日常79 ゴールデンウイーク明け。体育祭の種目決め
そんなこんなでゴールデンウイークが明け、平日に。
連休中、あまり休めたような気はしなかったが、楽しい連休じゃった。
ちなみに、帰ってから襲うという例のあれは、全力で断った結果、なんとか回避することができた。
理由は、
『さすがに可哀そうかなぁ、と』
というもの。
そういう考え、あったんじゃな、あやつらに。
などと思いつつ、儂らは仲良く学園へ登校。
家から学園の距離自体はそれなりに近くなったものの、屋敷から門への道が地味に長いのがムカつく。
ものっすごく疲れるんじゃが、あれ。
とはいえ、儂は基本毎日変わりばんこで抱っこされる、という状況であるからして、問題はないんじゃが……これ、旦那共疲れんのかの?
いささか申し訳ない気持ちになる。
まあ、楽ができることに変わりはないので、個人的にはありがたいんじゃがな。
……しかしこれ、いつか儂の体力が減りそうでなぁ……まあ、その場合は一時的に成長すればよいか。
あれ、なんだかんだでその姿の体力量になるしの。
うむ、その辺りは少し考えるとしよう。
……などと思いながら、抱かれて登校。
さすがに学園手前で下ろしてもらい、校舎内の途中でましろんと結衣姉と別れた。
「おはようじゃー」
挨拶しながら教室に入ると、ゴールデンウイーク明けのためか、何やら浮かれ気味の者や、だるそうにするもの、妙なテンションの者もおった。
「おーっす、まひろ」
「おはようございます。まひろさん」
「うむ、おはようじゃ、健吾、優弥」
入ってきた儂の存在に気付いた二人が儂らところに来て挨拶をしてくる。
うむうむ、最近こやつと長いこと会ってなかった気がする故、嬉しいものじゃ。
……時間的には、一週間程度なんじゃがな。
「っと、そうだ。まひろ、今日は一緒に昼飯食わね?」
「お、いいのう。美穂、瑞姫、アリアよ、二人と昼飯を食べてもよいかの?」
旦那じゃからな。
一応は了解を得なければな。
「えぇ、いいわよ。あんただって、そういう時間は必要でしょうし」
「わたしも問題ありません」
「大丈夫だよ!」
「……とのことなんで、一緒に食べるとしよう」
「おっけー。じゃ、いつもの場所だなー」
「そうですね」
うむうむ、やはり男の友人と一緒に過ごせる時間が、儂には必要じゃな。
そんなこんなで何事もなく、平穏に進み昼休み。
あっという間じゃな、ほんとに。
儂は約束通り、健吾と優弥と飯を食うべく、三人で屋上に来ておった。
「もうそろ六月だし、大分ここも暑くなってきたなー」
購買で買ったパンの袋を開けながら、健吾がぼやく。
儂と優弥は弁当派なので、こちらは弁当箱を開ける。
「じゃな。やはり、夏は嫌いじゃ」
「まひろさん、冬も嫌いではなかったですか?」
「そりゃそうじゃろ。寒いし。しかしまあ、夏よりかはマシじゃな。冬は重ね着をすれば寒さは和らぐが、夏場は全裸になっても暑いからな」
「……まあお前、夏場は基本全裸で過ごしてるしな」
「あれが一番涼しいんじゃよ」
「僕も、あれを初めて見た時は驚きましたよ」
当時のことを思い出してか、苦笑い交じりに言う優弥。
そう言えば、あの時は驚かれておったのう。
「いや、優弥はマシな方じゃね?」
「それはどう意味で?」
「昔のことなんだが……俺ん家とこいつの家って隣同士だろ?」
「そうですね」
「こいつと一緒に遊ぶ時はさ、俺がこいつの家に行って、こいつを起こすところから始まる。で、だ。問題はそこでな……。こいつ、夏場は裸族なもんだからよ、起こす時……見えるわけだ、アレが。しかも、朝だからな……」
はは……と、乾いた笑いを漏らす健吾。
「あ、あー……そう言えば、そうでしたね……」
「ははは、そう言えばあったのう、そんなことが。まあ、安心せい。今の儂は、アレないし、問題ないぞ?」
などと、やや冗談めかして言うと、
「今の姿の方が余計アウトだわ!? 見た目小学校低学年くらいの女が寝てるところを見るとか、事案だからな!?」
