日常80 練習。へばるまひろ
翌日。
今日の体育から、体育祭種目の練習に変わる。
複数種目に出る者は、好きな方を練習できるわけじゃな。
儂は四種目ではあるものの、借り物・借り人競争に関しては練習の必要は無し。
あれは当日までわからない物じゃからな。
で、儂はとりあえず、関係のあるものを練習することになったわけじゃ。
ちなみに、二人三脚に関してなんじゃが……儂が三回走ることは、受理された。
理由は『面白そうだから』というものであったことが、ものっそい腹立ったがな!
「しかし……こうして見ると、結構活気があるのう」
「そりゃお前、去年は自由時間だからー、って理由で芝生で寝てて、見てなかったしなー」
「まあほれ。あの時は何に出るのかあまり理解しておらんかったからな」
「それはそれで問題でしょう」
「いいんじゃよ。儂じゃから。……で、二人は儂と一緒にいてよいのか? 練習とか」
今現在、儂は健吾と優弥と一緒に、体育祭の練習を芝生で見ておった。
美穂たちはそれぞれ、自分が出場する種目を練習中じゃ。
「俺は別に」
「僕もです」
「ま、おぬしらは普通に運動神経がいいからの。こういった場面で練習せずとも問題ないんじゃろ? 出る種目自体、個人系ばかりじゃから」
「まあな。ほら、俺は普段からジムとか行ってるしよ。今更あがいたって仕方ねーしなー。体育祭、二週間後だし」
「同じく。僕も普段から運動していますので」
「くっ、健康優良児どもめっ!」
こやつら、そういう部分は健康的じゃからのう。
「お前の場合は、寝てばっかだから不健康児だろうな」
「少しは運動をした方がいいかと」
「うぐっ」
「それに、俺が知ってる限りじゃ、男時代の時とか、休日――特に長期休みなんかは『寝る→和菓子+緑茶を飲食→また寝る→買い物→夕飯→風呂→寝る』だったしな。一日に二回三回も寝るのなんなん?」
「ちがわい! 正確に言えば、睡眠は二回じゃ! 昼に起きて、和菓子と緑茶を飲み食いした後再び睡眠。その後に寝るのは夜だけじゃよ!」
ま、まあ、たまに朝起きて二度寝する時があるが……。
だとしても、儂の長期休みのルーティンはこんなもんじゃ。
「だとしても、十二時間は寝てるんですね……」
「儂じゃから」
「すっげえ納得」
「……ってかお前こそ、練習しなくていいのかよ?」
「……お、向こうで面白そうなことをしておる奴らがおるぞ! すごいのう」
「露骨に話題を逸らしましたね」
「ぐっ」
「どうせ、『運動したくないから寝てるか!』とか思ったんだろ?」
「ち、違うしっ? べ、別にめんどくさいとか、思っとらんからのっ?」
「ばれっばれですね」
「し、仕方ないじゃろ……儂自身、あまり運動が好きではないんじゃし……」
指を突き合わせては離すという仕草をしながら、そう言う儂。
不健康とは言われても、どうにも運動はのう……。
「でもさ、一応は体力をつけた方がいいんじゃねーの?」
「な、なぜじゃ?」
「だってお前、二人三脚出るじゃん? お前はともかく、他の三人は普通に体力あるしさ、足引っ張りそうだし」
「うっ、そ、それを言われると……」
旦那共の足を引っ張るというのは、あまりよくないな……。
一応、あやつらの嫁、じゃからなぁ……。
少々申し訳ない。
「だろ? どうせなら、少し体力でも付けようぜ? ただでさえ、お前は普段抱っこされて登校してんだろ?」
「そうですね。運動は大事です。将来、まひろさんの足腰が弱くなって、介護生活になったらそれこそ目も当てられませんし」
「た、たしかにそれは困る!」
「だろだろ? だから――」
もし儂がそうなろうものなら……
「う、羽衣梓グループの奴らと旦那共の全力介護で、ほぼほぼ監禁状態での生活を余儀なくされてしまうっ……!」
「そっちかいっ!」
「まひろさん、さすがにそれは言い過ぎでは?」
「い、言い過ぎなものか! おぬしらはな、羽衣梓グループのやばさがわからんから言えるのじゃ! あやつら、なんか儂に対する目が怖いんじゃよ! こう、獲物を狙うような目と言うか、身の回りのこと全てをやろうとしてくるというか……!」
「それ、悪いことか?」
いいことじゃね? とでも言いたげな健吾。
まあ、傍から見ればそうかもしれぬ……しかし、しかしじゃ!
