日常64 馴れ初め。真白の場合 下
そうして、氷鷹先輩の仕事を手伝うことになった儂。
と言っても、儂がやるのは書類の仕分けなんじゃがな。
その横では、仕分けされた書類を一枚一枚とっては、ポンポンと一定のリズム、スピードでハンコを押していく氷鷹先輩の姿が。
「それ、ちゃんと書類に目を通しておるのか?」
「……問題ない。速読も基本」
「なるほどのう。ちなみに、副会長が承認のハンコを押して大丈夫なのか?」
「……大丈夫。学園祭の期間から、ほとんど一年生と二年生だけの仕事になる。引継ぎに近い。だから、副会長の私が持つ権力は、実質的に会長みたいなもの。判断は基本、私に委ねられる」
「ほほう。して、わからなくなることはないのか?」
「……去年までの学園祭の傾向データと出し物等の資料を、今年の申請書などと照らし合わせれば、大丈夫か大丈夫じゃないかの判断はできる。あと、改善点も」
「それはまた、すごいのう……」
たしかにこれは、副会長にスカウトされるだけのことはある。
しかも、儂と話している間も、一切手を止めることなく仕事を全うしておるし。
よくもまあ、話をしながら書類を読み、更には問題ないかどうかの判断ができるのう。
儂には絶対無理じゃ。
「……すごい?」
「うむ、すごいな。おぬしは色々とスペックが高いんじゃな」
「…………正直、これはこれで苦労した」
む、なんじゃ? 急に表情が暗くなった気が……。
それに、どことなく悲しそう、か?
「のう、おぬし、やはり何か悩み事があるのではないか?」
「……なぜ?」
「んー、おぬしの表情に出ておったり、あとは雰囲気で、かの」
「…………表情、出てる?」
「うむ。気のせいかもしれんが、たまーに暗くなったり、悲しそうにしたりしておる気がするのじゃが」
「…………」
あ、固まった。
んー、これは図星、と取ってよいのじゃろうか?
「…………一つ訊きたい」
「なんじゃ? 何でも訊いてくれ。儂に答えられることならばな」
「……私の容姿で、何か思うことはない?」
「容姿? そうじゃのう……同年代に比べて背が小さい?」
「……え、そこ?」
「違うのか? そうなると……同年代に比べて童顔?」
「…………それ、同じじゃないの?」
「じゃあ、子供っぽい」
「……遠回しにバカにしてる?」
おっと、これ以上はぶん殴られそうじゃ。
いや、さすがにないと思うが……。
ともあれ、場を和ませようとするのは終わりで。
「髪色と瞳の色、か?」
「…………知ってて今ふざけた?」
「んー、儂、どうにも真面目な雰囲気とか話、と言うのは苦手でな。じゃから、ついついふざけてしまう。気を悪くしたのなら謝る」
バカにするつもりとかないからな。
「……別に。私のためにふざけたから、許す」
「それは助かる。……して、その髪色と瞳がどうかしたのか?」
「……私の名前、氷鷹真白」
「自己紹介か? しかしそれは、少し前にしたじゃろ?」
いきなり自己紹介をされても非常に困るのじゃが。
「……違う。私、純粋な日本人」
「ん? あぁ、そういうことか。つまり、日本人なのに、銀髪蒼眼であること、について訊きたいということか?」
「……そう。何か思う?」
「何か、と言うのが抽象的じゃが……要は、それについてどういう風に感じるか、ということか?」
「……ん。変でも、奇妙でも、奇異でも、気持ち悪いでも、なんでもいい」
「いや、なぜ全てマイナス方面なんじゃ?」
「…………実体験」
「じ、実体験かー……」
それはまたなんとも酷い話じゃ。
しかも、悲しそうじゃし。
ふぅむ……。
「本音、でいいんじゃろ?」
「……うん。本音でいい。むしろ、それが大事」
「了解した。……本音で言えば、正直可愛い、と思う」
「……え」
「何を驚く。おぬし、普通に美少女じゃろ。銀髪蒼眼なんて滅多に会えるものでも無し。さらに言えば、背が低いと言うのも魅力じゃな。あと、無表情なのもポイントが高い」
「…………あ、えと、その……そ、そんなに褒められると、照れる……」
「む、おっとすまん。ついな。あ、もちろん本音じゃぞ。嘘ではない」
「……そ、そんなの、目を見ればわかる。嘘も、ある程度見抜けるから」
「そうなのか。ならば良し」
「……う、ん」
ふむ、顔が赤い。
褒められ慣れてないのじゃろうか?