全力で儂の発言にツッコミを入れられた。
ふむぅ、さすがツッコミ担当。
「なるほど……今のまひろさんの姿に変換すると、健吾さんは幼女の裸を見ていた、というわけですね」
「なるほどでも、そういうわけでもねーよ!? あったのは、やや身長低めの男の素っ裸だわ!? あれほど気色悪いもんもねぇから!」
「ですが、まひろさんが男性の時と言えば……女性っぽかったですよね? 顔立ち」
「そうだけどもっ、そうだけどもっっ……! こいつ、女顔だから余計ドギマギすんだよ! こいつの寝顔を見てた時とかたまに『え? こいつ、本当に男なん?』って思う時あったしよ! なんなんだよお前!」
「そう言われてものう。儂、なぜか中性的じゃったからなぁ。まあよいではないか。今は男ではなく、女なのじゃから」
儂があんななりじゃったのは、ほぼほぼ遺伝じゃからのう。
多分、母方の方。
「よくねぇってさっき言ったよな!? また同じことを言うのか!?」
「ははは、気にするでない」
「くそっ、まひろがボケに回ると、マジでめんどくせぇよ……」
「本来、儂はツッコミではないからの。ふふふ、やはりボケができるというのは、心が楽になるもんじゃな。ストレス発散じゃよ、ほんとに」
「それだけツッコミをしてるんですね、まひろさん」
「まあの」
というか、瑞姫という名の特大のボケがおるから、結果的に儂が被害を被っておるしな。
瑞姫ほどでなくとも、ましろんとか結衣姉はどちらかと言えばボケよりじゃし。
美穂は……まあ、ツッコミよりじゃな。
アリアは……どっちなんじゃろ? ボケてる……というより、あれは好奇心旺盛な性格故の天然じゃからな。
まあ、両方じゃろ、あれは。
「しっかし……お前の弁当、なんか豪華じゃね?」
「む、これか?」
「それ、僕も気になってました。どう見ても、重箱ですよね? それ」
「……まあ、色々あってな。ほれ、今儂が住んどる家は、瑞姫――羽衣梓家が全力でかかわった屋敷じゃろ?」
「そういやそんなこと言ってたな。それで?」
「で、じゃ。その屋敷を管理、そして儂らの世話をするためだけに、メイドが百人おるわけじゃが」
「多くね?」
うむ、その反応ごもっとも。
優弥も少し戸惑ったような表情であるところを見るに、やはりおかしいのじゃろう。
いやまあ、そもそもメイドがいること自体おかしいわけじゃが。
「多いじゃろ? まあ、それほど大きいんじゃよ、儂の住む家。……で、専門分野のメイドもおるわけじゃが、その中に料理専門のメイドがおってな。そやつらが張り切って作るんじゃよ、弁当を」
「……だとしても、その量はいささか多いような気がしますが」
「…………羽衣梓グループ関連の者たちはな、なぜか幼女に甘いというか……全力を出すんじゃよ、いやマジで」
「お、おう?」
「それが原因なのじゃろう。奴らは儂にこう言うのじゃ『もっと食べないと大きくなれません! こちらをどうぞ!』と。で、こうなる」
「「うわぁ……」」
メイドの発言に、二人はドン引きしたような声が漏れた。
やはり、一般人が訊いてもそう思うんじゃな。
「まあ、味はいいんじゃよ、味は。ついつい手が伸びてしまうくらいには美味い。しかし、しかしじゃ」
「お前、小食だもんな」
「うむぅ……。先週からこれでな。幸い、儂の旦那に超大食いのましろんがおるからまだよいが、こういう場合、さすがに食いきれん。というわけで……二人とも、食べるの手伝ってくれ!」
「お前からすりゃ、その量は凶悪だしな……オッケー。手伝うぜ」
「では、僕も微力ながら手伝いましょう。それに、美味しそうですしね」
「うむ、味は期待してもよいぞ」
ちなみに、今日の弁当箱の中身は、キノコの炊き込みご飯、ほうれん草のおひたし、二センチくらいの厚みのステーキ、オマール海老のポワレ、シーザーサラダ、そしてデザートに羊羹が入っておる。
正直言う。
絶対値段がおかしいと思う、これ。
「っと、健吾。箸はこれを使うがよい」
