日常65 馴れ初め。アリスティアの場合 上
「一番重いましろんの話が終わったところで、次じゃな。残りは、瑞姫、アリア、結衣姉の三人じゃが……誰がいい?」
「そうねぇ……私は瑞姫の馴れ初めだけは少しだけ知ってるけど、本当に少しだしね。まあ、瑞姫本人はその時のまひろのセリフを一言一句記憶していたみたいだけど」
「初恋の相手の口説き文句なら当然ですので!」
「いや、あれは口説いていたわけではないと思うのじゃが……」
というか、初恋だったんかい。
……まあ、瑞姫の性癖と言うか、好みのタイプを考えたらそうなのであろうが。
「まあ、一番しょうもないような気もするし、瑞姫の話は最後にするか」
「なんでですか!?」
「今、しょうもないと言ったばかりじゃが」
「しょうもなくありませんっ! わたしだって、一世一代の家出だったのですよ!」
「威張れるようなもんじゃないじゃろ」
家出を威張って何の意味がある。
「となると、次はアリスか結衣さんのどちらかね」
「美穂さん? なんで、わたしが最後と言う部分を認めているのですか?」
「え? だって、実際問題しょうもないでしょ?」
「……しょ、しょうもなくない、ですもん……」
うわ、瑞姫がもんとか言うと、普通に可愛いのう。
さすが、旦那。
「じゃあ、次はあたし行く?」
「んー、まあいいじゃろ。ならば、次はアリアじゃな。アリアは――」
そう言うことになり、儂はアリアとの馴れ初め話を始めた。
それは、去年の五月頃。
「ごちそうさま。店長、今日も美味かったぞ」
「おう、いつもありがとな、まひろ君!」
「いやなに。この店は気に入っておるのでな。金はここに置いておくぞ。ではな」
その日は、いつも通り『喫茶 友愛』に夕飯を食べに来ておった。
いつものように飯を食い、勘定を置いて、家に帰ろうと席を立ったところで、
「あ、ちょっと待ってくれ、まひろ君」
店長に呼び止められた。
「む? どうしたのじゃ?」
「いやー、実は君に頼みがあって」
「頼み?」
「ああ。君がこの店に来るようになってから、この店にはそこそこの客が入るようになった」
「そうじゃな。なんか、最近はそこそこ繁盛してきておるな」
常連の儂から見ても、それはよいことじゃ。
この店の料理は美味い。コーヒーや茶もな。
初めて入った時こそ、店長の強面な顔面には驚いたものの、すぐに順応。
店は閑古鳥が鳴いておったが、今ではなぜか人が入るようになっておった。
店長は、儂のおかげと言うが、実際、この店の味や内装はよかったので、普通にそれを認めた客が入り、口コミで広まっただけなのではないか、とそう思ったが、店長は頑なに儂のおかげと言う。なぜじゃろうか。
まあ、そんなことはよくて、この店が繁盛しておるのは、とても嬉しい。
「しかし、それがどうかしたのか?」
「いや、繁盛するのは嬉しいんだが、人手が足りなくてなー」
「……あぁ、そう言えばこの店には、バイトがいなかったな」
理由はまあ、お察しじゃ。
「でもさ、募集をかけても全然来てくれないんだよ。一応、正社員登用もあるんだけど。何が悪いんかな? 賄い付きだし」
「……」
とりあえず、そのマフィアのような強面と、その顔に似合わないクッソ可愛いエプロンが原因なのではないか、と思ったが言わないでおいた。
可哀そうじゃから。
「で、物は相談なんだが、まひろ君、うちでバイトする気ない?」
「は? 儂がか?」
「そう、君が」
「儂、まだ進学してから一ヶ月じゃぞ?」
「四月からバイト始める学生もいると思うぞ?」
「……儂、別に金に困ってないんじゃが」
「社会経験になる」
「…………それに、儂は敬語が苦手なんじゃが?」
