと肩を叩かれ、親指を立てられた。
俺もそれに対してニコッと微笑む。
抉られた心が少しだけ戻った。そんな気がする。
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