日常68 馴れ初め。瑞姫の場合
「ともあれ、最後は瑞姫か」
「ふふふー、真打登場! ですね!」
「……おぬしの場合、真打と言うか、ラスボスじゃろ」
「似た様なものです」
全然似とらん気が。
真打はどっちかと言うと、味方サイドじゃろ。
「一応、私は二人の出会い方は知ってるけど、詳しくは知らないのよね。経緯とか」
「そうですね。あの時は朝でしたし、何よりまひろちゃんのセリフだけでしたから」
今思えば、よくもまあこやつはあれだけの言葉を覚えておったのう。
「それで、どんな感じだったの? 瑞姫ちゃんって普段からまひろ君にべったりだから気になってるんだー」
「……私も。いかにして、ド変態ロリコンお嬢様を落としたのか、まひろんの手管が気になる」
「手管言うな!」
なんかそれ、儂がとんでもない変態みたいじゃろ。
あと、普通は騙す方法だとか、遊女がたらしこむ手際のことであって、間違っても惚れさせるのとは違うと思うんじゃが。
「それで、ひろ君と瑞姫ちゃんはどうやって知り合ったの~?」
「あー、そうじゃな。あれは――」
儂と瑞姫が出会ったのは、またもや九月のこと。
なんか儂、去年の二学期から色々と起こり過ぎじゃね……?
今更じゃが。
さて、そんな儂がどうやって瑞姫という特大のロリコンと知り合ったかと言えばまあ、割と簡単な話。
面倒なので、当時の儂が瑞姫のことをどう思っておったのか、と言うことを教えるために、出会いからほんの少しだけ戻す。
『はぁ~、やっぱ、羽衣梓さんって綺麗だよな~』
『わかるわかる。あの大和撫子然とした姿がいいよな! 金持ちで美少女で、頭もいいとか勝ち組だよなー、ほんと』
『告白してみようかなー』
『やめとけって。羽衣梓さんクラスってなると、やっぱ家柄も大事だって』
『だよなぁ……』
そんなクラスメートの会話を耳にしながら、儂と健吾、優弥の三人は特に気にした風もなく昼飯を食べていた。
「しっかし、ほんと人気だよなー、羽衣梓さんってよ」
と思ったら、唐突に健吾が件の羽衣梓さんの話題を出し始めた。
「なんじゃ健吾。おぬし、好きなのか?」
「んなわけねーっての。でもよ、同学年に有名な奴がいたらなんとなく話題にするだろ?」
「一理ありますね。有名人と言うのは、いるだけで気になる存在ですから」
「おぬしは話題にされる側じゃからな」
「それは言わないでください」
からかい交じりに言うと、優弥は疲れたような表情を浮かべた。
一体何があったと言うのか。
「たしか、入学してから今の今までに告白された回数は……三桁って聞いたな」
「どこの二次元ヒロインじゃ」
「いや、マジなんだって」
「そんだけ告白されておいて、OKしたことは一度もないと」
「みたいですね。単純にハードルが高いのか、家柄が問題なのか、婚約者がいるのか、はたまたそれ以外なのか。噂は尽きませんね」
「それ以外?」
「あぁ。なんでも、同性愛者なんじゃないか、って噂があってな」
「……なぜ、そんな噂が立つのじゃ?」
仮にも大企業の社長令嬢じゃろ? 何をどうしたら、そのような者が同性愛者などという噂が立つと言うのか。
甚だ疑問じゃ。
「俺もよく知らないんだけどよ、前に羽衣梓さんが下校している時に、女の子を見て頬を緩ませていた、なんて言う目撃情報や、他にも学園の空き教室で百合っぽい題材の本を読んでいた、なんて話もあるんだよ」
「お、おおう……」
火のない所に煙は立たぬ、とはよく言ったものじゃ。
まさか、そんな話があるとは……。
「で信憑性の薄い話ですけどね。あくまでも、そう言う話がある、というだけです」
「ふむ。なるほどのう……」
本当にそういった趣味がある可能性もあるが、こう言うのは案外、羽衣梓さんとやらに嫉妬した女子が流したデマ、と言う可能性もある。
と言ってもまあ、儂には関係のない話じゃろう。
儂に、その者との接点はないからの。
「あ、お前今、『儂には関係のない話』とか思ったな?」
「……心を読むでないわ」
「いや、お前ってそう言う時はわかりやすいからな」