……いや、そうなのじゃろうな。何せ、マイナスな言葉を言われておったのじゃろう、過去に。
今はどうか知らんが。
「……でも、可愛いは初めて言われた」
「は? マジで? 嘘じゃろ?」
「……嘘じゃない。本当」
「その容姿で、可愛いと言われなかったというのか……?」
「……そう言っている」
どうなっとるのじゃ? それは。
銀髪蒼眼で可愛らしい顔立ち(無表情)で、小柄な体。
……ふむ。普通に可愛い。
これを可愛いではなく、気持ち悪い、とか言われておったのか……?
謎じゃ。
「……私って、可愛い、の?」
「うむ、可愛いな」
「…………そ、そう」
顔を赤くさせながら俯く、氷鷹先輩。
「しかし、変じゃな。おぬしの親ならば、可愛いと言っても不思議ではない気がするのじゃが……」
そんな疑問を口にすると、氷鷹先輩の顔が少し陰りを帯びた。
儂、地雷踏んだ……?
やばい? もしかして、まずい……?
内心、そんな風に焦っておると、氷鷹先輩の口からとある事実が飛び出した。
「……私の両親は、死んでる」
「…………」
まさかの話であった。
とんでもない話に、思わず面食らう。
これ、儂は何て言えばよいのじゃ……?
「……この際だから、友達の桜花さんに、私の悩みを聞いてもらいたい」
なんて、儂が心の中でおろおろとしておったら、氷鷹先輩がそう言ってきた。
言い方はちとあれじゃが、渡りに船。
「うむ、聞こう。それで、おぬしの悩みが解決するのならばな」
「……ありがと。じゃあ、話す」
うーむ、なんか儂……お悩み相談室の住人になった気分。
まさか、今月だけで、二人も悩みを相談されるとは。
少し前には、別のハーフの女子からも悩みと言うわけではないが、相談されたしのう……。
まあ、よいか。
相談を受けて、それで相手が笑顔になるのならば、安いものじゃな。
それに、先ほどの両親が亡くなっていること以上に暗い話はないはず――
「……実は私、何度も親戚にたらい回しにされた過去があるの」
…………お、重いッ!
想像以上に重いんじゃが!
