日常73 ド変態ロリコン。睡眠時にやらかす
「そう言えば、いつからこの新幹線に乗っておったのじゃ? 起きたらすでに新幹線に揺られとったから、気になるのじゃが」
とんでもない会話を一旦止め、話題転換。
儂が口にしたのは、いつからこの新幹線に乗っていたのか、ということ。
それに回答したのは、もちろんこの突拍子のない状況を創り出した変態。
「大体、朝の五時くらいですね」
「……早くね?」
五時と言えば、儂はその時間、未だに夢の世界で夢を見ていたんじゃが……。
ってか、その時間に起きたことなぞ、生まれてこの方、二、三回ほどしかない。
「仕方ないわよ。この新幹線、貸し切りにしたけど、それでも一本分しか貸切ってないんだから」
「そもそも新幹線を一本分貸し切る時点でおかしいからな? それ以前に、今日のこの時間の新幹線に乗るつもりだった客はどうしたのじゃ?」
「問題ありません。乗客予定だったお客様たちには、料金を返金した上で、こちらが快適な移動手段を用意しましたので」
「……たかだか旅行に行くだけで、全力すぎんか?」
「いえいえ、快適な旅行をするのなら、これくらいはした方がいいので」
「……みーちゃん、本音は?」
あっけらかんと答えた瑞姫に、ましろんがいつものようなやや抑揚のない声で、そう尋ねた。
「世界一可愛いまひろちゃんを、どこの馬の骨とも知らない男性の方々に見せたくなかったのです」
そんな質問の答えとして返って来たのは、何とも瑞姫らしい発言じゃった。
「……たまに思うのじゃが、瑞姫は別段、男嫌い、というわけではないのじゃよな?」
「もちろんです。わたしはただ、小さな女の子が大好きなだけで、男の人が嫌い、というわけではありませんよ? 優先順位は下がりますが……」
「それはそれでどうかと思うのじゃが」
脳内メーカーとかで、こやつの頭の中を見たら、『幼』で埋め尽くされてそうじゃな……。
「ちなみに~、ひろ君を運ぶ時は、じゃんけんで決めてたのよ~」
「あー、結衣姉よ。それはどういう意味じゃ?」
「誰がひろ君をお姫様抱っこで運ぶか、というじゃんけんね~」
「何故お姫様抱っこ限定!?」
「え? だって、まひろ君ってお嫁さんだし……」
「じゃから、おぬしらのその嫁理論は何なんじゃ!? 儂=嫁、という図式は良いとして、明らかに儂を女扱いしすぎじゃね!?」
「「「「「え? 普通に女の子だよね(ですよね)?」」」」」
「そりゃ体はな!」
「……でも、今のまひろん、中身も十分女の子。むしろ、日に日に悪化してる」
「マジで!?」
わ、儂、悪化しとるの……?
「今更なの? あんた」
なんか、未果に呆れられたんじゃが。
「たしかに、女の子になったまひろ君と初めて会った時は変化に驚いたけど、中身は『あ、まひろ君のままだー!』って安心したよ? でも、最近のまひろ君、徐々に女の子っぽくなってるよ?」
「……ど、どの辺が?」
「例えば、床に座っている時なのですけど、最初の頃は胡坐をかいていたり、片膝を立てて座っていましたけど、今のまひろちゃん横座りとか女の子座りをよくしてますよ?」
「き、気付かんかった……!」
いつの間に儂、そんなに進行しとったの?
な、なんと恐ろしい病気じゃ『TSF症候群』……!
いやまあ、旦那共にお姫様抱っこされる時は、結構『きゅん』と来たりするけども。
「……まあ、儂の女子化の進行はいいとして……結果的に、誰が儂を運んだのじゃ?」
「あ、わたしです」
「……おぬしかい。の、のう、こやつ、何か変なことをしとらんかったか?」
「「「「……な、何もなかった、よ?」」」」
「ちょい待て!? その反応はなんじゃ!? ま、まさか、何かしたと言うのか!?」
目に見えて明らかに、美穂、アリア、ましろん、結衣姉の四人は目を逸らしながら何もなかったと言うが、明らかに何かあった時の反応じゃろこれ!
