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「あ、あの……」とオドオドしく声をかける

 体育館の裏。

 近くに弓道場があり、少し外れたところには駐輪場がある。

 更に進めばテニスコートもあり、人が全く来ない場所かと問われると別にそういうことでも無い。

 ただ、昇降口や校舎内に比べれば格段に人は少ない場所だが、同時に足を運びやすい場所でもある。


 体育館の角を曲がり、顔を出す。

 そこに居る……複数の少女? あれ、どういうことだ。

 てっきり告白されるもんだと思って、浮かれながら向かってしまった。

 目の前にいるのは複数の少女。告白とは程遠い雰囲気。

 足が止まってしまう。これか俺は一体何をされてしまうのだろうか。

 このまま踵を返してしまおうかと思ってしまったが、グッとこの気持ちを堪えて呼び出した人の居る方へと向かう。


 近くに来ると顔が認識できた。

 俺は彼女達の名前を知っている。

 宮本咲(みやもとさき)楠本恵那(くすもとえな)の二人だ。

 彼女たちは俺と同じクラスで夏葵と良く絡む陽キャというかギャルに近いような立ち位置の人である。

 夏葵繋がりで結構絡んだりしていたのだが、今でも怖いという評価に変わりはない。


 「あ、あの……」


 俺の事を見つめて黙る彼女たちに対して怯えながらも何とか声を発する。

 さっきまで浮かれていた気持ちはどこかへ消滅してしまい、俺の心の中に存在するのは恐怖だけ。


 「爽ちゃん来てくれてマジサンキュ」


 宮本は一歩前に出て、長い髪の毛を触った。

 心臓の鼓動が早くなった。緊張している。


 「う、うん」

 「ねぇ、爽ちゃん?」


 隣にいる楠本も宮本に並ぶようにして一歩前へと出てきた。

 震える手を隠すように背中へと回す。


 この二人に対して俺は何をしてしまったのかと、記憶を探るが思い当たる節はない。

 ちっぽけな脳みそ過ぎて覚えていないだけかもしれない。

 事実としてあるのは、今こうやって俺が呼び出されてしまったということだけ。

 きっと何か彼女達の癪に障る様なことをしてしまったのだろう。


 謝るべきなら即座に謝罪する。

 謝ることに対するプライドなんてこれっぽっちも無いので別に良い。

 だが、何に対して謝罪すれば良いのか分かないまま謝罪するのは相手の感情を逆撫でしてしまう可能性が大いに有り得る。

 だから、こうやってどうするべきなのか思い悩んでいるのだ。


 「すみません。僕何をしたか分からないんですけど……」


 悩んだ結果、今胸の中にある感情を素直に言葉へ変換するという結論に至った。

 なので、分からないことも素直に伝える。


 「ふーん、そうなんだ。爽ちゃん白を切る系なんだね」


 楠本は一歩また前へ歩き出す。

 威圧感がとてもある。

 宮本が楠本を制止し、元の位置へと戻らせた。

 どうやら楠本と違って宮本は冷静さを失っているわけじゃないようだ。


 「爽ちゃんを傷付けたところで喜ぶわけじゃないよ?」

 「それ。確かにそう」


 宮本の言葉に楠本はうんうんと頷く。

 そもそも傷付けるという選択肢が当然のように出てくることが恐ろしい。


 「爽ちゃん、特別にアタシが教えたげる」


 宮本の言葉に俺は頷く。


 「夏葵に何したわけ?」

 「ん? どういう……」


 ポンっと出てきた宮本の言葉がスっと理解出来なくて、聞き返してしまう。


 「だから、夏葵に爽ちゃん何かしたでしょ? 何をしたんだよって話。だってさー、爽ちゃんと夏葵最近すんごく険悪じゃん。全く話すところ見ないし」

 「あー……そういうことか」


 単純に二人の仲がおかしくなってるからどういうことか気になったということなのだろう。

 教室で聞けば夏葵に余計な詮索をするなという事を言われるから、こうやって人目のないところで俺を呼び出し、聞き出そうとしたと。

 今までの行動一つ一つに対して納得のできる理由だ。

 それだけ夏葵は愛されているということなのだろう。

 愛故に俺は恐怖を感じてしまったと、幼馴染として嬉しい半面まだ恐怖があるので心の中がぐちゃぐちゃになってしまう。


 「いや。一回『緊急の用事じゃないなら話しかけないで』って夏葵に遠ざけられたの覚えてる?」

 「うん。あれからっしょ?」


 宮本は頷く。


 「その前日に四人で遊んでて『やっぱ、可愛い幼馴染は良いな』って言っちゃったんだよ。それから嫌われちゃったみたいでずーっとこんな感じ」


 俺は苦笑いをしつつ、ぶちまけた。

 変に言い訳をできるわけもないし、多分した所で見破られる。だから、軋轢を生まぬよう最初から素直になる。


 「え、爽ちゃんったら本当にこれで嫌われると思っちゃった? 本気ならナンセンスすぎるっしょ」


 楠本は俺馬鹿にするように笑う。


 「爽ちゃんは夏葵のことどう思ってるかアタシは分からないけど、爽ちゃんが思ってるよりも優しい子だよ。だからー、うーん。夏葵がそんな事で人を嫌うとは思わないし、増してや爽ちゃんでしょ? 絶対に何か他のことしたでしょ」

 「思い当たる節は本当にない」


 詰め寄ってくる楠本に対して俺は真剣な眼差しで事実を口にする。

 これが事実なのだ。これ以外は何も無い。

 それに俺だって夏葵が優しいのは知っている。幼馴染だ。舐められては困る。


 「恵那っち。爽ちゃんは本当のこと言ってるからもうやめて」


 やっぱり宮本は冷静だ。

 感情に任せて動く楠本とは違って、周りを見る余裕すらある。


 「爽ちゃん話聞かせてくれてありがと。アタシ達はこれで」

 「う、うーん。あ、爽ちゃん何か思い出したら絶対にアタシ達に声かけてね。早く夏葵と仲直りして!」


 二人はそうそれぞれ口にすると俺の元から去って行った。

 それと同時に夏葵と向き合う覚悟ができたのだった。

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