「……もともと一般的な生活をしとったのに、メイド十人と一緒に風呂に入る羽目になり、そのまま眠らされるほどの何かをされるわ、朝の着替えとかシャツとかスカートならまだしも、下着も穿かせようとしてくるわで、なかなかにアレなんじゃぞ!?」
「「えぇ……」」
「他にも、その……だ、旦那共が儂を夜襲う時、とかに、じゃな…………な、なぜか旦那共の味方をして、ど、道具とか……」
「ストップですまひろさん! その話は色々アウトです!」
「そうだぜ、まひろ! ってか、幼馴染の夜の事情とか聞きたくねーわ!」
「っと、すまぬ、つい……」
夜のアレの事情とか、普通聞きたくないか。
この二人とは、男の時からの付き合いじゃからな。
やはり、今現在は女であるとはいえ、元男のそういった話は聞きたくないのも当然じゃな。
……失敗失敗。
「まあ、お前の家に関して思うところはあるけどよ……お前、めんどくさがりだし、別に悪いことじゃないんじゃね? 一体何がダメなんだ?」
腕を組みながら、疑問をぶつける健吾。
健吾の疑問に賛同するかのように、うんうんと優弥も頷く。
まあ、儂を知る二人だからこその疑問じゃな。
「……健吾の言う通り、通常ならば問題はない。じゃがな……いくら儂とは言え、幼児扱いされるのはちょっと……」
「「あー……なるほど」」
「例に挙げるとするならば……そうじゃな。三十代くらいの大人が、親からお小遣いをもらうようなもんじゃな」
「「それは嫌だ(ですね)……」」
「じゃろ? そういうことじゃよ」
まあ、上級ニート的存在の者は、そういう状況になってそうなんじゃけどな……。
「なるほどなぁ……そりゃたしかに、ボロボロになった後が怖いな」
「どのようなことをされるかわからない、という道への恐怖がありますね」
「うむ。だからこそ……ボロボロになるのは危険というわけじゃな。……よし、ならば儂も練習するかのう」
よっこいせ、という掛け声とともに、儂は芝生から立ち上がる。
「おっし、まひろのやる気が出たところで、練習すっか」
「はい」
「む? おぬしら、手伝ってくれるのか?」
「おうよ。俺は短距離走だからなー。それに、普段から運動してるんで、ここでやらなくても問題なしだ」
「僕も似たようなものです」
「ま、手伝ってもらえるのならば、それに越したことはないの。うむ、では頼むとしよう」
「おうよ」
「任せてください」
というわけで、健吾と優弥に練習を手伝ってもらうことになった。
練習とは言ったものの、儂がするのはほとんどランニングじゃ。
やはり、体力をつけるのが一番手っ取り早いからの。
で、健吾と優弥と共にランニングすることになったわけじゃが……
「はぁっ、はぁっ……き、きつっ、きついっ、のじゃぁ……はぁっ、はぁっ……!」
すでに息が上がっておった。
「おいおい、まだ一キロも走ってないぜ? 前1500メートル走った時は全然余裕だったじゃねーか」
「そ、そうっ、はぁっ……は言う、がなっ……ひぃっ、ふぅっ……あれ、あれは、なっ……の、能力があったっ、からなぁっ……! す、素じゃ、こ、こんなもんっ、じゃよぉぉ……!」
「本当に体力がないんですね、まひろさん……」
今にも前に倒れそうなくらいふらっふらな儂。
しかし、やると言った以上、やらなければならぬわけで……。
「はひぃっ……ぜぇっ……」
「お前、本当に大丈夫かよ?」
「だ、大丈夫っ、では、ない……かのうっ……!」
「だろうな」
「とりあえず、あと一周で一キロですので、頑張りましょう!」
「う、うむぅぅぅっ……!」
優弥に励まされつつ、儂は何とか一キロを走り切った。
正直、きっつい。
「ぜぇっ、ぜぇっ……し、しんどいっ……!」
走り終えるなり、儂は芝生に倒れこむ。
額から流れる汗を腕で拭いつつ、体を休める。
「お疲れ様です、まひろさん。大丈夫ですか?」
「きっつい……」
「だろうなー。ってか、一キロでこんだけへばるとか、お前の体力やっぱその体に見合ったレベルになってんのかね?」
「た、多分な……」
もともと、運動が得意ではなく、体力もあるほうではなかった儂じゃが、少なくとも一キロ走り切る前にあそこまで疲れることはなかった……はず。