え、た、たらい回し? マジで? 現実にそう言うことあるの……? いや、あるから孤児を引き取るような施設があるわけじゃし……。
と、とりあえず、話を聞こう。
「……私の両親は、どちらも普通の日本人。でも、過去には北欧の人がいた、らしい」
「ふむ。つまるところ、隔世遺伝というわけか?」
「……そうなる。でも、全てはこの髪と目が原因。両親はお互い、不倫か疑ったらしいけど、DNA鑑定でお互い潔白が証明された。それでどうして、私の髪と目がこうなのか、ということが気になって調べたら、お母さんの先祖に外国人がいたみたいなの」
「な、なるほど……」
なんじゃその、現実的に考えて、天文学的確率でしか起こらないような奇跡は。
と言うか……なんじゃろう。すごく、聞き覚えのある設定……じゃなかった、身の上話は。
具体的には、儂と同じように、ある日突然女になっていそうな奴な気が……。
なんてな。気のせいじゃろう。
それよりも、目の前の氷鷹先輩が先じゃ。
「……二人ともそれで安心して、しっかり私に愛情を注いでくれた」
「ふむ。よい父上と母上だったんじゃな」
「……うん。でも、親戚まではそうもいかなかった」
まあ、親戚もいい人であれば、こんな姿にはなっとらんじゃろうからなぁ……。
一体何があったと言うのか。
「……二人のお葬式の日、一人で泣いている私を見て、親戚の人たちは困っていた。でもそれは、泣いている私を可哀そうだと思ったんじゃなくて、誰が私を引き取るかだった」
なるほどのう……。
「……私が一度その場から離れたら、私の押し付け合いになっていた。誰が私を預かるか。でもみんな、引き取ろうとしなかった。それを入り口付近で見ていた私は、辛かった」
「……」
「……結局、お母さんの親戚筋の人が引き取ってくれた。その時は笑顔だったけど、それは……作り笑いだった」
「……」
「……新しく住み始めたその家での私の立場は『仕方なく引き取って来た親戚の子供』でしかなくて、会話も必要最低限。生活に必要な物も、必要最低限だった」
「……そうか」
「……お母さんとお父さん失ったショックと、作り笑いを見た私は、次第に感情が薄くなって、ほとんど無表情になってしまった」
……なるほど、それで無表情と言うわけか。
しかし、果たしてそれだけでなるものなのじゃろうか? いや、人によってはそうかもしれぬ。じゃが、氷鷹先輩には他にも何かあるのではないか。
そう思っておったら、氷鷹先輩がさらなる原因を話し始める。
「……銀髪蒼眼の私は、その人たちに奇異に映ったみたいで、次第に虐げられるようになったの」
「……」
「……その当時は辛くなって、児童相談所に電話をかけた」
「それはまた……よほどのことだったんじゃな」
「……ん。でも、そこでの大人の対応を見て、私は更に感情が薄れたの」
「一体何が……」
「……結局、児童相談所の人たちは、助けてくれなかった」
「……なんじゃと?」
児童相談所が困った子供を助けない?
