「結局いつもみたいじゃん」と俺も思う
ドライヤーを使い終えた結芽がリビングへ戻ってくる。
四帆はソファーで寛ぎながら漫画を読んでいる。
能天気と言うべきなのだろうか。周りを気にしないこの感じ強い。
「結局いつもみたいじゃん」
結芽はむーっと不機嫌だ。
「あ、そうだ。結芽、俺のスウェット着る? それ洗った方が良いだろ」
「うーん。そうだね。じゃあ借りても良いかな?」
「ちょっと待ってろ」
「あ。爽、私の漫画も持ってきて」
「四帆は自分で取りに来いよ」
バタバタと足音が様々なところから聞こえてくる。
この時間という限定的な話であるが、新鮮だ。
部屋から暫く着ておらず、タンスの奥で眠っていたスウェットを掘り起こした。
黒……というか、藍色のスウェット。
一時期狂ったように着ていたのだが、プツンと線が切れたように当然着なくなり気付けばタンスの奥に眠っていた。
小さくて着れないとか、穴が空いて着れないとか、変な模様があってダサいから着たくないとか特に大きな理由はない。なんとなくというふわっとした理由だけだ。
「はい」
リビングに居る結芽へスウェットを渡す。
「ありがとう」
結芽はそう口にするとスウェットを持って、洗面所へ向かった。
「なんで外出てきたの。リビングで着替えれば良いじゃん」
「え、だって爽くん居るし」
「関係ない」
「関係あるから!」
そんな結芽と四帆の会話が聞こえてくる。
頼むから俺の目の前で着替えるのはやめて欲しい。
着替え終わった結芽は戻ってくる。
ちょっとダボッとしたスウェット。
俺が余裕で着れるようなサイズのスウェットだから、結芽が着たらこうやってダボダボになるのはある意味当然か。
深く考えてなかった。
だが、後悔はしていない。
このダボダボなスウェットを着ている姿はめちゃくちゃエロい。色気が至る所から漏れ出ている。こう、私生活感が出てるのがまた良い。
「すまんな、ぶかぶかで」
「ううん、良いよ。何も持ってこなかった私が悪いんだし」
「うーん、それでも結芽は女の子なわけだしさ、もうちょっとまともな服の方が良かったよね」
「女の子……。そっか」
結芽は頬を人差し指で優しく撫でる。
「ん、いつまで夫婦ごっこしてるの」
ポンっとソファーに座った四帆はつまらなそうに茶々を入れてくる。
「夫婦じゃねぇーだろ。今のはどっちかって言うと初心なカップルだから」
「ちょっ!? 爽くん!?」
俺のツッコミに結芽は肩をグイッと掴んだ。
耳まで赤くしている結芽。ちょっと調子に乗りすぎたかもしれない。
「嘘、嘘。ちょっと調子に乗ったわ。悪い結芽」
「いや、うん……。まぁ」
歯切れ悪く、結芽は声を段々と小さくしていく。
ぺラッ、ぺラッと聞こえてくる紙と紙が擦れる音。
この状況でも尚周りを気にせず漫画を読める胆力は本当にすごい。
しかも、今日散々漫画喫茶で漫画を読んでいたのにここでも平然と読める気力もすごいと思うし、羨ましい。
「そうだ」
四帆はパタンと勢い良く漫画を閉じて、漫画をソファーの上に置く。
「なんで結芽が居るの?」
今更過ぎる質問だ。
「なんでって……」
なぜか結芽は俺の方を見てくる。
全くもって意図が分からない。
ちょっと悩んだが、早々に諦める。
「私たち付き合い始めたから」
結芽は鼻を擦りながら、「えへへ」と可愛らしく笑う。
この三人の中で一番焦っているのは多分俺だ。
一ミリも予想していなかった言葉が飛んできて動揺しかない。
ビックリしすぎて否定することすら出来なかった。
「そ。で、本当は?」
なぜか四帆は落ち着いた様子で嘘だと見破る。
まぁ、そうか。今日一応デートと称したお出かけをしたわけだし、交際関係にないと見破ることはそこまで難しい話じゃないか。
「……。ママと喧嘩したから家出した」
「謝って帰れば」
「私悪くないから」
「どうせ結芽が悪い。私には分かる」
「……。私ってそんなに日頃の行い悪いのかな。爽くんにも同じようなこと言われたんだけど……」
結芽は露骨に落ち込む。
日頃の行いが悪いとかそういうことじゃない。ただただ対戦相手が悪いだけだ。
四帆も全く同じことを結芽に伝えていた。
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