「まひろさんは、表情に出やすい時がありますからね。今回はそれです」
「むむ……気を付けねば」
表情に出やすいと言うのは、ある意味では弱点と言えるからのう。
いやまあ、別に儂は構わないんじゃがな。
とはいえ、将来的なことを考えれば、ポーカーフェイスというのは大事そうじゃからな。なるべく、改善するとしよう。
「ってか、お前がそう思うと、ぜってー関わるようになるんだからよ、フラグ建築だけはやめとけよ? お前、昔っから女子とのいざこざが多いんだから」
「そうかの? 儂的には普段通りに過ごしておるだけなんじゃがのう」
「……そう言って、つい最近委員長を堕としてただろうが」
「委員長? ……あぁ、美穂のことか? あやつとは、普通に以前より仲良くなっただけじゃよ」
「その割には、随分と距離感が近いような気がしますが」
「そうか? 普通じゃろ」
「「普通……?」」
「なんじゃ? その疑いの表情は」
儂がそんなに信用できないと言うか。
美穂とは、あの件以来普通に接するようになったが、それだけなんじゃがな。
「べっつにー?」
なんかイラッと来るのう、その返しは。
「……とにかく、気を付けてくださいね? まひろさんは、変なところで引っ掛けるんですから」
「引っ掛ける言うな」
この二人は儂のことを何だと思っておるのじゃろうか。
『――! ――』
『――――! ―――』
「む、なんじゃ?」
ある日の放課後。
その日は学園祭準備期間中で、儂も珍しく動き回っておった。
そうして、夕陽が差し込む学園の廊下を歩いておると、窓の外から声が聞こえて来た。
気になって、なるべく音をたてないように窓を開け、状況を窺うと、
『好きです、付き合ってください!』
「すみません……。わたしは、あなたのことを好きになれそうには思えないのです……」
『ぐふっ……』
告白の現場がそこにはあった。
しかもよく見れば、羽衣梓さんとやらではないか。
告白して来た相手を見ると、普通に顔が整っておる。
ふぅむ。結構なイケメンに見えるが……付き合う気はない、と。
それにしても、なかなか心にくる断り文句じゃのう。
あまりにもグサッと突き刺すようなセリフに、イケメン男子はその場に崩れ落ちた。
あれは同情するわい。
「……!」
「む?」
不意に、羽衣梓さんとやらと目が合った気がした。
しかも、かなり驚いたような表情に見える。
……ふぅむ。ま、気のせいじゃろ。
大方、告白の現場を見られて驚いたか、儂の背後、もしくは下の方に黒いアイツがいて驚いた、ってところじゃろうな。
「っと、そろそろ教室に戻らねば」
仕事中だったことを思い出し、儂はいそいそと教室へと向かっていった。
「……今の方は……」
とまあ、そんなようなことがありつつも日は進み、ある日の休日。
「明後日から学園祭か……楽しみじゃのう」
学園祭の準備の悉くが終わり、あとは本番当日を待つだけ。
……と言いたいところじゃが、一応明日もある。
今日は土曜日で、明日は日曜。
土日と言えば、学生にとってはまさにオアシスであると言える。
儂にとってもそうであり、心置きなくごろごろできる日じゃ。
睡眠大好きな儂からすれば、休日に学校なぞ言語道断ではあるが……まあ、学園祭の準備ならばよしとする。
儂は非日常的なものが好きでな。
特に、学園祭のような祭りが大好きじゃ。
祭りが好きならば、当然その準備も好き。
じゃから、儂は明日の登校だけは全然許せる。まあ、振替休日があるので、それを踏まえて、というのもないわけではないがな。
で、その日の儂と言えば、いつもの休日と同じように、洗濯や掃除などを済ませ、昼食を食べ、軽く休憩をしたら自室のベッドに横になった。
そして、目を閉じ、意識が落ち……かけたところで、
『こっちにいたぞ! 早く規制を!』
『お嬢様! お待ちください!』
『嫌です! わたしは絶対に帰りません!』
という、言い争いのような物が聞こえてきた。
それどころか、車やらなんやらの騒音が発生し、酷くうるさい。
一体何だと言うのじゃ?
