日常66 馴れ初め。アリスティアの場合 下
そんなこんなで夏休みに突入。
夏休みと言えば、学生のほとんどは遊ぶもの。
しかし、苦学生や堅実的な者、バイトが趣味の者などは、バイトを多く入れる傾向にある。
儂は別段そんなことはないが、金を稼いでおいて損はないということで、一応、週に三~五くらいで入れておる。
まあ、儂って一応バイトリーダーじゃからな。
それもあって、そこそこ入れておる。
そんなある日。
「ま、まひろ君、ちょっといい、かな?」
着替えを済ませて、更衣室から出ると、緊張しつつややもじもじとした時乃が話しかけて来た。
心なしか顔も赤いが……どうしたのじゃろうか?
まるで、一世一代の告白をするかのような雰囲気じゃが。
「どうしたのじゃ?」
「え、えっと、まひろ君って明後日は暇、だよね?」
「なぜ断定する」
「だ、だって、まひろ君って普段は寝てばかりって聞くし……だから、明後日も家でゴロゴロしてるのかなー、って思って……」
「……」
あながち間違いじゃないのが何とも言えん。。
時乃の言う通り、夏休みに突入して、バイトがない日や健吾と優弥と遊んだりしない限りは、基本的に家でゴロゴロと自堕落に過ごしておる。
宿題はとっくに終わらせてあるので、心置きなくゴロゴロできるのが素晴らしい。
「……して、用件は何なのじゃ?」
「あ、う、うん。あの、まひろ君はその……外出は嫌い、かな?」
「外出? んー、別に嫌いと言うわけではないが、極力外には出たくないし、出来る事ならば室内にいたいと思うタイプじゃな。なのでまあ、儂は別段」
「そ、そっか……」
む? 露骨にがっかりしたな。
はてと首を傾げる。
ふと、視線を感じた気がして辺りを見回すと、時乃の背後の物陰に、何人かの同僚がこっちを見ていた。
よく見れば、儂を睨んでおるような……。
……む?
「のう、時乃よ」
「……なにかな?」
「おぬしのその後ろ手に持っている物はなんじゃ?」
チラッと何かが見えるが、一体何を持っているのかがわからない。なので、持ち主である時乃に尋ねる。
「こ、これは……その、チケット、だよ」
「チケット? 一体何の」
「……プール」
「ほう、プールのチケットか」
しかし、なぜそんなものを時乃が持っているのじゃろうか?
……あー、いや、この際そんなことはどうでもよいか。
時乃が持っている物に、先ほどの質問、そして先ほどのがっかりしたような反応を見るに……
「ふむ。もしや、儂とプールに行きたいのか?」
これ以外ないように思える。
自惚れかもしれぬが、時乃があまり嘘を吐けないタイプであることと、基本的に感情が表に出やすいことも含めて考えると、これ以外ないように思える。
これで間違っていた場合、とんでもなく恥ずかしいが……。
「じ、実は、そうだったり……」
ビンゴ。
「なんじゃ、そうならさっさと言えばいいものを。儂とて、そういう話であれば外には出るぞ? ましてや、時乃からの誘いともあればな」
「……じゃ、じゃあ、一緒に行ってくれる、の?」
「もちろんじゃ。むしろ、儂がゴロゴロしたいから、なんて理由で断ると思ったのか?」
「…………お、思ってない、よ?」
「おい、最初の間はなんじゃ。そして、目を逸らすでない」
どうやら、そう思っておったらしい。
心外じゃな、本当に。
『……あ、あの異常なくらい鈍感な桜花先輩が気付いた、だと?』
『変なところで察しがいいんだ、桜花先輩』
『でも、さすがの桜花先輩でも、水着姿のアリスちゃんには負けるよね』
『『『そうなって欲しい』』』
……なんか、こそこそ話しておるな、あそこの同僚共が。
しかし、ずけずけと入って行くのも気が引けるので、気にしないことにするか。
「それで、集合時間と場所は?」
「じゃ、じゃあ……駅前に、朝十時でどうかな?」
「了解じゃ。目覚ましを一分刻みに一時間鳴らすようにしておく」
「それは、多すぎじゃないかな……?」
「いや、儂、マジでそれくらいしないと起きられない場合があるのでな。もともと、睡眠時間は長い方じゃから」
ロングスリーパーに近いかもしれぬ。
事実、九時間以上寝ないと、本当に眠いしな。
「そ、そうなんだ。大変だね」
「まあ、学園がある日などはそこそこ大変じゃが、睡眠が大好きじゃからな。個人的にはちょっと嬉しかったりする」
「前向きだね」
前向きと言っていいのかはわからんがな。
「ともあれ、十時に駅前じゃな」
「うん」
「了解じゃ。では、準備しておく」
「ありがとう、まひろ君!」
満面の笑みを浮かべながら、勢いよく抱き着いてきた。
「おっと。……おぬし、本当によく抱き着いてくるのう」
「えへへー、だって嬉しいんだもん」
「そうか」
そんなに儂とプールに行くのが嬉しいのじゃろうか?
