日常72 旅行。新幹線の中にて
クソほど遅れてすまねぇ
翌日。
何かに揺られているような気がして、少しずつ目を覚ますと……
「あ、おはよう~、ひろ君~」
「……う、うむ、おはようじゃ、結衣姉」
なぜか儂は、結衣姉に膝枕をされておった。
どういう状況かはっきりせんが、周囲を見てみれば、結衣姉以外の旦那たちがどこか悔しそうな顔を浮かべておった。
……なぜじゃ?
「ふぁあ~~~……んんぅ……よく寝たのう」
「おはようございます、まひろちゃん」
「おはよう、まひろ。ぐっすりだったわね」
「おはよー! まひろ君!」
「……おはよう」
「うむ、おはようじゃ」
むくりと上体を起こすと、周囲にいた旦那たちが声をかけて来た。
うむうむ、なんだかこう言うのも慣れて来たのう。
「…………む? 何やら揺れてはおらんか?」
やはり、起きた原因である、何らかの揺れと言うのは、本当にあるみたいじゃ。
「あ、はい。今は移動中ですから」
揺れのことが気になり、口に出してみれば、瑞姫が移動中であると事もなげに話した。
「移動中? どこへ? ついでに、なぜじゃ?」
「え? 言ったじゃないの、昨日のお昼に」
「昼? 昼と言うと………………………あぁ、もしや旅行しようというあれか?」
「……その通り」
「なるほどのう。昨日の今日で実行するとは、さすが羽衣梓家と言うべきか……」
まさか、昨日の昼頃の美穂の思い付きが、こうもあっさり実行されるとはな。
「それで? 見たとこ電車のようじゃが……儂ら以外の乗客がおらんな。これは、どうなっとんのじゃ? 今はゴールデンウィーク中で、こういう時こそ電車内は人でいっぱいだったように思うのじゃが」
きょろきょろと社内を見回すも、どういうわけか儂ら以外の乗客が見当たらなかった。
それどころか、ここ以外の場所にもあまり人気が無い気がするんじゃが、これは一体……。
などと疑問に思っておったら、瑞姫が何でもないように、いつもの笑顔で、
「貸切りましたから、この新幹線♪」
とか言い出した。
………………ん? 貸切った? 新幹線を?
「……ははは、何かの冗談、じゃろ?」
自分でもわかるほどに、今の儂の表情はびっくりするくらい引き攣っておった。
儂の視界に入っている、美穂、アリアの二人は苦笑いが浮かんでおる辺り、冗談ではないのでは……?
と思ったが。
「いえ、冗談などではなく、本当に貸切りましたよ」
「……それはあれじゃろ? この車両を、と言う意味じゃろ?」
「……まひろん、現実逃避は止める。みーちゃんが言ってるのは、この車両じゃなくて……この新幹線全て」
「…………マジで!?」
「「「「「マジ(です)(よ)」」」」」
「おぬしの家、マジでどうなっとんの!?」
マジで新幹線を貸し切ったらしい。
「いえ、私の家としましては、新幹線を貸切るくらい訳ないと言いますか……」
「訳ない? 新幹線を丸々貸切っておいて、訳ないじゃと!? ほんと財力がおかしいじゃろ! おぬしの家!」
と、本来ならボケ担当(最近はボケる旦那共のせいで、儂がツッコミ担当になりつつあるが)な儂がツッコミを入れるが、
「そもそも、国有数どころか、世界有数レベルのグループ企業の社長令嬢よ? 財力なんて、私たち庶民からすれば、想像もつかないようなレベルでしょうが」
「……ごもっともじゃ」
未果に論破された。
いや……うむ。わかっておる。わかっておる……のじゃよ? でも、さすがにこれは何と言うか……ツッコまないとやってられんじゃろ。
どこに、たかだか身内の旅行だけで、新幹線丸々貸切るバカがいるんじゃ、と。
「あ、ひろ君、これ美味しいわよ~」
「あむ……ぬ、美味いの、これ」
「まひろ君、食べてる場合なの?」
「……いやすまん。何と言うか、あの一件以来、結衣姉のこう言う甘やかしプレイ的なアレに逆らえる気がしないと言うか、じゃな……」
思い出されるのは、寝やすいベッドがある部屋だと思った、あの固く閉ざされた例の場所。
儂が初めてそこに入った際に見たもの……と言うか、儂が視た地獄で行われた、ましろんと結衣姉の二人がかりによる、色んな意味で死ねるプレイの数々により、結衣姉の甘やかしには脊髄反射で従ってしまうようになってしまった。
要するに……
「あら~、ひろ君零してるわよ~。今拭いてあげるわね~」
ごしごしと、食べかすが少し服に落ちたり、口の横とか頬に着こうものなら、幼子の世話をするがごとく、結衣姉がこうして甘やかし、儂はそれを押しのけることができなくなった、というわけじゃな。
……無意識レベルで刷り込まれるって、結構怖いんじゃな……。
「……まひろん、本当に娘、みたい」
「結衣姉の前でそれを言うのはやめてほしいのじゃが!?」
「うふふ~、ひろ君が私の娘ちゃんね~……素晴らしいと思うわ~!」
「ほれ見ろ! なんかヤベーくらい恍惚とした表情をしとるんじゃが!?」
っていうか、結衣姉の年齢で考えると、マジで色気がヤバいんじゃって! 二十二でこれなら、二十代後半とかヤバそうなんじゃが!