……まあよい。無視して眠るとしよう。
『来ないでください!』
『いいえ! あなたを連れ戻すまで、追いかけます!』
…………ぬぅっ。
『こちらはもう通行止めです! さぁ、早く帰りましょう!』
『嫌ですっ!』
ぶぅんっ! とか、キィッ――! とか、騒々しい。
というか、何を人ん家の前で言い争いをしておるのじゃまったく。
『繫晴様も許してくれますから!』
『絶対に嫌!』
「……うるっさいのう!」
寝よう寝ようと思っても、外がうるさすぎて、眠気でぼーっとしておっても、一向に眠れる気配がない。
これはもう、腹が立つというか、いっそ殺してしまいたくなる程、殺意が湧き上がってくる。
クソが。
「……えぇい、文句を言ってやる!」
ベッドから起き上がると、寝間着(半袖半ズボン)のまま、儂は外に出た。
「瑞姫、帰るぞ」
「離してください!」
外に出ると、そこではものすごく強面(無駄に似合うサングラス付き)な男が、女子高生くらいの者の腕を掴んでおった。
女の方は、本気で嫌そうな顔を浮かべながら抵抗をしている。
なんなんじゃ、これは。
見れば、家の周辺には大勢の黒服やら、黒塗りの車が何台も止まっておった。
ついでに言えば、通行止めもしておるな。というかあれ、交通規制じゃろ。何しとんのじゃ、こやつらは。
とりあえず儂は、女の方の味方をすべきじゃろうな、絵図的に。
「これこれ、無理矢理はいかんじゃろう、無理矢理は……」
なのでまあ、特に恐れとかもなく、女の腕を掴んでおった強面の男の腕を掴みながら、眠気で少しだけぼーっとしたままそう言った。
「な、何だ貴様は」
突然現れた男に、強面男は怪訝そうな表情を浮かべながら睨んできた。
おー、こわ。
「なんだも何も、ここは儂の家じゃ。そんな儂の家での前で、こんな騒ぎになればイラッと来て文句を言いに行くに決まっとるじゃろ。それに、一人の女を大勢の男が取り囲むとか、絵面最悪じゃぞ」
「これは、我が家の問題だ。関係ない者が入ってくるんじゃない!」
ふむ。関係ない、か。
まあ、たしかにそう言った意味では関係ないのやもしれぬが……。
「先も言ったように、ここは儂の家。で、おぬしらが争っておるのは、そんな儂の家の前じゃ。迷惑なんじゃよ、家の間で騒がられるのは」
「少しくらい我慢したらどうだ」
「は? なぜ儂が、どこの誰かもわからん者のために我慢せねばならんのじゃ? 日本人はたしかに、事なかれ主義な者が多く、こう言ったトラブルが近距離で発生したとしても、それを見て見ぬふりと言う名の我慢をする。しかし、儂は言いたいことは言う主義でな。相手が強面の男じゃろうが、文句は言うぞ」
「……青いな」
「青い青くないは関係ないぞ。そもそも、言いたいことを言えずして、どうやって意思疎通を図るのじゃ? 儂は言われたことしかやらん人間ではない。というか、普通に文句は言わなければいかんじゃろ。何のための頭と口じゃ」
何を言われようが反論。
目の前の強面の男以外……つまり、腕を掴まれている女子や、その周囲にいる黒服たちはどういうわけか驚きに目を見開いておった。
理由はわからん。
もしやこの男。偉い立場におるのかのう?