「べ、別に、何もなかったわよっ? た、ただちょっと……瑞姫が暴走したと言うか……」
「う、うん。あ、朝から元気だなー、っていうだけであって、何かしたわけじゃない……よ?」
「……それが原因で、みーちゃんはつやつやしてるけど、何もなかった」
「同人誌でしか見ないようなことを、平然とやっていたけど、何もなかったわ~」
「いや普通に何かあるって言っておるよ!? え、ちょ、マジで何したのじゃ!?」
「ふふふ……」
こ、怖っ!
た、たしかによく見れば、やけに瑞姫がつやつやしておるような……?
この状況はたしか…………例の薬を使ったあれこれをした翌日の、旦那たちの状態に近いような…………って、ま、まさか!
「み、瑞姫、おぬしまさかとは思うんじゃが……儂が寝ている間に、いたしたのではあるまいな?」
「…………ふふ」
思い当たったことを意味する質問を瑞姫に投げかけると、瑞姫はやけに色っぽい笑みを浮かべながら、そう笑った。
いやこれ、答えを言っとるようなものじゃよな!?
「何してくれとんの!? え、マジで? マジでしたのか!?」
「…………みーちゃん、嬉々とした様子で、まひろんの口に――」
「やめて!? それ以上言わんでくれ! 聞きたくない! 聞きたくないぞ!」
ましろんがその時の状況を説明しようとしたが、あんまりな内容であることが予想されたため、儂は耳を塞いでそう叫んだ。
まさかの睡眠〇をしてくるとは思わんかったよ!? 儂!
「でも、あれだけのことをされておいて、全然起きなかったまひろもまひろじゃない? 普通、起きるでしょ、あれは」
「ぬぐっ……!」
た、たしかに、それほどのことをされれば苦しくて起きるような……。
……なんで起きなかったのじゃろうか?
「あ、そう言えば昨日、瑞姫ちゃんが調理担当のメイドさんにこっそり何かの粉を渡していたのを見たよ?」
その原因に関することを、アリアが思い出しようにそう話す。
「おぬし何した!?」
「あ、い、いえ、ちょ~~~っとぐっすり快眠できるお薬を、その~、まひろちゃんの緑茶に少々……」
「睡眠薬じゃよなそれ!? どうりで儂が起きないわけじゃよ!」
とんでもないことをされている状況で起きないなど、いくら睡眠大好きな儂とてさすがに起きるわ!
…………言われてみれば、変な夢を見たな。
原因は瑞姫だったのかっ……!
「……で、弁明を訊こうか、ド変態ロリコンよ」
「まひろちゃんの罵倒も新鮮でいいですね!」
「くっ、こやつには何を言っても無駄だと言うのかっ……!」
罵倒したらしたで、嬉しそうに頬を染める変態とかどうしろと!?
ヤバすぎるじゃろ、ほんとに!
「ちなみに、原因を言うとですね。個人的にそういったプレイをしてみたかった、と言うのが一番です」
「どうしようもないなおぬし!?」
「ですが、いくらまひろちゃんと言えども、さすがに起きてしまうと思ったわたしは、インド象すらも一瞬で眠りに落とし、尚且つ十二時間以上は何をしても決して起きないレベルの薬を盛りました」
「化学兵器レベル!」
何とんでもない薬を持ってくれとんのじゃこやつは!?
「……と言うのは建前で、本当は昨日のお仕事でお疲れだったまひろちゃんを癒すべく、用意した薬でした」
「え、そ、そうなのか?」
「はい。かなりお疲れなようでしたので、ぐっすり眠っていてもらおうかと」
「…………お、おぬし、たまにそうやって儂を気遣うから、嫌いになれんのじゃよなぁ……」
照れ照れと頬を掻く仕草をする瑞姫。
なんと言うか、前世で業でも背負ったのかと思えてくるレベルのド変態性を持つこやつでも、それさえなければ本当に性格のいい美少女じゃからな……。
たまにその面が出てくるからこそ、儂もドキッとするわけで。
おのれ、瑞姫……マジ愛してる。
「…………む? ではなぜ、暴走をしたのじゃ? 薬を盛るのがそう言う理由ならば、さすがにしないと思うのじゃが」
思い直してみれば、そこは変じゃな。
儂がぐっすり眠れるようにという理由ならば、なぜとんでもないことをしたのじゃ?
「眠っているまひろちゃんが何と言いますか……とってもエッチだったので、わたしの中の野獣がおかs――間違えました。襲え、と囁きまして」
「結局欲望丸出しなんかい!」
と言うか今、とんでもないことを言いかけたように見えて、ただマイルドになっただけじゃよな!?
