日常84 パン食い競争。結構酷い
※ またしても死ぬほど遅れてすみませんでしたっ!
「戻ったよー!」
「おかえりなさい、アリス」
「おかえりなさい、アリスティアさん! あと、羨ましいです!」
「……ん、ずるい」
「……儂は何とも言えないんじゃが」
元気よく帰ってきたアリアを結衣姉を除いた儂らで出迎える。
よく見ればアリアはものすごいつやつやとした顔である。
……キス一つで、ああもなるのかー。
あと、瑞姫とましろんの二人が儂を……厳密には儂の唇を見ているような気がするのは気のせいじゃろうか。
「……まったく。何故儂があんなことを……くっ、今思い出しただけでも恥ずかしいわい……」
「……そう言うけど、まひろん、キスよりも恥ずかしいことしてる。特に、馴れ初め話をした日の夜とか」
「あれはおぬしと結衣姉が原因じゃよな!? ってか、あれ以来マジで儂酷い有様じゃからな!? 主に、あっちが!」
「あー、なんか後から聞いたけど、なかなかすごいことしたみたいね」
「うんうん、あれ以来、まひろ君がすっごくMになったー、って二人から聞いたよー」
「正直、無理にでも混ざるべきだったと思っています」
「……儂、今ほどおぬしらがあの場にいなくてよかったと思ったわ。あと、やっぱり共有されとんのな、あの日のこと」
「「「それはもう、旦那だから(ね)(ですし)」」」
「あ、うん、そうか……」
なんと言うか、愛されとるのか、それとも単純にからかわれておるのか……いまいちわからんもんじゃなぁ……。
まあ、今更何をされようとも、こやつらを嫌う、などという事はないわけじゃが……。
惚れた弱み、というのかのう……。
「さて。次の種目は何かしら?」
「ちょっと待ってくださいね。えーっと……あ、どうやらパン食い競争みたいです」
「あら、私じゃない。じゃあ、頑張らないとか」
どうやら、次は美穂の出番らしい。
むー、儂もそろそろなのかの?
午前は基本的に個人種目じゃからなぁ……。
それに、今の所出場しとらんのは……儂と瑞姫、美穂か。
たしか、瑞姫は綱引きじゃったな。
となると……瑞姫が出場するのは基本的に午後になるわけじゃな。
まあ、儂の場合、午後と午前に二種目ずつなんじゃが……。
やっぱり四種目は多くね? 儂、死ぬよ? いくら『獣化』で体力を増やせるとはいえ……あれは反則みたいなもんじゃからのう……。
あと、単純に疲れる。
「ともあれ、美穂よ、頑張るのじゃぞ」
「もちろんよ。ってか、真白さんとアリスが勝ったわけだし……ここで勝たなきゃ、桜花ファミリーの名折れよね」
「ちょっ、その名前広まっとんの!?」
「まあ、そうじゃない? だって、在学中に結婚した上に、しかもそれが同性同士なのよ? 話題になるに決まってるじゃない」
「た、たしかにっ……!」
言われてみればその通りじゃな……。
だって儂ら……というか、主に旦那共は、人目もはばからずに儂にべたべたしとるからのう……あと、よく抱っこされるし……。
この辺りに関しては、結衣姉もなかなかだとは思うんじゃが……。
普通、教師が生徒を抱っこして廊下を闊歩するか? 普通しないじゃろ。
その辺りが、儂らが特別な目で見られているという、何よりの証拠じゃが……。
「だからまぁ、諦めなさい」
「むぅ……まあ、よいか。そういった噂が広まっておれば、おぬしらにちょっかいをかける輩などでなくなるやもしれぬしな」
儂の旦那共と言えば、軒並み容姿が整っておるからのぅ。
そう言う意味では、少々どこぞの男どもに話しかけられるのでは? と心配になるが、こやつらはどう見ても儂一筋じゃから、そこまで心配はしておらん。
ただ……その分儂が死ぬのがなぁ……だって儂、こやつらにしょっちゅう食われるし。
以前の、結衣姉とましろんのタッグによるあれは凄まじかった……多分儂、もうノーマルではないからな。
むぅ、考え物じゃ。
「……それにしても、このパン食い競争は普通、よね?」
「うーむ、それはすがに何とも言えぬのう……何分、これまでの種目が既にぶっ飛んでおるからのう」
「ですね。まあ、わたしは集団系ばかりですし、さほどだとは思いますけど」
「……私も残り種目は普通」
「儂は……どうなんじゃろうか?」
ぽつりとそう呟くと、アリアを覗いた三人からなぜかさっと視線を逸らされた。
「……のぅ。もしや儂が出る借り物・借り人競争とは、かなりアレな種目なのか……?」
「だ、大丈夫、なんじゃない? うん」
「そ、そうですね。少なくとも、まひろちゃんなら余裕のお題、だと思います、よ?」
「……問題なし」
「逆に不安なんじゃが!?」
え、マジで? 儂の出る種目、碌な物がなかったりするのか!?