「大丈夫、ひろ君はお嫁さんだからね~」
「……いや、結衣姉よ。その、獲物を狙う鷹のような目で見ておる時点で、全然大丈夫ではないのじゃが」
たまに、結衣姉は怖い。
普段は、おっとりふわふわしとるのに、時折肉食獣――というか、飢えた獣のような何かがひょっこり顔を出すんじゃもん。
怖いんじゃよ、マジで。
「ちなみに、結衣さん。どの辺が大丈夫なのかしら?」
「もちろん、ひろ君は娘ちゃんになり得ないもの~」
「そりゃそうじゃろ。儂と結衣姉は五つしか違わないわけじゃか――」
「だから、ひろ君との子供がいつかできるから問題ないわけよ~」
「「「「あー、なるほど、納得」」」」
「ちょいちょいちょいちょいちょい!? 納得するでないわ!? というか、え、なんじゃおぬしら? まさかとは思うが……前に言った通り、マジで儂に子供産ませようとしとるわけじゃなかろうな!?」
「「「「「え? その通りですが、何か?」」」」」
「……美穂が欲しい子供の数は?」
キレそうになるが、ここは踏みとどまり、冷静になってそう尋ねる。
「そうね……前言ったけど、男の子が一人欲しいわ。できたら、女の子も一人、かしら?」
「次、アリア」
「男の子と女の子が一人ずつ!」
「ましろん」
「……女の子が二人」
「結衣姉」
「私は~……女の子が一人ね~」
「最後に……瑞姫」
「女の子が五人は欲しいです!」
「うむ。結論を言おう。…………儂が死ぬッ! そんなに産んだら、儂の体が崩壊する! ってか、確実に誰かの子を産むタイミングで、同時に昇天するぞ!? 儂に死ねと申すかおぬしら!?」
合計して、十二人じゃぞ!? あほかっ!
一人の女が、十二人も子供産むとか、どんだけ丈夫でも、ほぼほぼ不可能じゃろ!?
何しろそれは、双子とかじゃない限り、一年に一人産む計算なんじゃからな!?
「と言うかじゃな、そもそもの根本的考えとして、嫁が子供を産む、と言う前提が間違っとると思うのじゃが」
「いや、その理屈で言ったら男が産めばいいじゃない、ってなるんだけど」
「んなこと言ったら、『TSF症候群』にかかった女も、同性同士で子作りできるからな?」
「…………いやまあ、腐女子界隈では割と有名な話だし?」
「マジで!? 腐女子そんだけ進んどんの!?」
「……実際にそう言うジャンルの本、ある」
「こっわ!? いや、マジでこっわ!?」
元男として、その話は本気で恐怖するんじゃが!?
「とあるアニメのキャラクターも言っていたではないですか。『男の子は男の子同士、女の子は女の子同士で恋をすればいい』と」
「いやあれはマジで悟りどころか、開いてはいけない世界の扉じゃから!? しかも小学五年生が言うことではないからな!?」
儂もあれを初めて見た時は、マジで戦慄したし!