ほんとなんでこんなのがおるんじゃろうな!?
「だ、だって、眠っているまひろちゃんのその……身じろぎとか、小さなお口とかがエッチだったので、つい……」
「我慢を覚えろ! 我慢を!」
寝てる儂を見てそれなら、普段こやつが儂て見ている時、常に発情しとるようなもんじゃよな、これ!
「むっ、それは心外ですよ!」
「どの辺が」
「たしかに、上はわたしでしたけど、下は美穂ちゃんと結衣さんが――」
「おぬしらもグルなんかい!」
「「てへ☆」」
こつんと頭に握り拳を当てて、お茶目に笑う二人。
くっ、可愛い……!
じゃが……!
「可愛いけども、可愛いけども! おぬしら何とんでもないことしくさっとんのじゃ!?」
何人が寝てる時にとんでもないことしとんのこやつら!?
もし、こやつらが男だったならば、完全に頭と下半身が直結してるのでは? とか思わざるを得んぞ、マジで!
……って、ちょい待て。今、美穂と結衣姉と言ったな? と言うことは、まさか三人同時だったとか言わんよな……?
………………こ、怖っ!
寝てる間にやられてるとか、マジもんの恐怖じゃな!?
「いえ、私と結衣さんに関しては、ちゃんと理由があるのよ。瑞姫と違って」
「美穂ちゃん、それではまるで、わたしには理由がないみたいではないですか」
「実際そうじゃろ、おぬし」
「気のせいです」
……何なんじゃ、こやつは。
「……して、理由とは?」
「いえね、例の薬って、飲みやすいようにラムネ味になってるでしょ? 薬なのに」
「そうじゃな。なんでも、いつでもどこでも、飲み物がなくても飲めるように、というのがコンセプトじゃからな。それが何じゃ?」
「私って、ラムネのお菓子が好きで、よく持ってるのよ。一応、自分の部屋の机の中に入れてるわ」
「ふむ。それで?」
「もちろん、薬なんて基本的に持ってないし、今日だってなんとなく朝早くに目が覚めたから、ラムネでも、と思って食べたのよ」
「その時点でなんか色々とおかしいような気はするが……それで、どうしたのじゃ?」
「そしたら、なぜか急にその……アレが、ね。発生しちゃって、ものすごい性欲が半端ないことになったのよ」
「…………で?」
なんか、雲行きが怪しくなってきたんじゃが?
もうこの時点で、オチの予想が付くんじゃが。
「とりあえず、トイレに行って、どうにかしてこようかなー、とか思って廊下を歩いていたら、やけに恍惚とした様子の瑞姫がまひろの部屋の中にいたのよ」
「……何故、瑞姫がいるとわかったのじゃ?」
「…………ま、まあ、ほら。防音じゃないし……? そう言うことよ」
「……マジかー」
このド変態、マジで何しとんの?
そう言うのは、あれじゃよな? エロゲで言うところの、彼氏が彼女にいたずらでする的な行為じゃよな? 何故、ヒロイン側の人間がそれをしとるんじゃろうか。
「……む? 美穂はわかったが、結衣姉はどうしてじゃ?」
「私は、いつもより早く目が覚めちゃったから、お部屋に置いてあるコーヒーを飲んだら、美穂ちゃんと同じ状態に~……」
「……ほほう? つまり、何者かが美穂のラムネの中身をすり替え、同時に結衣姉のコーヒーにも一服盛った、と。その犯人は十中八九……」
瑞姫を除く全員が、瑞姫をじーっと見た。
「え、えへへ……つい……」
「何がついじゃ! 何故、そんなことをしたのじゃ!?」
「わ、わたし一人ですと、何と言いますか……まひろちゃんが持っていた同人誌やエロゲの内容を実践できませんでしたし……あと、わたしだけですと、後々まひろちゃんに怒られるかなーと」
「そんな理由!? マジでおぬしの頭はぶっ飛びすぎじゃ! あれか? 『赤信号みんなで渡れば怖くない』というあれと同じような行動を取ったと!?」
「……えへ☆」
「可愛いがバカにしとんのか!?」
「す、すみません……」
「…………で? 美穂と結衣姉の二人はなぜじゃ?」
「瑞姫の行動を見ていたら、つい……」
「同じく~」
「……つまり、原因はそこの空前絶後のド変態ロリコンということじゃな」
「「その通りです」」
「はぁ……まったく、本当に碌なことをせんな、瑞姫は」
……しかしまあ、これで合点がいった。
新幹線内で起きた際、どうも体に違和感があったり、妙に疲れたりしとるなと思ったら、そう言う理由じゃったのか……。
「……そもそも、じゃ。そういうのはしっかりと許可を得てからするもんじゃろ」
「いえ、そういうシチュエーションは大抵許可なしですよ?」
「そりゃ二次元の中ではな! ここは現実じゃっ! 多少は儂に言うなりせい!」
「……それはつまり、まひろちゃんに正直に言えば許可が貰えたということですか?」
「いや、九割方却下するが?」
「やっぱり却下じゃないですか!」
「当たり前じゃ。誰が好き好んでそういうことをせねばならんのじゃ」
儂は少し前までは男だったんじゃぞ?