「そんなもん、口調は自由でいいよ。結局、おもてなしの精神があれば、口調なんて些細なもんだ! あと、爺口調な店員とか普通に面白い」
……いやまあ、たしかに面白いかもしれんが。
「さすがに、儂が一人バイトに入ったところで、できないこともあるぞ?」
「そりゃそうだ。だが、わからないことなぞ、覚えればいいだけだ!」
……こりゃ、何を言ってもダメじゃな。
しかし、バイト、か。
本音を言えば、アルバイトをしてみたいと思ったことはある。マンガやラノベを読んでいる影響でな。
どのようなものなのか、と。
それに、この店ならば店長とは親しい仲じゃし、あまり面倒がなさそう。
忙しい時間帯は忙しいかもしれぬが、それはそれ。
「もちろん、バイト代は弾むぞ?」
「……ふむ。いくらじゃ?」
「うーん、まだまひろ君一人だから……研修期間千円。それが終わったら、千百円でどうよ。あ、もちろん時給アップも考える」
「乗った!」
金に困ってはいないが、それでもかなりいい待遇と言えるかもしれぬ。
研修期間でも千円。そこそこいい金額で、終われば千百円。しかも、時給アップもあると考えれば、そこそこ美味しいかもしれぬ。
……まあ、仕事はちとめんどくさそうじゃが、仕事なぞ大体はそんなもんじゃ。
「よっしゃ! まひろ君がバイトとして入ってくれるなら、もっと人が増えるかもしれない! できれば、可愛い人も入って欲しいからな」
「まー、男なぞ、可愛い店員がいればそれが目当てで入ってくるからのう」
男は単純じゃからのう。
やはり、可愛い店員がいると、通い詰めるようになるからな。
儂はほとんど興味ないが。
「そうそう。でも、だーれもいないじゃん? んなら、バイトが一人でも入ってくれれば、もしかすると働きたい! っていう人が出てくるかもしれない。もちろん、男の店員も欲しいがな!」
「女の店員だけで回せるわけないからのう。あと、下手なことをすれば、質の悪い客に絡まれる恐れもあるしな」
「そういうことさ」
となると、強そうな店員が欲しいのう……。
まあ、その辺りはそれなりに期待しておくとしよう。
「しかし、儂が働いたところで、他の店員が確保できるかどうか……」
「いや、まひろ君なら問題ないだろ。君、モテるし」
「何を言っとんのじゃ。儂は別にモテとらんぞ。告白もされたことないしのう」
「……え、マジ?」
「マジじゃが?」
なぜ、こやつは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしておるのじゃろうか?
儂、そんなにモテそうに見えるか?
「あー、なるほど……そう言うことか……。そりゃ、たしかに諦める娘も出てくるわー……」
「諦める?」
「いや、気にしないでくれ。……ともあれ、仕事は……そうだな、来週の月曜からでどうよ?」
「構わん。制服は?」
「もうすでに製作済みだ! 実はもう、まひろ君の体に合わせた制服が出来上がっているんだよ」
「一体いつ採寸した!?」
「ふっ、オレはこう見えて、見ただけでその人物の体のサイズがわかるのさ!」
「……店長、それ、女子に使うなよ」
というか、なんじゃその無駄能力。
店長、若干人外じみておるのう……。
「いや、オレ別に年下は好みじゃないし、どうでもいいんだが」
「そう言う問題ではなかろう」
知らない間に自分の体の至る所のサイズが知られているとか、軽く恐怖じゃろ、女子からすれば。
「まあ、気をつけるさ。……ともかく、契約成立な! 来週からよろしく! あ、学校終わりに直接来てくれ」
「了解じゃ。よろしくな」
まあ、そう言うことになった。
そうして、契約通り、次の週の月曜日から儂は『喫茶 友愛』でアルバイトをすることになった。