「お、サンキュー。んじゃ……手始めに、この炊き込みご飯からもらうぜ」
「僕はおひたしを」
「なんじゃ、エビとかステーキを持っててもいいんじゃぞ? というか、そっちを持っていってほしいんじゃが」
「いや、そっちは後。先に比較的軽めの方を持っていくんだよ」
「えぇ。一番普通な料理だからこそ、最初に食べたいので」
「そうか。まあよい、ささ、食え食え」
にこにこと笑みを浮かべながら、二人の食べるよう勧め、二人はそれぞれぱくりと料理を口にした。
そして……固まった。
「どうした?」
「…………なぁ、キノコの炊き込みご飯ってさ、こんなに味濃かったか?」
「いや、もうちと薄いな」
「だよな!? なのになんだこれ!? 普通の炊き込みご飯だと思ったら、バカ美味いんだけど!? キノコの旨味が強すぎるんだが!」
「こっちのおひたしも美味しいですよ。使っている出汁や醬油がいいんでしょうか? それとも、ほうれん草自体が別格なのでしょうか? とにかく、美味しいですね、これ」
と、それぞれ驚愕したような様子。
まあ、儂も最初はそんな反応じゃったなぁ……。
「それじゃ、他のもどんどん食べてくれ。儂、マジで量が多いんでキツイ」
「おう、んじゃ遠慮なくもらうぜ」
「僕も。これなら余裕で入りそうです」
「うむうむ、助かるのじゃ」
二人は、遠慮なく儂の弁当を食べてくれた。
「ふいー、ごちそうさん。マジで美味かったわ」
「まさか、この年であれほどの味の料理を食べられるとは思いませんでしたよ」
「はは、そう言ってもらえるなら、おぬしに食わせて良かったわい。作ったのは、メイドじゃがな」
とりあえず、礼を言うのと同時に、量を減らすように言わねばな。
「……っと、そういや、もうそろじゃなかったか?」
ふと、健吾が何かを思い出したのか、そう言ってくる。
「もうそろと言いますと……あぁ、体育祭ですか」
「そそ。ゴールデンウイーク明け早々、種目決めなかったか?」
「そうじゃったか?」
「そういやお前、去年は種目決めの時寝てたっけな」
「あぁ、そうじゃったそうじゃった。で、結局儂、障害物競争に出たんじゃったな。あれは面倒じゃったのう」
儂のように、ぐーたらしてる人間に、障害物競争などという体力を使う種目は、本当にしんどい。
何せ、普段使わない筋力を使う羽目になるんで、次の日は酷い筋肉痛に襲われるからのう。
「で? お前、今年は何か出たい種目とかあんの?」
「儂? うーむ、そもそも運動自体好きじゃないからの。できれば、楽な種目に出たいな」
「そう言うけどさ、お前って何気に祭りごとが好きだし、案外乗り気なんじゃねーの?」
パックジュースを飲みながら、そう言ってくる健吾。
「まぁ、否定はせんよ。特に学園祭のような催しは大好きじゃからな。故に、体育祭も嫌いではない」
とはいえ、儂自身が動くというより、他の者が動いている様を見るのが好きじゃがな。
「まあでも、お前なら二人三脚辺りに出そうだな」
「む、そうか?」
「そりゃそうだろ。だってお前、クラスに旦那が三人いるわけだろ? 絶対あの三人が誘ってくるって」
「あー……うむ、その可能性は高い、な……」
そうか、二人三脚があったか。
あの三人……特に、瑞姫辺りが全力で参加しそうじゃな。
「しかし、あれはたしか……なぜか異性同士の種目ではなかったか?」
うちの学園の二人三脚は、なぜか異性同士限定という謎の縛りがある。
祭り好きが多い学園ではあるんじゃが、こと二人三脚に関してはマジで暴動が起きるのでは? というくらいに不満を買いやすい。
ちなみに、不満を買うのは学園側ではなく、それに参加する者たちじゃ。
理由は『リア充死すべし!』というものじゃな。
まあ、うむ。リア充がリア充するためのリア充種目じゃからのう……あれ。
儂は初々しい者たちの二人三脚を見られるから割と好きじゃがな。
たまに男女同士だからこそのハプニングも起こるし。
あ、間違ってもエロ的なあれではないぞ?