さすがに、女側でそういうことは……のう? 多少は忌避感があると言うか……。
いやまあ、すでに経験済みじゃけども。
「……でも、まひろんは普通のプレイよりも、無理矢理系のシチュエーションの方が興奮してる」
「おぬしいきなり口を開いたと思ったら、何を言うとんのじゃ!?」
「あ、たしかにそうかも。まひろ君、そういうの好きだもんね」
「アリアも変なことを言うな! 儂は別に、そういうのを好き好んでいるわけではないっ!」
「「「「「ドMはみんなそう言う(言います)」」」」」
「ど、ドMちゃうわ!」
いや今更かもしれんけど!
今までこやつらか受けたあれこれを考えれば、『あれ? 儂、マジでMなの?』とか思ってしまうが!
「くっ、まさか寝てる間に弄られていたとは……。儂、おぬしらの欲望のはけ口か何かになっとらんか? これ」
「そう言うわけじゃないけど……まあ、今回に関しては申し訳ないと思ってるわ。さすがに」
「そうね~。いくら結婚しているとはいえ、親しき中にも礼儀あり、だものね~。ごめんね~、ひろ君~」
「あー、いや、よい。原因はそこの変態じゃからな。……瑞姫は罰として、一週間キス禁止な」
「そんなっ!」
瑞姫に一週間キス禁止と言うと、瑞姫はこの世の終わりかと思うほどの絶望した顔を見せた。
どんだけキスしたいんじゃ、こやつ。
「そんな、じゃないわいたわけめっ! 人が寝ている間にとんでもないことをしおって。むしろ、キス一週間禁止だけで許されてるのじゃ。ありがたいと思ってほしいものじゃ」
「ちなみに、譲歩しなかったらどれくらいだったの?」
「キスのみならず、恋人や夫婦的行為全てを禁止にしておった」
「ありがとうございますっ!」
「わかればよいのじゃ。まったく……とはいえ、今回はせっかくの旅行なのじゃ。禁止にするのは、旅行から帰った次の日からとしよう」
「い、いいのですか!?」
「まぁ、妻婦じゃからな、儂らは。やはり、そういった状況で恋人的行為ができないと言うのは、いささか可哀そうじゃからのう」
「ありがとうございます、まひろちゃんっ!」
「おわっ! いきなり抱き着くでない!」
感極まったように、瑞姫は儂に勢いよく抱き着いてきた。
……うむぅ、何のかんの言って、瑞姫に抱き着かれるのは、嫌いではない……。
「まひろって、本当に身内には激甘よね」
「そりゃ、大事な人間じゃからな。甘くもなると言うものよ」
「……身内でなくとも、甘い気がする」
「ましろんよ、それは言わんお約束じゃ」
あははは、と楽し気に全員で笑っておると、
『お嬢様方、間もなく京都に到着致しますので、準備をお願い致します』
そんなアナウンスが流れた。
……そこも、羽衣梓家関連の者がしとるんかい。
「それでは、間もなく到着するとのことですし、降りる準備をしましょうか」
「「「「「はーい」」」」」
このメンツで旅行……うむ、楽しみじゃな!
どうも、九十九一です。
書いてるうちに、結構ギリギリな内容になりましたが……まあ、うん。私だってふざけたくなりますんで、許してください。
尚、まひろは眠っている際にあんなことや、こんなことをされていますが……本人は心の底から嫌がっているわけではないので、お察しです。
次の投稿は、いつかわかりませんが、次の土日のどちらかまでには出したいと思っていますので、お待ちください。
では。