「今日からバイトに入った、桜花まひろじゃ。以後お見知りおきを」
一応、初バイトなので、常連に挨拶はしておく。
ちなみに、口調に関しては本当に普段通りでいいという許可をもらった。
客に怒られないか心配じゃったが、
『『『爺口調な店員……面白いし、ありだな!』』』
という、好意的な言葉を貰えた。
ちなみに、儂の髪に関して、さすがに仕事中に下ろしているのは問題と言われ、後ろで括っている。ローポニーテールと言う奴に近い。
あとはまあ、顔立ちが若干女子よりと言うこともあり、初対面の相手からは、
『あれ? なんで、ウエイトレスなのに、ウエイターの服を着てるんですか?』
と、本気で言われた。
……その都度、儂は男だと説明したがな。
大抵、驚かれるが。
ちなみに、店長はその度に爆笑していた。
仕事しろ。
……とまあ、そんなことが最初はありつつも、割とすんなり仕事をこなしていく。
儂が働き始めて、約一週間と三日経ったある日。
「あ、新しくバイトが入るから、世話よろしく」
「うむ、了解じゃ……って、なんじゃと!?」
いつものように更衣室で着替えて、店内へ行こうとしたところで、店長にいきなり新しいバイトが入ることを告げられた。
それには、さすがの儂も驚いた。
「おいおい、なんで驚いてるんだよ」
「いや、驚くじゃろ!? この店、儂以外にバイトはおらんし、そもそも強面な店長が面接に対応している時点で、お察しというものじゃろ!?」
「お前、まじでオレに容赦ないよな!」
「い、いくらじゃ? 一体いくらで買ったのじゃ?」
「人身売買なんかしてねぇよ! 人聞きの悪いことを言うな」
「じゃ、じゃが、そうでもしなければ、この店にバイトが入るなど……!」
「お前、マジで失礼だな!」
憤慨する店長。
しかし、一体全体どういうことなのじゃ?
店長を見ても、バイトをしたいと思うような奴とは……。
「ちなみに、どんな人物なのじゃ? もしや、あれか? 筋肉モリモリマッチョマンなのか?」
「いやなんでそんな特徴的な外見なんだよ」
「店長を見ても、バイトをしようと思うような奴じゃから」
「……お前、失礼な時はほんっと失礼だよな」
「気のせいじゃ」
これでも、気を遣う方じゃぞ。
「まあいいけどよ。……新しく入るのはまあ、女子高生だ」
「……寝言は寝て言うものじゃぞ?」
「現実だ。ちなみに、帰国子女でハーフの美少女だな。あと、お前と同い年」
「う、嘘じゃッ……! 店長を見て怖がらない女子など、いないはず……!」
「お前これ以上言うと給料下げるぞ!?」
「いや、しかし本当のことじゃろ? 現に、儂以外のバイトがおらんわけじゃし」
「ぐっ……痛いところを突いてくるな……!」
店長、強面じゃからのう……。
なのでまあ、バイトの面接をする時に怖がるものが続出するわけで。
正直、強面なのに可愛いエプロンとかしてるのも悪いと思う。
「……して、どういう話術で言葉巧みに勧誘したのじゃ? やはりあれか? 過去に、水商売のスカウトマン的な仕事で培ったあれか? それはまずいじゃろ、相手は女子高生、しかも帰国子女なんじゃろ? ほれ、警察に出頭した方がよいぞ」
「してないから! というか、オレはスカウトマンの仕事なんざしたことねぇ! それに、その娘はちゃんとした理由で、自主的にやるって言ってくれたんだよ!」
「なんじゃ……脅したわけではないのか……」
「お前、マジでぶん殴るぞ!?」
「その際は、暴行されたと言って警察に通報するぞ」
「くっ、オレが何度も職質されたり、誤認逮捕されたりしているのをいいことに、そんな卑怯な脅しをしやがって……!」
「そんなことあったんかい」
さすが、強面店長。
しかし、どんなことがあったんじゃろうか?