『成長退行』の能力上、やはりその姿に合わせた身体能力・体力になってるのじゃろうな。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………帰りたい……」
「いやいやいや、まだ二時間目だぞ? さすがに早すぎだって」
「はぁ……あー……ようやく落ち着いたかもしれぬ……」
「そうか。んで、どうよ?」
「うむぅ……とりあえず、筋肉痛になりそう」
「まあ、運動してないとそうなるよなぁ。お前の場合、マジで動かねーし」
「寝てたいんじゃもん」
「寝るのはいいですが、今後は少し体を動かしては? 少しでも運動すれば、今の様に疲れ果てることが減るかと思いますよ?」
芝生に寝転ぶ儂を見て、そう助言する優弥。
ふむぅ……。
「ありと言えば、ありじゃなぁ……」
正直、体力があるに越したことはないわけじゃからな。
……事実、体力がないと夜の方とか……死ぬし……。
はは……全員もれなく、儂を襲うもんじゃから、体が持たなくてのう……。
「まひろさん、なんで遠い目をしてるんですか?」
「……いやなに、少々体力の大事さを痛感してな……」
「急にどうした」
「……結婚すると、まあ、うむ……なんじゃ。体力が、な。いるんじゃよ……」
「「あぁー……なるほど、そういう……」」
儂の言葉で、二人は理解してくれたようで、同情的な顔をした。
……察しが良くて助かる反面、察しが良すぎてこっちも微妙な反応になるのう……。
「そういやさ、体育祭ってたしか、MVPとかなかったっけ?」
「えぇ、ありますね」
「そうだったかの?」
そんなもん、あったか?
「そうですよ。ちなみに、MVPを取ると様々な豪華景品がもらえるそうです」
「ほほう、豪華景品のう……」
以前の儂であれば、少しは興味を抱いたかもしれぬが……
「しかし、今は金持ちの家に嫁いでしもうたからなぁ……」
故に、あまり魅力的とは言えぬ。
いや、もとより金はそこまで重要視しておらんし、なんだったら、儂は睡眠の質さえよければ特に欲はないからのう……。
「そう考えたら、お前ってマジで玉の輿だよなー」
「相手があの羽衣梓グループの社長令嬢ですからね」
「しかも、他にも旦那がいるわけだし? お前、他人から見たらマジでこう……勝ち組だよな」
「んー……やはり、そう見えるか」
「そりゃなー」
健吾の言い分も理解できる。
儂とて、逆の立場であれば、普通にそう思ったと思うしな。
しかし、いざその生活を経験してみると……色々な意味で負けとるんじゃよなぁ……。
「儂、たまーに結婚する前に戻りたい、とか思う時があるんじゃが」
「贅沢なこと言うなー、お前」
「理由は?」
「……別に、女になったことはさほど気にしてはおらん。この姿も、なかなか楽しいし、何より男の時よりも楽じゃからな」
寝る時とか。
あとは、旦那たちが儂を抱っこして運ぶんで、歩く必要がないこととか。
「お前の基準、楽であるかどうか、だもんな」
「まあの。……で、じゃ。儂は中身男であるからして、やはりこう……男友達とバカやりたい、という気持ちがあるわけじゃ」
「ふむ」
「儂にとって、そのバカをやる友というのが、おぬしらなわけじゃが……そんなおぬしらと最近、あまりバカできとらんじゃろ? 最初の頃はともかく」
「言われてみればそうだな」
「今のまひろさん、人妻ですからね。下手に遊ぶと、浮気と捉えられかねませんし」
「人妻言うな」
たしかに、人妻じゃけども。
……なんか嫌じゃな、人妻という響き。
元男的に、人妻呼びはさすがに……。
「けどさ、たしかに俺としても、まひろとバカするような遊びはしてーなー」
「それは僕もですが」
「お、やはりおぬしらもそう思うか! うむうむ! 新学期以降、まともにおぬしらと遊べとらんからのう。ここはひとつ、近々三人で遊びに行かぬか?」
「お、いいねぇ!」
「音田さんたちが許可するのであれば、是非」
二人ともかなり乗り気じゃな。
ふふふ。やはりこう、男同士(儂の場合心的な意味で)で遊ばなければ、儂のストレスはマッハになってしまうからの。
であるならば、発散目的でこやつらと遊びたい!