なんじゃそれは。
「……義父と義母は結局、預かり切れないと言って別の親戚に押し付けるようになった。そこから先も、似た様な状況で、稀に暴行を加えてくる人もいた」
「…………」
「……その時の私は小学三年生だったけど、子供ながらに理解した。大人は信用できないって」
たしかにそれでは……信用しなくなるじゃろうな……。
そもそも、小学三年生でそんな経験をすれば、自殺するような事態になっても不思議ではないぞ? いや、それどころか壊れてしまいかねない。
「……そうして、最後は児童養護施設に入ることになったの」
「まあ……そう言う育ちになれば、一番妥当、と言う外ないか……」
「……でも、私の容姿はやっぱりどこに行っても奇異に映るみたいで、同年代の子にもいじめられたり、親戚の人たちには奇妙、気持ち悪い、忌子、ブサイク、エトセトラ……色々言われた」
「……そうか」
「……私は、いじめて来た人や、悪口を言ってきた大人を見返したくて、勉強を頑張った。この学園にも、その頑張りで推薦で入学している。授業料は免除」
「それはよかったと言うべき、なのか?」
「……私はよかったと思っている。私をバカにしたり、いじめたりする人はいないから」
「……そうか。それはたしかに、よかったな」
高校生になって、ようやくまともな生活を送れている、というわけか。
「……しかし、そうなると住んでいる場所はどうなのじゃ?」
「……一人暮らし。実は、私を引き取ってくれた人がいて、その人たちが生活費とか出してくれている」
「ほう、そうなのか。して、その者たちはどうなのじゃ? 性格面」
「……すごくいい人。私の境遇を知って、怒ったり泣いたりしてくれた。だから、今の私があるようなもの」
「……なるほどのう。それはよかったのう。信用できる大人がいて」
「……でも私は、心の底から信用していない」
「そうなのか?」
「……そう。いい人だとわかっていても、今までの経験から、本当に信用していいか、わからなくて……」
「まあ、普通はそうであろうな……」
無理もない。
散々親戚にたらい回しにされ、暴行やら悪口やらを言われ、挙句には同年代の子供にもいじめられるなど、普通であれば非行に走ってもおかしくない。
じゃというのに、氷鷹先輩はむしろ見返してやろうと思った。それは誰にでもできる事ではないし、何より氷鷹先輩が強いと言う証じゃ。
尊敬しかない。
「しかし、なぜ儂にそんな話を?」
「……桜花さんは、いい人」
「え、それだけ? いくらなんでも、それだけでは信用できないのではないか? もしかすると、儂がおぬしを口説くためだけに優しくしたとか、もしくは無理矢理襲おうとするやもしれぬぞ?」
「……桜花さんの性格上、それはない」
「な、なぜに」
「……ご飯を食べさせてくれた日からほぼ毎日、観察させてもらった」
「ストーカー……?」
「……違う」
いや、毎日観察することはストーカー行為ではないのか?