そう疑問に思っておると、遠い目をしながら語ってくれた。
「あぁ、実は痴漢の冤罪を喰らったり、迷子の子供の親を一緒に探そうとしたら、誘拐犯だと思われたり、店用の包丁を買うために専門の店に行ったらなぜか捕まったり、あとは麻薬の密売人だと思われたこともあった」
「…………店長、すまん」
あまりにも可哀そうな状況に、思わず謝っておった。
いや、さすがにそれは……。
「ちょっ、本気の謝罪やめてくんね!? あと、何で見たこともないくらいの憐れむ目を向けてんだよ!」
「いや、あまりにも可哀そうで」
「憐れむな! こっちが悲しくなる!」
「そうか。じゃあ、憐れまん」
「助かる。……んで、その新しく入ってくるバイトに、色々教えてやってくれ。日本語とか仕事の内容とか」
「そうは言うが、儂は英語は喋れんぞ? 簡単な挨拶しかできんし、そもそも仕事内容に関しても入ったばかりじゃぞ?」
バイト歴一週間ちょいの人間に帰国子女の世話係が務まらんと思うのじゃが。
「あー、そこは心配するな。一応、日本語は日常会話レベルなら喋れるみたいだから」
「なんじゃ、そうなのか」
「おうよ。明後日から入るんで、そん時はよろしくな」
「了解じゃ」
さて、どのような者が来ることやら。
二日後。
「おはようじゃー」
いつものように、軽ーい挨拶をしながらバックへ入ると、そこにはおどおどきょろきょろとした一人の女子がいた。
金髪碧眼で、女子。
しかも、美少女じゃな。
「あ、アの……」
そんな女子は、儂を見るなり少しだけびくびくしながら、話しかけて来た。
「おぬしが店長の言っておった帰国子女じゃな? 儂は、桜花まひろじゃ、よろしく頼む」
「時乃=C=アリスティア、デス。よ、ヨロシク、おねがします……」
「……ふむ。なるほどのう。本当に、日常会話レベルならば、そこそこ問題ないみたじゃな。して、店長におぬしの面倒を見るように言われたのじゃが……儂でよいのか? こう言ってはなんじゃが、儂は参考にはならぬぞ? 普通、とは言い難い口調じゃからのう」
これと言って問題はなさそうじゃが、果たして世話係が儂でよいものか。
儂以外にバイトがおればのう……特に女子。
そうすれば、向こうも気兼ねなくできそうなんじゃが、生憎と儂と店長しかおらんからな、この店には。
しかしまあ、会う前はめんどくさいと思っておったが、見たところ性格は問題なさそうに見える。
まあ、人は外見で判断は出来んから、外見だけで信用するのはまずいがな。
ふぅむ、儂は教えるのがあまり上手くないんじゃがのう……。
しかもこの店、儂と店長の男二人だけじゃから、余計に可哀そうなんじゃが。むさくるしい店に、女店員が一人とか。
ちと心配じゃ。
「だ、ダイジョブ、デス。えと、オーカさん、でダイジョブ」
「そうか」
相手がそれでいいならと、儂は軽く笑みを浮かべてそう返した。
すると、目の前の女子が纏っておった緊張や警戒が少し和らいだ気がした。
「んー、とりあえず、時乃、と呼んでよいか?」
「だ、ダイジョブ、デス」
「ありがとな。……さて、時乃よ。今日からおぬしはここで働くことになるわけじゃが……とりあえず、これだけは言っておく」
「ど、ドんとコい、デス」
「そこまで緊張せんでよい。……儂が言っておくのはこれだけじゃ。無理せず、わからないことがあれば、儂や店長を頼るといい」
「え、と……」
儂が言ったことがいまいち理解できていないのか、時乃は少し困惑気味。
「言葉通りの意味じゃぞ?」
「……わ、ワタシ、失敗、スル、かも……」
あぁ、なるほど、言葉は理解できたが、そこが心配と言うわけか。
「んなもん気にせんでよい。いきなり仕事ができたらただのバケモンじゃ。いやまあ、世の中にはそう言う輩がおるのかもしれぬが……おぬしはそうではないと思う。そもそも、言葉が不慣れな状況での接客業じゃからな。失敗しても問題ない。儂がフォローするのでな」