……ま、そんなこと関係あるまい。
「……して、そこの女子よ。何故、追われておったのじゃ?」
儂は、強面の男に腕を掴まれていた女子の方へ向くと、理由を尋ねた。
その女子は、いきなり話しかけらたことためか、それとも驚きで固まったいたためかはわからぬが、数瞬遅れで理由を話し始めた。
「……わたしには、自由がないのです」
「自由とな?」
「はい……。昔から、これをしてはいけない、これをしろ、と言われ続けていました。何をするにも誰かがわたしを見張るかのように近くにいて、自分の趣味も、恋愛さえも自由にできなかったのです……」
「ふむ……」
「……そしてそれが嫌になり、わたしは家を飛び出しました」
「なるほどのう……」
そう言う理由か。
話を聞く限り、この者は結構なお嬢なのやもな。
儂も昔、お嬢な者と知り合いであったから、なんとなくわかる気がする。
結衣姉も、当時は悲しんでおったしのう。
であれば、この者もそれと似た様な境遇、というわけか。
「……まあ、別の家庭の話のようじゃし、これっぽっちも関係のない儂が言うのもなんじゃが……まあ、あれじゃな。おぬし、この者の父親か?」
「そうだが?」
「よいか、親が束縛とかダメじゃろ」
「……唐突になんだ?」
いきなりダメと言われたことに、男はただでさえ強面な顔をさらに険しくさせる。
ヤクザの組長とかやってそうじゃな。
そんなことを思いつつも、儂はその質問をスルーし続ける。
「絶対死ぬぞ? 自殺するぞ?」
「そんなこと、あるわけがない!」
ふむ。真正面からの否定。
まあ、概ね予想通りと言うか……こんなものなのやもな。
じゃから、儂は言葉を続ける。
「儂は別に親になったことはないからあれじゃが、そう束縛ばかりしておると、嫌われるからの?」
「嫌う、だと? 何を言うかと思えば――」
ふん、と鼻で笑うが、そんなもん気にせずさらに話す。
「じゃから現にこうして家出されておるわけじゃが」
「ぐっ……」
「ある程度の躾も大事じゃが、やはりのびのびと過ごせる環境でなければ、潰れてしまうぞ?」
「し、しかしっ」
「まあ、儂は一般人じゃし、社会を知らぬ子供じゃが、それだけはわかる。というかじゃな、この状況が面倒じゃないか? 家出をして、わざわざ探しに行くの、めんどくはないか?」
「……」
「父親であるおぬしが変に束縛しすぎたから、こうなったわけじゃからな。なので、自由に過ごせる環境にするとよいと思うぞ、儂的に」
「……そういう、物なのか?」
やや困ったような表情を浮かべながら、男はそう尋ね返してくる。
「まあ、そうじゃな。見たところ儂と同年代っぽいが、この年の者は割と繊細じゃからのう。というかまあ、儂の知り合いに所謂お嬢様という者がおったのでな。その者特有の悩みを話されたものじゃ」
「…………」
当時を振り返るようにそう話すと、男は口を閉じ、黙った。
これ幸いとばかりに、儂はさらに続ける。
「あと、この辺でこうも交通規制をかけたり、大勢で動き回られるのは、うざいし近所迷惑じゃ。先も言ったように、儂、この家の住人なんじゃが、これじゃおちおち寝てもいられんわ。静かにしてほしいんじゃが! 儂は寝たいんじゃ! こういうことは、よそでやってくれ!」
最後の最後で本音を爆発させた。
今まで真面目(?)なことを言っておった影響か、周囲は真面目な雰囲気だったが、今の儂の発言により、ほとんどのものがポカーンとした。
「……まさか、それを言うために出て来たのか?」
「まあ、最初はそうじゃな。じゃがまあ、事情を聞いた以上、先ほどの言葉も本音じゃよ。親が子を束縛してなんになる。操り人形ではないのじゃぞ? いくら子供に幸せになって欲しいからとは言え、何でもかんでも言うことを聞かせるのは違うからのう」
ふっと笑みを浮かべながら、そう言う。
すると、
「……ははははははは! まさか、寝たいがためだけにこの私に文句を言いに来た挙句、説教をするとは……面白い男だ」
先ほどまでの怖~い表情や、困惑したような表情はどこへやら。
男は強面な顔を破顔させると、大きな笑い声を上げながらそんなことを言ってきた。