「そりゃそうなんだけどさ」
「そもそも、まひろさんはかなり特殊ですよね?」
「む?」
特殊、とはどういうことじゃろうか?
儂が首をかしげておると、優弥が説明してくれた。
「そもそも、『TSF症候群』を発症させた方の性別と言うのが『TS』、というのはまひろさんもよくご存知ですよね?」
「うむ、教えられたからの」
「あれは男でもあり、女でもある、そういう意味で使われる場合がほとんどです。これらを学校体育に当てはめると、男女両方に参加することが可能、ということになります」
「ふむ……なるほど。その理屈で行けば、儂は男女どちらとも組むことができる、というわけじゃな?」
「そういうことです」
「ははっ。たしかにそうかもしれぬが、まあそのようなことにはならんじゃろ。十中八九、男子と組む羽目になるとは思うぞ、儂」
ははは、と優弥の考えを笑い飛ばす。
しかし、二人はどこか苦い顔を浮かべていた。
どういうことじゃろうか?
「こいつって、なんでこうフラグを建築すんのかねぇ?」
「まひろさん、ですからね」
フラグなんか建てとらんわ。
「……ともあれ、じゃ。この後種目決めなんじゃよな? であれば、そこではっきりするというものよ」
「ま、それもそうだな。俺は運動好きだし、出られるだけ出ようかね」
「僕はほどほどに」
「うむ、ではそろそろ戻るか」
そう言ったタイミングで、予鈴が鳴り、儂らは教室に戻った。
今日の五時間目は、昼休みに話しておったように、体育祭の種目決めであった。
体育委員が前に出てきて、黒板に各種目名を書いていく。
うちの学園の体育祭の種目はこう。
・100メートル走 男女各二人
・200メートル走 男女各二人
・300メートル走 男女各二人
・スウェーデンリレー 男女混合四人
・クラス対抗リレー 十人
・仮装リレー 四人
・障害物競争 四人
・借り物・借り人競争 二人
・綱引き 二十人
・パン食い競争 二人
・二人三脚 六人
・騎馬戦 男女合計で八人
こんなもん。
クラス人数が四十人。
で、二十六人が二種目出る計算じゃな。
まあ、一人が三種目出場してもいいんで、その辺りは話し合いじゃな。
ちなみに、ここにはない種目として、部活動・委員会対抗リレーが存在する。
内容は文字通り、部活動と委員会がリレー勝負をするだけ。
儂は多分……参加しないじゃろ。
仮装リレーはちと面白そうじゃが……。
『それでは、今から体育祭に出場する種目を決めるぞ。今から時間を五分上げるんで、どれに出たいかを考えてほしい。では、始め!』
いきなりぶん投げたのう。
しかし、ふむ。
こうしてみると、昨年はいつの間にか障害物競争に出場する羽目になっておったんで、改めて見ると……面白そうなものがあるのう。
去年の体育祭中は、適当に座っておったし。
祭りごとが好きでも、さすがに暑い中外にいるのは苦痛じゃったからな。
さて、儂はどれに出ようかのう。
基本、一人一種目には必ず出場するように、というルールであるからして、選ばなければならぬ。
美穂、瑞姫、アリアはうーんと唸っておる辺り、あやつらも真剣に考えておるのじゃろう。
何やら、鬼気迫る表情をしておるのが気になるが……。
ともあれ、種目じゃな。
障害物競争は去年参加したんで、無しじゃな。
となるとそれ以外。
そうじゃのう……儂の場合、能力を使えばいい線は行くじゃろうな。
短距離走やリレー系では。
しかし、儂はそう言った直接的な勝負は好まん。
やはり、色物系に参加したいところ。
となると、借り物・借り人競争、もしくはパン食い競争になるわけじゃが……ふむ。