しかし、こやつはいつも儂に抱き着いてくるからのう。
いつからじゃったか。なんか、気が付いたら今のように抱きついてくるようになったんじゃよなぁ。
時乃の胸は、マジででかいので、最初こそ多少なりともドキドキしたものじゃが、案外慣れるもので、ドキドキしなくなった。
むしろ心配になった。
アメリカでの暮らしが長かったからか、スキンシップが激しくてな。
あまりにもこういうことをし続けておると、その内勘違いするバカが出てくるのではないか、と。
実際、そこんところ、どうなのじゃろうか?
しかしまあ、天真爛漫で純粋な時乃でも、そう言うことには気づくじゃろう。これでも、女子じゃからな。
そうであることを祈るとしよう。
そして、二日後。
一分刻みの目覚ましが大体……三十七回くらい鳴ったところで起床。
時刻は九時二十分くらい。
「ふむ。今日はそこそこ早めに起きられたな」
ベッドから起き上がり、軽く身支度を整えてからリビングへ。
そのまま、軽めの朝食を作り、食べ終えるとちょうどいい時間に。
前日の内に準備を済ませて正解じゃったな。
「では、行くとするか」
九時五十分頃に駅前に到着。
暑さに耐えながら歩き、待つのにちょうどよさそうな日陰を見つけ、そこに行こうと足を向けたら……
「む、なんじゃ、もう来ておったのか、時乃」
すでに時乃が待っておった。
「あ、まひろ君!」
儂が声をかけると、パァッ! と表情を明るくさせ、とたとたと小走りで近づいて来て、
「おはようっ!」
抱き着いてきた。
うーむ、やはり激しい。
「ほれほれ、こんな一目があるところで抱き着くでない。視線がすごいぞ」
「あたしは気にしないよ?」
「少しは気にせい」
何気にメンタルが強いんじゃな、時乃は。
とはいえ、儂も別段これくらいならば恥ずかしさはないんじゃがな。
……もっとも、
『チッ、なんだあいつ、モテない俺たちへの当てつけか?』
『髪は長いが、あの感じじゃ男だな。……もげればいいのに』
『爆発しろ』
周囲の男たちからの嫉妬の視線がくるわけじゃが。
これだけはめんどくさい。
「待ち合わせ時間よりもちと早いが、早速出発するか」
「うん!」
嬉しそうじゃなぁ。
そんなこんなでプールに到着。
儂らがやって来たのは、翁里市から二つ隣の街にあるレジャープール施設。
結構大きいプールで、中でもウォータースライダーが目玉らしい。
まあ、プールと言えばウォータースライダー、みたいなところがあるしな。
「まひろ君! 早く早く!」
「はは、そう急かすでない」
よっぽど、プールに行きたかったんじゃな。
であれば、この反応も不思議ではないな。
儂は時乃に手を引かれるまま、園内に入って行った。
更衣室で着替えて、出口付近で一度待ち合わせ。
男の着替えなぞ、脱いで穿くだけなので、すぐに終わる。
……まあ、儂の容姿のせいで、着替え中の男たちが固まったり、小学生くらいの子供が、
『パパー、なんで女の人がこっちにいるのー?』
って言っておったからのう……。
儂、そんなに女に見えるか?