そ、そう言えば、去年悲惨な目に遭ったという者がかなりいたと聞いたような気が…………うむ、考えるのはやめよう。大丈夫だと思い込むとしようか。
「ともかく、私はそろそろ行くわ」
「あ、うむ。頑張るのじゃぞ」
「当然。じゃあね」
そう言って、美穂は集合場所へ向かっていった。
さて、私の出番なわけだけど……。
「やっぱり、あれね。色々な意味でわかりやすい出場選手たちね」
集合場所へ向かう途中、既に集まっていた選手を見て、なんとなしに呟く。
そこにいるのは、いかにも食べるのが大好きです! みたいな人たちばかり。
まあ、下手に運動が得意よりも、そう言う人の方が勝率が高いから、かなり妥当な人選だと言えるけど。
にしても……なんか、ちらちらとこっちを見られている気がするんだけど、何かしら?
『音田さんって、パン食い競争とか出るんだ』
『なんか意外だね』
『うん、意外』
……あー、うん。なるほど。そういう。
そう言えば私、去年は普通の短距離走とかに出てたわ。
それに、ネタ枠の競技だとか、その他にも学園祭でもそこまで変な役回りじゃなかったし、もしかすると私、真面目な人間とか思われているのかしら?
いやまぁ、それが悪いとは言わないけど、なんかこう……今の私を考えると、それは間違いな気がするし。
まあいいけど。
『さて、どうやらパン食い競争に出場する選手の皆さんが集まったという事で、早速ルール説明をしたいと思います!」
おっと、そろそろ始まるみたいね。
『まず最初に、選手の皆さん、各レーンの先をご覧ください』
説明役の放送委員がそう指示すると、選手たちはレーンの先を見た。
するとそこには、よくあるパン食い競争で使用される道具が設置されており、そこからは五個ずつパンがぶら下がっていた。
だけど……何かしら、あれ。
『えー、おそらく選手の皆さんは大変困惑なさっているかと思います。その理由と言うのは間違いなく、ぶら下がっているパンからさらにぶら下がっている謎の紙があるからでしょう。あれはですね、所謂誰がパンを作ったか、ということが書かれている紙ですね』
その瞬間、出場者、観客関係なく、周囲が一気にざわついた。
な、なるほど、あの紙はそう言う……。
でも、その情報、いる?
『ちなみに、大多数は学食の方だったり、家庭科の先生だったりしますが、中には生徒が作っている物もあります。選考基準としましては、単純に料理が上手い、もしくはできることがわかっている生徒ですね。まあ、例外として、反対にメシマズな方の物も混じっていますが……その方の名誉のために、名前は控えさせておりまして、アルファベット一文字だけ書かれていますので、余計な詮索とはしないようにお願いします』
な、なるほど、罰ゲームも実質あるわけね……!
でも、なるほど……。
もしかしてまひろもこれのパン作りに参加していたのかしら?