儂とて、心は健全な男子高校生じゃ。
変に気を遣わない奴らと遊びたいからな。
「ちと、訊いてみるかの」
「訊く? 今、音田たちはいねーぞ?」
「まあ見ておれ。……おーい、瑞姫やー!」
「おいおい、そんな小さい声でこんなだだっ広いグラウンドに響くわけ――」
儂が瑞姫を呼ぶと、健吾はおいおいと呆れる。
しかし、
「お呼びですか、まひろちゃん!」
さすがド変態ロリコンお嬢。
瞬間移動してきたのでは? と思わんばかりのスピードで儂の元へやってきた。
「って、マジで来た!?」
尚、健吾は突如現れた変態に驚いたが。
「うむ、実はかくかくしかじかでな」
「これこれうまうま、というわけですね。わかりました。お友達との交流は大事ですから、許可しましょう」
「おぉ、すまぬな! こやつらとは付き合いが長いからのう。助かるぞ」
「なるほど……それでしたら、笹西さんたちと遊びに行くのであれば、特に制限はしないことにしましょう」
「なぬ! それはつまり、当日いきなり遊びに行ってもよいと?」
「はい。まひろちゃんはもともと男性でしたし、やはり男性同士の付き合いというものもありますから。それに……お二人なら、まひろちゃんに邪な目を向けないと思いますから!」
「あー、なるほど。俺たちはすんげぇ信頼されてるってことだな」
「みたいですね」
眩しい笑顔で断言する瑞姫を見て、二人は苦笑を浮かべた。
100%この二人が儂に恋愛感情を持つことはない、そう思っとるな、これ。
しかしまあ。
「そうじゃな。おぬしらは儂の裸を見ても、さほど欲情せんかったし、襲いかからんかったからのう。その辺りは、儂も信用できる」
「……お前、普通それを旦那の前で言うか?」
「む? 別に問題なかろう。儂が変異した日、おぬしら全然反応せんかったからな。あそこ」
「ド直球な下ネタ入れるのやめろや!?」
「そうですよ、心臓に悪いですからね!? それが原因で、僕たち殺されかけてますから!」
「はっはっは! すまぬな。……というわけじゃ、許可出しありがとうな、瑞姫」
「いえいえ。……それにしても、お二人はまひろちゃんの一糸纏わぬ神々しい肢体を目にしても、反応しなかったのですね。……もしかして(ポンッ!)ですか?」
「「――っげほっげほっ!」」
瑞姫が普通にやべーことを平然とした顔で言った結果、二人はむせた。
「……瑞姫、おぬしとんでもないことを言ったぞ?」
「いえ、少し気になったので」
「気にはなっても口にするでない。見よ、二人とも清楚お嬢様系美少女の口からとんでもない下ネタが飛び出て、むせておるじゃろうが。あと、嫁的にちと思うところがある」
「あ、それは失礼しました。すみません。デリケートな話題でしたね。EとDの話は」
「いや、離せばいいというものでもないぞ? おぬし、バカか?」
「失礼な。これでも学年トップの成績ですよ?」
「そういう意味じゃないわい」
こやつ、たまーに天然が入るんじゃよなぁ……。
やはり、お嬢だからかの?
