「やっぱ、可愛い幼馴染って良いな」と呟いたら
桜の花が綺麗に咲くこの季節。
いつものように幼馴染三人と家でぬくぬく遊んでいた。
ゲーム機を触っているポニーテールの女の子は倉本結芽。
本棚でじーっと次巻を探している腰辺りまで髪の毛を垂らしている女の子は高城四帆。
真ん中であぐらをかきながらスマホを触っているのは櫻井夏葵。
遊ぶと言っても俺の家が溜まり場になっているような状況。
一緒にゲームをしたり、お菓子を食べたりするわけじゃない。
今まで一緒に居たし、何となく一緒にいる。
ただそれだけ。
彼氏の一人や二人作ればこの場所から離れるだろうが、高校二年生になった今、この三人は恋愛経験ゼロ。
彼氏いない歴イコール年齢という珍しい女の子たち。しかも三人とも美少女なのがまた不思議だ。
「なっちゃん! なんで爽くんの家に来てまでスマホいじってるの? それなら家でやれば良いじゃん」
「爽ちゃんの家でスマホ触りたい気分なんだよ。結芽ちーこそゲームなんて家でやれば良いじゃん」
「爽くんの家じゃないとこのゲーム出来ないんだよ」
「二人とも見苦しい。私を見習って」
「「四帆も変わらないから!」」
彼女たちの会話をBGMにしながら俺は今、堂々とラブコメ漫画を読んでいる。
内容は幼馴染が恋をするという現実では早々ありえないものだ。
それでもヒロインレースが面白く、伏線も多い作品なので読んでいて楽しいと思える。だから、こうやって単行本を買い続けている。半分義務感みたいなところもあるのは否めないが。
一冊丸々読み終える。結構疲労感がある。
漫画をポンっと床に置き、ぐーっと背を伸ばす。
「はぁ。やっぱ、可愛い幼馴染は良いな」
言ってから気付く。
不用意な発言だったと。
三人から一斉に視線を浴びる。
視線が痛い。逃げられるのなら逃げたいがここは俺の家。逃げ場はない。
……。なんなんだよ、この視線。せめて、何か言って欲しい。
黙って見つめるのはやめてくれ。
暫く沈黙が続き、三人が同時に口を開く。
「帰る」
こうして、ゲームを出しっぱなし、本を出しっぱなし、クッションを出しっぱなしという中途半端なままそれぞれ帰宅して行った。
あぁ、恋愛的好意を持ってるって勘違いされちゃっかもしれないなぁ。
嫌われたわ。終わりだ、終わり。
俺の青い春は終わった。
まぁ、正しい形の青春じゃなかったし、こうやって終わるのはある意味良いのかもしれない。きっと、ダラダラとこれからも続いただろうし。
「きっとこれは神様からの命令なんだろうな。幼馴染たちで優越感に浸るなっていう」
ポツリと呟き、虚しい気持ちを紛らわすために出しっぱなしになっている物達を片付けたのだった。
◇
学校。
教室に入り、自分の席に座る。
遅刻ギリギリにやって来たので、教室には三人とも既に揃っている。
俺の方へ視線を向けるが、手を振ってくることもなければ、ニコッと微笑むことも無い。
ただ凝視されるだけ。
「よぉ、爽。お前何かしたのか?」
後ろの席の涼真が興味深そうに声をかけてくる。
「してねぇ……とは言えないけど」
「へー、何したんだ? お前のことだからどうせデリカシーのないこと言ったんだろ。例えば『胸ちっちゃいよな』とか」
「はぁ? 言うわけないだろ。俺の事流石に舐めすぎ。大体な、貧乳には貧乳の良さがあるわけで……」
「あー、はいはい。悪かったよ、悪かった。俺が悪かったから朝から貧乳について語るのはやめてくれ」
涼真は鬱陶しそうに俺の頬に手を押し付けてくる。
コイツが先に話振ってきたんだろ。
出席をとり、授業前の休憩時間になる。
とりあえず三人に謝ろうと思い、それぞれの席へと向かう。
「結芽。おはよう」
「爽……うん。おはよう」
「やっぱり怒ってるよな。その、すまん」
「別に怒ってなんかないよ」
若干頬を紅潮させながら、ぶんぶんと首を横に振る。
ポニーテールが激しく揺れている。
結芽は結構感情を隠したりする癖がある。だから、今も怒っていないフリをしているのだろう。
「ほんとすまん。あの言葉気にしないでくれ!」
パシンっと手を合わせ、結芽の元を去る。
いつもなら「爽くん! おっはよー! 今日も爽の家にゲームしに行くから!」と元気良く声をかけてくれる。
なのに、今日はこんなにもしおらしい。これが怒っている証拠だ。
落ち込んだ気持ちを無理矢理奮い立たせ、次に向かったのは四帆の元。
座って本を読んでいる四帆。
「四帆! 昨日はすまん」
「あっそ」
ブックカバーつけているので何を読んでいるのかは分からない。
四帆が読むようなものと考えるのなら漫画だろう。
今の四帆にとって俺よりも漫画の方が優先度は高いらしい。かなりショックだ。
「本当に怒ってるよな。俺が悪かった。昨日のことは気にしないで欲しい」
「分かった」
心を抉られながら四帆の元を去る。
いつもの四帆なら「新しい漫画見つけた。超面白いから爽も絶対に見るべき」と言って話しかけてくれる。なのに今日は素っ気ないというか、俺の事を邪魔だと思っているような反応を示している。
ただただ悲しい。
最後に夏葵の元へと向かう。
今すぐ踵を返したいという気持ちを抑える。
夏葵はいつも通り、友達と楽しそうに会話をしている。
「あ、爽ちゃんチーっす! 夏葵でしょ? 貸そうか?」
「アタシ達のことは気にしなくて大丈夫だし」
夏葵の知り合いである陽キャたちはケラケラ笑う。
良く分からないが彼女たちは俺の事を本当に良くしてくれる。
夏葵の友達はアタシ達の友達っていう考え方らしい。
こんな考え方が出来るから陽キャなんてやってるんだろう。
本当に凄いと思う。
「何? 用事あるの? 緊急の用事じゃないなら話しかけないで」
「……分かった」
「え、もしかして喧嘩中? 余計なことしちゃった的な?」
「爽ちゃんまじごめーん!」
「アハハ。大丈夫だよ」
無理矢理笑ってこの場を離れる。
いつもなら夏葵は「ほら、爽ちゃんもアタシ達と話さなきゃ! 入って、入って」と陽キャぶりを見せつけている。
なのに今日は完全に拒否。明確に拒否された。
あぁ、ダメだ。俺は三人に嫌われてしまった。
嫌われてしまったかとという可能性から嫌われてしまったという確信に変わってしまった。
事実として乗っかってくると辛くなる。
今まで一緒にいてくれた人達が突然俺の元を去っていった。
悲しくなって当然か。
「はぁ……」
「爽。お前マジでやらかしたな。あんな天使達に嫌われるって何したんだよ」
「あそこまで嫌われるようなことはしてないんだけどなぁ……」
「男子と女子じゃ価値観も違うからな。爽は気にしなくてもあの三人は気にするもんだろ」
「流石モテ男だな」
「そんな軽口叩けるなら心配するほどショック受けてないな」
ヒラヒラと手を振る涼真は教室を出た。
ショックなのをそのまま顔に出すのは恥ずかしいから、冗談口にしただけなんだよなぁ。
俺は幼馴染三人に嫌われた。
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