どちらも面白そうなんじゃよな。
個人的に、借り物・借り人競争に出場したいの。
アニメやマンガ、ラノベを見ておると、大抵面白系のお題が出されて四苦八苦するのが定番じゃからな。
興味ある。
……うむ、そこにしよう。
『終了! それじゃあ、今から各種目を言うんで、出たい種目に手を挙げてくれよー』
そう言って、体育委員の男子の方が種目の名前を言っていく。
短距離走系には陸上部や野球部などの運動部が手を挙げ、案外あっさり決まった。
リレーも似たようなものじゃな。
仮装リレーだけは、二人しか集まらんかった。
障害物競争には、アリアが出場することに。
借り物・借り人競争に儂が手を挙げたところ、他におらんかったので、すんなり決まった。
しかし、借り物・借り人競争、何やら避けられておったような気がするのじゃが……。
どういうことなんじゃろうか?
まあ、それはともかくとして、綱引きは十二人くらいが手を挙げ、こちらも手を挙げた者で決定。残り八人は後。
パン食い競争に手を挙げたのは、美穂。
じゃんけんになったものの、美穂は勝利した。
そして、二人三脚……はなぜか一度飛ばされ、騎馬戦。
騎馬戦は四人一組を二つ作る種目。
うちのクラスにおる、仲良し四人組の男子グループが手を挙げたものの、もう一組は決まらんかった。
『――とりあえず、一週目は終了。短距離走、仮装リレー以外のリレー、パン食い競争は決まったわけだが……他が決まらなかったので二週目なー。まだ何も手を挙げてない人は、できれば次で挙げてほしい。特にない場合は、あとでくじ引きをするので、その時に決めるからな』
む? 二人三脚がスルーされたんじゃが……。
あれは最後なのかの?
そう言えば、瑞姫は何に出るつもりなんじゃろうか?
『じゃ、訊いてくぞー』
そして、二週目が始まった。
一週目で手を挙げなかった者が空いている種目に手を挙げたり、逆に一週目で手を挙げていた者が、別の種目で手を挙げたりと、なかなかに順調。
すんなりと二週目が終わり、残った種目は、
『二週目の結果、仮装リレー、障害物競争、騎馬戦が決まらなかった』
この三つ。
じゃが、この三つは二人三脚を除いた場合の三つじゃ。
二人三脚は一度も訊いておらぬ。
ちなみにじゃが、瑞姫は綱引きに手を挙げた。
意外。
『一応全員一つずつ参加が決まったわけだが……ここからはくじ引きをするぞ。二人三脚に関しては、一旦除外。騎馬戦は……できれば、四人組が作れて、尚且つ仲良しであれば勝率が高まるんだが……誰かいないか?』
と、体育委員男子が言うと、バッ! となぜかクラスメートのほとんどが、儂を見てきた。
「な、なんじゃなんじゃ? なぜおぬしらは儂を見とるんじゃ?」
『いやー、仲良し四人組って、一応うちのクラスにいるし』
『うんうん。まひろちゃんだけじゃなくて、音田さんに、羽衣梓さん、アリスちゃんがいるし』
『ってか、実際家族じゃん? それ以上の相性なんてないだろうしさ』
「わ、儂は嫌――」
「面白そう!」
「アリア!?」
「そうね。私たちは家族なわけだし、そこらの生徒以上の相性と言えるわね」
「美穂!?」
「わたしも賛成ですね。わたしたちは妻婦ですから、是非とも仲良しアピールをして、まひろちゃんに悪い虫――こほん。異常性癖な男性が付かないようにしなくては!」
「瑞姫、言い直したように見えてことさら酷いこと言っとるからな!?」
相変わらず儂が絡むとマジでバカ。
関わらなければまともなんじゃがのう……。
尚、瑞姫の発言の直後、女子はニヤニヤと。男子は瑞姫が思ったよりもアレなことを言ったんで、ややショックを受けておった。