マンガやラノベでも、お嬢様キャラは天然系が地味に多いからな。
現実でもそうなのじゃろうか?
「まったく……ともあれ、許可ありがとな。戻ってよいぞ」
「あ、はい。わかりました。それでは、まひろちゃんたちも頑張ってくださいね」
「うむ! おぬしもな」
「はい。それでは」
にっこりと微笑んでから、瑞姫は去っていった。
うぅむ。
「よし、では日程でも決めるか」
「あれをなかったことにすんの!?」
「む? いやまあ……あやつ、家ではあんな感じじゃし……」
「マジで!?」
「マジじゃ」
「人は見かけによらない、ということですね……」
んむー、まあこやつらの言う事もわかるか。
あやつ、外見だけ見れば清楚系美少女じゃからな。
そんな美少女が、ド直球な下ネタを言えば、それはもう驚いて咽るのも納得じゃ。
儂とて、知らなければそうだったかもしれぬからのう。
とはいえ、儂はさほどあ奴を知っておったわけではない上に、早いタイミングで変態性を知ったんで、結果として咽るほどの驚きはなかったがな。
「んじゃ、話すのもこの辺にして、練習でも再開するか」
「え、もうか!?」
「当り前です。あれくらいでしたら、十分程度あれば問題ないかと。……ですが、安心してください。次はランニングではなく、筋トレですから」
「筋トレ?」
「そうです。まひろさんは、筋肉が乏しいですからね」
「いやそれ、儂が『獣化』すれば解決なんじゃが」
「何を言ってるんですか。そもそも、普通の人は能力なんてありません。たしか、ちゃんとデメリットがあるんですよね? それに、インターバルだってあるんですよ? であるなら、素の状態で鍛えておけば、ある程度運動ができるようになるというものです」
「そ、そうかの?」
しかしまあ、優弥の言うことには一理ある、か。
あの能力のデメリットと言えば、一時間以上変身しておると、動物そのものになってしまうからのう……。
「そりゃそうだろ。ってか、筋トレお前嫌いだったか?」
「あー、いや……そういうわけではないんじゃが、その、な……」
健吾の問いに、儂は少しばかし恥ずかしさから答えに詰まった。
「なんで顔赤くしてんの?」
「……いや、ほれ。儂、その……あ、あやつらに好かれるとる、じゃろ?」
「そうだな。自慢か?」
「い、いや、そういうわけではなく……あ、あれじゃ。その……儂、よくあやつらに裸を見られるんじゃが……」
「聞きたくねーよ、友人のそういう事情」
「で、まあ……ほれ、筋肉が付いたら、か、可愛く思われないのでは……? と、思ってしまって、じゃな…………」
「「ごふっ……」」
「ちょっ、お、おぬしら!? なんで吐血したのじゃ!?」
儂の理由を聞いたからか、二人はなぜか胸を押さえて吐血した。
よく見れば少し震えているような気がする。
「お、お前……その言い方は反則だろ……」
「で、ですね。今のはロリコンでなくとも、男と知っていながらも、思わず目覚めてしまいそうな一撃でした……」
「何を言っとるんじゃおぬしら」
儂とて、心は男でも、体は女じゃ。
そりゃぁ、旦那共に好かれている状態を維持するべく、可愛い状態でいたいのは当たり前と言うか……。
「……つーかまひろ、お前随分と乙女な思考になってんなぁ……」
「む、乙女? 儂が? はっはっは! ないない」
「「え? 今の発言で!?」」
「……え? 儂、乙女じゃないよな? な?」
「「……」」
儂の問いかけに、二人は無言で目を逸らした。
……もしかして儂、自分で思っている以上に……乙女化しとるの?
