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「爽だって男の子」と四帆は口を尖らせる。

 朝ごはんは結芽が作ってくれた。

 これがホテルのビュッフェで出てきたらテンション上がるなぁと思うような朝ごはん。かなり美味い。


 「でだ。四帆はいつまで居る気なんだ?」


 ここに呼び付けたのは俺なのでこういうことを言うのは良くないなと思ったが、我が物顔で居座るので流石に聞いてしまった。


 「結芽が帰るまで。私は監視役」

 「なんのだよ」


 四帆はウィンナーをパリッと鳴らす。


 「男女を一緒には出来ない」

 「私と爽くんはそんなんじゃないから帰って大丈夫だよ」


 スクランブルエッグに手を付けた結芽は口に運ぶ前に一言添えた。

 四帆の表情は晴れない。


 「思春期の男女はダメ。爽だって男の子」


 ベッドの中に潜り込んだ人の台詞とは思えない。


 「爽くんにそんな度胸ないんでしょ?」


 結芽は首を傾げる。

 ただ気になっているという感じだ。


 「それはそう。でも、二人っきりなら別かも」


 四帆はもしかしたら思春期の男を性猿か何かだと思っているのかもしれない。

 確かに、四六時中頭の中がピンク色な人もいるだろうが、俺の場合は理性が一応生きている。


 「……? 四帆は私に帰って欲しいってこと」


 四帆は頷く。


 「やっぱり付き合ってもない異性が二人っきりで寝泊まりするっておかしい」

 「じゃあ付き合えば良いの?」

 「出来るならすれば良い」

 「……」


 四帆の言葉に結芽は押し黙る。


 四帆の言い分はご最もだが、結芽の意見が全くもっておかしいのかと問われるとそうだとも言えない。

 あくまでも世間一般的には交際関係になく、血縁関係もない男女が一つ屋根の下で過ごすことは普通のこととして認識はされないだろう。

 だが、全くもってありえないとも言えない。

 体の関係だけを持つ男女が一つ屋根の下に居ることだってあるだろうし、昔の知り合いが家の近くにやってきたから泊めてやるっていうパターンだって考えられる。

 要するに、状況によっては有り得るってことだ。


 「まぁ、そのなんだ? 確かに俺の家に結芽が泊まってるのは世間的に見たらアウトよりだろうしさ、四帆の意見は真っ当だと思うよ」

 「そ」


 四帆は言葉の淡白さとは裏腹に、隠しきれないドヤ顔を浮かべている。


 「でもさ、結芽だって色々考えた結果俺の家に来たわけだし、問答無用で帰れってわけにもいかないんだよ。四帆なら分かるだろ?」

 「それはそう。その通り」

 「だからな、見逃してやって欲しいんだよ」


 自分でも何故か分からない。

 別に結芽を庇う必要なんて一ミリもない。

 なのになぜか、庇ってしまう。


 「分かった」


 四帆はコクっと頷く。

 どうやら分かってくれたらしい。なぜかホッとしている自分がいる。

 もしかして、無意識のうちに情が湧いてしまったのかもしれない。


 「でも、ちゃんと向き合って。逃げてるだけじゃ言い訳だから」


 ぐうの音も出ない指摘。

 結芽は間違いなく逃げている。何が原因で家出してきたのかは不明だが、向き合うことをせず自分の都合の良い方向へと逃げてきている。

 そしてその結芽を俺は受け入れてしまったし、結芽の母親もなんだかんだ良しとしてしまっている。

 簡単な話、甘やかしているのだ。


 「それはそうだな」

 「ちょっ!? 爽くん!?」


 結芽は裏切られたような表情を浮かべるが仕方ない。

 四帆の発言が正しいことだと思ったのだから。

 俺は心を鬼にすることを今決めた。



 結芽と向き合って座る。

 俺の隣には四帆が座る。大切そうに抱えていた漫画をソファーに置いて、結芽のことを見つめる。


 このリビングの中に緊張感が走る。

 触ったら爆発してしまいそうな怖さがあった。


 「何で家出したの」


 話を切り出したのは四帆だ。

 お互いに視線を逸らすことなく見つめ合う。

 俺は蚊帳の外だがそれで良い。中に入りたいとも思わない。

 極力影を潜めつつ、彼女らの会話を聞く。


 「ママと喧嘩したから」

 「それは知ってる。私が知りたいのは経緯」

 「うん……」


 ズバズバと切り捨てていく四帆。

 主導権は間違いなく四帆側だ。結芽は順調に押されている。


 「笑わない?」


 手をもじもじさせている。態度は如何にも何か恥ずかしいことがありますと言っているような形。

 四帆はコクリと頷くだけ。

 表情だけじゃ、何を考えているのか全く分からない四帆。

 実質的に第三者の俺は「何考えてるんだろうな」くらいの気持ちしかないが、問い詰められている結芽の心の中は穏やかじゃないはずだ。

 だからか、不安そうな表情を見せたり、視線を泳がせたり、無意味に指を動かしたりととにかく落ち着きがない。


 「爽くんって将来どういうタイプになるかで喧嘩してたの。私は今みたいな感じでそのまま成長すると思ってたんだけど、ママはダンディーになるって譲らなくて」

 「は?」


 予想の斜め上過ぎてこんな反応になってしまった。

 こればっかりはしょうがないだろう。

 どれだけ深刻な話題だったのか。下手したら引越しを提案されて結芽か反論して喧嘩に発展したんじゃないかとまで思っていた。

 それくらい重々しい話を覚悟していた。

 なのに蓋を開けてみれば重々しさなんて欠けらも無い。

 俺が将来どんな感じに成長するかというくだらなさ過ぎる話題。

 しょうもないし、答えのない話題だ。


 「私は声優とか追いかけるオタクになってると思う。清楚タイプのオタク」


 四帆は机に頬杖を付きながら淡々と意見を口にする。


 「爽くんは絶対アニメ卒業するよ!」

 「しない。私がさせない」

 「それズルくない!?」

 「ズルくない。これも戦略」


 二人はワーワー楽しそうに議論する。

 果たして俺の事を話して楽しいものなのだろうか。不思議で仕方ない。


 「はい! 帰る、帰る! 結芽はさっさと仲直りしとけ!」


 これはさっさと家に帰して仲直りさせた方が良いと判断した俺は結芽も四帆も半強制的に家から追い出した。

 家の中は静かになる。いつもの家が戻ってきた。

ランキングぐんぐん上がってます〜!

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