まあ、うむ。あやつ、一応清楚系ななりをしておるんで、気持ちはわかる。
中身は肉食系変態女子じゃが。
『じゃあ、この四人を騎馬戦に出す、という事でOK?』
『『『OK!』』』
「儂はOKしとらんのじゃが!?」
『いや、桜花は旦那たちがOKしたんで強制』
「ひっど! これが民主主義の闇かッ……!」
『よーし、桜花はほっといて、これで決まりなー。それじゃ、くじ引きするぞー』
くっ、二種目に参加することになってしもうた……。
儂、できれば一種目だけが良かったんじゃがのう……。
『それじゃ、早い者勝ちで前に来てくれー。それぞれ一枚ずつ引くように』
と、男子がそう言えば、クラスメートが一気に前に押し寄せる。
儂は最後でええじゃろ。
こういうのは、先に行くと確率が高まると相場は決まっておる。
であるならば、最後に引きに行くのがベストじゃ!
ふふ、と笑みを浮かべ、全員が引き終わったタイミングで儂は意気揚々と引くに行く。
それを体育委員に渡して終了。
白紙じゃろうから問題なしじゃ。
『えー、桜花は……仮装リレーだな』
「……な、なにぃ!?」
勝ち誇った気分で自分の席に戻ろうとしたところ、背後から仮装リレーという単語が聞こえてきた。
思わず勢いよく振り向く。
「な、何かの間違いではないのか!?」
『いや、仮装リレーって書いてある。というか、桜花の前の奴が引いた時点で確定してたぞ?』
「なんっ……じゃとっ……」
がくっ、と四つん這いになる儂。
ま、まさか、儂の目論見が外れたというのか……!
こういうのは普通、最後ではなく、途中の者がなると相場は決まっておるじゃろ!?
なぜじゃ……なぜ三種目にでなけりゃならんのじゃ!?
『というわけで、桜花は仮装リレー出場決定なー』
ちくしょーめ!
『えー、音田。とりあえず、桜花を回収してくれ』
「了解よ。……ほら、まひろ。席に戻るわよ」
「ぐぬぬぅ……」
まさか、三種目に出ることになるとは……。
美穂に抱っこされ、席に座らされる。
嫌な結果に終わってしまったため、儂は机に突っ伏した。
もうええじゃろ。どうせ、二人三脚に関しては、関係ないじゃろうからな……。
『よーし、それじゃ最後。二人三脚決めるぞー』
と、体育委員がそう言った瞬間、クラス内が一気に殺気立った。
なんか、ピリピリしとるんじゃが……。
『えー、全員知っての通り、二人三脚は男女混合がルールだ。なんで、男女各三人ずつを選出したいんだが……やりたい奴はいるかー?』
軽い説明後、立候補者を募ると、バッ! と勢いよく三つの手が上がった。
その正体は……。
『えー、立候補者は、音田、羽衣梓さん、時乃さんの三人だな』
儂の旦那×3じゃった。
……あやつら、儂が女であること、忘れとるのか?
『他にやりたそうな女子はいないんで……男子行くぞー。やりたい奴ー』
男子側の立候補者を募ったのじゃが……一人も、手を上げなかった。
三人とも、かなりの美少女であるにもかかわらず、男子からの挙手は無し。
いやまあ、ここで手が上がったら、儂、すんごい複雑な気分になったんじゃがな。
『あー……先生、これはどうすればいいんですかね?』
この状況に困った体育委員は、教員用の椅子に座って天井を見上げていた四方木教諭に助け舟を求めた。
「ん? あぁ、この場合か? まあ、通常時のルールなら、男女混合でなきゃいけない。同性同士は認められないんだよなー、原則として」
『ですが、ここで男子が手を上げたら、確実に殺されますよね? 三人に』
「だなー。あいつら、妻帯者だし。浮気になっちまうなー」
妻帯者て。
儂、教師からも嫁扱いなのかの……?