昔から中性的だの、女顔だのと言われておったが……こういう現実を目の当たりにすると、こう……さすがの儂でも、軽く凹む。
少しは男らしくなりたいものじゃ……。
髪を切れば多少はマシなんじゃろうが、ここまでくると切りたくないしのう……。
すでに、腰元ぐらいにまで伸びておるし。
……まあ、儂が着替え始めれば問題なかろう。
「よっこらしょ……と」
適当に上半身から服を脱ぐ。
……んー、視線がある、ような?
やはり、儂を女だと勘違いしておるのかのう……?
まあ、いつものことと割り切るか。
公衆浴場に行くと、大体こんな感じじゃしな。
「……髪型、いじるか?」
いや、焼け石に水じゃな、儂の髪の場合。
……まあ、仮に髪を切ったとしても、女と間違われそうなので、諦めるしかなさそうじゃな。
なぜ儂は、遊ぶ前からダメージを受けておるのじゃろうか……。
などと、遠い目をしながら時乃を待つと、
「お待たせ、まひろ君!」
「おぉ、来たか」
時乃がこっちに来た。
軽く小走りで。
……儂が何を言いたいかと言えば、まあ……簡潔に言えば、揺れていた。
それはもう、時乃の胸が激しくぶるんぶるんと揺れておった。
おぉ、胸とはあのような感じで揺れるのか。
「どう、かな? 似合ってるかな?」
と、少しだけ顔を赤くして、期待と不安が入り混じったような表情で尋ねてくる。
ふむ。
白色のビキニ、か。
アメリカンなボンキュッボンスタイルであることを考えると、似合いすぎているな。
一応、パーカーは羽織っておるようじゃが。
髪型のほうも、いつものように髪を下ろしているのではなく、軽く二つ結びにしておるのも、なんだか新鮮。
「うむ、可愛いくて似合っておるぞ」
「ほんと?」
「ほんとじゃ。普段とは違った姿じゃからな。それも相まっていつも以上に可愛く見えるぞ」
「わーい、まひろ君に褒められた!」
そこまで喜ぶことなのか?
ま、女子と言うのは、褒められて喜ぶことが多いからな。特に、服装などに関しては。
時乃も例外ではなかった、ということか。
「よし、早速遊ぶか」
「うん! 行こ行こ!」
久々のプール、楽しむとするか!
二時間後。
「うぷっ……き、気持ち悪い……」
儂、ダウン。
「だ、大丈夫? まひろ君」
「……時乃、儂は、もうダメじゃ……じゃ、じゃから、店長によろしく、伝えておいてくれぇ……」
「死んじゃうわけじゃないんだから、変なこと言わないで!」
「……す、すまん。ちと、ふざけたくなって」
ふざけたら怒られた。
時乃でも、怒るんじゃな。
「もう……。とりあえず、はい、スポーツドリンクだよー。さっき買ってきたの。飲める?」
「……悪い。上手く力が入らなくて……あと、素直に気持ち悪い……」
現在の儂、施設内にある日陰で休憩していた。
久しぶりの外+ひきこもり(一応)+元々の体力の少なさから、儂は真夏の日差しにノックアウト状態じゃった。
最初こそ、二人でプールに入って遊んでおったのじゃが、先ほどの理由から気持ち悪くなってしまった。
それに慌てた時乃が、救護室から氷などを貰ってきて、その過程で飲み物を買ってきてくれた。
時乃、天使……。
「起き上がるのも辛い?」
「……すまぬ。ちと、厳しい……」
「そっか。じゃあ、ちょっとだけ頭を持ち上げるね」
「……う、うむ」
「じゃあ、失礼して……」
そう言って、時乃が儂の頭の上に腰を下ろすと、儂の頭を持ち上げそのまま乗せた。
これは……俗に言う、膝枕、と言う奴か?
