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ゴールデンウィークが終わって

 ゴールデンウィークは終わる。

 改めて振り返ってみると、短期間でありながらも幼馴染に振り回されたゴールデンウィークだったなとしみじみ思う。

 だが、恨んではいない。むしろ感謝している。

 元々枯れたようなゴールデンウィークに花を咲かせてくれたのだ。

 多分本人たちは俺を喜ばせたなんて意識はないんだけどね。

 まぁ、直接感謝するのもなんだか気恥しいので心の中に留めておく。

 普段素直に感謝は口にしているし、今回くらいこうしたってバチは当たらないだろう。

 ね、神様。そうだよね?


 そこそこ充実したゴールデンウィークを送った俺は自分でも分かるくらい表情を緩め、学校へと向かう。

 学校へ流れ込む生徒たちはカップルだろうが、友達と歩く人だろうが皆どこか笑顔。

 憂鬱そうな顔をしているのは、見るからに陰キャな一人で歩くヤツらだけ。

 一歩間違えたらそっち側だったと考えるだけで体がゾワッとしてしまう。


 昇降口を抜け、下駄箱へと足を踏み入れる。

 自分の下駄箱へ向かい、暗証番号を合わせて解錠し、下駄箱を開ける。

 いつもの様に靴を脱いで……と流れ作業のように靴を持ち、入れようとしたその時。

 下駄箱の中に見える謎の紙。

 幻覚かと思い、空いている手で目を擦るが見えるものは変わらない。

 ちゃんと下駄箱の中にある一枚の紙。いや、封筒という方が正しいのだろうか。

 茶封筒ではなく、可愛らしい絵柄が描かれた封筒だ。


 俺は頭の中に一つ過ぎる。もしかしたらこれってラブレターっていうやつなんじゃないかというとても浮かれた思考だ。

 この封を開けなければ、ずっと浮かれることが出来る。観測しなければラブレターだと思い込める。

 シュレディンガーのラブレターとでも呼ぼうか、手紙の方が良いかな。


 封筒を手に取る。周りに見られていないか執拗に確認し、コソッとリュックへと忍ばせる。

 別に悪いことなんて何もしていないのに、なぜか盗みを働いたような気持ちになってしまった。

 俺は悪いことをしていない、俺は悪いことをしていない、俺は悪いことをしていない。

 浮かれた気持ちはどこへやら。

 気付けば自分にそう言い聞かせながら教室へと向かっていた。


 教室の扉を開けてからふと気付く。

 このまま教室へ入ったらこの手紙確認するタイミング無くない?

 とはいえ、ここから引き返す訳にもいかないので教室へ入り、自分の席へと向かった。


 「爽くん、おっはよー!」


 俺が座ったのを確認するなり、結芽は俺の元へやってくる。

 教室へ入ってきた瞬間に飛びついてこない配慮は素晴らしいと思うが、こうやって教室内で激しいスキンシップを行うのは周りの注目を集めてしまうのでやめてほしい。

 今まではここまでじゃなかった。俺の元へやってきて、フワフワっと中身のない会話のキャッチボールを行い、四帆か夏葵に茶々を入れられる。というようなものがパターンとしてあった。

 思いっきり抱き着いて、離れて、二の腕や肩甲骨を触る。

 正直、なにか裏があるんじゃないかと勘繰ってしまう。


 「おう……」


 とはいえ、そろそろこうなってから一ヶ月が経とうとしているので、慣れてきてはいる。

 話は大きく変わるが、結芽は無事に仲直り出来たらしい。

 後日、母親から<結芽にお灸を添えてくれてありがとう>と感謝のメールが届いていた。

 当たり障りのない返信をしたのだが、内心はしょうもない事で家出させるなという思いでいっぱいだった。

 今考えてみると、結芽の母親は俺の家に向かわせるよう仕向けてたんじゃないかとさえ思ってしまう。いや、まぁありえないんだろうけどね。



 授業と授業の合間にある短い休み時間。

 俺は授業が終わったのと同時にリュックから例の封筒を手に取り、ポケットへと忍ばせて、足早にトイレへと向かう。

 そして、迷うことなくトイレの個室へと入り、鍵を閉めた。

 ここであれば誰かに盗み見される心配はない。


 『藤田(ふじた)くんへ。

放課後、体育館の裏側で待っています。

藤田くんにどうしても話しておきたいことがあるのです。

 太陽が沈む時まで待っているので来てください』


 という内容であった。

 俺は小さくガッツポーズする。そのせいで、ラブレターはちょっとだけクシャッとシワがついてしまった。

 俺は両手で紙を伸ばし、シワを目立たなくする。そして、そのままポケットへとイン。

 どうやら俺にもついに春が来てしまったらしい。モテ期到来? もう、休みの日に虚しさを感じなくて良いんだね。

 差出人こそないがきっと恥ずかしいだけなのだろう。

 嬉しいことを周りに悟られぬよう真顔で教室へと戻ったのだった。



 待ちに待った放課後。

 後は体育館裏へと向かうだけ。

 非常に簡単な作業。


 「帰る?」


 四帆はこちらへとやって来て声をかける。

 向かってくる道中、夏葵の周りにいる女子とたまたま肩がぶつかり、謝罪の声が聞こえてくる。

 四帆は別に常識がないわけじゃないのだ。むしろ、ごめんなさいという謝罪な言葉を口に出せる素晴らしい子だ。


 「今日はちょっと用事あるから」


 俺はパシンと両手を合わせて四帆へ謝罪する。

 四帆を見習い、人として当然な言葉を口にする。四帆の変なところは真似しようと一切思わないが、こういう常識的なことは積極的に俺も取り入れていこうと思う。

 ありがとうという感謝の言葉や、ごめんなさいという謝罪の言葉に、分かりませんという素直さに加えて、助けて欲しいという頭の下げ方。

 一つ欠かさずことなく出来る四帆は凄い子だと思う。本当に。

 謝罪した俺はそのままの指定場所である体育館裏へと向かった。

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