女子的には違うのじゃろうか。
「……そこで判明したこと。桜花さんは、面倒くさがりで、基本的に普段から四割くらいの力で生きている。それに、友達の頼みは基本的に断れないことも」
「……本当に、見ておったんじゃな」
「……当然。普段の生活態度が、信用に繋がるから」
たしかに。
大事な場面でのみいい顔をする人間と、普段から生活態度がいい人間、どちらが信用できるか、と訊かれれば……まあ、後者じゃからな。
何気ない日常と言うのは、時にその人間の本質を表すからのう。
そう言う意味では、人間を見極めることに適した行為じゃな。
「で? 結論は?」
「……信用できる。そもそも、さっきのセリフをしようとするのなら、毎日話しかけてくるはずだし、何より二人きりの場所で襲おうとするはず。でも、桜花さんはかなりめんどくさがり。そんなことをするんだったら、睡眠をとるはず、と」
「……おぬし、儂のこと知りすぎじゃね? なんで、そんなに知っとるの?」
「……実は、担任の先生にも訊いた」
「おのれ四方木教諭」
あやつ、さては面白がって教えたな……?
まあ、別に儂の生活態度なぞ、教えたところでさほど問題はないが。
「……そんなめんどくさがりの桜花さんだから、信用した。あと、お人好しと言う部分も知っていたから尚更。ご飯、食べさせてくれたし」
「そこかい」
「……ご飯は死活問題」
「……そうか」
そんなさっきのシリアスな話をしている時と同じレベルの真剣な目と声で言わなくても。
もしや、ご飯が大好きなのか? こやつ。
……いや、あれだけ食べていた事を思えば、大好きなのじゃろう。
「して、結局のところ、おぬしの悩みと言うのは……何なのじゃ? 今のはおぬしの身の上話じゃし……」
「…………多分、今の話を聞いてもらいたかったんだと思う。なんだか、スッキリしたから」
「そうなのか?」
「……ん。桜花さんは、今の話を聞いて、私の事、どう思った? 同情した?」
「同情……は、しないな」
少しだけ自嘲気味に話す氷鷹先輩に、儂は素直にそう答えた。
「……なぜ?」
そんな氷鷹先輩は、驚きに目を丸くしていた。
なので、儂は思っていることを話した。
「それだけの重い過去じゃ。儂には想像がつかん。それに、同情はおぬしに失礼かもしれない、と」
「……失礼?」
「うむ。同情というのはまあ、相手の身の上になって、その感情を共にすること、と言う意味じゃろ? しかし儂は、氷鷹先輩のその状況を今の話でしか知らぬ。その場にいた当事者でもない。それで、どうやって同情すればよいのじゃ? そもそも、おぬしは強い。……いや、実際は年頃の少女と同じかもしれぬが、それでも折れずに、見返してやると立ち上がったおぬしは立派じゃ。それを同情? そんなことをして、おぬしの過去がなかったことになるわけではないし、むしろその強さを汚すことになるやもしれぬ。それに、言い方は悪いかもしれぬが、その過去があるからこそ、今のおぬしがおる。強いおぬしがな」
「……」
予想外のことを言われたのか、驚き顔から一転して、少し呆けた顔になる。
「まあ、あれじゃな。おぬしは可愛い。地獄の期間は高校に入るまでで、高校生になってからはとても幸せ……とまではいかんが、マシなのじゃろ?」
「……ん。それなりに楽しい。生徒会もやりがいがあるし」
「それだけでも十分じゃ。将来は必ず幸せになれる! なんて、行きたかった専門学校に行けなくなって割と人生に絶望した高校三年生が、親戚の大人やら知り合いの大人たちが言う常套句のようなことは言えんが」
「……すごく、具体的」
なんでそう言ったのか、儂もわからん。
「それは気にするな。……ともあれ、おぬしには、儂と言う友人もできたのじゃ。ほれ、多少は楽しくなりそうじゃろ?」
「……あ」
「ま、儂は同学年ではなく、年下なんじゃがな」
……む? それはつまり、年下が生意気にも年上を諭しているようではないか。
それはそれで恥ずかしいような……。
ふぅむ。まあ、よいか。
「……桜花さんは、私と友達?」
「うむ。さっき言ったからのう。今の話を聞いて態度を変えるようなクソ野郎ではないぞ」
「……それはよかった」
むしろ、同情で友達になどなるわけがない。
儂は、普通に友達になりたいだけじゃし。
「……ねえ、桜花さん」
「なんじゃ?」
「……桜花さんって他人行儀」
「む? まあ、そうかもしれぬな」
「……友達なら、もっと気安い呼び方の方がいい?」
「そうじゃのう。しかし、おぬしの好きに呼ぶのが良いと思うぞ。友達じゃからな」
「……ん、じゃあ……まひろだから、まひろんと呼ぶ」
「……思ったより、変な呼び方じゃな」
「……そう? いいと思うけど」
もしやこやつ、そういうネーミングセンスが少しだけ微妙な感じだったり……?
いや、それはないか。
しかし、まひろんか。
となると……
「では、おぬしのことはましろんと呼ぶ。どうじゃ?」
「……いい。なんだか、友達という感じがして」
「そうか、それはよかった」
はははと笑みを浮かべる。
それに、氷鷹先輩――じゃなかった、ましろんからは、先ほどまでの悲しそうな雰囲気とか、暗い表情ではなくなったな。
なんだか、少しだけ嬉しそうに見える。
「まあ、なんじゃ。改めてよろしくな、ましろん」
「……ん! これから、よろしく、まひろん」
そう言うましろんの口元には、わかりやすく笑みが浮かんでいた。
おぉ、初めて見た気がする。
やはり……
「ましろんは無表情よりも、笑顔を浮かべていた方が、ずっと魅力的で可愛いな」
「……――っ!」
む? なんか、顔が赤くなったぞ?
どうしたのじゃろうか?