……おぉ、この柔らかい感触……なんだか、すごく安らぐ……。
「それじゃあ、飲ませるからちょっとだけ頭を上げてね」
「了解じゃ……」
言われた通りに、頭を少し持ち上げる。
しかし、それでも結構キツイ。
そんな儂を察してか、時乃が頭を支えてくれた。
……気配りが素晴らしい。
そしてそのまま、スポーツドリンクを口元に近づけ、ゆっくりと飲ませてくれた。
「こく……こく……はぁっ。あー、少しはマシになった気がするぞ……」
「それならよかった。あ、氷の位置大丈夫?」
「問題ないぞー……。むしろ、気持ちいいくらいじゃ……」
熱にやられ、火照った体にひんやりとした氷がとても気持ちいい……。
「そっかそっか。それなら安心だね」
にこっと可愛らしい笑みを儂に向けてくる。
……ふぅむ、こうしてみると、本当に美少女じゃのう、時乃は。
少し前に新しく入ったバイト(女子)が、時乃と同じ学園であり、尚且つ同じクラスで、そやつから聞いたのじゃが、どうやら時乃は高校でかなりモテておるらしい。
最初の頃こそ、言語的な問題やら、本人が纏う緊張感や警戒心めいたものが原因でクラスに馴染めなかったそうじゃが、少しずつ本来の性格が出始め、今ではそれなりに友達がいるようじゃ。
その話を聞いた時は安心したものじゃ。
しかしまあ、そんな時乃であるからか、男子連中からかなりモテておるようじゃ。
じゃが、話せるようになってから、と言うのが良くなかったらしく、男子たちは女子に若干白い目で見られているとか。
理由はまあ、『話せるようになった時期に下心ありで話しかけに行くのがムカつく』らしい。
要は、手の平を返したかのような反応が嫌、ということじゃな。
わからんでもないが、男は大体そんなもんな気がするのじゃが。むしろ、100%親切心で話しかけに行く奴の方が珍しいと思うのじゃが。
とはいえ、モテていると言うのはいいことなんじゃろう。
その分友達も増えることになるからのう。変な奴は追っ払わなければいかんが。
「はぁ……なんだか、申し訳ないよ……」
不意に、時乃が心底申し訳なさそうにそう言いだした。
「急にどうしたのじゃ……?」
「まひろ君をプールに誘ったこと」
「む? なぜじゃ?」
「だって、まひろ君が体調を崩しちゃうんだもん……なんだかそれが申し訳なくて」
あぁ、なるほど。
儂がこうなってしまったことを気に病んでおるのか。
「気にするでない。儂はおぬしが悪いなどとは思わん。むしろ、誘ってくれて嬉しかったくらいじゃ」
「ほ、本当?」
「本当じゃ。何分、儂を誘う相手と言うのは、幼馴染の奴と今年知り合って友人になった者の二人じゃからな」
「……幼馴染。まひろ君、その幼馴染さんって、男の子? 女の子?」
「なぜそんなことを訊くのかはわからぬが……男じゃよ。家が隣同士でな。幼稚園の頃からの付き合いじゃ。まあ、腐れ縁に近いか」
「そうなんだ。ほっ……」
む? なぜ今、こやつは安堵したのじゃろうか?
あれか? 友達がちゃんといることに対してほっとしのかの?