「ダイジョブ、デスか?」
「うむ、大丈夫じゃ。……それから、言葉で何かわからないことがあれば、それも聞いてくれて構わぬ。仕事と一緒に言語も覚えることになると思うが……無理せず、自分のペースでな」
「ハイ」
「よし、では早速仕事の説明をして行くか」
とりあえず、これで大丈夫そうじゃな。
とまあ、そんな感じで、『喫茶 友愛』は三人での店となった。
最初こそ、時乃は失敗していたものの、同じ失敗はしなかった。
あとはまあ、呑み込みが早くて、割とすぐに仕事がこなせるようになっておったのもありがたかった。
正直、一人でホールを回すのはきつかったからのう。
これで、少しは負担が減るというものじゃ。
もっとも、時乃に無理をさせるわけにはいかんので、儂の方が比重は重めじゃがな。
全然気にしとらんが。
むしろ、仕事で倒れられる方が気にするしのう、儂は。
で、そんな時乃と言えば、日本語に不慣れであり、尚かつ慣れない仕事をしているため、失敗をするのじゃが、ひたむきに頑張る姿勢が客に受けた。
応援してあげたくなるような雰囲気を醸し出しておったのと、単純に可愛かったからと言うのもあり、まあ……男の客に受けておる。
今では、アイドル的存在に近い。
というより、看板娘の方が近いかもしれぬな。
しかも、一ヶ月経つ頃には、かなり進化しておったからな。
「桜花さん、これお願いします!」
「了解じゃ」
なんか、ものすごいスピードで日本語が上達していた。
実を言うと儂、時乃に頼まれて日本語を教えておる。
なんでも、早く上手く喋れるようになりたい、とかなんとか。
まあ、前向きな姿勢はよいことなので、儂は快く承諾。
頑張っている姿がなんだか見ていて微笑ましいのでな。
しかも、吸収が早いこと早いこと。
一ヶ月でほぼほぼ完璧にマスターしておるし。
マジでびっくり。
やはり、半分日本人であることも関係しているのじゃろうか?
とはいえ、儂としても意思疎通がスムーズになるのは素直に嬉しい事なので、全然いいんじゃがな。本人の努力が凄まじいということじゃろう。
さらに時間が経過。
早くも夏が到来しておった。
「あづ~~い~~~~……溶けるぅ~~~~……」
「あはは、まひろ君ぐでぐでだね」
「……いや、だってマジで外暑いし。冬はまだしも、夏は本気で苦手じゃ……」
暑さは、睡眠の天敵じゃからな。
暑いと寝苦しくて辛い反面、寒ければぐっすり眠れる。布団がぬくいから。
「日本の夏は暑いからね」
「本当にな……イタリア辺りは、湿気が少ない分過ごしやすいらしいが、日本は湿気がバカみたいにあるからのう……しんどいぞ……」
と、このように、最初の頃の若干固かった言葉はどこへやら、今では流暢に喋るようになっておった。
気が付いたらこれ。
マジですごいと思う。
そんな時乃、言語の習得がほぼ完璧になったからか、余裕が生まれるようになり、よく笑うようになった。
その結果、客がさらに倍増。
それに伴い、バイトも増え、今ではそこそこの人数がこの店で働いておる。
店長渾身の制服が女子高生や女子大生に刺さったのか、この店の店員は女の方が多かったりする。
時乃も女子だし、さらに言えば後輩もできたことでよく話しておる。
であるならば、女子の方で固まっていそうなものなのじゃが……
「おぬし、なぜいつも儂の所に来るのじゃ? 同性の方が楽しいと思うのじゃが」
「あたしはまひろ君と一緒にいる方が楽しいと思ってるからね。もちろん、女の子同士でいるのも楽しいけど」
純粋な笑みでそう言ってくる。
正直、こっちが気恥ずかしさを覚えるぞ、まったく。
それに、シフトに関してもほぼほぼ被る。
まるで狙っているのでは? と思わず勘ぐってしまうほどに、よく同じ日、同じ時間になる。
いやまあ、儂も楽しいし別にいいんじゃが。
どうにも、時乃は儂にべったりでのう……。
やはり、最初の同僚だから、多少なりとも特別視しておるのかのう?
