「覗かないでね」と結芽は頬を紅潮させた。
時は流れ夜。
クリスマスのタイミングであれば性の六時間と呼ばれる時間に差し掛かった。
要するに九時。
「そろそろ風呂入んなきゃな。結芽先に入って良いよ」
幼馴染で小さな頃一緒にお風呂に入っていたとはいえ、今は思春に真っ只中の女の子。
そんな子よりも先にお風呂へ入るのは気が引ける。
ほら、気持ち悪がられたりしちゃうじゃん?
結芽に気持ち悪がられたら生きていけない気がするし、汚いとか罵倒されても死にたくなっちゃう。
「……」
結芽は何も口にせずジーッと俺の事を見つめる。
まるで何か言いたげだが何も言わずに黙っているそんな感じ。
こちらから催促してやろうかと悩んでいると、結芽は口を開いた。
「覗かないでね」
頬を紅潮させたように見える。でも、気のせいかもしれない。本当に些細な変化量だ。
「覗かねぇーよ。まだ犯罪者にはなりたくない」
「ふーん。そうなんだ」
何とも言えない反応をして、ムスッとしながら風呂場へと繋がる洗面所へと結芽は向かった。
不機嫌そうな反応なのに不覚にも可愛いと思ってしまった。
水際の女の子ってなぜああも可愛いものなのだろうか。
不思議で仕方ない。変なマジックがかかっている。
風呂場からシャワーの音が聞こえてくる。
モヤーっと頭の中に結芽のシャワーシーンが出てきてパシンっと頬を叩く。
美少女が今数メートル先、壁を一つ無いし、二つ挟んだところで裸になっていて、更にシャワーの音で今何をしているのかも何となく分かってしまう。
扉を二つ開ければ、生まれたばかりの姿を結芽が拝める。
俺だって男だ。例え、相手が幼馴染だとしてもこうやってどうしても意識してしまう。童貞の俺にしてみれば刺激が強い。
しかもよりによって美少女という特典付き。こんなもん俺の理性を壊すには十分すぎる。
とはいえ、ここで理性に押し負け手を出してしまえば結芽の母親にも俺の両親にも合わせる顔がない。あるのは、警察官と看守だけだ。
俺は気を紛らわすように一つのメッセージを送っておく。
シャワーの音が聞こえなくなり、扉を開ける音が聞こえた。
今ここでトイレ行くフリをすれば結芽の可愛らしい姿が見れる。
最低な思考が過ぎったが直ぐにその思考をぶった斬る。
それと同時に鳴り響くインターホン。ベストタイミングすぎる。
「ありがとう! 四帆! マジで助かった!」
玄関の扉を開けると目の前にいるのは四帆。
驚くも何も俺が呼び出したのだ。
<今から家に来れるなら来て欲しい>
理性を半分くらい破壊しつつスマホで何とか文字を打ち、送信した唯一のメッセージ。
これでちゃんと来てくれるのだからありがたい話だ。
「さっき解散したのに申し訳ない」
「もう結構時間経ってる。寝れたから」
「寝てたのか。尚更申し訳ないな」
「大丈夫。起きたタイミングだった」
四帆は親指を立ててニコッと笑う。
「それよりもどうした? 突然呼び出してなんだか不穏」
「いや、今さ結芽が家に居るから良かったら来ないかなーって」
「分かった。そういうことなら私もお邪魔する」
何が分かったのか分からないが一人で頷き、靴を脱いで勝手にリビングへと向かおうとする。
リビングまであと少しという所。
たまたま洗面所の扉が開き、結芽が出てきてしまう。
別に悪いことは一切していないのに悪い事をした気持ちになってしまった。
浮気がバレる瞬間ってこんな気持ちなんだろうなと、擬似的に体験する。
この心臓がキュッと手で掴まれる感じ。もう、一生体験したくない。
「なんで四帆が居るの?」
いつもポニーテールにしている髪の毛をタオルで包み込み、頭が真ん丸な結芽。
ポニーテール姿じゃないのは結構珍しい。
お風呂入ったからか、いつも以上に肌が潤っており、見ていると思わず触りたくなってしまう。
結芽の服装はさっき着ていたものと同じ。そっか、家出したからパジャマなんて無いのか。後で俺のスウェットでも貸しておこう。
「呼ばれたから。爽に」
四帆は何も表情を変えずに淡々と口にする。
まぁ、反応としてはこれが正解なんだけどさ。
「なんで爽くん呼んだの!?」
「人多い方が楽しいだろ?」
それっぽいことを適当に言っておく。
性欲に抗えなくなりそうだったからとは流石に言えない。
「ふーん」
結芽は何も言わずに頷いた。
「ドライヤー借りて良い?」
「あ、あぁ。良いぞ」
結芽は俺の言葉を聞くと、洗面所へ戻って行った。
それを見た四帆はズカズカとリビングへと向かう。
自由だなこいつら。
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