時乃の性格から考えてきっとそうじゃろう。
「儂が回復したら、ウォータースライダーにでも行くか?」
「いいの!?」
うぉっ、なんかすごい食い気味に来た。
「もちろんじゃ。というか、ここの目玉はウォータースライダーなんじゃろ? であれば、行かなければ損じゃ」
「そ、そうだねっ。……あれ、まひろ君、ここのウォータースライダーの形式知らないのかな……?」
「む? 何か言ったか?」
「あ、ううん、気にしないで、ひとり言」
「そうか」
まあ、何にせよ、さっさと回復せねばな。
その後、三十分ほどで回復したので、二人でウォータースライダーへ。
まあ、案の定と言うか、かなり人が並んでおったがな。
さすが、目玉と言われるだけのことはある。まさかの、三十分待ちじゃからな。もっとも、これでも結構早い方らしく、すごい日だと一時間以上は平気で待つとか。
せっかく来たので、儂らも並ぶ。
並んでいる最中、ふと気になったことがあった。
「んー……よく見ると、男女ペアが多いような気がするな」
どういうわけか、恋人同士で並ぶ者たちが多かったのだ。
全体の六割くらいかの? 他は、普通に一人で並ぶ者や、友人同士で並ぶ者がおるが、それでも恋人のペアが目立つ。多いし。
「そういうジンクスがあるみたいだよ?」
「そういうジンクス?」
「うん。ここって、実は……恋人同士で滑ると、ずっと円満でいられるみたいだから」
「ほほぅ、そのようなものがあるのだな」
人と言うのは、そう言うおまじないが好きじゃからのう。
一本のうどんを一度も切らずに食べきれれば願いが叶う、みたいなものもあると聞く。
日本人はそう言うものが好きなのじゃろう。
「そ、それで、ね? もう一つジンクスがあって……」
「む、そうなのか?」
「う、うん。あのね、ここで一緒に滑った男女は――」
と、何やら顔を赤くしながらジンクスについて口にしようとした瞬間、
『次の人どうぞ―』
スタッフの者に案内された。
「おっと、一旦後回しにして、とりあえず滑るぞ」
「あ、う、うん……。はぁ、タイミングが悪いよぉ……」
あり? なぜがっかりしておるのじゃろうか?
タイミングとは言うが……。
『えーっと、滑るのはお二人でよろしいですか?』
「うむ、問題なしじゃ」
「大丈夫です」
『わかりました。……ここのウォータースライダーでは、基本的に抱き合って滑ることになります。大丈夫ですか?』
「大丈夫ですっ」
「うむ、問題な――え?」
おい、ちょっと待て。今、抱き合って、とか言ったか?
……いやいやいやいや! さすがにそれはちとまずくないか!?
儂ら、別に恋人同士ではないんじゃが!?
というか、時乃がノリノリなんじゃが!
『お互い大丈夫と言うことですね。では、そちらの男性? の方、まず先にそこに座ってください』
「え、マジで?」
『マジです』
「まひろ君、座って座って!」
「あ、お、押すでない!」
時乃に背中を押され、肩を掴まれて座らされた。
『では、あなたはこちらの男性の方の方に両腕を回して、この方の脚の上に座ってください。あ、この時、お互いの太腿がクロスするように座ってくださいね』
「オーダー細かいな!?」
「じゃ、じゃあ、失礼して……」
「――!?」
時乃が本当に座って来た。
しかも、腕を回してくるので、かなり密着しておるわけで……正直、胸がヤバい!
いや、たしかに今まで時乃のスキンシップで密着されることはあったが、それでも服を着ていた。だから、大して気にも留めなかったし、そもそも海外ではそう言うスキンシップあると思ったからこそ、少し気恥ずかしいくらいで済んでおった。
しかし……しかしじゃ。
水着はダメじゃろ!
その上、ビキニタイプなので、余計にまずい。
儂とて、これでも健康的な男子高校生じゃ。
同い年の、それも美少女で、ボンキュッボンな胸を押し当てられて何も思わないはさすがにない!
正直、本能を抑え込もうと必死じゃからな!?
で、出来れば、は、離れたいッ!
「す、すま――」
すまぬ、と言おうとしたところで、
『はーい、ではいってらっしゃーい!』
スタッフに背中を押され、滑り出してしまった。
「うぉぉぉうっ!?」
「きゃ―――♪」
ちょっ、なんか一層抱き着いてきたんじゃが!
っていうか、速っ! このウォータースライダー速っ!
水飛沫がヤバい!
いや、そんなことよりも、儂の体に押し付けられておる、時乃の胸が一番ヤバい! こやつ、マジででかいんじゃよ! 本当に高校一年生か!? と思うくらいに!