それかもしくは、他校の友人だから、というのもあるのやもしれぬ。
一体儂のどこがいいんだか。
「しっかし、おぬしの喋り方も変わったのう。まさか、ごく普通の女子高生みたいな喋り方になるとは」
「あたしは女子高生だよ?」
「いやまあ、そうじゃけども」
時乃が通う高校は、水無月学園から少し離れた位置にある公立高校。
一応同じ街の中にある学校じゃな。
「最初の頃のおぬしは『ダイジョブ、デス』みたいな片言じゃったからな」
「ふふふー、あたしも努力したからね! まひろ君と楽しくおしゃべりしたくて、頑張ったんだー」
「儂と? ハハハ、儂なんかと喋って何が楽しいのじゃ? どこにでもいる男じゃぞ?」
(((それはない)))
む? 今一瞬、店内の同僚たちが同じようなツッコミをした気がする。
気のせいか。
「あたしにとって、まひろ君は恩人だからね」
「恩人? 儂何かしたか?」
「うん。あたしが初めてここのお店に入った時に、不安だったあたしを安心させるようなことを言ってくれたり、変な人に絡まれた時も助けてくれたから」
「変な人? ……あぁ、あれじゃろ? ヤンキーっぽい男に絡まれた時じゃろ?」
「うん、その人。あの時はバイトを始めたばかりで怖かったよ」
「じゃろうな」
そう言えばそんなことあったな。
たしか、ウエイトレスを始めたばかりの頃にあった出来事で、この店に入ってきたガラの悪い男が時乃に目を付け、ナンパ……というか、腕を掴んだり、変なところを触ろうとした変態じゃった。
ちなみに、対処法は簡単で、時乃の胸を触ろうとしたタイミングで儂が割り込んだ。
同性とは言え、普通に触られるのは気持ち悪いことこの上なく、殺めたくなったが店長に通報した。
その結果、そのヤンキーは次の日がり勉になっておったがな。
店長は一体何をしたと言うのか。
尚、時乃を助けた直後、なぜか抱き着かれた。
「でも、今はそう言う人の扱いも慣れて来たからね、一人で対処できるよ!」
などと、元気いっぱい自信満々に言う時乃。
「油断は禁物じゃぞ。おぬしはたしかに可愛いからのう。もしもそれで恨みを買って複数人に襲われる、などと言うこともないとは言い切れぬ。そういう面倒な輩に絡まれたら、儂や店長、もしくは他の男の店員でもいいので、そやつらを頼れ。もしもがあれば、さすがに心配じゃからな」
「あ、あれ? もしかして、本気で心配してくれてるのかな?」
思ったことを口にしたら、なんか
「そりゃそうじゃろ。おぬしは初めてできたバイトの後輩であり、尚且つ他校の友人じゃからのう。心配するに決まっておる」
「そ、そうなんだ。……てっきり、『そうか、ならば安心じゃな!』って言ってくるのかと思ったよ」
「……儂を何だと思っておるのじゃ。じゃが、これが男であればたしかにそう思ったかもしれぬが、おぬしは女子じゃからのう。何かあった場合、寝覚めが悪い」
いやまあ、だからと言って男も心配しないかと言われると、肯定しにくいがな。
「……」
「む? どうした、顔を赤くして。熱中症か?」
「あ、ううん、何でもないよ。ちょっと暑くて」
パタパタと手で顔の近くを仰ぐ。
暑いかの?
「そうか。水分と塩分はきっちり摂るのじゃぞ。冷房の効いた室内でも水分と塩分を摂らなければ熱中症になる可能性もあるからのう」
「……なんだか、ママみたいだね」
「儂は男じゃ」
断じてママなどではない。
いや、近しい奴からは母親属性とか言われることがあるが。
「でも、心配してくれてありがとう。まひろ君は本当にいい人だね」
「そりゃ、儂じゃからのう」
基本的には、優しい奴、とかで通っておるからな、儂。
「おーし、お前らー、そろそろ開店するから配置に着けよー」
『『『はーい』』』
ほんと、バイト増えたのう。
どうも、九十九一です。
また、少し間が空いてしまいましたが、理由は二つ。単純に私用が片付かないのと、馴れ初めが長い。これだけ。一応、途中で出そうかと思いましたが、完成してからの方がいいかなと思って、書きあがってから出してます。
サブタイを見ればわかる通り、今日も二話投稿です。といっても、ギリギリに終わったので、次の話は二時間後の19時に上がる予定ですので、よろしくお願いします。
では。