「なんじゃ? 儂が何か面白い事でも言ったかの?」
「いや、そうではない。……まさか、子供に説教をされるとは。しかも、耳の痛い話だった」
「むぅ?」
「いやはや、君の言う通りだ。……どうやら私は、娘の幸せを願うあまり、束縛しすぎていたようだ」
「なんじゃ、随分と聞き分けが良いのじゃな」
てっきり、
『貴様の言うことなぞ知らん! 知った風なことを言うな!』
とか言ってくるのかと思ったのじゃが……。
「これでも、経営者だからな。自分のダメな部分を指摘されて、逆切れするような者が務まるような仕事ではないからな」
「そうなのか。……まあ、それならよいがな。よかったな、おぬし」
「え、あ、えと……」
笑いかけながら、よかったなと伝えると、女子は未だに状況が飲み込めていないのか、困惑気味。
「つまり、今までよりは自由になる、ということじゃよ。……そうじゃな?」
「あぁ、その通りだ。すまなかったな、瑞姫よ。私が間違っていたようだ。今後は、自由にするといい」
「……いいのですか?」
「もちろんさ。この男に言われて理解した。やりたいことがあったのだろう?」
「……はい」
「なら、それをするといい。……あの件は、まあできれば多少は控えてもらえると嬉しいが」
「いいえ、好きにやらせてもらいます!」
「…………そ、そうか」
む、なんじゃ? 男がものすごく引き攣った表情を浮かべおった。
あの件、と言うのが気になるが、もとより儂は部外者。詮索するのはまずかろう。
「……さて、儂はそろそろ寝直すとしようかのう」
「そうか。それならば、どうだ? よければ夕食を御馳走するが」
「いや、構わぬ。儂は三度の飯より睡眠が好きでな。もとより小食で、そんなに食わぬ。下手をすれば一食につき、おにぎり一つで十分さえあるからのう」
「ははは、本当に面白い男だ。……ともかく、礼を言おう」
「気にするでない。ではな。ふわぁぁ~……」
そう言うと、儂は踵を返して、大きなあくびと共に家に戻って行った。
「あ、ありがとうございました!」
その後ろで、そんな礼が聞こえて来て、軽く手を上げて返し、そのまま家に入って行った。
この一件の後、儂はよく学園や街を歩くと、何者かの視線を感じるようになった。
同時に、黒髪美少女――つまり、瑞姫とすれ違ったり、よく目が合ったりするようになったが、特に気にすることなく、普段通りの日常を送った。
「――とまあ、こんなところかの」
「「「「欲望に忠実……」」」」
「はは、褒めるでない」
「褒めてないわよ」
そうなのか。
しかしまあ、まさかあの時の女子が瑞姫だったとは。
婚姻届を提出した翌日に聞いた時は驚いた物じゃ。
「あ、あれ? あの、まひろちゃん?」
などと、まさかなぁ、と思っておると、瑞姫が何とも言えない複雑な表情をしながら話しかけて来た。
「なんじゃ?」
「えっと、これだけ、ですか?」
「これだけとは?」
「いえ、あの、わたしとの馴れ初め……」
「そうじゃな。だっておぬしとの接点、今思えばこの時だけじゃぞ、ほぼ。友人になったのは春休みの時じゃし」
「だとしても短すぎます! だって、今までのみなさんの馴れ初め話って、もっと長かったじゃないですか! しかも、アリスティアさんと真白さんに至っては、二回に渡ってのお話でしたよね!? もっと言うなら、わたしだけ四桁ですよね!? 他のみなさん、五桁でしたよね!?」
「ど、どうしたのじゃ? というか、おぬしは一体何を言っておるのじゃ!?」
不公平です! と言わんばかりの勢いの瑞姫。
そんな瑞姫が口にしている言葉が全く理解できず、逆に困惑する。
二回ってなんじゃ二回って。あと、四桁とか五桁というのはなんじゃ。
「うぅっ、わたしだけなんだか薄いですよぉ……」
「薄いとは言うが、おぬしのキャラはかなり濃いじゃろ。実際、会ったばかりの日に、美穂と一緒になって儂を着せ替え人形にしておったではないか」
「そういう薄いではなく、わたしとの馴れ初めが薄いと言っているのです!」
「そ、そうは言うがのう……」
実際、あれしか言うことないぞ?