「風邪か?」
「……き、気にしないで。ちょっと、暑いだけ」
「そうか。まあ、九月と言ってもまだまだ残暑は抜けきっておらんからのう。熱中症に気をつけるのじゃぞ」
「……う、うん」
とは言ったものの、そこまで熱くないような気がするのじゃが……まあ、構わんか。
「……まひろんは、私から離れない?」
「む? それは、ずっと友達でいてくれるかどうか、か?」
「……少し違うけど、それでいい」
「答えで言えば、もちろん、じゃな。何と言うかこう、おぬしとは波長が合う気がしてな。ほぼ確実に、縁が切れることはなかろう。なのでまあ、ずっと仲良くしていたいと思うぞ、儂は」
「…………そ、そう。……やっぱり、いい人」
「何か言ったか?」
「……何でもない」
「そうか?」
何か言っておった気がするが、気のせいと言うことにしておくか。
隣で作業をするましろんの顔は赤い上に、なぜか嬉しそうな雰囲気がかなり出ておった。
それ以降、儂とましろんは一緒にいる機会がそこそこ増え、たまーに一緒に昼飯を食べたり、遊びに行ったり、仕事を手伝うようになった。
その際、やけに儂にくっついているなー、と思いもしたが……その時は友達ができて嬉しかったのじゃろう、と納得した。
「――とまあ、こんな感じじゃな」
「「「「た、たしかに重い……」」」」
「……でしょ? でも、まひろんがいてくれたおかげで、こうして今は幸せ。あと、みんなと出会えたこともいいこと。……みーちゃんはちょっとあれだけど」
「なぜですか!?」
「……たまに、私を襲うから」
「それは同感じゃな」
「まひろちゃんも酷いです!?」
普段の行いが悪い。
しかしまあ、言われてみれば、今のましろんはとても楽しそうで何よりじゃな。
出会った頃など、暗かったからのう。
「そう言えば、真白さんの親戚の人たちってどうなったのかな?」
「……それなら、全員路頭に迷ってる」
「「「「「なんで(じゃ)!?」」」」」
「……会社が倒産したり、横領がバレたり、不倫がバレたり、事業に失敗したり、ギャンブル依存症になって借金まみれになったりしたらしいから」
一体何があったらそうなるのじゃ。
見れば、ましろん以外の者たちも、苦笑いじゃし。
と思っておったら、さらなる爆弾が投下された。
「……ちなみに、私がまひろんと結婚した上に、羽衣梓グループの令嬢とも同じ旦那同士になったことを知ったクソ親戚たちが、なぜか『世話してやったんだから、お金貸して』とか言ってきたこともあった」
「どこの2〇hよ……」
「あるのね~、そういうことって~」
「……いや、本来であれば、ましろんの境遇は少数派じゃと思うぞ、結衣姉よ」
むしろ、そう言う展開が身近な人間にあったことが驚きじゃ。
「……私、あの人たちに感謝なんてしてない。たしかに、最低限のことはしてくれたかもしれないけど、邪魔者扱いだったから」
「それで、どうしたの? そのクソ親戚たちは」
「……ニヤッとした笑みを浮かべながら、『……私の家族はまひろんや、まひろんの旦那さんたちだから。あなたたちは、そこら辺に落ちている小石以下の存在。むしろ、あなたたちがたらい回しにしてくれたおかげで、最高のお嫁さんと、気心知れた旦那仲間ができたから。そこだけは感謝します。でも、これ以上騒ぎ立てるなら、警察呼びます。……あと、羽衣梓グループ関連から借金をしていることも知っていますので、覚悟してください』
って言っておいた」
「おぬし、本当に強くなったな……」
まさか、嫌味も含めた返しができるとは。
「……まひろんのおかげ。私は一人じゃないって教えてくれたし、何よりもまひろんが私を信用してくれたから」
なんか違うような気がするが……好いた相手にそこまで言われて悪い気はせん。
むしろ、嬉しいくらいじゃ。
「あ、それで少し前に、借金を踏み倒そうとした人たちを教えてくれたのですね」
「……ん。クズ共は、しっかり現実を見せつけなければいけない」
「マジで、強くなったのう……」
普段のましろんから出ることのない『クズ共』と言う発言が出るレベルで。
「にしても、まひろは素でイケメンなこと言うのね。この調子なら、全員が同じような形で口説かれてそうね」
「「「……あはは」」」
「って、瑞姫にアリスに、結衣さん、全員が笑ってるし……まさか、マジで?」
「……まひろんは罪作り。でも、全員と結婚したから、甲斐性はあるから、全然OK」
褒められてる気がせん……。
儂、口説いた覚えなどないんじゃがのう……。
どうも、九十九一です。
本日二度目です。なんかまあ、うん。真白のあれこれは少し重いかもしれませんが気にしないでください。重い話なんて、多分馴れ初め話だけだと思うんで……。後の三人は基本的に軽いと思うんで。
次の投稿は……うーん、いつだろう。不明です。時間はまあいつも言っている通りか、10時だと思いますので、よろしくお願いします。
では。