考えてみれば、まひろって有名人だし、料理が上手いこともある程度知られている気がするのよね。
だって、瑞姫の家が建てた屋敷に住む前は、まひろが朝昼晩と用意してくれていたわけだし。
当然、クラスメートもまひろが料理ができる存在と知っているわけで……。
そう考えて、私は観客席を見て、まひろを発見。
すると、まひろを見ると、苦笑を浮かべていた。
なるほど……つまり、あるわけね、まひろの作ったパンが。
なるほどなるほど……。
……何それすっごい食べたい!
え、というかまひろ、パンとか焼けたの!? マジで!?
いやでも、教えて作ってもらったパターンも当然あるわけだし……いやだとしても作れるだけすごいわ。
考えてみればまひろって、割と料理は何でもできていたような?
やろうと思えば魚も捌ける、みたいなことも言っていたし。
ふむふむ、つまりパンを焼くくらい余裕ってこと?
うわぁ、もしそうだとしたらやばいわー。
あの娘の女子力、半端ないわー……。
『ちなみに、ぶら下げられているパンはまん丸の、シンプルなパンに見えますがあれ、中に具が仕込まれている場合もありますので、お楽しみに!』
……それ、最悪の場合、何かとんでもない物が入っていたりしない?
なんか、心配になってきたわー。
そんなこんなでパン食い競争が始まったわけだけど……。
『これは……普通?』
『すっげえ! なにこれめっちゃ美味いんだが!?』
『おごふっ……! こ、これは、人間が食べる、物じゃ、ねぇっ……ぐふっ』
『ギャアアアアアアアア! し、刺激臭が、俺の目を突き刺すゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ!』
『かった!? なんじゃこのパン、石の如き硬さなんだが!?』
と言った風に、まさに阿鼻叫喚の図だった。
普通のパンもあれば、すごく美味しいパンもあり、人間が気絶するレベルの激マズなパンもあれば、なぜか刺激臭のするパンやら石のような硬さのパンがあるなど、それはもうバリエーションに富んだラインナップ……というか、後半二つはもうパンじゃないわよね? それどころか、人間が気絶するレベルのパンとか、もうそれ化学兵器レベルよね? 一周回って、その辺のレシピが死ぬほど気になってきたわ!
え、待って? いやほんとに怖くなってきたんだけど。
実際、気絶するレベルのパンを食べた選手を見てか、これから出走する人たちなんて、顔を青ざめて戦慄しているわけだし。
その中には当然私も含まれている。
だって、ねえ?
気絶する、刺激臭で目をやられる、石のように硬いパンがある、そんな物を見れば、誰だって恐怖するわよ。
怖すぎるわー……。
それに、この学園には非日常が大好きな生徒やら教師が多い。
だからか、ドン引きする人がいるものの、普通に笑いが起こっているわけで。
ようはあれよ。
バラエティー番組等で、人が体を張りまくって苦しい思いをしているのに笑っちゃうアレ。
たしかに、全く関係ない人や、それに参加しない人なんかは面白いかもしれない。
だけど、それに出る人からすれば、『笑うんじゃねぇ』この一言に尽きると思う。
私もそうだし。
まあ、それがお笑い芸人だったり、そう言う人でなくとも、笑わせるのが好きな人達だったりするならば、そう思わないかもしれない。
でも私……というより、ここに出てる人のほとんどが、それじゃないし!
え、やっばい! 私、もしかすると死ぬかもしれない……。
怖い、怖すぎる。
どうか、まともなパンが当たりますように……!
切実にそう願っていると、遂に私の番がやってきた。
適当にくじ引きをしてどのレーンを走るか決めると、私は四番目のレーンになった。
正直、見てくれだけはどれもごく普通のパンにしか見えないのが恐ろしい……。
というか、気絶するレベルのパンと、刺激臭で目がやられるパンに関しては、なんで普通のパンみたいな見てくれしているのかしら。
……ま、まあ『TSF症候群』があるような、ファンタジー世界なわけだし、それに比べればそれくらいの方がまだ現実味あるけど……。
と、とにもかくにも、今は目の前のパン食い競争に集中しなければ……!
『では、位置について、よーい……』
パンッ!