い、嫌じゃなぁ……。
「と、ともかく! 少しは筋トレはしとこーぜ。少しくらいならわかんねーしさ」
「ほ、ほんとか?」
「そうですね。まひろさんは明らかに平均以下ですので、平均程度に筋肉を付けてもわからないでしょう。むしろ、うっすらと筋肉が見える、と言うのはある種の魅力にもなりますから」
「ふむ……そこまで言うのならば仕方あるまい。あまり気乗りせんが、やるとしよう」
「おっし、んじゃやるか」
「うむ」
二人に説得されて、儂は筋トレをすることになった。
「ふっ……んっ……じゅっ……うぅ! じゅう、い、ちっ……!」
「「……」」
「はぁっ、はぁっ……んんっ……じゅう、にぃっ……! じゅうっ……はぁっ、んっ……さんっ……!」
「「……」」
「じゅう……ごっ! はぁっ、はぁっ……や、やっと、お、終わったのじゃぁ……ふ、腹筋、十五回、三セット……」
えー、どうも、皆様初めまして。
笹西健吾です。
突然なんだが、俺の心の叫びを聞いてほしい。
そしてそれはおそらく、俺だけでなく優弥も思っている事だろう。
よし、じゃあ言うんだが…………なんでこいつ腹筋してる姿がエロいんだよ!?
なんなんマジで!
最初の方は、
「よし、やるか。それじゃ……いーち……にーい……さーん」
とまあ、普通にやっていたんだ。
しかし、だがしかし!
これが二セット目になってくると、さっきのような感じになる。
なんでだよ。
しかもこいつ、あれだぜ?
顔は赤くなり、妙に色っぽい顔になるし、流れ出る汗が余計にその色っぽさを加速。
その上、体をゆすったりしながらやるもんだから、体操着が若干めくれあがって、腹が見えてんだよ。
その時点で、俺と優弥は他の男子連中や旦那たちに見せないよう、何とか隠していた。
そうしないと、俺たちが殺されるし、まひろは旦那に襲われかねん。
決して、こいつがエロいから独占してガン見しようとした、なんてことはない。
男時代の頃をよく知っているが故に、こいつに欲情するとか、ないない。
もしそうなったら、展開は明らかにエロゲ、もしくは同人ゲームになること間違いなしだ。
……っと、話が逸れた。
で、だ。
まだ続きがあって、だな。
こいつさ……なぜか終わった後、さらに色気を増した表情するわ、膝を立てて内またにするわ、腹は見えてるわ、なぜか片腕を頭の方に持ってきてるわで、明らか事後だろ、とツッコミたくなるような状態なんだぜ?
おかしいだろ。
こいつやっぱ、あれだろ。
大人の階段登った結果、無意識レベルで女になってるよ。
心は男のつもりなんだろうが、それでもこれはもう無理だろ。
だって、見た目小学生なのになんかすんごいエロいし。
……俺、この瞬間ほど、こいつと幼馴染でよかったと思ったことないわ。
じゃなきゃ、マジで理性がぶっ壊れてただろうし。
俺の理性が持っている原因は、それだし。
ありがとう、親父、おふくろ……俺、やっぱこいつと親友だわ……。
「健吾さん、やはりこれは……」
「言うな、優弥。俺たちは何も見ていないし、何も聞いてない。OK?」
「……そうですね。バレれば、僕たちは確実に……消されます」
「よし、それでこそ親友よ」
「はは、そうですね。……まあ、それはそれとして、それとなく言っておきましょう」
「……だな」
俺たちは、まひろが俺たち以外にこんな醜態じみた状況にならないよう、それとなーく伝えることにした。
……恐るべし、TS病&旦那たち。
どうも、九十九一です。
約二週間ですかね。やはり、色々と同時に書いていると、思うように進まないもんです。むしろ、去年のあの時期が一番いかれてたわけですが。なんだよ、二作品同時執筆してた上に毎日投稿とか。我ながら、なかなかすごいことをしてたんだなーと。また、毎日投稿に戻したいんですけどねぇ……。
ともあれ、次の投稿は……うん、早めに出すつもりではいます。早くて一週間遅くとも一ヶ月以内には出すつもりですので、よろしくお願いします。
では。