「わたしとしましては、小学生のロリ――もとい、お幼女様があのレベルの悟りを開いたことに称賛を送りたいのですが」
「……あー、おぬしもそっち側かー」
考えてみれば、こやつは生粋の同性愛者であり、尚且つどうしようもないド変態ロリコンじゃったな……。
「ともかくじゃ! 儂は現状、子を産む気などないわ! それに、儂だけというのも不公平じゃろ! 死ぬぞ、儂! 元男の儂、死ぬぞ!? 痛みによるショック死してしまうぞ!?」
「んーと……つまり、まひろ君はこう言いたいんだよね?」
「む?」
「自分だけ産むのは嫌だから、あたしたちにも産んでほしい、と」
「そういうわけではないぞ!? いや、儂の元の性格上で考えるのならば、おぬしらが生むのが最もしっくりくるが!」
「……まひろん。それこそ、不公平」
「……いや、あの、儂、元男じゃよ? たしか、男は陣痛とか出産時の痛みとかに耐えることができないらしいのじゃが……?」
世界には、それを体験する装置があるらしく、男はマジで耐えられないらしい。
どれだけ痛みに強かろうが、きついらしい。
それを、何度も経験すれば……儂死ぬ。
「いえ、そもそもの話としまして、まひろちゃんの能力を活用すれば、一度も出産したことのない、綺麗な状態に戻るのでは? と思うのですが」
「おぬし、なかなかにえぐい、且つ、非道なことを言っておる自覚はあるか?」
「わかっていますよ。わたしとて、いくらまひろちゃんとの女の子が欲しいと言いましても、限度はあります。まひろちゃん至上主義のわたしとしましては、まひろちゃんのその小さな体が一番大切なのです」
「お、おぅ。……おぬし、たまにマジでこっちが恥ずかしくなるようなことを言うよな」
おかげで、こっちが赤面してしまうわい。
同時に、儂の心臓が高鳴るじゃろ。
「ま、私としても、子供はいつかできればいいなー、くらいにしか考えてないし、今は漠然としたものでいいと思うわよ」
「……それもそうじゃな。どうせ、今の学園生活が終わるまで、あと二年近くはあるのじゃ。それに、もしかすると大学に進学する可能性もある。であるならば、この話はいませんでもよいか」
……まあ、この話自体、始めたのは儂ではないので、なぜ儂がこのようなことを言っておるのかわからんがな!
原因は、結衣姉じゃと言うのに。
「……ん。でも、人によっては早い段階で子供を授かることもできる」
「…………ましろんよ。おぬしは、なぜ話を掘り返す?」
「……まひろん。掘り返すも何も、まだ埋め終えていないのだから、掘り返すとは言わない」
「それ、屁理屈と言わんか?」
「……気のせい。ちなみに、私と結衣さんは一年後くらいに子供を授かっても問題なし」
「そうね~。そもそも、私は社会人だし、いつでもウェルカムだしね~」
…………なぜ、こうもうちの旦那共はその辺が緩いのかのう……。
いや、考えが。
「結衣姉よ。先に言うが、儂はまだ子供の面倒を見るのは無理じゃからな? 年齢とか、その他諸々的に」
「わかってるわ~。今子供を作れば、休学になりかねないものね~」
「そう言う意味じゃないぞ!? あと、下手したら退学するレベルの大ごとじゃからな?」
うちの学園であれば、退学になる可能性は限りなく低いじゃろう。何せ、理事長がどこぞのド変態ロリコンの母親じゃからな。
じゃから、退学になる可能性は低い。
「まぁ、普通は高校生の間にはそう言うことにならないもんね。避けない限り」
「アリアの言う通りじゃ。なんでまあ、この話は終いじゃ終い! なんか、これ以上話したら儂の身の危険を感じるからのう!」
儂は強引にこの話題を切ると、近くにあった飲み物と茶菓子を手に取った。
……実質一対五じゃからな、儂らの力関係。
これ以上話せば、マジで何があるかわからんし、儂がどのような墓穴を掘るかもわからぬからのう。
ここは、強引に切るのが一番じゃ。
……なお、儂が切った時の様子を、五人は生暖かい目+獲物を狙う猛禽類のような目をしておったことに、儂は気付かなかった。
どうも、こっちの作品のみを読んでいる方はお久しぶりです、九十九一です。
二ヵ月ぶりの更新となりますが……前書きで書いた通り、本当に遅れて申し訳ないです。
原因はメインの小説を書いていたこととか、仕事が始まった事とか、色々あるんですがまあ……うん。本当にすみません。
なるべく早めに出します! とか、一ヶ月も投稿されないようなことはない、とか言っていたのに、まさかの二ヶ月経過。謝罪以外の言葉がないです。
なので、今後は出来る限りこっちも執筆するようにしたいと思っています。おそらく今後私が書く小説はこれを含めて合計三つになるんで……。
可能でしたら、週一くらいで投稿したいと思います。
次の投稿は、ゴールデンウィーク辺りを予定していますので、まあ、お待ちください。今回こそは、必ずゴールデンウィークに出しますので。
では。