スターターピストルの音が鳴ると同時に、私を含めた選手が走り出した。
目指すは前方に存在する、ロシアンルーレットと化しているパン。
見た目が普通だから、ほんっとうにドキドキ感が半端じゃない。
悪い意味で。
「と、とりあえず、おかしなところはない……わね?」
パンの前に到着した私は、匂いも特に異常がないことを確認すると、恐る恐ると言った様子でパンを口で咥え、そのまま紐から降ろす。
ちなみに、この学園のパン食い競争のルールの一つとして、ぶら下がっている状態じゃなくなれば、手を使ってもいいことになっていたりする。
まあ、そうじゃないと完食できない場合も出るからね……。
咥えた感じ、特に味もおかしなところはないし、硬くもない。
むしろ、いい感じにふっくら柔らかくて、丁度いいくらいかも。
『酸っぱ!? なにこれ酸っぱ! 口の中超痛い!』
『逆にこっちは死ぬほどしょっぱいんだが!? 塩分過多で血圧を殺しに来てるげほげほっ!』
『……まっず!』
うん、周りは地獄みたいね。
まあ、普通のパンの人もいるみたいだけど……。
……ふぅ。ずっとこうしているわけにもいかないし……よし、食べるわよ!
「はむっ……! むぐむぐ…………こ、これはっ!?」
すっっっっっごい! 美味しい!?
一体どんな化学兵器かと不安に思っていたけど、これ、ただただ美味しいあんぱんだわ!?
しかも、まったくくどくない餡子だし、しかもほどよい塩加減もパンから感じられて、一度食べたら止まらなくなるくらい美味しい!
まさかの大当たりに、私は一息で食べ尽くした。
「ふぅ、ごちそうさまでした。っと、先にゴールしないと」
満足過ぎるあんぱんに、私は思わず足が止まりそうになったけど、すぐさまこれが競争だという事を思い出し、すぐに駆け出す。
結果は、
『ゴーーーーール! 一位でゴールしたのは、音田美穂さんです! おめでとうございます!』
私が一位でゴールした。
ふふ、やっぱり一位と言うのは気持ちがいいわね。
ちなみに、私の数秒後に別の人がゴールしていた。
どうやら当たりを引いたらしく、私と同じように満足そうな表情だった。
「あ、そう言えばこれ、誰が作ったのかしら? えーっと?」
食べ終えた後に、適当にズボンのポケットに入れていた紙を取り出し、製作者名を見ると、そこには、
『桜花まひろ。品目【手作りあんぱん】』
と書いてあった。
ふむ…………。
「すぅーーーーー……」
心中で一つ頷き、私は限界まで空気を吸い込むと、
「まひろ愛してるーーーーーーーーーーーーー!」
と、大声で自身の迸る愛を叫んだのだった。
尚、この時観客席側から、
「ちょっ、大声で愛を叫ぶでないわ!?」
という、桜髪の美少女のツッコミが聞こえたとかなんとか。
やはり、料理上手な嫁は最高ね!
どうも、九十九一です。
活動報告やら、TS娘の非日常を読んでいる方々は、ギリお久しぶり、というほどではないレベルかと思いますが、この作品のみを読んでいる方々からすれば、約三ヶ月ぶりです。
えー、一体なぜ、ここまで遅れたかと言えば、単純にパン食い競争の内容がまったく思い浮かばなかったのと、18版を書いていたのと、あとは別作品を書いていたからですね。
一つ目に関しては、つい最近ようやくなんとなく決まり、いざ書いてみたら、やっぱり行き当たりばったりでどうにかなりました。
18版はいつも通り。別作品は……実は最近投稿を始めていたりします。異世界ファンタジー物です。
珍しくTS物ではありませんが、そこそこ出来はいい(自分の中では)ので、もし興味があれば読んでみてください。
で、次の投稿なんですが……案外、あっさり書ける、ということがわかったので、少なくとも十一月の一週目辺りには出せるかなと思いますので、少々お待ちください。とりあえず、今回のように、三ヶ月は無いと思うんで……。
では。