そもそもクラスは違ったし、儂が告白したこともなければ、されることもない。接点は先も言ったように、瑞姫の父上に説教をした時くらい。
しかも、その時の会話も、あのロリコン会長とがほとんどじゃったし……。
それに、
「薄い薄いと言うが、そういうのならばおぬし、あの日以降で儂に接触を図ればよかったのではないか? そうすれば、もっと長く話せたと思うのじゃが」
これじゃ。
よくよく考えてみれば、こやつは儂に接触を図ることはしなかった。それどころか、していたのは儂の観察と言う名のストーカー的な行為。
「「「「たしかに」」」」
そんな儂の発言に、瑞姫を除く旦那たちが賛同した。
「はぅっ」
「言われてみればそうよね。実際、この中でアクションらしいアクションを起こしてないのって、瑞姫だけね。私は名前呼びするようになってからは、よく絡んでたりしてしてたし」
「あたしはプールに誘ったりスキンシップしたりしてたね」
「……私も。ご飯食べに行ったり、出かけたりした」
「私の方も一緒に遊んだり、勉強したり、遊園地にも行ったわ~」
思い出したかのように、四人が口々に儂との思い出を話す。
そう言えばそうじゃな。
美穂とはあの日以降、教室でよく話したり、健吾と優弥を交えて遊びに出かけたこともあった。
アリアとは、馴れ初めでも話したように二人きりでプールに行ったり、バイトで話したり、遊びに行ったりもした。
ましろんとも、仲良くなったきっかけが食事だったこともあり、時間が合った時などは二人で飯を食べに行ったり、たまに遊んだりもした。
結衣姉とは、親公認の付き合いだったのと、年上だったこともあり、二人で遊んだり、勉強をしたりした。
で、肝心の瑞姫はと言えば……
「春休みに友人になってからと言えども、友人としての普通の付き合いじゃったな」
「はぅぅぅっ!」
瑞姫、胸を抑えながら崩れ落ちた。
よっぽどダメージがでかかったのか。
「だ、だって、わたしって小さい女の子が好きじゃないですか……?」
「突然じゃな。……まあ、そうじゃな」
机に突っ伏して、やや悲しそうな表情を浮かべながら言うことか?
「たしかに、まひろちゃんに恋をしていたとは思います。でも、わたしの女の子好きの気持ちが接触を拒んだのです……」
「もうその時点で色々とおかしいが……続けろ」
「以前のまひろちゃんは、たしかに顔立ちこそ女の子っぽくありました。でも、それでも男性だったわけで……。わたしとしても、今までの信念を曲げるのは、と思ったのです。だって、わたしの好みは小さな女の子。まひろさんにもときめいてはいましたが……それでもやっぱり、女の子の方が……! と悩みに悩んでいたのです……」
「お、おぅ、そうか」
一体何を言っておるのじゃろうか。
他の者も、眉間にしわを寄せながら、ん? みたいなことを思っておるようじゃ。
「そう悩み続けていたら、一年生が終わっていました」
「ちょっと待て。え、なに? おぬし、九月のあの日から三月まで、ずっと悩んでおったのか!?」
「はい……」
ば、バカじゃ! マジもんのバカじゃ!
普通、どんなに悩んでも一ヶ月くらいではないのか!?
な、長すぎる。
「……今思えば、まひろさんと接触を図っていればよかったと後悔しています」
「そ、そうなのか」
「はい……。だって……だって、接触していたら、ある程度親密な関係のまままひろさんからまひろちゃんになったまひろちゃんと仲良くなれたじゃないですかぁ!」
「すまん。何を言ってるのかわからん」
「そうすれば、自然にまひろちゃんと戯れたり、まひろちゃんとデートしたり、まひろちゃんとあんなことやこんなことができたと思うのです! それはもう、めくるめく百合百合した性春の日々だったと!」
「今、青春の『青』の字が違くなかったか?」
「なので、わたしは言います」
「……なんじゃ」
「百合百合エロエロなことをさせていただき、ありがとうございましたっ!」
「こんのド変態ロリコンお嬢がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
色々と自重しないド変態の発言に対する、儂の心の底からの叫びにより、唐突に始まった馴れ初め暴露大会(?)は終わりを告げた。
オチがひっどい!
どうも、九十九一です。
十日以上遅れてすみません。買った本を消化したり、新しく買ったゲームをしたり、祖母の家に行ったり、自室で行方不明になったゲームディスクを探したりしていたら結構経ってました。本当に申し訳ない。許してください。
瑞姫の馴れ初めがやたらと短いですが、マジで書くことがなかった。意外と接点薄かったんだなーと。他の四人が1万文字越えの話なのに、瑞姫だけ到達していないと言うね。可哀そうな変態だ。
次の話は……いつになるでしょうかね。まだ不明です。馴れ初め話の次とか何の話にしようか何も思いついてないし。まあ、なんとかなるでしょう! なるべく早めに出すつもりですが、少々お待ちください。時間はまあ、10時くらいじゃないですかね。
では。