『じゃあ、どうすれば?』
「いやまあ、そんなの決まってるだろ? 桜花が出りゃいいじゃねーの」
「……は?」
一体、奴は何を言っとるんじゃ……?
二人三脚は、男女混合のはず……。
『先生、それはありなんですか?』
「そりゃありだろ。だってあいつ、『TSF症候群』の発症者だぞ? 男扱いもできるし、女扱いもできる。故に、男扱いをすることで、女子と組むことができるってわけだ。ってか、お前ら三人は、それを理解して手を挙げたんだろ?」
「「「はい」」」
「な? というわけだ。桜花ー。お前は三人全員と走るようになー」
「………は!? い、いきなり何を言うとんのじゃおぬしは!?」
今、とんでもない発言をしおったぞこやつ!
三人全員と走る? 無理に決まってるじゃろ! ルール的に!
「いやだって、ここでお前が誰か一人と走る! なんて言えば、確実に三人が争うぞ? そうなると、俺がさっさと帰れ――んんっ! HRが終わらなくなる。それは困る」
「今、さっさと帰れなくなるとか言いおったな!? おぬし、教師じゃろうが!?」
「はっはっは! 俺は欲望に忠実なのさ!」
「じゃが、さすがに同じ奴が三回走るのはダメじゃろ!」
「そうかぁ? お前ら普通に結婚してるんだしありだろ」
「何をどうしたらそうなる!?」
「いやまあ、お前がいいんならいいんだぞ? 三人の内二人が男子と走っても。でもさー、嫁的にどうなん? それ。体育祭の種目とはいえ、自分以外の男子が自分の旦那とくっつくんだぞ? そらお前……なぁ?」
「うぐっ……!」
た、たしかに、それはクソじゃ……。
旦那共と密着していいのは、家族を除き儂だけ……それだけは譲れぬ……。
し、しかし、三回走るのはさすがに……。
既に、三種目に出ることが確定しておると言うのに、それはちょっと……。
「そうよ、まひろ。観念して、三回走りなさい」
「おぬしは鬼か!? 儂に死ねと!?」
「でも、まひろ君って、能力を使えば体力的には問題ないよね?」
「た、たしかに問題はないがっ……そ、それはそれじゃろ! 儂、死ぬぞ!? 過労で!」
「ご安心を。羽衣梓グループが徹底的に、まひろちゃんのバックアップをしますので! なんでしたら、一瞬で疲労を回復させるマッサージが可能なマッサージ師を呼びますので」
「どこに力を入れとんの!?」
バカじゃろそれ!
二人三脚で一緒に走りたいがためだけに、全力すぎじゃろ!
「というわけで先生。出場で」
「OKだ。んじゃ、川野よろしく」
『わかりました。それじゃあ、これで種目決めは終了! 次の体育から、各種目の練習になるんで、各自自分の種目を覚えておくように! あと、仮装リレーに参加する人は、衣装製作もあるんで、採寸をするからなー。以上!』
……そんなこんなで、儂が四種目(内一つは三回走る)への出場が決まった。
不運すぎじゃろ、儂……。
というか、旦那共は儂の気持ちを考えてほしい。
……一緒に走りたいと思ってもらえるのは嬉しいし、儂もまあ……二人三脚ができるのは嬉しいんじゃがな……。
どうも、九十九一です。
少々長くなりましたが、まあ、うん。今まで出せなかった分という事で一つ。
えー、見ての通り体育祭の話に入ります。
運動が苦手なのにまひろが四種目出ることになったのは、私の都合です。だって、どれも面白そうだったしね! まひろには頑張ってもらうという事で。
次の投稿は、一応早めに出すつもりですんで、少々お待ちください。
では。