実際、時乃と並んでいる際には、他の男どもやら女から視線が飛んできておったからな!
儂は男から嫉妬を、時乃は単純に下品な視線を男から貰い、女からは羨望の視線じゃった。
そんな奴の胸が押し当てられて、冷静でいられるか? 普通。
…………いや、普通に考えて、普段から抱き着かれておるが!
そ、そうじゃ。いくら水着とはいえ、全部生と言うわけではない……!
「きゃっ!」
ぬぉぅ!?
一層抱き着いてきおった!
あと、よくよく考えたら、太腿とか、腹とか背中とか諸々も当たっておった!
それに気づいた瞬間、儂は、天国と地獄がいっぺんに来たと思った。
色々と本能を頑張って抑えつつ、何とか無事に滑り終えた。
「はぁっ……はぁっ……き、きつかった……!」
「だ、大丈夫? まひろ君。もしかして、苦手だった……?」
「い、いや、ウォータースライダーやジェットコースターなどと言った、絶叫系の乗り物は好きなんじゃが……ち、ちと、色々と、な」
さすがに、おぬしが押し付けてくる胸にドキドキして、本能を抑えることに必死だった、とは言えん。
「……そ、そう言えば、滑る前におぬしが言おうとしたジンクスとは、何だったのじゃ?」
「そ、それは、えっと……恋人じゃない男女が滑ったら……」
「滑ったら?」
「……こ、こいび――って、無理! 言えないよぉ!」
「そこまで言って、なんでそうなる!?」
「は、恥ずかしいのっ!」
全力でそう言われてしまった。
「そ、そうか」
……まあ、恥ずかしいのなら仕方ない、か。
無理に言わせるのも可哀そうかしな。
あと、調べようと思えば調べられる。
「……さて、時間もまだあるし、遊ぶか」
「う、うん!」
先ほどのあれこれは忘れよう。
この日の一件以来、今まで以上に時乃がくっついてくるようになった。
理由はまったくわからんが、とりあえず、水着に比べたらマシだと思うようになり、割と平穏に過ごせた。
「――まあ、こんな感じかの?」
「「「「青春……」」」」
「たしかにそうかもしれぬな」
言われてみれば、前二人の内容に比べたら、かなり普通な出来事じゃな。
二人とも、地味に重い話じゃったからのう。
「そう言えば、アリスの話にあったウォータースライダーのジンクスってなんだったの?」
「あ、うん。実は、恋人じゃない男女が一緒に滑ると恋人になれる、っていうものだったり」
「見事に叶ってますね」
「……意外と当たるのかも」
「すごいわね~」
「うん、実はあたしもびっくりしてたり」
なるほど、そう言う話じゃったのか。
あの時言わなかったのは、告白になると思ったからじゃろうな。
「それにしても、まさかそんな青春をまひろがしていたなんてねぇ」
「……今のところ、一番普通」
「そうですね。……ただ、ちょっとプールは羨ましいですね」
「そうね~。私も、ひろ君とプールに行きたいな~」
「あはは、じゃあ今度みんなで行こ!」
「いいわね、それ。賛成」
「では、夏が来たら行く、と言うことにしましょうか」
「……OK」
「楽しそうね~」
これは、予定が一つ埋まったな、夏の。
……しかし、このメンツでプール、か。
儂、絶対妹か何かに思われそう。
一応、夫婦なんじゃがな、こやつらとは。
…………なんじゃろう。ふと嫌な予感が頭をよぎったのじゃが……まあ、気のせいじゃろう。そう言うことにしよう。
二時間前ぶりです、九十九一です。
なんか、どんどん馴れ初めの文字数が増えてる気がする……。美穂の時に比べたら、軽く二倍なんですよね、アリスティアの話って。
このまま行くと、次のキャラなんて二万文字に到達しそうで怖い。
一応、結衣の予定です。多分。
次の投稿は……速めにするつもりですが、年内にできるかどうかと言ったところですね。時間はまあ、いつも通り、かな。うん。
では。




